とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第五十二話




「御異議なしと認めます。よって、会期は五日間と決定いたしました」


 主要各国の代表者達が揃って賛同してくれたおかげで、短期決戦で事が済んだのは不幸中の幸いである。とはいえ、危険な橋は渡らなければならない。

電波法の可決とテレビジョンの設立を連邦政府に認められなければ強制退去命令を崩すのが難しくなり、エルトリアの開拓は不可能となってしまう。

自治権は破棄していないのだが、人の住める環境ではないと烙印を押されてしまっているのだ。ここを覆すのには、相当な苦難が待っている。


そもそもの話、生存不能だった環境を改善できつつあるのはユーリとイリス達のおかげなのだ。人智の及ばぬ領域だと言われたらその通りなので、頭が痛い。


「当議案においては同条例一項ただし書の規定により、議長において各国より各議員を議会運営委員に指名いたしました。
以上、同条例第八条第四項の規定により御報告いたします」


(? 各国がそれぞれ自薦なりして選出されるのではないのか)

(各国より選出された方々を、連邦政府が議員として指名する流れですね)


 俺の素直な疑問に、シュテルが正しく回答してくれる。なるほど、あくまでも連邦政府が主体となって議事を執り行う体裁が必要なのか。

主要各国の代表が手を挙げて議事堂に乗り込んでくるような事態になると、独立性が高くなってしまう。各国の勢力争いとなって、発言力も日々代わってしまう。

代表を選出するのはあくまで主要各国それぞれだが、選出された人間を指名する権利は連邦政府が保有しているということだ。


だからこその連邦政府、世界都市のあるこの主星こそが世界の中心なのである。


「日程第一第三十号議案 緊急事案として提示された電波法の件を議題といたします。
当議案につきまして本日、ポルトフィーノ商会よりリヴィエラ・ポルトフィーノ商会長の参席をお願いしております。

あわせて商会長より電波法に係る対応につきまして発言の申出がありますので、この際これを許可いたします」


 本日の主題が今ここに提示された。緊急事案として連邦政府が提示する意味は非常に大きい。連邦議事堂に貴族であれど、一商会の長が招かれる異常性に世間が注目している。

指名された本人は悠然として立ち上がり、発言の場に姿を見せる。今この場にいる者達は世界を運営する重鎮達であるにも関わらず、彼女の振る舞いは洗練されていて美しかった。

夜の一族の世界会議では我を張ろうとして、虚勢で威嚇していた自分とは大違いである。負けられない戦いだからと、牙を剥き出しにしていたあの頃の自分は野良犬だったであろう。


先程まで不機嫌だったポルポ代議員も、リヴィエラ・ポルトフィーノを見るなり上機嫌で彼女の関心をひくべく微笑みを向けている。


「議案の説明に先立ち、この場をお借りして一言申し上げます。

先日のテレビジョン設立に関する発表と、こちらにいらっしゃるカレドウルフ社長様のご挨拶及びご説明については全て真実であります。
国民の方々のみならず、事業者の皆様の御協力を得て着実に進めておりまして、依然としてマスメディアからの関心も高い状態が続いています。

このような状況において連邦政府の皆様に説明する義務があると判断をいたしまして、共感と理解を得るべく本日この名に参席させて頂きました」


 手続き論を無視したのではないのだと、リヴィエラ・ポルトフィーノは艷やかに微笑む。主要各国の代表者達を相手に物怖じしないこの胆力は見習いたいものだ。

反対の声も多く出ていると事前調査で判明しているはずなのに、全員の理解と共感を得られるのだという自信。商会を一から一人で起ち上げた才女たる所以だろう。

ポルポ代議員は場違いに拍手なんてしており、リヴィエラも健やかに応えている。俺もあの調子で味方を増やしたいものだが、いつも敵対してしまうんだよな。


コミュニケーション能力なんぞ俺には無用だと高を括っていたのだが、人付き合いを広げていくのであれば磨いていなければならないのだろうか。まず剣を練習したいのだが、無縁になってしまいそうで怖い。


「一方でテレビジョンという画期的なシステムを前に混乱が出ているのも承知しており、波乱の波を確実に抑え込んでいくべく、この期間における議論が極めて重要であると承知しています。
新たな通信技術による革命を皆様と共有して、人と人との情報交流を高め、流通を拡大する大いなる機会として、安定した体制を築き上げなければなりません。

議員並びに国民、事業者の皆様には、これまでにわたる御協力に改めて感謝を申し上げますとともに、引き続き御負担をおかけすることに御理解と御協力をよろしくお願いいたします」


 ――法律が成立すること、テレビジョンが設立することを前提に、発言の場でリヴィエラが謳い上げる。単純な自信のみではなく、自分達の技術が世界に利益をもたらすのだと確信して。

