とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第二十六話
フィアッセ・クリステラより聞かされた話は衝撃的だった。
以前フィリスやリスティからも少しは話を聞いていたが、HGSの事を他でもないフィアッセの口から聞かされた。
フィアッセ本人は直接関わった訳では無いようだが、HGS関連では他人事では決してなく本人の事にも深く繋がっているらしい。
フィリスとシェリーの行方不明と、誘拐の疑惑。彼女からしてもなりふり構っていられないのだろう。
「今回の脅迫及び誘拐には、龍というチャイニーズマフィアが起こしている可能性がある」
「えーとね、"劉機関"というHGS能力の兵器転用を狙った研究があって、患者同士を人工授精して作った生体兵器がフィリス達だったの」
「それがお前の言っていたクローン体なんだな」
プレシア・テスタロッサやジェイル・スカリエッティが行っていた生命の研究とは、別種と考えていいだろう。
ジェイルは悪事に加担することにあまり躊躇いのない男だが、地球のマフィアに加担する意味合いはさほどない。
夜の一族に関わっていたのは俺との繋がりを考慮しての暗躍だったし、結果として戦闘機人や自動人形達はほぼ全員俺の味方になってくれた。
その後あっさり投降して全て暴露していたし、フィアッセ達のことまで加担はしていないだろう。
「研究としての生体兵器だから開発コードナンバーで区別されていて、生体兵器の完成度によって試験的運用がされていた。
リスティがその最終試作機であり、幾つかあった試験体のなかで最も出力が高かったことを買われたみたいなの」
「あいつが生体兵器で一番強かったということか」
「うん、あまり気分のいい話じゃないよね、ごめん……」
「いや、大丈夫。
この際だから話すけど俺の子供だと名乗っているディードとオットー、あの双子は俺の遺伝子から出来たクローン体だよ」
「えええええっ、そっちも結構衝撃的だよ!?
は、母親、母親の遺伝子は誰なのリョウスケ、うわーん!」
「クローン体だと言っているだろうが、この野郎!?」
「バラすタイミングが絶妙的で何とも言い難いわね、この茶番」
良いタイミングだと思ってディード達のことを打ち明けると、フィアッセに泣かれてしまった。
どうやらこっちの方がショックを受けているらしい、なんでやねん。心の底からどうでもいい事だろうに。
ディアーチェやディード達のことをどう説明するべきか、タイミングを伺っていたのだが、良い機会だと打ち明けてしまった。
アリサもそれは分かっているのか、複雑な顔をして溜息を吐いている。
「ディードちゃんとオットーちゃんが、リョウスケの遺伝子で作られたクローン。確かに黒髪とか眼差しとか、面影があるかも。
で、でもディアーチェちゃんもリョウスケの子供だと言っていたけど」
「あの子達は孤児だ。身元や素性がかなり複雑な子供達でな、紆余曲折あって俺が引き取る事になった。
特別養子縁組で後継人もいるから、手続きがきちんとされているのでそこは安心してくれ」
「親を必要としているディアーチェちゃん達を家族として家庭に迎え、特別養子縁組して自分の子どもとして育てているんだね。
リョウスケに新しい家族がいるのってちょっと複雑だけど、何だかリョウスケらしい気もする。それにディアーチェちゃんもすごくいい子だしね」
普通ならまず怪しむべきなんだが、ディアーチェの日頃の態度が良いのか、フィアッセの印象は悪くないようだ。
ディアーチェは王として君臨しており、民には優しくも厳しい態度で接する貫禄を持っているが、同時に礼節もわきまえている。
シュテルの話では昔は暴君だったそうだが、法術による実体化と俺との生活を経て、彼女の本質は精錬されたようだ。
受け入れられたのはいい事なのだが、子持ちだと知られたのはちょっと複雑である。俺だってまだ十代だしな。
「話を元に戻すけどリスティは生体兵器の最終試作機で性能も良かったから、量産機であるフィリスとセルフィが作られることになったの」
「姉妹同然の仲というより、ある種本当の姉妹だったんだな。俺とディード達のように」
「劉機関からすればあくまで実験体に過ぎないので、開発コードーと呼ばれていたとリスティは話してくれた。
