とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第五十五話




 俺への質疑が一旦終了し、その後専門家や商人であるリヴィエラ商会長への質疑応答が行われた。俺はようやく人心地がついて席へと戻る。

主要各国より選出された大物議員ではなく、電波法の審議を行うべく、いわゆる技術的な問い合わせが行われた形だ。

専門家と一口で言いのけたが、選出されたのは全員ポルトフィーノ商会の息がかかった者達ばかりである。テレビジョン開設の発表は先日行われたばかりなのに、何処から集めたのやら。


どちらかといえば、俺はこっちでやり取りしたかった。専門的な会話なら知識を蓄えばいけるが、大物議員達との質疑は心理戦も交えるので頭が痛くなる。


「無線設備の工事費及び無線局の運用費について、具体的に支弁して頂きたい」

「リヴィエラ商会長」

「こちらのパネルをご覧ください。事業計画及び事業収支について見積いたしまして――」


「父上、あちらの事業収支は私が算出したのですよ」

「お前が俺の代わりに発言の場に立ってくれよ……」


 秘書席で自信満々に自己アピールする我が娘に、俺は溜息を吐いて質疑の場を見守る。議員達がかなり強く追求を繰り返しているが、リヴィエラ商会長は余裕を持って受け答えしている。

計算はかなり具体的かつ精密であり、追及の手は当然の如く厳しくなるのだが、リヴィエラ商会長はまるで脳内に電卓でもあるかのように詳細な数字を提示している。

素人である俺が聞いても頷いてしまうほどの説得力があり、シュテルの計算が如何に正しいかどうかを示している。あんな気の狂った数字の羅列をよく間違えもせず計算できるものだ。


予算関連ともなると議員達の独壇場となるはずなのだが、誰が見てもリヴィエラ商会長が優勢に事を推し進めている。


「電波法の規定に工事設計が第三章に定める技術基準に適合する事とありますが、周波数の割当てなど実際に可能なのでしょうか」

「総務省令で定める無線局の開設の根本的基準に合致するものであると規定すれば、十分な割当が見込めると期待しております」

「貴女の商会が示す技術基準は高く、総務省令で定めるには時間を要します。制定される前にテレビジョンの開設を宣言したのは総計ではありませんか!?」

「基幹放送用周波数使用計画書を先日、議会に提出させていただきました。
基幹放送局に使用させることのできる周波数及びその周波数の使用に関し必要な事項を定める計画が示されており、先日行われた連邦政府研究所からも良い返事を頂いております。

議長。当該業務を維持するに足りる経理的基礎及び技術的能力について、先日政府より頂けた回答をお伝えしてもよろしいでしょうか」

「……委員会にて審議いたします。この際、休憩いたします」

「ありがとうございます、よろしくお願いいたしますわ」


 うわ、エゲツねえ……自分で敢えて言わず、議会の最高責任者である議長に証果を行わせようとしていやがる。リヴィエラ商会長の麗しい微笑みに、むしろ寒気すら感じられた。

結論なんてすでに出ている。そもそも実験が成功したのだから、主要各国の大物議員達が全員集まっているのだ。委員会で審議するなんて言っているが、回答はYES以外ありえない。

それでも即答できないのは、リヴィエラ商会長は議員ではないからだ。貴族ではあるが商会の長である彼女は、立場上民間人である。電波法の制定を行うこの場で、彼女が独断で事を進められない。


とはいえ、この場を支配しているのは誰がどう見てもリヴィエラ・ポルトフィーノである。どういう生き方をすれば、十代の女が連邦政府委員会を支配できるのか。


「リヴィエラ、見事な質疑だったぞ」

「お褒めに預かり恐悦至極ですわ、ポルポ代議員」

「名前で呼んでくれていいと再三言っているのだが……まあいい。久しぶりの再会だ、茶でも飲もうではないか」


 休憩となって各々が席を立つ中で、颯爽と代議員であるポルポ坊っちゃんが馴れ馴れしくリヴィエラに声をかけている。甘いマスクは天下一品であった。

委員会の場で女にコナをかけるのはあまり良い印象を与えないが、周囲を見る限り誰も気にかける様子がない。ポルポ本人が大物なのもあるが、彼自身の態度は今に限った話ではないのだろう。

リヴィエラほどの才色兼備な女性であれば、口説きたくなる気持ちは分からないでもない。あいにく俺はシュテル達自分の家族がいるので一ミリも心が動かないが、まあ一応俺も男だからな。


