とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第六十話
世界政府の立法府は上院及び下院からなる二院制議会であり、この議事堂は世界都市の中心に所在する。
議席配分が主要各国の人口や面積などに関係なく一律2名で構成されているのは以前話した通りだが、議員自体は各国より直接選出されている。
主要各国の代表が集まって開かれる議会は世界会議とも称されており、デモ活動が盛んになる議会期は非常に大きな関心が寄せられている。
メディアなどが現職議員の在任中の行動をチェックして評論するため、議員としてもそれを意識して個々の行動が決定されるらしい。政治家というのも大変だ。
「おはようございます、リョウスケ様。昨晩はお忙しい中、我が家へお越し頂きありがとうございました」
「楽しい晩餐会でした。こちらこそ有意義なお時間をご提供頂けて、良い思い出となりました」
「父や母もリョウスケ様の事を気に入って頂けたようで、紹介した私も鼻が高かったです」
見惚れるような微笑みを浮かべて、連邦政府の高名な貴族の御令嬢が隣席に腰掛ける。こちらとしては交渉でもしているような気分だったのだが、一応の成果は出せたようだ。
貴族といっても英国貴族のヴァイオラなどとは違って、文化や文明が異なると話題としても異なってくる。政治や経済ばかりにかまけていてはいけないが、さりとて自己PRで退屈させてはいけない。
話題を選んで会談するのは美味しい食事でなければ難しかったのだが、もてなされていたのは事実で晩餐会としては充実した時間を過ごすことは出来た。
礼節作法が異星においてもあまり違いがなかったのは、せめてもの救いだった。ビックリするような非常識な風習などがあったらどうしたものかと思っていたからな。
「リヴィエラの家に招待されていただと!?」
「これはお疲れさまです、ポルポ代議員」
挨拶もなしでいきなり怒鳴り込んできた代議員に対して、丁寧に挨拶するリヴィエラ・ポルトフィーノの度胸がすごい。社交辞令を欠かさない肝っ玉に感心させられる。
ここは連邦議会議事堂。昨日も思ったが、少しは状況をわきまえて話しかけてほしい。せめて表面上でも社交的に応対してくれればこちらも礼儀を欠かさないというのに。
俺の呆れた心境は一切考慮されず、朝から突っかかってくる。
「まさかこのような男を実家に土足で踏み入れさせたのではあるまいな」
「そのような無礼千万はいたしませんわ。今後長きに渡って共に歩むパートナーを、紹介させて頂いた次第です」
「な、何だと……」
天狗も真っ青な恐ろしげな形相を浮かべて、俺を憎々しげに睨みつける。いやいや、常識的に考えて当然だろうに。
可愛い娘が突然テレビジョン開設を世界に顕現して、連邦議会が電波法制定で論戦している最中なのだ。渦中にいる娘の隣りにいる男が誰なのか、両親は怪しむのは無理もない。
彼女は礼儀として商売相手を紹介しただけで、責められる謂れはない。
学生じゃあるまいし、何でもかんでも色恋沙汰に結びつけるのはどうかしている。
「何処ぞと知れぬ不逞の輩と睨んでいたが、よもやここまで非常識な男だったとはな」
「何ですか、藪から棒に」
「リヴィエラはあくまで社交辞令として、貴様を招いただけだ。ここぞとばかりに受け入れて、図々しく足を運んでどうする」
なるほど、サラリーマンの飲み会と一緒か。とりあえず誘ったというだけで、まさか本気で来るとは思わなかったという勘違い男だといいたいのか。
御相手が単なる一企業の社長などであればありえたかも知れないが、リヴィエラ・ポルトフィーノは高名な貴族の御令嬢である。社交辞令で実家に招く筈がないだろうが。
もうこうなったら俺には地球に婚約者がいることを、言ってやろうか。愛人とか名乗る女共までいるんだぞと言えば、こいつだって分かってくれるだろう。
リヴィエラ・ポルトフィーノは素敵な女性だとは思うが、恋愛感情なんぞ微塵もないと。
「ポルポ代議員がご心配されるような事は何もございませんよ」