本人はその名を極度に嫌っていて、当時の映画女優の名を採ってリスティ・シンクレア・クロフォードと自称していたの」
――過去に諍いがあってリスティと戦う羽目になった時、あいつはその名前を口にしていた。
恐らく俺と戦う時に人間性さえ捨てて、生体兵器として俺との対決に臨んだのだろう。
今更のように当時のリスティの苦悩が分かって、俺としても重い息を吐くしかない。結局和解こそ出来たが、殺し合う羽目になってしまったのだから。
あの名前はきっと、あいつが生体兵器として戦うことを決意した際の異名なのだろう。
「開発当時は人間自体を蔑んでみ、とても攻撃的な性格だったと自嘲していたよ。
実験体としての生活に嫌気を感じて病院を脱走した後、色々事情があってさざなみ寮に身を寄せることになったの。
寮の住民さん達が温かく迎えてくれた事で人としての情を理解し、情操面が急激に改善されていったみたいだね。
それで今ではリョウスケも知るリスティになったの」
「……なるほど、お人好しってのは伝染するからな。俺もお前ら高町の連中に感化されて、すっかりカタギになってしまった」
「あんたは今でも結構なアウトローだと思うけどね」
アリサが睥睨して口出ししてくる。俺だっていい加減落ち着きたいけど、やらないといけないことばかり増えてくるんだよ何故か。
しかしリスティの奴にも、そんな過去があったのか。どうりでさざなみ寮を守ることに、やたらこだわっていた筈だ。
俺が高町の家を特別に思うように、あいつにとってさざなみ寮が本当の家なのだろう。その気持はよく分かる。
だとすると、さざなみ寮にHGS患者がいるというのは同じクローン体なのだろうか。
「やがて劉機関が量産機を完成させると、脱走したリスティを捕獲するためフィリスとセルフィが送り込んだの」
「それでリスティに返り討ちにあって、二人は引き取ったんだな」
「うん、そう聞いている。その後情操教育とかされて、フィリス達も今の優しい女性になったんだ」
最近の情操教育はすごいんだな。俺もそういう立派な施設にディード達を入れるべきだっただろうか。
そこまで考えて気付いたが、基本的に俺はディード達を教育施設に入れず自由に生活させている。
本来であれば親として問題なのだろうが、既にディード達は高い知性と深い教育がされていて、非常に良い子達である。
ただあの子達が人間的に出来ているからといって、自由奔放にさせてばかりではいけないだろう。その点も今回の事件を通じて感じた反省点としよう。
「警察関係の協力者となったリスティは研究施設類の捜査も行ったみたいなんだけど、確か北の施設で14体ほど作製されていた痕跡があったみたいなの」
「回収できなかった量産機の一人が、あのフィリスに似た女だということか」
「どうしてフィリスやリョウスケの関係まで知っているのか分からないけど、少なくともクローン体なのは間違いないと思う」
フィアッセの話は事実だろうし、ほぼ間違いなくあいつはフィリス――というよりはリスティのクローン体なのだろう。フィリスもリスティの遺伝子より生み出されたんだからな。
そこまでは分かるのだが、あいつは何故かフィリスの能力や記憶を有していた。
フィリスから聞き出したのだとしても、俺との些細なやり取りまで聞き出す必要はない。
「私から話せるのはこれくらいかな。ごめんね、もっと聞いておけばよかった」
「いや、十分だ。それにリスティとの協力関係も結んでいるし、あいつから聞き出すさ。
今はまだ色々不安だろうけど、俺達に任せろ」
「クローン体の事について分かったのは大きな前進ね。組織に利用されているのであれば、説得することも出来るかもしれない。
今のところまだイタズラレベルだし、事情もありそうならこちらでも何とかしてみるわ」
「ありがとう、二人共。私も頑張って二人を探してみるね!」
「お前も狙われているんだっての!?」
「大人しく守られていてください」
フィリスの偽物、あいつは俺に対して執着していた。
組織が俺を恨む理由は分かるのだが、あいつは俺を殺す気はなくちょっかいばかりかけていた。その点が全く腑に落ちない。
フィリス本人であることに固執しているようだが……いまいち分からん奴だったな。
<続く>
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