とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第七十六話
議事堂には西側と東側の二つの正面がある。
東側の正面は当初来館者や高官らの入口として使用されていたが、一応名目上は両方が正面という扱いはされている。堂々と入場者を分けてしまうと、階級差別だと批判されるからだ。
この議事堂と南北の大通りをはさんだ両議会のオフィスビル群とは長いトンネルで結ばれており、トンネル内は地下鉄がシャトル運転して議員や職員、来訪者が行き来している。
いわゆる連邦政府の議会地下鉄であり、大規模デモのような非常時には避難路として使用される。
「デモ活動が活発化している影響もございまして、本日こちらを利用する手筈だったのですが――」
「ポルポ代議員がわざわざ正面口へ車を走らせたせいで、大規模デモとぶつかってしまったのですね」
大規模デモと、連邦政府の大統領登場。この2つの相乗効果はかつてない影響の広がりを見せ、もはや民衆の爆発は抑えきれない有様となっていた。
出来れば状況確認をしたかったが、議会に間違いなく間に合わなくなる為に両議会のオフィスビルへ移動。リヴィエラとの同行をあくまで望むポルポ代議員に俺が強引な別れを告げて、避難路から入場した。
俺も俺で強引に連れ出した形となったのだが、リヴィエラは何の文句もなく同行してくれている。揉めなくてよかったのは幸いで、何とか議会四日目に間に合うことができた。
しかしながら、集会した議員達はざわついている。昨日から今日にかけて起きている出来事に人間としての混乱と、議員としての責任を果たすべく右往左往していた。
「リョウスケ様は今の状況をどのように捉えておられますか」
「風向きは一新されたと見ています。昨日まで我々は自分で言うのもなんですが、立ち回りは上手く行えていました。情勢としては半ばではありましたが優勢でしたでしょう。
ただ昨日から今日にかけて起きた情勢の変化は、そうした流れを一新させてしまった。無論不利になったとは申しませんし、デモ活動から見ても世論は我々に流れてはいます。
ですが混乱している本日の議会は、政治家としては好機でもありましょう」
「連邦政府の高官は権力闘争に長けた方々ばかり、世論や世間の混乱でさえも利用できるという事ですね。気を引き締めてかからなければなりませんね」
経済だけではなく政治にもご見識がお有りなのですね、と感心した素振りを見せてくれているが、大した事はない。何しろ自分が夜の一族の世界会議でそういう行動をしていただけという話なのだから。
俺のような一般人が、カレン達のような財を成した才女達に勝てる見込みなんぞ有りはしない。あの時彼女達を説得できたのは、武装テロといった事件による混乱を利用しただけにすぎない。
もしも本来の議論で責められていたら、到底勝ち目はなかっただろう。政治経済で大人顔負けの交渉力を持つカレン達に、論戦で勝てる道理はない。火事場泥棒、という表現はちょっと変かな。
後はやはり妹さん、月村すずかや自動人形のローゼが味方をしてくれたのも大きいし――あっ、そうだ。
「良い機会です、この機に乗じて味方を増やしましょう」
「! 議会開催直前で、有力者と接触するおつもりですか」
「この混乱ぶりからして、議会開催は遅れてしまうでしょう。特に他の方々は皆、状況整理と情報収集に手を焼いているご様子。世論も騒ぎ立てており、事態の収拾に時間を費やしています。
その点我々は今何が起きているか、状況は掴めています。状況を提供し、情報共有することで一体感を生み出せるかと」
「なるほど、流石です。では私はこちらに賛同して下さっている方々を今一度取り込むのと、日和見を決め込んでいた中立派と接触して、一気に切り崩しにかかります。
リョウスケ様が手綱を握って下さっている今であれば、比較的容易にこちらの陣営に迎えられる筈です。明日の採決への大きな前進となりますわ」
リヴィエラは目を輝かせて、俺の手を握りしめる。こちらの提案を吟味してすぐ動いている彼女こそ、カレン達と同じ天才の部類であると感心させられる。
俺なんて世界会議でローゼや妹さんを味方に出来たという偶然の幸運を今、再現しようとしているだけだ。無から有ではなく、経験則で述べているだけなのであまり褒められたものではない。
ただまあ悲観していても仕方がない。どうあれ今の状況は利用できるし、大統領が来たことで起きているこの混乱は確かに新たな権力闘争となっている。この機に動けなければ、間違いなく負けてしまう。
大統領が大規模デモに乗り込んだのも、確かな意図があるはずだ。静観していては足元をすくわれる。
「よろしくお願いいたします。私は、主要各国の代表者達と話してみます」
「リョウスケ様なら心配は無いと思いますが……各国の代表である皆様は見識に長けた方々ばかり、お気をつけて」
リヴィエラは気遣いを見せつつも、信頼して送り出してくれた。大丈夫、俺から見ればこの議会に参席している方々は全員俺より頭が良い連中ばかりだから。
敵対しているのを倒すではなく、味方につければいいのだ。下手に上回ろうと画策するくらいなら、敢えて下手に出てでも懐へ飛び込んだ方がいい。
この数時間が、今後の情勢を決める。俺達はそれぞれ動き出した――
大規模デモ活動により半ば議事堂は封鎖されている状況だが、議会は中止とならないようだった。テレビジョン開設と電波法制定、それによる通信革命はやはりそれほど政府には重要視されているという事だ。
聞き耳を立てていると、議長を務める方や議員の皆さんも避難はしていないようだ。下院ビルディングで不安視する議員達が集まっているようだが、彼らとしても今の情勢は気がかりで逃げられないらしい。
上院ビルディングでは有力者達が躍起になって、事態の収拾に当たっている。ポルポ代議員なんて過激に暴徒鎮圧を叫んでいたらしいが、大統領の出現で味方に加わろうと取り入っているらしい。ある意味、逞しい人だ。
そして――探していた人達も集まっていた。
「――おっ、話題の人物の登場だ」
「ちょうどよかったわ。私達、貴方に話があって集まっていたの」
「貴方の正体は公民権運動活動家の類なのではないかと、噂でもちきりよ」
俺が彼らに接触を図ろうとしていた矢先に、彼らもまたこの事態の原因が俺だという推察を行っていた。
デモ活動の実態、ポルポ代議員の暴走を知らない筈の彼らが、真実への確かな道筋を立てている。
やはり侮れない人達だ――議会四日目、思わぬ対面での論争となりそうだった。
<続く>
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