とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第二十三話
時空管理局の協力そのものは得られなかったが、クロノやレンが個人的にでも手伝ってくれるのは非常に助かる。
人探しは組織が大っぴらに動くより、個人で探し回ったほうが案外早く見つかるかもしれない。大事にはしたくないという意味でもありがたかった。
その後も少しレン達と話し合って時間を稼ぎ、ファミリーレストランを出て一旦別れる。周囲を伺ったが、フィリスに似たあの女は見当たらなかった。
安堵していいのかどうか、感情は複雑だった。多分フィリスの事を知っているだろうが、フィアッセが狙われているこの状況で付け狙われるのも嫌だった。
「父よ、何があった。街で騒ぎが生じていたようだな」
「剣士さん、無事ですか」
別行動していたディアーチェ達が駆け寄ってくる。街中で起きた騒ぎを聞きつけて、捜索を中止して俺の所へ戻ってきたらしい。
案の定月村すずかこと妹さんは俺自身を信じていながらも、護衛である自分の不在中に事件が起きたのではないかと気掛かりであるようだ。
我が子達を労ってやりたいが、またファミレスへ戻るのも何なので、俺達は一旦マンションへ帰ることにした。色々な事が起こりすぎていて整理したい。
俺が襲われたことを素直に伝えると妹さん達が多大に責任を感じそうなので、ハプニングが起きたというニュアンスで説明した。
「――といった感じで、携帯電話を取り上げたり、救急車を空中へ持ち上げたりと、見事なパファーマンスを街中で見せてくれやがったよ」
「なるほど、父に危害を加えるつもりはなかったらしいな。もっとも害意の一つでも見せていれば容赦しなかったが」
「えっ、どういう事だ」
「お父様の危機を見過ごす私達ではありません。必ず駆けつけていましたよ」
……どういう根拠なんだと聞いてみたかったが、あろう事か誰一人全く疑わずに頷き合っている。
救急車に追いかけられたりと結構な危機だったんだけど、ディアーチェ達は殺意や敵意を感じなかったらしい。
実際救急車が制御を失って落ちてきた時あの女は慌てていたし、俺に危害を加えるつもりはなかったのは確かなようだ。
だったら何の目的であんな真似をしたのか全く理解できないが、本人に聞き出せなければどうしようもないか。
「フィリスをよく知っていたことからも、あの女が今回の事件に関わっているのは間違いない。単純な行方不明でもなさそうだ。
あいつの安否が気掛かりではあるが……お前達はどうだった」
「皆さんの協力を得て街中を探索いたしましたが、フィリスさんの"声"は聞こえませんでした」
「……海鳴にはいないのか」
これでフィリスが自分の意志で行方をくらませた可能性はほぼ消えた。昨晩の夜勤で何か起きたことは間違いない。
病院を荒らされた形跡はないとリスティは言っていたので、チャイニーズマフィア達が危害を加えたということは無さそうだ。
しかしながら超能力者が敵側にいるのであれば、無力化されて誘拐された可能性はある。フィリスはHGS患者なので、狙われる理由はある。
いよいよ雲行きが怪しくなってきたな……この街のHGS患者は俺の知る限りリスティとさざなみ寮の住民、そしてフィアッセか。
「力になれなくてごめんね、お父さん。気休めかもしれないけど、僕達が調べた限りでは街中で事件が起きた痕跡はない。
フィリス先生の身に何かが起きたことは間違いないだろうけど、まだ無事である可能性は高いよ」
「謝ることはないよオットー、お前達はよくやってくれている。お前達のおかげで冷静さを取り戻せた。
チャイニーズマフィアがHGS患者を狙うのは、超能力という異能を持っているからだ。それを考慮すれば、HGS患者であるフィリスを殺す意味はまったくない。
俺への私怨もあるだろうが、だとすれば病院で襲っている筈だからな」
ディードとオットー、双子の戦闘機人は俺の遺伝子を継いでいる。スカリエッティ達の教育で俺への父性が高く、心から慕ってくれている分落ち込みようも大きい。
そんな彼女達を慰める意味で理由を述べたが、自分で言っておいて少しだけ納得することが出来た。確かにマフィア達がフィリスを殺す意味はない。
勿論殺す意味がないとはいえ、無事である保証は何処にもない。相手はマフィアだ、HGS患者の超能力を狙って非人道的な真似をするかもしれない。
悪いようには幾らでも考えられるので、自分自身で追い詰めないようにしておいた。