リヴィエラ本人がポルポをどう思っているか今までの態度と所業を思えば分かりきっているが、自信過剰な男に気付けと言うのも無理な話かもしれない。


「お誘い頂けて恐悦至極ですが、電波法の制定に向けて打ち合わせが必要でして、またの機会とさせてください」

「ふん、そのような雑事はその男にでも任せればいいではないか」


 好意的な態度で拒否された男は表面上の言葉だけ受け取って、俺を上から見下ろす。こいつはほんと、何かと俺に因縁をつけてくるな。

よほどリヴィエラのパートナーとなっていることが、気に入らないらしい。相手は商人なのだから、商売を通じて親しくなればいいのに、なぜ権力で物を言わそうとするのか。

一応言っておくと権力や財力を否定する気はない。放浪していた頃の自分も嫌悪こそしていたが、あの時は金も力も持っていなかったからこそ余計に忌避していたに過ぎない。


今では権力や財力が世界をどれほど動かせるのか、この世界に縁が出来たからこそ思い知っている。竹刀を振り回してどうにか出来るものではないことも。


「先程の質疑をお聞きして下さったポルポ代議員であれば、電波法の重要性は十分理解してくださっている筈です。万事を持って成し遂げる必要がある事も」

「も、勿論分かっている。だからこそこの程度の男に任せず、俺と手を組めばいい。俺をお前のパートナーとして味方にすれば、お前の望みは叶うのだぞ」

「ポルポ代議員が味方になって下さるのであれば、大変ありがたいです。勿論、電波法の採決には賛成の票を入れて下さるのですよね」

「い、いや、それは――」


 ほれみろ、詰め将棋になっているじゃないか。なぜ電波法の制定に乗り込んできた女に対して、立場をあやふやにしたまま接近してきたのか。

目当ての女を口説くべく全面協力する意欲を見せれば女心を少しは動かせるかもしれないのに、自身の保身を考えて立ち尽くしてしまっていた。

当然である。今後の審議でリヴィエラの立場が危うくなれば、泥船に乗ってしまうことになってしまう。現状優位ではあるが、連邦政府自体はあくまでも慎重な姿勢を崩していない。


議員としての立場を守るのであれば、日和見が最善であることは言うまでもない――ゆえに動けなくなる。


「それでは失礼いたします。リョウスケ様、シュテルさん、参りましょう」

「はい」

「あ、ああ……」


 リヴィエラと隣だって歩み去る俺を恨めしげな眼差しで睨みつける、ポルポ代議員。俺は何もしていないのに、あくまで惚れた女には何も言わないらしい。ある意味で大した男である。

連邦政府議会には休憩室もあるが、議員達がいる可能性が高いので、民間施設にあるカフェへ移動する。議院内はマスメディアの目もないので、落ち着いて話をするのは向いている。

議会の場ではないので、メイドのミラココアさんも合流して席に座った。紅茶のカップが並べられて、ようやく一息がつけた。


とはいえシュテルやリヴィエラも露骨に態度を崩さず、優雅にカップを傾けている。


「リヴィエラ商会長も厄介な男に目をつけられていますね」

「おい、失礼だぞ」

「ふふふ、かまいませんわ。シュテルさんとは先日お友達になったのです」


 友だちが増えましたとピースサインする天才バカ娘に、頭を抱える。頭が良い者同士気が合うのかもしれないが、天才ならではの奇人だということを理解してもらいたい。

リヴィエラ・ポルトフィーノが自分の娘の友人となってくれたのは、親としては有り難く思っている。品性高潔な彼女であれば、裏表なくシュテルと接してくれるだろう。

ただ同時に、この異星で痕跡を残していくのはどうかとも考えている。今頑張っているのはあくまでエルトリアの主権を確立するためであって、この世界で息づくつもりはないからだ。


ただ、そこまで考えてふと思う。


(――俺は、あの町に帰りたいのだろうか)


 一応言っておくと、今更海鳴を拒絶しているのではない。あの町に流れ着いたのは、俺にとって人生で最大の幸運だっただろう。

紆余曲折あったが俺はこうして生きているし、仲間や家族も出来た。それが良いことか悪いことかは今でも考えてしまうが、少なくとも幸運だったことには違いない。

もしも海鳴にたどり着かなければ、今も一人で孤独に旅をしていただろう。明日食うのにも困り、ゴミを漁って薄汚れて生きる。今更そんな日々に戻りたいとは思わない。


だが同時に、旅を懐かしく思うのも事実。自分が何処へ行きたいのか――何処まで行きたいのか、思いを馳せてしまう。


「ポルポ代議員にはある意味で感謝はしているのです」

「感謝、ですか……?」

「はい、あの方が無理を仰ってエルトリアへあの時参らなければ――こうしてリョウスケ様とご縁になることもなかったかもしれません。
トラブルもございましたが、リョウスケ様やシュテルさんと良縁が出来て感謝したくもあります。

やはり商売というのは看板の前で胸を張るばかりではなく、自分の足で稼がなければなりませんね」

「――私との縁、ですか……ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです」


 家族や仲間が出来て腰を下ろす自分について思いを馳せていた矢先、異星人のリヴィエラがこうして感謝を告げていてくれる。

別に俺の心情を察しての言葉ではなかったのだろうが、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。

そうだな、別に一人で旅なんてしなくなって、俺は自分の人生を歩んでいる。立ち止まったまま、停滞なんてしていないのだ。


他人との出会いがある限り、この道は続いていく――


「そうだ、リョウスケ様。今晩ですが」

「はい?」


「是非、我が家へお越しいただけませんか。両親に紹介させていただきたいのです」


 ――前言撤回。

やはり一人で気ままに旅をしていたい、実に強くそう思う。














<続く>








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