とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第六十二話




「ただいまより電波法に対する質疑並びに、議会政治一般に関する質問を行います。
なお先に続く一連の発言につきましては決して私情を交えず、また発言の趣旨を明確にした論議を行っていただきますようお願いいたします」


 ――テレビジョン解説に向けて明確な進展は行えたが、こうして議長から釘を差されてしまった。

喧嘩両成敗という意味合いではなく、議会を運営する議長として平等の裁定を行ったということだ。論戦に善悪はなく、主義主張の差でしか無いことを明確化した。

完全なる中立など不可能ではあるが、少なくともこの議長はどの派閥にも組みしていない公正な人間であることは伺える。味方ではないが、敵ではないだけでもありがたいと思うしかない。


ちなみに今の注意は俺にも容赦なく向けられているので、そこは苦笑いするしかない。堂々とやりすぎたのも事実だからな。


「通告によりイグゾラ・プロトン氏を指名いたします」


 ラーダ国代表者である、イグゾラ・プロトン氏。議長より指名を受けて、発言の場へと立った。

背丈の高さには通常圧倒されてしまいがちになるが、この男性は驚くほど穏やかな空気を感じさせる。政治という汚い世界で生きるには不向きではないかと思えるほど、清廉であった。

初対面では托鉢の僧という表現をしたが、論戦の場で向かい合うと説教でもされそうな圧がある。別に彼が威圧しているわけではなく、単に俺自身の心境によるものだろう。


清廉を感じさせる人間の前に立てば、俺のような社会不適合者はどうしたって居心地の悪さを覚えてしまう。見に覚えがたくさんあるからだ。


「イグゾラ・プロトンです。此度は連邦政府のみならず、周辺各国にも重大な影響を及ぼす議会に参席して光栄に思います。
ゆえにこそ利権に重んじず、さりとて私情を挟まず、末端の席に身を置く者としてご指摘させて頂くつもりです。よろしくおねがいします」


 国としての利益を追求せず、それでいて自信の正義に身を委ねない。この世界に生きる民の為に議論するのだと、自ら宣誓を行った。

ご立派な理想論だと揶揄することは簡単だが、凛とした態度で述べられると邪推だと逆に笑われてしまいそうだった。実際、議員達の間に失笑の類はない。

理知的な人物だとすれば、結構苦手な部類かもしれない。基本的に理論武装されると、反撃が難しいからだ。俺自身、感情的な人間なのは自覚している。


知識があれば補えるのだが、俺の場合はアリサやシュテルという知恵袋に頼っているのでなかなか難しい。カンペ作戦にも限界はあるからな。


「まずテレビジョン放送における処理能力について質問させて頂きます。
伝送誤りのないクリアな処理能力内なら障害のない受信が可能との事ですが、誤り訂正能力を超えた伝送誤りが発生した場合の対応について聞かせて下さい」

「議長」

「ポルトフィーノ商会長」


 早速技術面に関する質問があって面食らうが、リヴィエラ・ポルトフィーノ商会長が手を挙げる。技術面の推進は商会が請け負う以上、説明は彼女が行う。

プロトン氏が指摘する事項は既存の通信議場から既にある問題点であり、宇宙のような不安定な空間ではノイズが現れたりして受信できなくなる問題点が常に生じている。

これはテレビジョン系列局にも起こり得る点であり、通信局が少なく遠距離受信をしている地域にとっては大きな問題となってしまう。確か日本でも昔起きた問題だったはずだ。


つまり地球出身の俺達にとっては既存の課題であり、対応は可能だった。


「理論上は通信機器が必要な電界強度を得られていればまったく問題ない点であり、既に我が商会では解決されている事項です」

「資料は拝見させて頂きました。今後高額な工事費を払って再工事が必要とされる場合もあるのではありませんか」

「経年劣化や損傷における問題については、電波法の制定により衛星各局との連携によりカバーできると考えております。
受信可能距離については検証が必要となりますが、高額な高利得衛星を購入させられる事象などといったことは起こらないと明言させていただきますわ」


 いわゆる衛星のアンテナ問題である。衛星放送が確立された当初、地上デジタルチューナーの注文が家電量販店やディスカウント店に殺到し深刻な供給不足に陥ったらしい。

誰だって新しいテレビ番組が見れるとあれば、関心を寄せるのは当然だった。あの月村忍だって新しいゲーム機が発売されたら、高町なのはを連れてウキウキでゲームショップに行ってたからな。

自力では買い換えが困難な地域などにはテレビジョン放送へのスムーズな移行を促す目的で、例えばデジタルチューナーなどを配布するといった動きを行うといったやり方を彼女は紹介する。


