とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第五十一話
連邦政府の議会制度については電波法の成立、ひいては惑星エルトリアの存続に関わる為、事前にアリサ達から説明は受けている。
議会では議席の定数が定められており、主要各国から代表者が選出される。シュテルより紹介された彼らが任期を務め、この議席の配分は各国の勢力に関わらず各国一律で選出される。
電波法のような法案が成立するためには彼らの承認が必要であり、特定議院の優越そのものはない。政府からの独立性及び各国からの個々の議員の独立性が比較的高いことが挙げられる。
議題は法案と決議に分かれ、今日のような審議が行われるというわけだ。
「ただいまより連邦議会を開会いたします」
各国より選出された代表者達が投票の権利を持っているが、議会を運営する上で実際の議員達は当然もっと多く在席している。
議院が共同で運営する各委員会では多数の専門スタッフが雇われており、正規職員に加えて議員個人に付く議員スタッフも多く雇われている。
こうしたスタッフの念入りな調査に基づいて政府から独立して政策立案を行うことを志向されており、議会内のスタッフによる査定を経た法案が叩き台となっている。
実際には大統領からの依頼によって立法を行うことも多々あるらしいが、本日は姿を見せてはいない。
「本日の議事に先立ち、一言申し上げます。
現在テレビジョンの設立と電波法の成立を巡って、マスメディアの方々のみならず、多くの国民の方々が注目を寄せています。
皆様におかれましては十分な配慮をしていただいているかと存じますが、今後の審議にあたり今一度自身の行動と言動への配慮をお願い申し上げます」
……連邦議事堂の前で大騒ぎするんじゃない、と思いっきり先程の揉め事について釘を差されてしまった。
俺達は因縁をつけられただけと弁明するのは簡単だが、藪蛇になるだけである。喧嘩とは相手がいるからこそ成立するのであって、独り相撲なら誰も何も言わない。
横目で一瞥すると、リヴィエラは涼しげな顔で瞑目している。自身に非はないのだとしても、連邦政府より注目されるこの場でこれほど揺るぎ無くするのは難しい。見事な胆力だった。
反面、議席に座るポルポ代議員は明らかに敵視して俺を睨んでいる。手でも振ってやろうかと一瞬思ったが、売り言葉に買い言葉になるだけなのでやめておこう。
「議会においては国家の混乱を避けるべく、メディア対策を徹底した運営を行ってまいります。
議院や理事者、報道関係者の各位並びに傍聴される皆様方には、御理解及び御協力をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます」
――議会がざわめいた。メディア対策を実施するのだと、よりにもよって連邦政府側より宣告されたのである。
テレビジョンの設立と電波法の成立は今後通信技術と情報公開に画期的な革命をもたらすとまで言われている。メディアが浮足立っているのもその為だ。
情報の自由を謳うメディアに対して対策を行うという宣言は、情報統制を行うのだと明言したのに等しい。政府が民を制限すると言っているのである。
議長からの発言には各国代表のみならず、リヴィエラも驚愕を露わにしている。ふむ――
「議長。質問をお許し頂けるでしょうか」
「き、貴様、議題前に失礼だぞ!」
「ここは議場であり、議会が開催される前です。質問くらいお許し頂けるのではないかと思いまして」
「フン、メディア連中やリヴィエラの前では偉そうに格好つけていたが、所詮は田舎者か。
神聖なる連邦議会では品位があり、礼節があり、何よりもマナーというものがあるのだ。議長の宣誓に問いを投げかけるなど、前代未聞だ。
議長、このような無礼者は即刻退席させるべきでしょう」
議長の宣誓に問いを投げかけるのは失礼千万、ポルポ代議員の指摘は全くもって正しい。
確かに議会のルール自体には明記はされていないが、本来議長が行う宣言は明言なのであって議題ではないのだ。指摘するのは政府への疑惑に等しい。
大人であれば言われずとも理解できるし、社会人であれば暗黙の了解で成立する。議員であれば常識以前の問題で、無礼極まりない。
だからこそ、意味がある。
「ポルポ代議員はこう仰っておられますが、質問はお許し頂けませんか」
「き、貴様……!」
正確に言うと、俺が言うからこそ意味がある。議長の先程の宣言については、誰もが皆聞き出したいことなのだ。
政府が情報統制を図っていくということは、主要各国にとって他人事ではない。下手をすれば自分たちの国にまで塁が及んでしまう。
リヴィエラの商売にだって下手をすれば悪影響が出る。情報が統制されてしまえば、広告類にだって規制されてしまうかも知れない。
誰かが言わなければならない、誰かが聞き出してほしい――ならば、俺が聞けばいい。
「――質問を、許します。ただし本日の議題は既に決まっており、時間も限られています。
皆様の貴重な時間を割いてまで質疑応答を行いたいというのであれば、皆様からの承認が必要です」
「私は、構わないよ。何も退席なんてさせる必要はないよ」
「私も咎めたりはいたしません。彼は議員ではありませんしね」
「何もそこまで目くじらを立てる必要はないだろう。議長が許可するのであれば、俺はかまわないぜ」
「そんなに怒ることはないじゃない。彼が何を聞きたいのか、少し興味はあるわ」
「あまり長く話されても困るけれど、質問くらいは認めてあげましょう」
アクレイム氏、イグゾラ氏、セーブル氏、フォルテ様にルサ様までご賛同あって、議長も質問の許可を下す。ポルポ代議員は目を見開いて歯ぎしりした。
温情ではないのは分かっている。要するに皆聞きたかったことを、俺が恥を承知で聞こうとしているのだ。願ったり叶ったりであって、咎めたりすることはない。
