とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第五十九話




 連符政府議会は議員の任期に合わせて、1つの議会期として開催されている。この時期は主要各国のVIP達も集うので、世界都市は賑わいを見せる。

議員総会各党にはコーカスと呼ばれる両院ごとの議員総会があり、院内の党役員や各委員長の選出手続の際に開催されるようだ。地方組織が惑星別に開催する党員集会もこの時期であるらしい。

日本のような露骨な派閥政治ではなく、指導部が議案への賛否を決定すれば会派所属議員が唯々諾々と従うものではない。そういった意味では、論戦の中身が大きな決め手となり得る。


法案審議の過程では、常に多数派工作のための取引が行われるということだ。


「此度の案件ではリヴィエラ様が主導して、各派閥勢力を取り込むべく日夜奔走されておられます」

「実に精力的な方でいらっしゃいますね」

「私の口からこのような申し出を行うのは憚られますが、リヴィエラ様はリョウスケ様を信頼されて行動に出られています。
多数派工作は商会の方で行ってまいりますので、リョウスケ様には是非とも主要各国代表者の方々をご説得される事をお願い申し上げます」

「ミラココアさんがリヴィエラ様を大切に思われるお気持ちは、よく分かります。昨日、ご両親にもお会いし、リヴィエラ様の素晴らしさをお聞きいたしました。
何処まで期待に添えられるか分かりませんが、尽力を注ぐことは誓いましょう」


 先日はポルトフィーノ家に招待されて会食と団欒、その翌日にはリヴィエラ・ポルトフィーノは多数派工作のための取引に出向いている。俺はミラココアさんの運転で、直接連邦議事堂に向かっていた。

工作といっても薄汚い取引などではなく、商会の人脈やコネを最大限使用した交渉である。商売に近いもので、商会長自ら出向いて有力者達と関係を作っている。

協力者である俺も力になれればいいのだが、俺は議会での論争に全力を尽くしてほしいとの事だった。商会を築き上げた彼女の方がプロなので、商売については任せた方がいいのかもしれない。


……もっとも俺は政治に向いているのかと言われれば全然なのだが、なぜかそっちの方面には厚い期待が寄せられている。


「? 議事堂の前が何やら騒がしいですね」

「デモ活動ですね。議会期には特に盛んです」


 デモとはデモンストレーションの略称であり、特定の意思や主張を持った人が集まって主義主張を示す行為である。

ミラココアさんに聞いた話だと、デモ活動はあくまで行進やストライキなどで示している、暴力的な行為には及ぶことは少ないようだ。

集会や行進では一般道を占有することになり、当然だが政府に許可を受けたものでなければ取締りの対象となる。条例で定められているため、デモを行う場合は事前の確認と申請は必須であるらしい。


