とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第七十五話
大衆は基本的にお祭り騒ぎが好きである。
テレビジョン開設と電波法制定は通信による革命を意味しており、マスメディアが率先して世間を盛り上げて、主要各国は大いに注目を集めた。
電波法が制定されれば電波の公平かつ効率的な利用を確保する事が可能となり、無線局の開設や秘密の保護などについての取り決めが規定される。公共の福祉を増進することを目的としており、民間への影響も大きい。
明日採決が行われる議会の日程において、実質本日が最終日――決戦の日と言えるのだ。
『通信メーデー』
『情報統制許さず』
『情報を守れ』
『電波安全法制』
『英雄達を守れ』
『テレビジョンを公開しろ!』
――議事堂と敷地では今、民間のデモ活動による大規模なイベントが開催されてしまっている。
議事堂の正面には何処から持ってきたのか、壇上と大階段が設置されている始末。議事堂でも年次イベントが行われたりするそうだが、これほどの規模に発展するケースは稀らしい。
例えば独立記念日の祝賀会やナショナル・メモリアルデー・コンサート等がそれに当たるのだろうが、それにしたって人々がここまで熱狂するのはなんとも凄まじい。
よく見ると電波法によるデモ活動を行っているのは中心部であり、取り囲んでいる連中は誰がどう見たって何の関係もない一般人だ。
(――お見事でした、リョウスケ様。昨晩の工作は見事に花を咲かせましたね。たった一晩で人心を掌握するとは、素晴らしいですわ)
(い、いやー、それほどでも……)
聡明なリヴィエラがこの熱狂ぶりに何の不信感も抱いていないのは何故なんだ。俺ならこれくらいの事が起こせるのだと確信でもしているのだろうか。どういう奴なんだよ、俺は。
確かに国葬とかなら重要な役割を果たしているし、遺体の一般公開には議事堂が使用される。大統領や議員のみならず、その他の役人などが敬意を表して安置され、多数の一般市民が参列に訪れるくらいはするだろう。
言い換えると、国家における重要な式典が行われているのと同規模のお祭り騒ぎとなっている。本来これほどの組織的でも活動ともなれば事件に発展するのだが、この光景を見て誰もテロ活動とは思わないだろう。
何故かというと、民間人や観光客はおろか――各マスメディア当局は、総出を挙げて熱狂的に囃し立てているからである。
「おい、すぐに軍隊を出動させろ。議会前が占拠されているぞ!」
『む、無理です。マスメディアがこれぞ革命であると、人々の声を積極的に取り上げています。この騒動の中で軍を差し向ければ、人心が失われてしまいます!』
「無法行為を野放しにするほうが問題だろう! このまま議会に流れ込んだら議員にも被害が及ぶのだぞ、何とかしろ!」
想像を超える絶景にポルポ代議員は唖然呆然としていたが、リヴィエラの視線に気付いて狂ったように通信機に向かって騒いでいる。この騒動に巻き込んだのは他でもないポルポ代議員なのだ、これ以上の失態は犯せないのだろう。
彼の想定では電波法に反対する者達で溢れかえっており、民は声を張り上げて反対を訴えている光景を拝ませたかったはずだ。現実を目の当たりにして、リヴィエラを自分の陣営に取り込もうとした。
実際そこまで急な方向転換はリヴィエラであっても厳しかっただろうが、計画自体はそう悪いものではなかった。事実、昨日まではデモ活動による電波法反対活動は行われていたのだ。
昨日の今日で賛成活動によるお祭り騒ぎ――元来テレビジョン開設には大いに賛同していたマスメディア各局は、ここぞとばなりにこの気運に乗っかったということだ。
"――それで、誰がどんな事をしでかしたんだ"
"なにをかくそう、このわたくしが扇動いたしました"
"そしてこの私が各メディアに提案いたしました"
"何で誇らしげなんだよ、貴様ら!?"
