とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 三十五話
『王子様、一応念押ししておきますけど』
『なんだ?』
『想定通り組織に捕まったら、強硬論には出ないでくださいね。王子様からの手出しは厳禁です。
不測の事態が起ころうとも我々が対応いたしますので、王子様から動くのはやめてください』
『危険な目に遭ったらどうするんだ、やばいぞ』
『そう思って頂けているのであれば、潜入作戦を提唱しないでいただきたいものですわ』
『うっ……』
『何が起きてもこちらで対応いたしますので、王子様は波風を立てないようにお願い致します。
作戦通りに貴方を組織に引き渡せるのは、何が起ころうとも王子様の身を守る自信がある為です。ですが――』
『ですが?』
『王子様御本人が思い付きや感情論で予想外の行動に出られると、非常に困るのです。お願いいたしますね』
『信用あるのかないのか、全く分からん』
『王子様は私がこの世で唯一お慕い申し上げている異性ですけれど、同時にあの世界会議を波乱に至らしめた張本人も王子様だと思っております』
『……お前、ローゼが俺のせいで裏切ったことを根に持っているな』
夜の一族からこれ以上ないほど言及されていたので、俺は無抵抗のまま組織に降伏した。
潜入作戦で一番不安要素だったフィリスのクローン、つまりシルバーレイがこちらの味方になってくれたことは非常に大きい。
厳密に言えば味方ではなく、あくまで敵ではなくなったというのが正しいが、いずれにしてもこいつが一番何するか分からなかったので交渉できただけでも儲け物だった。
まず当然武装は解除されて、身体検査させられる。何故かニヤニヤしながら、手をワキワキさせて俺の身体を探る女。
「あれ、本当に何にも持っていませんね。剣士と伺っていたので、短刀の一つでもあるのかと」
「平和な日本でそんな物持ち歩けるか」
「アタシの記憶では木の棒や竹刀を振り回す良介さんの姿があるんですけど」
くそっ、フィリスの記憶や経験を持っているから厄介だなこいつ。その代わり、味方になってくれたけど。
武装解除された後は、念入りに拘束される。正直拘束されることは覚悟していたが、何故かこいつは全身を拘束してきやがった。
目元は隠されて、口まで封じられ、手には錠をかけられる。手錠はシルバーレイと繋がっており、こいつから逃げられない形だ。
足は物理的な拘束はないのだが、妙な力場が足首に感じられる。多分超能力で封じているのだろう。
「不自由かけますけど、我慢くださいね。これくらい徹底しないと、組織は良介さんを問答無用で八つ裂きにしかねないので」
下手に元気な顔を見せると組織が逆上しかねないと、シルバーレイは懸念している。
龍と呼ばれるチャイニーズマフィアは古き時代より裏社会では恐れられた組織だが、この一年でありえないほどに衰退してしまっている。
組織を追い詰めたのは夜の一族だが、夜の一族を動かしたのは俺。そしてカレン達が祭り上げた"サムライ"の存在が肥大化してしまった。
HGSによる超能力者の製造で再起を図っているが、彼らの一番の目的は俺の抹殺なのかも知れない。
『お父さん、ディード達に連絡した。警戒網に引っ掛からないように行動しているから安心して。
あの女、シルバーレイは近くに停めていったボックスに移動している』
戦闘機人オットーが連絡してくる。俺の作戦が次の段階へと移行して、ディード達も動き出したようだ。
固有武装ステルスジャケットによる尾行、自分の子供に守られているのはちょっと情けないが、頼もしいのは事実だ。
手足どころか視覚まで封じられているので、状況が理解できない今オットーの存在が頼りだった。
近くにボックスカーを停めているということは、シルバーレイの言っていた通り集団で動いているのだろう。
「ほーい、捕まえてきましたよ」
「なっ――」
『車内には白衣を着た男と部下二名、白衣の男は老けた人相だけど年齢は多分まだ若い。老けていると言うか、不衛生だね』
シルバーレイが軽い口調で話しかけると、聞き慣れない声が上がる。状況が理解できないでいると、オットーが補足してくれた。
ボックスカーに、白衣の男が率いる集団。あくまで外見の印象でしかないが、多分シルバーレイが言っていた研究者集団なのだろう。
HGSによる超能力をモリタニングするのが目的で、彼女と行動を共にしていると言ったところか。
同じ組織の仲間であるはずなんだけど、シルバーレイは立場上敵対関係にある俺よりも素っ気ない態度だった。
「そいつ、例のサムライじゃないか! どうやって捕まえてきた、こちらからモニタリングできなかったんだぞ!」
「アタシの超能力を観測できなかったことをアタシのせいにしないでもらえますか。
こっちは貴方達の望むとおりに動き、こうしてサムライを捕まえてきたんです。
称賛されることはあれど、追求されるいわれはないです。何でしたら本国にでも訴えますか」