クアットロとシュテルがどれほどのプレゼンテーションを行ったのか、今になって怖くなってきた。蓋を開けてみればガラクタでした、ではもはや通じない話になっている。

特にクアットロの馬鹿は喜々として世界を祭り上げるべく、積極的に売り込んだに違いない。これほどのやり手を丸め込むあいつの能力だけは恐るべきものがあった。


もしもクアットロの能力が悪用されていれば、ミッドチルダは大波乱に陥っていただろう。味方にしておいて良かっ――いや、全然良くないぞ。黙らされるな、俺。


「次に、今議会に提出いたしました電波法について、その概要を説明いたします」


 地球出身の俺も知らなかったので、アリサ達より入念に説明を受けた電波法に関する内容を思い出す。

この法律はようするに電波の公平且つ能率的な利用を確保することにより、公共の福祉を増進することを目的としている。俺達はあくまで商売を行うので、名目ではあるのだが。

電波における周波数の電磁波を規定し、電波を利用した電信を符号として送り、受けるための通信設備を定義する。


そして電波を利用することによる音声その他の音響を送り、又は受けるための通信設備を建造することを承認する為の法律である。


「電信や無線及び電波を送り、又は受けるための電気的設備。そしてこうした設備及び設備の操作を行う者の総体として無線局を定義する。
法定化する上で受信のみを目的とするものを含まず、設備の操作又はその監督を行う者である従事者については、連邦政府より許可を受けた者を選出いたします。

つまりテレビジョンを開設しようとする者は、連邦政府の免許を受けなければならないという事です」


 情報を管理する上で無法とならないようにするべく、連邦政府直下の元でアンテナを張り巡らせるのだと彼女は説明する。

一見すると連邦政府による情報統制を受けるように見えるが、あくまで開局における許可を得るための法律なので一方的な統制は出来ない。

勿論政府の承認を得るのだから情報を自分の好き勝手に垂れ流せるのではないが、そもそも連邦政府が定める法律なので政府直下なのは当然である。


「我々が生み出した新しき通信技術はテレビジョンのみならず、電信や無線などさまざま場面で利用されていくでしょう。
此度の議案で提示されました電波法はこの電波の公平かつ能率的な利用を確保するためであり、無線局の開設や秘密の保護などについての取り決めを規定するものだとご理解下さい」


 ようするに、情報における秘密の保護である。

何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる通信を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。

この法律を定めなければ、連邦政府と主要各国に置いて情報の落差が生じてしまう恐れがある。公平性を正すべく、法律の規定が必要である。


主要各国に必要な法律なのだと、各国の代表者達の前で彼女は披露してみせた訳だ。


「以上で、商会長からの説明は終わりました。この際日程第一、電波法の件を議題といたします。
本職から委員会の意見を求めておりましたが、その回答文書はお手元に配付いたしておきましたので、御了承願います」


 当然相手側からも質問は多くあるだろうが、一から全部まとめて応答していてはキリがない。だからこそまず連邦政府とリヴィエラ商会の間で熟議が行われている。

予め出るであろう質問については事前に回答を用意しておくことで、質疑応答の時間の質を高め、定められた日程の間で納得の行く議論ができるように配慮する。

アリサの話では日本の国会でも同じやり方が採用されているとのことで、学歴のない俺は初めて知って感心させられた。


国会で居眠りする無駄な時間ばかり費やしているわけではなかったのか。庶民の一方的な感覚で決めつけてはいけないもんだな。


「それではただいまより上程議案に対する質疑並びに府政一般に関する質問を行います。
通告によりカレドウルフ・テキニクス社長である宮本良介氏を指名いたします」


 えっ、俺がやるのか!?

世界会議から各国の有力者達がそれぞれ質問や応答をしていたので、議長が取り仕切って議論していたからまだ俺も自由に発言できた。

しかし俺が指名されて発言の場に立たされると、俺一人に各国の有力者達が質問をぶつけてくることになる。つまり、集中砲火を浴びせられてしまう。

リヴィエラ・ポルトフィーノ氏がやったほうがいいのではないかと視線を向けるが、本人は議席に戻って微笑み返した。


(リョウスケ様。貴方様であれば何の心配もないでしょうけれど、どうぞよろしくお願いいたしますね)


 何故何の心配もないのだと高を括れるんだ、あの人は。

とはいえ、もう指名を受けてしまった以上は立ち上がるしかない。俺は渋々議席より発言の場に移る。

一応シュテルも秘書役として後ろで待機しているのだが、あいつはたまに無茶ぶりかましてくるので果てしなく不安だった。


うぐぐ、国会議員が非処をたよりまくる理由が思いっきりよく分かる……


「ビュイック国の代表、ルサ・プロドゥアです。まず貴社が提供されるテレビジョンなるものについて質問させて頂きます」


 うぐ、早速この女か……

リヴィエラより事前に電波法を反対するものとして、名を挙げられた人物。質問事項も電波法そのものではなく、その技術における内容について。

間違いなく、どこから持ち込んだのか、出どころを探ろうとするだろう。自社開発なのは事実なのだが、どこまで話せばいいものやら。


地球出身者と異星出身者との、論戦が行われようとしていた。














<続く>








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