とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第六十二話
「私からこう申し上げましょう――知ったことではないと」
「なっ――!?」
ポルポ代議員の私情はともかくとして、反対討論で述べている内容そのものは理解できる。自分の意見か、参謀たちが考えたことなのか、定かではないが。
リヴィエラ・ポルトフィーノ商会長の話ではこの星域の通信事業は停滞の一途を辿っており、事業規模としては縮小状態にあるのは間違いないらしい。
俺自身も通信技術は詳しくないのだが、地球でも携帯電話やインターネットを始めとした革新的な技術発展が行われたのは近年だ。契機というのは、ある日突然訪れるものらしい。
通信業界自体が既に頭打ちとなっており、今は安定性が求められているという話はよく分かる。
「勘違いしないで頂きたい。我々商人はお客様が望むものを作るのではない。お客様が望まれるものを創ることが、仕事なのだ」
客が想像できる品を作り出すだけでは、リピートが出来るはずがない。夢を見るような商品を創るには、客の想像を超える品を生み出す必要があるのだ。
だからこそ全企業、あらゆる商人が日夜頭を抱えて企画や影響を死物狂いで行うのである。血の滲むような思いをして、客が驚くような商品を生み出していく。
言っておくが、客の声をないがしろにするという意味ではない。客の声を聞くのは確かに大事だが、客の声に振り回されてはいけないという事だ。
そういう意味で言ったのだが、ポルポ代議員が全くその通りに受け取らなかった。
「ふん、本性を見せたな。リヴィエラよ、この男の今の言葉を聞いたか。
こいつは常に顧客を重んじるお前とは違い、利益を第一とする守銭奴でしかないという事だ」
「利益を第一とするのは当然じゃないですか。私は一切恥じ入ったりはしません、堂々と言いのけましょうとも。
ここにいる方々――主要各国の代表者である皆様が驚くような技術を提供するべく、私はリヴィエラ様と共にこの場へ馳せ参じた。
いちいち通信の安定性になど悩まされない新しい技術を、提供いたしましょう」
リヴィエラ・ポルトフィーノの前で堂々と、胸を張る――世界中のあらゆる批判や非難が、全て自分に向けられるように。
今の宣言は良くも悪くも世界中に届くだろう、それでいい。汚れ仕事は、この世界の住民ではない自分に出来る最大の仕事だ。
俺はこの世界の人間ではない。誰に嫌われようと何を言われようと、知ったことではない。地球に帰れば異星の誰が吠えようが絶対に届かないのだからな、ふはははは。
そして何よりも、この宣言はいずれ必ず世界に発信しなければならないことだ。今後経済界のトップに立つリヴィエラに言わせてはならない。
「開き直るつもりか、見苦しい。議長、議会の声を蔑ろにするこの男は即刻退席させるべきだ」
「ポルポ代議員、私情を交えての提案は――」
「構いません、議長。採決をお取りください」
ポルポ代議員の独断で退席はさせられないが、彼の提案を議長が承諾して議員達が賛成の票を入れれば俺を議会から追放できる。
本来であれば即座に承諾できない提案を俺が受け入れて、ポルポ代議員が愉悦の笑みを浮かべる。俺を議会から追放できれば、リヴィエラは自分を頼るしかないと高を括っているのだろう。
自分本意な目算はともかくとして、主要各国の代表者達が賛成を上げれば俺は追放させられる。俺はそのリスクを承知の上で、採決を受け入れた。
電波法の可決に向けて、通信技術の是非はいずれ必ず問わなければならない。議会二日目で早い時期となったが、訪れた機会を生かせないようでは商売なんて出来ない。
「議長、そして議員の皆様にも敢えてもう一度申し上げましょう。私は客が望むものではなく、客に望まれるものを創り出す。
通信の安定性を求めることが悪いことだとは申しません。だが、今の通信事業をこのまま安定化に向かわせるのは絶対に反対です。たとえ、民が望んでいることであろうとも。
改革を行うのは、今しかない。この時代に生きている者、すなわちこの議会に参席されている皆様が行うべき事であると私は考えます。
全てを先送りにして、我々の後に続く者達に問題を押し付けるのはもう止めましょう。受け継ぐべきは課題ではなく、結果だ」
通信事業の停滞は問題の先送りとまで言い切ると、リヴィエラはおろか主要各国の代表者達までもが苦い顔を浮かべた。人の上に立つものが、絶対に言ってはならない暴言である。
実際、このまま通信技術を安定化させていくこと自体は不可能ではない。ゆるやかであれど技術を促進していけば、いずれ不安定な今をおさめることは出来るだろう。
しかし、絶対に革命なんて起こせない。テレビジョンの開設は俺達がいるこの時代にしか出来ないし、俺のような何処ぞと知れぬ不逞の輩に投資してくれるリヴィエラがいなければ成り立たない。
そして俺はこうも思っている。主要各国の代表者――この賢人たちであれば、議論は尽くせるのだと。
「では、採決を取ります。問題発言を行ったとの理由でリョウスケ氏の退席を望む方は、挙手を」
議員達からの採択――反対多数、賛成少数。
主要各国からの賛成は、二票。
「どうせ反対が多いだろうから、俺は敢えて賛成を入れておく。
お前はどうも革新的すぎる。俺自身はお前のような奴は嫌いじゃないが、注意した方がいいぜ」
「私も賛成にしておくわ。貴方のやり方は否が応でも大勢の人間を巻き込んでしまうもの。
どう転んでもこれから苦労させられるのは目に見えているから、今の内に抗議させてもらおうかしら」
フォーマルスーツに身を包んだ男性セーブルと、黒衣に身を包んだ女性プロドゥアからの提言に苦笑いを浮かべた。この採択で敢えて賛成を入れたという彼らの采配に感心させられる。
俺の意見は聞き入れてくれたが、全てにおいて肯定したのではないという彼らなりの姿勢。イエスマンでないのだという彼らの賢き政治ぶりに、気が引き締まる思いがした。
彼らの言い分に、緊張感のある議会に笑いが生じて緩和される。危ない橋を渡ってしまったが、何とか通信技術の革新へと進められたことになる。
これぐらいしなければならなかったとはいえ、やはり緊張はするものだ。
「リョウスケ様。もし議員に立候補されるのであれば、私が全面的に支援させていただきますわ」
「御冗談を。私は生来保身的な男ですよ」
「ふふふ、それこそ御冗談ですわ。リョウスケ様の刺激的な考え方と価値観は、商人である私からすれば魅力的ですもの」
――いざとなれば地球に逃げればいいと思っているだけなんですけどね。
実に無責任なことを考えるとは思っていないんだろうな、この美人商会長さんは。
いずれにせよ、テレビジョン解説に向けて着実な前進が行えた。
<続く>
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