"昨晩、陛下がどんちゃん騒ぎしたせいではありませんか"
"議会であれだけ父上がハッタリをきかせてしまえば、当然の流れかと"
"うぐっ……"
お前が今日まで盛り上げたせいじゃん、とシュテルやクアットロに完膚なきまでに反論されて、念話越しに仰け反ってしまう。こいつらほんと、今回やりたい放題やっていやがるな。
このまま放置なら悪ノリ極まりないが、暴徒に発展しないところをみると制御自体は出来ているのだろう。どうやっているのか怖くて聞けないが、少なくともデモ活動員以外の民衆はただお祭り騒ぎを楽しんでいるだけだ。
ポルポ代議員はとにかくパニックになっているが、彼の見立てそのものはさほど間違えていない。政策である以上賛否はどうやったって出るし、プライバシー保護などで今も不安に思う人達は絶対いるはずだ。
目の前にいる民衆もお祭り騒ぎに浮かれているだけなので、それこそ議員としてビシッと言えば気運が変わる可能性はある。
「ポルポ様、議会の時間が迫っております」
「うっ、い、いや、しかしこの騒ぎでは……」
「ポルポ様が皆さんを落ち着かせるのであれば、お止めはしません。責任ある勇姿を拝見させて頂きますわ」
「ま、待っていろ、今人を呼んでこいつらを黙らせるから……」
想定外の事態にひたすら動揺するだけのポルポ代議員を目にして、リヴィエラは人知れず嘆息する。露骨な態度には見せていないが、大きく評価を下げているのは見て取れる。
昨日の今日で事態が急変して動揺するのは別に咎められる事ではないし、人を呼んで対処するというのも間違ってはいない。議員だからといって、大衆の前で常に堂々としなければいけないという常識はない。
しかし彼がリヴィエラに求めていたのは、当にそうした英雄的行為だったはずだ。本人が望んでいなかったにしろ、女に対して男が見せつけようとしたのは事実なのだ。
半ば無理やり連れ出しておいて、醜態を晒すとは何事かと言いたくなるだろう。
「元はと言えば、貴様が諸悪の根源だ!」
「私ですか……?」
「昨晩の事件で、貴様がデモ活動の連中を言葉巧みに誑かしていたではないか。こいつらも貴様が先導したのだろう!」
すごい、当たっている。俺本人がやった訳じゃないけど、うちの連中がここぞとばかりにお祭り騒ぎにしたのは全くもって真実なのだから。
その後も聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせられる。リヴィエラの俺に対する評価を下げるべく、全ての出来事が俺に原因があるかのように擦り付けてくる。
八つ当たりもいいところだが、実のところ間違えてはいない。俺が連邦政府に、そしてエルトリアに関わらなければ、ポルポ代議員のやり方が功を奏してリヴィエラを自分の女にすることだって出来たかもしれない。
しかしその場合エルトリアは主権を勝ち取れず、フローリアン夫妻は死に、キリエやアミティエもどうなっていたか分からない。破滅するまではないにしても、イリスが起こした事件で事態はもっと悪化していた筈だ。
「なるほど、私がリヴィエラ様と関わったことが原因であると?」
「そうだ、全て貴様のせいだ!」
「それがどうしたんです」
「何だと……!?」
「議会でも言ったはずです。私は利益を得ることを第一とし、世界や国家、民については二の次であると。
リヴィエラ様と契約してパートナーとなり、本日に至るまであらゆる行動に打って出ました。その中には、お世辞にも綺麗とはいえない行動もあったでしょう。
ですが決して私は恥じ入ったりしませんし、リヴィエラ様や仲間達が取った判断については責任を持つつもりです」
クアットロやシュテルのやり方については言いたいことはあるにせよ、俺は一度だって彼女達を責めたことはない。アリサやリーゼアリア達の方針にだって、口出し一つもしなかった。
リヴィエラが精力的に行っている政治的活動についても、全て一任している。何かあれば責任を取る、俺に出来ることはそれだけだと分かっているからだ。
彼女達のやってきたことが人々の迷惑になるのだとしても、俺は彼女達を守り庇うだろう。誰に何を言われようと、彼女達に責任を押し付ける真似はしない。
彼女達を信じているということもあるのだが――
「私は電波法を必ず制定させ、エルトリアの主権を勝ち取り、彼女達に大いなる利益をもたらせる。そのためにあらゆる手段を取り、全てにおいて責任を果たす。
私を批判したいのであれば、どうぞお好きになさってください。貴方に何を言われようと、私はリヴィエラ様との契約を果たします」
「っ……リヴィエラはそれでもいいのか。こんな男といたら破滅するかもしれないのだぞ!」
「私は商人です。どのような商売であろうとも、リスクはかならずある。だからこそ商人は、自分の商売を第一とするのです。
リョウスケ様と御一緒であれば、共に破滅しようと恐くはありません」
この関係は、絆ではない。お互いに利益を求めることを第一とし、危険を共にするという契約である。
ゆえにこそ一蓮托生であり、全ての物事において責任が生じる。一人で抱えるのは重くとも、二人であれば担げる。リスクを乗り越えて、リターンを得るべく共に歩む。
デモ活動やテロまがいの事件ですら、その契約のうちに含まれる――その覚悟があるのだと見せつけられて、ポルポ代議員は絶句する。
車内でそうして睨み合っていると――
『おい、あの専用車はもしかして――』
『大統領がお見えになったぞ!』
大きな事件の余波が呼び水となって、あらゆる人物を巻き込んでいく。
議会四日目、決戦の日。全ての役者が集う。
<続く>
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