「俺はお前の非常識を問うているのだ。心配しているのはあくまでもリヴィエラに過ぎん」
「でしたら、尚の事ご心配には及びません。私には大切な人がいます、彼女に誓って裏切りなど働くことはございませんとも」
――連邦議会議事堂が、静まり返った。えっ、そんなに意外だったのか。
ポルポ代議員がワナワナと青ざめて震えている一方で、隣りにいるリヴィエラは頬を赤らめてうつむいている。
うっ、もしかして色恋沙汰は議会内ではご法度だったのか。やばい、愛人だの婚約者だの色々うるさい女共のせいで俺も常識が麻痺していたのかもしれない。
補足しなければ、絶対誤解されてしまう。慌てて俺は付け加えた。
「言葉が足りず、失礼いたしました。あくまでも私と彼女は清く正しい交際を行っておりまして、政治的及び経済的な意図は一切ございません」
「な、なんだと……!? ふざけるな、玉の輿でも狙って付け入ろうという魂胆なのだろうが!?」
いやいやいや、ヴァイオラはあいつやあいつの実家から婚約を申し入れてきたのであって、俺から直接狙ったわけじゃないぞ。
日本人女性ならともかく、英国貴族の娘なんぞスケールが違いすぎて俺のような庶民が狙われる女じゃないんだ。どうして関係を持てたのか、未だによく分からんし。
この場ではCW社の社長としての立場で参席しているのだが、ひょっとして貴族とは釣り合わないとでも思われているのだろうか。
……ま、まあ確かに全然釣り合っていないのだけれど、せめて婚約者の名誉は守らなければならない。
「玉の輿と今おっしゃいましたが、私が何を狙っていると言われているのですか」
「ふざけるな、相手は貴様など及びもつかない女だ。財産や人脈、階級など腐るほど持っているだろう」
「そのようなもの、彼女自身の価値とは程遠いと思われますが」
一刀両断に切り捨てると、ポルポ代議員は顔を赤くしたり青くしたりと口をパクパクさせている。何なんだ、一体。
確かに財産や人脈には価値があるだろうが、それを作り出しているのはあくまで本人であり、本人が生まれた家そのものである。
結婚すれば確かに手に入るのかも知れないが、所詮は他人から奪ったものだ。達成感などないだろうし、得られたところであぶく銭になるだけだ。
アリサは労働の大切さを日々俺に説いている。人間になりたければ、人に見合う労働価値を高めるべきであると。
「――そいつの言う通りだぜ、ポルポ代議員さんよ」
「くっ、セーブル・マーキュリー……」
「ここは議会です。言い争いではなく、論戦で主張するべきではないかと」
ラーダ国の代表イグゾラ・プロトン氏と、クライスラー国の代表セーブル・マーキュリー氏。
フォーマルスーツに身を包んだ男性セーブルに諌められて、ポルポ代議員は屈辱に拳を震わせるが反論はしなかった。
静まり返ったところへ、イグゾラからの提言。俺を憎々しげに睨みつけた後、ポルポ代議員は踵を返して自分の議席に座った。ふう、やれやれだ。
お二人に返礼を向けると、両者共に苦笑いを浮かべて手を振ってくれた。災難だったな、と言わんばかりだ。意外と気さくな人達で良かった。
「……あの、リョウスケ様」
「リヴィエラ様、申し訳ありません。このような場で騒ぎ立て、ご迷惑をおかけいたしました」
「いえ、その……リョウスケ様のお気持ち、本当に嬉しかったです。ありがとうございました」
別に礼を言われるほどではない。女性の尊厳を守るのが男の義務、なんぞとカッコつけるつもりはないが、女に見苦しいと思われるのも嫌だからな。
騒ぎになってしまったが、自分に大切な女性がいると公言できたのは後々を考えればよかったかもしれない。女性関係で悩むなんて嫌すぎる。
今は惑星エルトリアの主権をかけて戦う、大事な一戦だ。これで一つ、大きな問題が解決したと考えればこの対決も悪い結果ではない。
「真実しか言っていないのに、誤解されてしまう。恐るべき人ですね、父上」
「何いってんだ、お前」
<続く>
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