ただ皆の口ぶりからすると、無礼者を装って聞き出そうとしている魂胆は見透かしているようだ。これで油断してくれればよかったのだが、それほど甘い連中ではないらしい。
リヴィエラは口元を緩ませて、俺の質問を待っている。無礼者の看板を押し付けられてまで聞き出そうとした俺の気遣いが嬉しかったらしい。こういう汚れ役は慣れているし、俺が適任だろう。
「電波法に対してメディア対策を徹底するとの趣旨ですが、今後議論が活発する中で情報統制を図っていくということでしょうか」
「言論の自由を奪うつもりは政府にもございません。ただし議論を活発化させることと、根拠のない噂を広めて混乱させるのは別だと考えております。
テレビジョンの設立は政府も重要視しており、情報を取り扱っていく中でより一層の注意が求められることを示唆いたしました。
今一度情報の重要性を考えていただきたいと考え、議論の前に宣言した次第です」
「承知いたしました。政府は勿論、政府に所属する各国にも情報統制などしないということですね。ありがとうございました、質問は以上です」
「っ……」
情報統制はしないとは明言していないという政治の言い回しに対して、庶民の容赦ない明言を持って黙らせる。案の定議長は嫌な顔をしているが、田舎者は素知らぬ顔を続けた。
主要各国の代表者達は俺のアホな明言に対して、苦笑いを滲ませつつも指摘はしない。彼らからすれば、情報統制をしないという現地を無理やり拾ってくれた俺の無礼な発言はむしろありがたかった。
俺としては別に、彼らを庇ったつもりはない。主要各国に情報統制をされたら、今後リヴィエラと組んで商売を広げていくのに悪影響が出ると考えての明言に過ぎないのだ。
嫌われたって、別にいい。夜の一族の世界会議とは違って、俺はあくまでリヴィエラのパートナーとしてここに参席しているのだ。彼女さえ綺麗な立場であればそれでいい。
(リョウスケ様)
(申し訳ありません、勝手な発言ばかり繰り返しまして)
(全くです。私は貴方には素敵な男性でいてほしいですし、皆様にも良い印象を抱いていただきたく思っております。
私の為に道化を演じて下さるそのお気持ちは本当に嬉しいですが、毅然としていて下さいね)
私は察していますからと微笑みつつ、注意を促す彼女には頭が下がった。思いっきり見透かされていて、ちょっと恥ずかしい。
子供が格好つけているのを母親が微笑ましく注意する有様と似ている。この得体のしれぬ羞恥は、子供だからこその感情だろう。
毅然としていてほしいと思って下さるお気持ちは俺としても嬉しいが、誰かがやらなければいけないのであればやはり率先するべきだとは思っている。
自分よりも仲間が傷つくのを嫌だというのは何とも俺らしくはないとは思うのだが、高町なのは達の影響だろうな。
「日程第一、会期決定の件を議題といたします。
お諮りいたします。議題における会期は、本日からの五日間といたしたいと思います。これに御異議ありませんか」
電波法の制定を5日と決めるのではなく、議決を取るのに相応しいかどうかの審議期間を定めているのだろう。
世界の今後を決める重要な役割を持った電波法の審議が5日なのは明らかに短いと思うのだが、同時にチャンスでもあるので悩ましい。
惑星エルトリアは強制退去命令が出ており、いつ施行されるか知れたものではない。エルトリアの存続を決めるのは、出来る限り早いほうがいいのは事実だ。
しかし、それは言いかえると――
「異議あり、テレビジョンなどという怪しい技術を持ち出しての議論だ。日程は多く割いたほうがいい、国民も注目している」
――出来る限り早くエルトリアから追放しない人間からすれば、時間稼ぎにはもってこいだった。ポルポ代議員は得意満面に提案している。
残念ながら議員ではない俺に反対する権利はない。議題が始まれば別だが、議題そのものに関する権限は持っていない。議題を始めてくれていたら意見くらい出来たのだが。
同じ立場であるリヴィエラも同様に権利はない。ポルポ代議員の見え透いた本音に、彼女は一見すると分からないが面倒臭そうな感情が見え隠れしている。結果的に彼女の不利益になることに気づかないのだろうか。
困ったな、あまり延々と続けられるのは困るのだが――
「こちらは異議はないよ」
「私も異議はありません」
「異議なし」
「同じく」
「異議なしよ」
――主要各国の代表者達は揃って賛同してくれた。何故だ、電波法には反対の立場までいるのに。
確かに惑星エルトリアを直接潰すことにはならないかも知れない。日程を延期しても強制退去の施行を遅らせる手段はある。だが、有効な戦術ではあるはずだ。
政治の場で正々堂々なんてありえない。世界は競争社会であり、共に生きることは出来るが上下関係も成立する。自国を優先するのは当然の帰結である。
惑星エルトリアで商売の拠点を置いていることくらい知っているはずだ。
(ふふ、リョウスケ様の政治的姿勢を評価して頂けたようですね)
(貸し借りなんて成立していないはずですが)
(彼らもそうは思っていないでしょう。私はあくまで利得の観点から現状を評価したまでですよ)
(と、申しますと?)
(つまり――リョウスケ様と議論することは有益だと、彼らは考えたのです。皆様、政治家ですから)
つまり、俺と戦うことが自分にとって利益になるのだと考えたということか。彼らの高潔さに、ただ感心させられた。
どんなことをしても勝つのが心情である俺にとって、戦うことそのものへの価値について追求したことは少ない。
苦戦ばかりさせられたからこそ、二度と戦いたくはないと感じさせられるばかりだった。ゆえにこそ、彼らの偉大さが身にしみる。
手強い相手ではあるだろうが、尊敬できる人達なのだと感じられた。
<続く>
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