政府への主張なのに、政府からの許可を得て活動するというのも変な話だ。法律上は全くもって正しいのだが、理屈を考えると妙な気がする。


「世界政府への不満が生じているということですか」

「あくまで私見で恐縮ですが、むしろ逆ですね。連邦政府へデモ活動を通じて申し立てる、平和である証拠ではないかと」

「なるほど、平和であるがゆえの不平不満ということですか」


 デモは情勢などの変化や、政策への反対など様々な考えや思想のもとで行われる。政府へ許可を得て活動を行えるというのであれば、ガス抜き程度にしかなっていない。

後でアリサから聞いた話だが、日本でも許可の範囲内でデモを行うことは認められているらしい。国会前で騒ぎ立てているのも、一応許可をもらっているということか。

暴徒鎮圧騒ぎになっていないだけでも、統治下に置かれている事がよく分かる。議会期に集まっているということは、注目を集めたい証だろう。


ある種、目立ちたがりな面もあるという訳だ。デモ活動なんて目立ってこそではあるかもしれないが。


「ちなみにどういった運動がされているのですか」

「電波法の制定阻止運動などもございますよ」

「ええっ!?」


 世界中に注目が集まっているからと言って、賛同ばかりではないのかとミラココアさんは説明する。

驚きの事実なのだがそれはあくまで俺個人であって、リヴィエラやシュテル達からすれば予想通りの反応であるらしい。うちの頭脳陣は現実を見据えすぎていて怖い。

何でもテレビジョンなるものが得体が知れず、プライベートまで暴き立てられると恐れ半分に騒ぎ立てられているらしい。マスメディアに特権を与えるなと言う趣旨だ。


馬鹿馬鹿しいと笑えない。何しろ地球、特に日本ではマスメディアの偏向ぶりが問題にもなっているのだから。


「電波法の内容は詳しく明かされていませんが、テレビジョンは今紹介を通じて派手に宣伝されています。
マスメディアが発表した内容に対する反発などから、こうした反対運動が展開されているということです」

「社会情勢とともに変貌する大衆ということですか」

「労働運動ともいえますね。
テレビジョンの開設は世界情勢に間違いなく影響を与えますので、単純な反対ではなくどこぞに雇われた者達が集まっているでしょうから」

「むむ……これもまた多数派工作の一つなのですか」


 電波法の制定やテレビジョンの開設をめぐり、地域住民などが反運動の集会を行い、それによって連帯する集会やデモが実施されているという流れである。

組織的な運動が展開されており、幅広い世代の国民のソーシャル・ネットワーキング・サービスを通じた呼び掛けで集まり、盛り上がりを見せているという事だ。

デモを主催しているグルー プは当然あるだろうが、個人によるネットワーク組織も広がって抗議行動を行っているらしい。何とも元気な人達である。


これが世論の全てだと思われても困るのだが、だからといって阻止することも出来ない。


「中止するように手を回したりはしないのですか」

「迂闊に手を出すと情報統制や暴徒鎮圧の誤解を招き、それによって騒ぎ立てられますからね。
刺激を与えないように、こうしてデモ活動としてガス抜きさせることが一番だと様子見られています」

「何処で誰が見ているか、分からないですもんね」


「ゆえにこそ、先程お願いした通りなのです」

「と、いいますと?」

「世界で注目されている議会の場で、リョウスケ様が主要各国の代表者様達を論破されれば、民からの理解が得られるのではリヴィエラ様はお考えです。
ポルトフィーノ様方も昨晩リョウスケ様とお話し、陣頭で指揮されておられるリヴィエラ様を世間の目から守って下さると信頼されているご様子。

特に議事堂では手出しも出来ないので、恐れながら私も貴方様にお願いする次第です」


 そういう意味で、昨日ご両親とご挨拶させたのか!? リヴィエラの意向だけではなく、両親もでも活動などの反対派から大事な娘を託せるかどうか試していたらしい。

道理で昨日、妙に俺の考えを伺っていた訳だ。あれは今後の商売に関する確認ではなく、俺個人がどのような思想を持っているのかチェックしていたのだ。

だとしたら、こいつらは誤解している。俺が変な思想に染まっていないのは俺本人が確たる信念を持っているからではなく、単に異星から来たので常識にとらわれていないだけだ。


平和な日本で生まれ育ったからこその土壌なだけであって、強い理念に動かされているのではない。大人に見えているのであれば、大いなる勘違いである。


「本日の議会では間違いなく、デモ活動などによる世論の反対を指摘されるでしょう。リョウスケ様のご立派な考え方を是非議会の場で披露なさってください。
外野からではございますが、私も見守ってまいります」

(……ということはまた、俺が議会の場に立たされるのか)


 美人メイドさんからの期待に満ちた目を向けられて、俺は顔を引きつらせながらどうにか笑って頷くしかなかった。

でも活動などで世論が反対しているぞ、と言われたら俺がどうやって反論すればいいのだろうか。


逃げ出したい俺の意志から無関係に、高級車は無情にも議事堂へと一直線に向かっていた。














<続く>








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