ポルトフィーノ商会の巨大な看板あってのやり方で、大企業としての強みを否が応でも感じさせる。財力がなければ出来ない力技だった。


「明確なご答弁、ありがとうございます。続いて災害時における危機的状況について質問させて頂きます」


 ――げっ、やばい。

この質問はあるかもしれないと想定はしていたが、アリサやシュテルが難儀していた課題であった。

人命に関わる論戦は善悪こそないにしろ、責任問題を回避するのは極めて困難である。命が失われれば、無責任では絶対にいられない。


そして彼らは政治家である。責任を取るべき立場だからこそ、手を緩めることはない。


「これまで災害の際にも通信機器の機能不全により、貴重な人命が失われた案件が多々ございました。先のポルポ代議員が述べられていた、通信の安定性が求められる声もこれに起因しています。
テレビジョン放送ならば災害時においても衛星各局を通じて、連邦政府と周辺各国の連携が行えると期待してよろしいでしょうか」

「……っ」


 聡明な彼女が即答できない、難しい指摘――いや、最終確認であった。

この世の中に絶対なんてものは存在しないし、有事においてあらゆる想定が起こり得るのは常である。そこに人命が加わると、無関係ではいられない。

主要各国の衛生局に障害が生じる場合はあるし、連邦政府より発信する放送にもゴーストが生じたり色がつかなかったりする状態にだってなり得る。何が起こるか分からないから、災害なのである。


リヴィエラ・ポルトフィーノという女性は決して、無責任な人間ではない。自分の商売にも命をかけられる、立派な女の人だ。だからこそ軽はずみに言い切れない。


「議長」

「リョウスケ氏」

「リョウスケ様……?」


 彼女が返答する前に、俺は手を上げて立ち上がった。彼女に言わせるべきではない。

災害なんていつ起こるか分からないし、怒ったところでどうすればいいのかなんてその場に居なければ絶対に分からない。どこまでいっても、水掛け論だ。


だったら、この場に居ない人間――この世界の人間ではないものが、断言すればいい。


「カレドウルフ・テクニクス社長である私が、明言しましょう。テレビジョン放送ならば災害時においても正しく機能します。
連邦政府並びに周辺各国の皆様のご助力があれば、クリアな通信を贈りまして災害情報を素早く伝達することが可能です。

デジタル放送を持ってすれば情報の伝達は行えて、災害に苦しむ人々に安心の声を送り届けられます」


 彼女を決して責任の矢面に立たせず、あくまで俺が宣言した。だって災害が起きた時、俺がこの世界にいるかどうかも分からないしな。

無責任に逃げるということではない、俺が逃げれば結局彼女に責任論が向けられる。そうではなくて、誰が最初に責任を取ることを明言するのか、これが重要だ。

そもそも人命が失われた原因は、あくまで災害だ。災害が起きたせいで、人命が失われたのである。責任を押し付けられるのは、自然現象に責任を追求できないからだ。


理不尽なのは誰だって分かっている。けれど被害者はどうしたって、誰かに責任を押し付けたい――そんな声に怯えていては、何もできなくなってしまう。


「テレビジョン放送は災害時において、被災地に情報を伝える重要な役割を担っています。
例えば大規模な地震や豪雨、火災等の災害時においても、通信事業者である我々が中継局の被災により放送を継続できないときなどに活用できるよう、邁進してまいりましょう。

そうですね……例えば地上テレビジョン放送用可搬型、送信設備の貸出制度を設けるというのはいかがでしょうか」

「なるほど、利益にばかり追求せず問題に向けても事を構えていらっしゃるのですね。感服致しました」

「私は単なる責任者です。リヴィエラ様という頼もしいパートナーが居るからこそ、社長の椅子にふんぞり返っていられます」

「リョウスケ様、少しは働いてくださいね」


 ――笑いが起きた。よし、議長の目が怖いけど責任論についてはどうにかなったか。


結局の所一つ一つ問題点を片付けて、災害の目を潰していけばいい。この場にいる賢人たち、そしてリヴィエラ・ポルトフィーノという商人が入れば可能だ。

大切なのは、最初の責任を誰が取るかという事。政治家や商人にとって責任は重く、時には足を止めてしまう重石となってしまう。

だからこそ、身軽な俺に全部押し付ければいい。責任を俺に全部押し付けて、問題は彼らが解決すればどんな問題だって解決できるはずだ。


俺は世界中から文句を言われたって、何とも思わない。誰が死のうと知ったことではない、優しさの欠片もない人間だからな。


「父上のふてぶてしさは、時に頼もしく思えます。褒めてますからね」

「本当かよ、おい」


 こうして幾つかの山場を超えて、二日目の議会は終了した。

順調に事を進められているように見えるが――


肝心の問題は、三日目にあった。













<続く>








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