ふふんと、シルバーレイは鼻で笑っている。こいつ、好感度のない相手だと口も態度も悪いな。
というかフィリスの記憶や経験があるとはいえ、初対面の俺に親しげに話しかける方が変かもしれない。
彼女本人が言っていた通り、組織なんてどうでもいいのだろう。メンテナンスが必要だから従っているに過ぎない。
「くっ、相変わらずふざけた態度をとりおって……お前など所詮消耗品、成功例の一つに過ぎん。
クローン技術が確立すれば、お前程度の兵士なんぞ幾らでも作れる。
デカい顔ができるのも今のうちだけだ、試作品め」
「……」
やったぜ。そういう研究者的な非人道な発言、最高に好き。もっと俺の作戦の成功率をあげてくれ、頼むよ。
こういうふざけた態度をシルバーレイに取れば取るほど、彼女は愛想を尽かしてくれるだろう。
有能な人間であれば重宝するべきだと一般人の俺でも普通に思うのだが、どうやらクローン人間は消耗品としか見ていないようだ。
内心でガッツポーズを取っていると、オットーが神妙な声色で呟いた。
『……僕やディードの親が、お父さんでよかった」
『何だ、急に』
『お父さんは僕達の事、自分の子供として大切にしてくれている。
彼女のことだってフィリスさんのクローンだとわかっているのに、シルバーレイとまで名前をつけて個人として接していた。
そういうお父さんが、僕やディードは大好きなんだ。これからもお父さんでいてほしい』
こいつは大事な作戦の途中で、何を大真面目に馬鹿なことを言っているのか。
一応言っておくが、俺はクローンや戦闘機人を自分と同じだとまで思っていない。ちゃんと人間とは違うのだと区別している。
消耗品扱いしないのは、俺よりも優れた者達だからだ。きちんと立派に自分の考えを持って生きているのだから、尊重して然るべきなのだ。
壊れたら新しいのを作るなんて、金持ちの発想だ。庶民の俺には思いもつかない贅沢でしかない。
「このアタシに対してそんな態度を取っていいんですか。組織が血眼になって探していた重要人物を捕まえたんですよ」
「くっ、そもそもどうやって生きて捕まえた。捕縛命令が出なかったのは、こいつを捕らえるのは困難だったからだ」
「アタシを刺客に送っておいてよくいいますね。こいつ、LC-23とLC-27との人質交換を望んでいます」
「何だと……?」
「無条件で降伏するかわりに、LC-23とLC-27を開放しろと言っているんですよ」
「何を馬鹿な、罠に決まっているじゃないか」
なんだと!? よりにもよって俺の完璧な作戦をあろうことか敵の組織まで見破られてしまったというのか!
どいつもこいつも何故俺の作戦をすぐ罠だと見破れるんだ。仲間のために自分の命を差し出す、お涙頂戴な話じゃないか。
海外のマフィアなんぞには、日本の義理人情がわからないのか。日本の伝統が伝わっていなくて悲しい話である。
ちなみにお父さん大好きとまで言ったオットーは、敵の発言について何らコメントしてくれない。
「アタシもそう考えて超能力を使って、こいつを無力化して捕まえたんです。要求を飲む飲まないは組織の判断に任せます」
「ふん、こいつが交渉できる立場か」
「何言っているんです、本国のボスにすぐ判断を仰げと言っているんですけど」
「何だと!? 貴様如きがボスに対して判断を要求するなど……!」
「何度も言いますが、こいつを捕まえたのはアタシです。アタシの手柄であって、あなたじゃない。
ボスに判断を仰ぐ権利があるのもアタシです。何だったらこの大手柄を直接本国に伝えてもいいんですよ、あなたを飛び越えて」
「ま、まて、そんな真似をされたら私の立場が無くなる!?」
「だったらすぐに報告して、判断を仰いでください。こいつはアタシが逃さないように徹底的に目を光らせますから。
とりあえず追っ手が来る前にアジトへさっさと連れて行きましょう。LC-27も今日移送されてくるんでしょう」
「きさま……この件が済んだから再教育してやるからな!」
「いやーん、こわーい」
なるほど、第一級の首だからこそ簡単に奪えないということか。
組織のボスが怒りと憎しみで自らの手で俺を殺したいといえば、部下であるコイツラが俺を殺してしまうと逆に怒りを買う羽目になってしまう。
敵だから殺すなんてチンピラの発想だ。敵だからこそ大事に扱う、その首の価値が高ければ高いほど慎重に対応しなければならない。
その点を自らの手柄や功績を武器に、迫ったのか。なかなかやるじゃないか。
(このままジッとしていてくださいね。LC-23とLC-27に会わせてあげますから)
LC-23とLC-27――フィリスやシェリーの元へ案内される。
敵のアジトではあるが、行方不明となった二人に会えるのであれば勿論反対なんぞない。
フィアッセやリスティのためにも、あいつらは必ず助け出す。
<続く>
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