「とにかくチャイニーズマフィアの狙いはHGS患者だ。リスティやフィアッセはまず間違いなく狙われるだろう。
リスティは自分で身を守れる力を持っているが、フィアッセは逆に力の発動が暴走を招く危険性がある」
「その点は私達も考えまして、彼女達の居所を確認いたしました。全員、無事です」
「フィアッセさんは見知らぬ女性と一緒に買い物へ行っていました。恐らく今の同居人ではないかと思われます、剣士さん」
おお、流石は頼れる家族達。次なる狙いを看破して、先回りしてくれている。
妹さんがきちんと動向を探ってくれたらしく、フィアッセは能天気に同居人と買い物しているらしい。なんか馬鹿馬鹿しくなった。
人目が多いショッピングであれば心配は無いだろうが、妹さんは護衛チームに連絡を取ってフィアッセに人員を送る手配をしてくれたようだ。グッジョブすぎる。
心配なので顔を出しに行きたいが、買い物中に俺がのこのこ出向けばむしろ何かあったのかと勘ぐってくるだろう。
「仕方ない、マンションで帰ってくるのを待つか」
「フィリス先生のことはどうするつもりだ、父よ。いつまでも隠し通せないと思うのだが」
「……今晩、俺から話す。後でバレれば信頼を失うし、隠し通せないからな」
正直気が乗らないが、意外と勘の良いやつなので俺の一挙一動で見透かされるかもしれない。
今あいつが能天気でいられるのは、どういう訳か俺への信頼が異常に高いからだ。言い換えると、HGSの暴走を抑えているのは信頼と言える。
この信頼を失ってしまうと、あいつがどうなってしまうのか予測が立たない。今まで嘘をついていていいことがあった試しがないからな。
ディアーチェ達は捜索の続行を申し出てくれたが、俺は首を振った。一旦全員、落ち着くべきだ。
「脅迫状が単なる愉快犯ではないのは確定したので、フィアッセを守る為に拠点の安全性を高める。
マンションへ戻って工作作業を行っておこう。セキュリティの高いマンションとはいえ、やれることはあるだろうからな」
「お父さん、僕のIS"レイストーム"には光渦の嵐という結界能力があるんだ。早速マンションと地域一帯に設置しておくよ」
「おお、頼もしいな。目立たない程度に頼む」
「うん、任せて」
オットーは無口で感情を表に出さず、普段はぼんやりとした感じの女の子だが、俺が素直に褒めると嬉しそうに笑っていた。
もう少し詳しく尋ねると、光渦の嵐は対象の檻外への移動へ逃走を、物理と魔力両面で阻害して閉じ込める機能を持っているらしい。
本来は広域攻撃に用いるらしいが、防衛にも使える能力であるらしい。戦闘機人は汎用性が高く、各局面に適した能力を持っている。
敵に回ったら恐ろしい連中だが、あいにくとほぼ全員俺の味方である。ほぼといったのは、ウーノさんは俺を嫌っているからだ。
「よし、作業をしながらフィアッセを待つぞ」
『はい!』
その後夜になるまで俺の仲間達が手を尽くしてくれたが、結局フィリスは見つからなかった。
レンやクロノ、他の連中も頑張ってくれたが、手掛かりもない。フィリスに似たあの女も姿を見せなかった。
――そして、夜を迎える。
事が起きたその時、俺はディアーチェが作ってくれた夕ごはんを食べていた。
呑気に見えるが、実際呑気なのはフィアッセの馬鹿だ。あいつ、買い物に出たままなかなか帰ってきやがらない。
姿が見せないと不安になるので確認の連絡をしようとしたら、逆に連絡があって外食して帰るとのことだった。お土産も買ったので楽しみにしていてほしいとのアホ連絡だった。
馬鹿馬鹿しくなって美味しい夕食をぱくつきながら――テレビを、つけた。
『次のニュースです。
ニューヨーク市消防局で災害救助に従事していた"セルフィ・アルバレット"さんが、昨日未明から現場から行方不明になりました』
――えっ。
『救助隊員や警察関係者によって手掛かりが調べられましたが、彼女に関連したものは何も見つかっていません。
人命被害が出た現場で懸命な救助作業を行っていたセルフィ・アルバレットさんが、突如消息を絶ったことです。
公表はしばらく伏せられていましたが、事態を重く見た関係者は――』
セルフィ・アルバレット。俺の文通相手で、フィリスやリスティの関係者。
素性はあえて訪ねなかったが、家族同然の付き合いだと聞いていた。
まさか、あいつもHGS患者だったのか!?
<続く>
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