とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第二話
時間つぶし目的の思い出場所巡りも一段落したので、俺達は待ち合わせ場所へ向かった。
本日の同行者はアリサとすずかの二人のみ。最近集団行動が多かっただけに、三人だけの行動は久しぶりだった。集団生活も最近でこそ馴染んできたが、多人数だと落ち着かない面はまだある。
平日子供二人を連れて歩いていると若干目立つが、注目されるほどではない。むしろ最近日本での生活が縁遠かっただけに、平和な日常の光景に懐かしさすら感じられる。
同じ感慨を抱いているであろうアリサがふと気になったように、尋ねてくる。
「あんた、将来的にどうするつもりなの?」
「将来……?」
「日本で生活拠点を構えるのか、海外で立身出世をするのか、異世界でファンタジックな生活を送るのか、宇宙に出て惑星開拓に勤しむのか。
あちこち手を広げるのは別にいいけど、そのうち回らなくなるわよ」
「うーむ、実際事件が起きる度にあちこち飛び回っているからな……」
海鳴へ流れ着いて一年間が経過、自分の人生を振り返ると怒涛の日々の連続だった。しかも別に今全て終わったのではなく、今もまだ色々と続いている状況。
全てが落ち着いてから決めると言っても、まだまだ終わりそうにない現実。老人にでもなった時に自分の終生が決まるのかもしれないが、生憎とまだ先である。
今のところ海鳴を離れるつもりはないのだが、冷静になって考えてみるとこの海鳴も元々は旅の途中で立ち寄っただけである。故郷みたいになっているが、実のところ違う。
どこでも生きていけるというのは旅人の特権かもしれないが、やるべきことが多いので自由とは程遠い。
「アリサはともかくとして、妹さんもずっと連れ回しているからな。さくらにもそろそろ何か言われそうだな」
「私は剣士さんの護衛が人生の使命ですので」
妹さんはありがたい事にそう言ってくれるが、クローン体である彼女は平穏とは無縁の出生である。
頭が良く判断力にも優れているが、学歴は何もない。もし日本で生きて行く場合、彼女は経歴書に記載できる履歴が存在しない。というか、表沙汰に出来ない。
夜の一族の王女という特殊な立場に学歴や職歴なんて求められないかもしれないが、日本で生きるという選択を取った場合は考えなければならない。
まあその点はさくらやカレン達、夜の一族の連中に頼めばどうとでもなりそうだが。
「海鳴で生きるという選択肢も悪くはないんだけどな。都市開発がずいぶんと進んでいるようだし」
「あたし達が帰ってくる度に、町並みが変わっているからな。国際都市化が急激に進められているようね」
一年前は平和でありつつ退屈な街だったのに、今では国際都市が急激に進んで見事な発展を遂げている。
自然豊かな街の長所を一切崩さずに、平和的かつ国際的に都市計画が運営されている。湯水の如く資金と人材が投入されて、開発が進んでいるらしい。
夜の一族の世界会議以後なので、カレン達が主導しているのはまず間違いない。あいつらが経営する多国籍企業がどんどん介入し、店舗を並べて商売繁盛している。
強引な都市政策は地元との乖離を生むものだが、地域密着型で絶大な支持と支援を受けているようだ。市長も突然代替わりしたようだし、役所にも手を入れているのは間違いない。
「フィアッセさんが今住んでいるのも、国際都市化の影響で建てられた新築マンションなのよね」
「……俺が居ない間に、引っ越ししていやがるとは」
俺達が国際都市化しつつあった建設予定地を歩いていた理由――フィアッセ・クリステラは高町家を出ていた。
以前居候していた俺が高町家を衝動的に飛び出したのと同じでは決してなく、事情があって引っ越しを行ったらしい。桃子達とも話し合って決めており、別に疎遠にもなっていない。
とはいえあの家から家族同然の人間が出ていくのは衝撃的であり、同時に以前の俺がなのは達に同じ動揺と混乱を与えていたのだと今になって分かり、肩を落とした。明日は我が身とはよくいったものだ。
マンション前に到着すると、既に一人の少女が待っていた。
「おにーちゃん、おかえりなさい!」
「冷静になって考えてみると、別にお前と再会しなくても直接本人に聞けばよかったのではないだろうか」
「感動の再会なのにー!?」
感激して抱擁の手を広げる高町なのは、小学生。平日なのだが、今日は午前様らしい。こいつとの待ち合わせのせいで、そもそも思い出巡りをして時間を潰さなければならなかった。
