とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 三十四話
                              
                                
カレン達は俺が提唱した作戦はほぼ間違いなく頓挫すると決めつけて、色々補佐すると言ってくれていた。
 
 その推測は悔しいほど正しかったわけだが、まさか一番最初の段階で頓挫する羽目になるとは思わなかった。
 
 別に自分が天才だと自負していたわけではないのだが、結構自信があっただけに悔しい。しかしながら、言い訳くらいさせてほしい。
 
 
 そもそもの話、何故こいつが俺の魅力的な提案を否定するのか分からない。
 
 
 「罠があることを警戒するのは分かるけど、俺のような一個人がマフィア相手に何が出来ると言うんだ」
 
 「良介さんが表社会の有力者達より多くの支援を受けていることは、組織である龍も把握しています。
 アメリカの司法局が事件発生後恐るべき早さで捜査に出たのも、そうした支援者によるものではありませんか。
 
 それを背景に考えると、良介さんのこの提案も言わば潜入作戦ではないかと勘ぐれるんですよ」
 
 「くっ……俺が投降すると言っているんだから、素直に連れていけばお前の手柄になるだろう」
 
 「うーん、興味無いですねそういうのは」
 
 
 ちょっと待て、こいつ本当に何しに来たんだ。
 
 チャイニーズマフィアの手先なら俺に危害を加えるなり何なりすればいいのに、イタズラ同然の真似しかしてこない。
 
 単独行動に出てみればホイホイ顔を出して、平然と俺を相手にのんきに会話している。
 
 
 何がしたいんだ、こいつは。
 
 
 「じゃあ何しに来たんだ、お前」
 
 「だから良介さんに会いに来たと言ったじゃないですか」
 
 「暇なのか、お前。というか組織が怒るんじゃないか、お前の行動」
 
 「まあ確かに、アタシは良介さんを狙う刺客として派遣されました。戦闘行動も許可されていて、モニタリングもされています。
 ああ、安心してくださいね。最初盗聴器とかカメラとかつけられていたんですけど、鬱陶しいので妨害しています。
 
 テレパシー能力の応用でジャミングをかけているんです。超能力による弊害とか、余裕で言い訳できるんで安心してくださいね」
 
 
 こいつ全然やる気がなくて、笑った。裏切りでこそないが、全く刺客になっていなくてどうかしている。
 
 俺としてはありがたいのだが、それはそれで疑問が残る。そもそもこいつと出会ったのは昨日が初めてなのだ。
 
 どうして初対面からこれほど俺に慕ってくるのか、分からない。何度も言うが、初対面同然なのだ。
 
 
 フィリスから何か聞いたのかも知れないが、こいつはオリジナルのフィリスのことはあまり良く思っていなさそうだしな。
 
 
 「何で組織の命令に従わないんだ」
 
 「別に歯向かってはいませんよ。良介さんと敵対する気がないだけで」
 
 「だからそれはどうしてだ」
 
 「うーん、LC-23の血統因子による影響ですかね……
 製造された当初は貴方に関する組織からの怨念を感じて、報復に加担する気だったんですよ。
 ただ製造過程でLC-23の血統因子を注入されて、良介さんのことを知識や経験で知りまして――何だかそんな気がなくなりました。
 
 むしろ良介さんのことが知りたくなって、こうして会いに来たんです」
 
 
 実に嬉しそうに、シルバーレイが俺に向かって告白してくる。その純真な笑顔に少しだけ納得させられた。
 
 フィリスの血統因子によって人柄が丸くなったというのであれば、大いに納得できる。
 
 あいつから見える世界はとても優しくて、隣人は善良に見えるのだろう。超能力を得る過程でフィリスの因子を注入したのは、明らかに失敗である。
 
 
 マフィアという要素と、フィリスという因子は、絶望的に噛み合わない。何で混ぜようと思ったんだ、武装テロ組織よ。
 
 
 「敵対する気がないのなら、フィリスたちを救出するのを手伝ってくれよ」
 
 「いやそれ、アタシが裏切り者になるじゃないですか」
 
 「そもそも加担する理由がねえだろう。組織に親心とかあるのか」
 
 「そんなもの欠片もないですけど、アタシはクローン体なのでまだ未完成なんですよ。
 HGSによる力を安定化させるためにも、組織の研究施設で定期的にメンテナンスを受ける必要があります。
 
 LC-23を殺さない理由でも話した通り、あの人と組織の施設で診て貰わないといけないんです」
 
 
 なるほど、自分の命を握られているのであれば協力せざるを得ないのか。
 
 同時にシルバーレイの命がかかっているので、フィリスも大人しく従っていると考えていいだろう。
 
 裏の事情が把握できてくると、同時に安心感も出てくる。こういう事情であれば少なくともフィリスやシェリーに危害を加えられることはない。
 
 
 そしてシルバーレイさえ説得できれば、アイツラを救出することは出来る。
 
 
 「お前の身柄を保護できる前提ならどうだ」
 
 「保護……?」
 
 「ここだけの話だが、クローンの製造や運用はこちらで既に確立されている。
 お前が協力してくれるのであればお前本人に罪は問わないし、お前のメンテナンスも引き受けよう」
 
 「そんな話、信じられると思いますか。何の保証もないのに」
 
 
 「そこで折衷案だ。お前は俺の提案を受けて、組織に俺の身柄を引き渡せばいい。
 俺に全面的に協力しろと言っているんじゃない、フィリスとシェリーの人質交換を組織に持ちかけてくれればいいんだ。
 お前は裏切ったことにはならないし、その後お前が指摘した結果になって組織が壊滅したら、俺に協力したのだと訴えて保護を求めればいい。
 
 どちらにしても、お前の損にはならない」
 
 「……」
 
 
 シルバーレイは真剣な顔で考え込む。俺がこの時点で自分の勝利を確信した。
 
 考える余地がある時点で、こいつは組織への忠誠心なんて微塵もない。組織に従っているのも我が身可愛さの体裁なだけだ。
 
 フィリスの因子によって性格が丸くなり、善良でこそないにしろ人の心を正常に宿すようになってしまった。
 
 
 人間の心があれば、非道な真似をするチャイニーズマフィアに良い感情なんぞ持つはずがない。
 
 
 「条件があります」
 
 「何だ」
 
 「良介さんの身の安全を保証する術があるのかどうか、誤魔化さずに教えてください。
 詳細は聞きません、無抵抗ではないことだけ教えてください」
 
 「分かった、シルバーレイの心に誓って答える。
 今のお前が宿す温かい記憶の中にいる俺に、裏切りはない」
 
 
 他人のために犠牲となるような男ではないと、シルバーレイはフィリスの記憶を頼りに語った。
 
 それは他人の記憶かもしれないが、他社の記憶から感じた気持ち――
 
 
 俺に対する印象は、シルバーレイという少女が感じた心なのだと、俺は彼女に誓った。
 
 
 「……もう一つだけ」
 
 「何だ」
 
 
 「LC-23だけではなく、アタシにも優しくしてください」
 
 
 「俺はあいつにも優しくした覚えは一切ない」
 
 「あはは、その答えで十分です」
 
 
 俺が嫌な顔をすると、何故かシルバーレイは嬉しそうに笑った。
 
 その評定はフィリスによくにているが、やはり彼女とは違った。
 
 
 いずれきっとフィリスと合わせる必要はないと知るだろう――こうして俺は、チャイニーズマフィアに身柄を引き渡された。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 <続く>
 
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