平凡な少女のくせに会う度に色んなトラブルを抱えているガキンチョだが、暖かい春を迎えていつもの笑顔を取り戻している。まん丸ほっぺの女の子に、魔法少女の面影は微塵もない。
会うのは数カ月ぶりなので別段大きな変化はないのだが、こいつと知り合って一年ともなると背丈は伸びた気がする。少しばかりしっかりとしてきて、自分なりの行動を自発的に行えてはいる。
とはいえ甘え盛りなので、大人からなのちゃんと可愛がられる愛嬌さは健在だった。
「遠い星から呼び出しちゃってごめんなさいです。フェイトちゃん達も一緒だと聞いていましたが、みんな元気ですか」
「うむ、惑星開拓は思いの外順調で、何とかこうして帰ってこれた」
「わ、惑星開拓ですか……なのはのような小娘には想像もできないです……」
俺がよくそう呼んでいるせいなのか、自分を小娘呼ばわりして苦笑いしている。まあ、気持ちはよく分かるけれど。
俺も宇宙へ出て惑星開拓なんぞしている自分が今でも実感できない。エルトリアの夜空を見上げて、月が見えないことに気づいて実感が湧いたくらいだった。
自分の友達まで夜空の彼方へ出向いていることに、高町なのはは空を見上げて息を吐いている。友達の心配をするあたり、こいつも変わっていないようだった。
まだまだ子供らしく、アリサやすずかとも再会して喜び合っていた。
「アリサちゃん、すずかちゃんも久しぶりだね!」
「なのは、これお土産に持ってきた星の石」
「アリサちゃんから子供のお土産を聞いて、これ積んできたの。星の砂」
「わ、わあ……ありがとう、嬉しいな……」
――どう見ても普通の石と砂です、本当にありがとうございました。
分析とかすれば地球に存在しない成分とか出てきそうだけど、子供にそんなもの求めるほうが酷だろう。真面目に渡されたなのはも困った顔でお礼を言う。
一応アリサ達の擁護をすると、エルトリアという未開拓の星の土産となると何を用意すればいいのか分からない。いずれ特産品を作る予定ではあるが、子供向けの開発はまだ途中である。
連邦政府の世界都市なら色々販売されていたが、子供のお土産を買う余裕がなかった。今度はきちんとしたものを用意しておこう。
「帰ってきたばかりで申し訳ないですが、フィアッセお姉ちゃんのところへ案内しますね。
今日はおにーちゃんが帰ってくることを連絡していますので」
「引っ越したと聞いた時は驚いたぞ」
「はい、詳しくはお姉ちゃんから話しますが、色々事情がありまして……脅迫状のことも関係しています」
「……その様子から察するに、フィアッセさん本人だけじゃなくご家族も脅かされているのかしら」
「セキュリティの高いマンションへ移り、なのはちゃんのご家族にも迷惑がかけないようにしたのかな」
「わっ、すごい。アリサちゃん、すずかちゃん、名探偵だね!」
なのはさんよ……あなたの目の前にいる女子達はうちのブレインと護衛なので、一般的女の子と一緒にしないほうがいいぞ。
しかしアリサや妹さんの推察を聞いて、俺も引っ越しには納得した。高町家は一般家庭だからな、セキュリティの高いマンションへ引っ越した方が誰も巻き込まなくて住むという点では正しい。
ただあいつ自身きちんと分かっていなかったようだが――俺の留守中を守る警護チームがいたんだよな。
俺がドイツで世界会議やっていた頃にトラブルが発生した為、夜の一族の連中が気を回して俺の関係者を守ってくれているのである。
加えて高町の家には恭也や美有希もいるので、警護面では問題はない。二人は実力者であり、剣士としては若いながら一流の強者である。
フィアッセの事だから誰も巻き込みたくなかったんだろうが、よく高町家を説得して出てこれたものだ。
「肝心の脅迫状についてはお前からなにか聞いているのか」
「はい、おにーちゃんへの連絡に必要だからと、おかーさん達にはこっそり内緒で教えてくれました」
「一般人のフィアッセさんはマンションへ引っ越してまで脅迫を受けているなんて……どういう内容なのよ」
「それが、その……
『チャリティーコンサートを中止しろ。さもなくば、フィアッセ・クリステラの命を奪う』
――と、明記されていたそうです」
それは一応脅迫にはなるが……立派な殺害予告なのでは?
身近で起きている事件というのは、ミッドチルダの次元犯罪より規模は比較にもならないが――とても生々しい。
ユーリ達がいればテロ組織ですら壊滅できるが、生憎とあいつらは現在エルトリアで惑星開拓に励んでいる。
心配だから自分達も行くと涙目で訴えていたユーリ達の申し出を断ってしまった自分の判断に、頭を抱えた。
<続く>
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