とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第四十九話




 歴史的な連邦議事堂は高くそびえる広大な内部空間と天窓を通して見える議事堂ドームの景観をもって、入場者達を歓迎してくれていた。

連邦を象徴する議事堂は連邦議会と、議会そのものを構成する連邦上院及び下院によって成立している。連邦議会がどのように機能しているのか、リヴィエラが案内してくれた。議員でもないのに案内できるのがちょっと怖いが。

荘厳な建物がどのように建造されたのか、政治と経済を知る上で重要となる。建物から観察できるというのは恐れ入るが、権威というのはそういった類から伺い知れる威厳が備わっているのだろう。


議会制民主主義と呼ばれる政治形態、連邦政府が民と通じる記念碑として存在しているのを示してくれている。


「国家が直面する課題が検討され、議論され、法制化されている場所ですね。この連邦議事堂には政府の重要な美術品も所蔵されており、建物自体が建築上の業績とも言えるのです」

「アクレイム氏が紹介して下さった政治の行方を示しているのですね」

「今の政治のあり方について実に熱心な方です。ニュービートル国では絶大な支持を受けていらっしゃいますが、反面連邦政府そのものには厳しい目を向けているようです」


 連邦議会で歴史が創られるという政治的やり方に疑問を感じていたのは、初対面での会話でも確かに見受けられた。

結局始終俺のような民間人にも丁寧な物腰で対応してくれており、何の問題もなく受け答えを終えて別れを告げられた。挨拶としては、いささか込み入った会話ではあったが。

先程の会話でも述べたが、民主主義に疑問を抱けるのは俺としては平和である証拠だと思う。政治が荒れていれば、民主そのものに目を向ける余裕もなくなるはずだ。誰だって自分が可愛いものだからな。


今の体制を変えたいという意味では電波法の成立には賛同してくれそうではあるが、世が乱れるのを懸念していれば話は変わってくるだろう。


「こちら、本会議場です。我々が座るのはあちらの議事席となります」

「アクレイム氏が着席されているのは、議員席なのですね」


 やはりというべきか、夜の一族の世界会議が行われた議場とは違って、典型的な半円状で建造された立派な本会議場であった。あっちは政治を極める場所ではなかったしな。

議事堂内には本会議場と委員会室が設けられていて、本会議場の席配置は演壇や議長席を中心とする放射状半円形となる配置で設定されている。

与野党席が正面から向かい合う配置となっており、ステージ状のひな壇と議員席がまっすぐ向かい合う近代劇場型であるらしい。議員と我々が向かい合って議論する様式となっている。


お誂え向きとも言えるが、別に意図的ではないだろう。俺が参席するために用意した議場でもないからな。


「――此度の議案、想像していた以上に注目されているようですね」

「と、いいますと?」


「主要各国より参上した代表者の方々が全員、着席していらっしゃいます」


 連邦政府に所属する主要各国、惑星エルトリアを除く全ての国家より参上した有力者達。政治的論争を行うべく、全ての代表者が勢揃いしている。

下院の投票資格を有する議員そのものは数多く存在しているが、その中から代表者が選出されている。いわゆる、投票資格を持つ強者達である。

その他にはポルポを含めた代議員、レジデント・コミッショナーと呼ばれている議員。彼らは主要各国から1名ずつ選出されており、このレジデント・コミッショナーこそが惑星の代表となる訳だ。


エルトリアの代表者はフローリアンではあるが、強制退去命令まで出ている為、いまのところ投票資格は機能していない。アミティエを連れてこれないのも、参席する資格がない為だ。


「父上。貴方の愛する娘が抜かり無く全てのレジデント・コミッショナーを事前に調べておりますよ」

「……政治に詳しい魔法少女って愛嬌としては微妙じゃないか?」

「お伽噺では熱狂しない世の中なのですよ。父上が萌えるのであればこのシュテル、メイド服の着用も辞さない覚悟ですが」


「いいから早く紹介しろ」

「承知いたしました」


 すっぱり切ってやったのに、にこやかに応対する我が娘。 本格的な会議が始まるまで、大した時間はない。俺が無難に着席すると、申し合わせたかのようにリヴィエラとシュテルが両隣に腰掛ける。え、何故俺の隣にそれぞれ座るんだこの人達。

両院の議席については主要各国の人口に応じて配分されると不公平となる為、議席は人口に関係なく各国2議席ずつ用意されている。代表者と秘書的存在、俺とシュテルの関係に近い。

各議院にはそれぞれ特別な専属的権限があって、大統領による多くの任命人事に対する助言と同意を行える権利を担っている。政を決める法案の発議は、この議院によって行わなければならないという訳だ。


つまりテレビジョン放送に必要不可欠な電波法を制定するためには、彼らの承認が必要である。


「まずはラーダ国より参上された、"イグゾラ・プロトン"氏」


 日本人は胴長短足だと揶揄される声があるが――シュテルが紹介した人物は、その真逆であった。

着席しているにも関わらず、背の高さを嫌というほど感じさせる。青磁を極める議席にリラックス性なんぞないので、窮屈ではないかと心配してしまう程だ。

背丈の高さには通常圧倒されてしまいがちになるが、この男性は驚くほど穏やかな空気を感じさせる。政治という汚い世界で生きるには不向きではないかと思えるほど、清廉であった。


敢えて表現するのであれば、托鉢の僧とでもいえばいいだろうか。視線が合うことはなかったが、拝んでも許してくれそうな静謐を感じさせる。


「続きましてクライスラー国より参上した、"セーブル・マーキュリー"氏」


 今時珍しいというのは失礼な言い方ではあるが、フォーマルスーツに身を包んだ男性である。

白衣を正装とするスクラブスーツを着こなす男性は、絹より白い髪の美男子であった。その白さは毒気さえも抜かれており、髪に色素そのものが消えてしまっているようだった。

それでいて老いを感じさせない若々しさ、三十代前半――いや、ひょっとすると二十代かもしれない。議員としてはありえないかも知れないが、ここは日本ではないからな。


ミッドチルダでは十代でも即戦力なのだから、才能に年齢は関係ない。


「トライアンフ国より参上された、"フォルテ・キア"様」


 紹介された途端、苦手意識が無自覚に働いてしまった――議席に収まっていない背の低さ、子供のような体格の女性。

それでいて高町なのは達のようなあどけなさのない顔立ち、その表情は柔らかでありながら強さが秘められている。政治の世界で生き抜いた強かさを感じさせた。

見た目で判断すると痛い目を見る典型だった。少なくとも海鳴に流れ着いた頃の俺であれば、100%侮っていただろう。そしてきっと、容赦なく自信を砕かれていたに違いない。


視線を向けると彼女と目があって、意味深に微笑まれた。手強い相手になりそうだ。


「あちらの方はビュイック国の代表、"ルサ・プロドゥア"様ですね」


 ――ギョッとする。黒衣に身を包んだ女性、その瞳は光が称えられていない。盲目であった。

一瞥しても分かるほどの印象の強さであったが、目に光がないのにも関わらずその視線は俺に向けられている。見えているはずがないのに、俺の視線と高さがつり合っている。

出で立ち自体は魔女ではあるが、聖地で出会ったあの女とは違う。知性という光で世界を見つめている在り方、瞳に光はなくともあらゆる感覚が研ぎすまれている。


その姿勢に敬意を感じて頭を下げると、彼女はあろうことか小さく手を振った――そんなバカな、見えていないはずなのに!?


「リョウスケ様。シュテル様よりご紹介に上がった方々の中で」

「はい」


「キア様とプロドゥア様は、電波法の反対を明言されておられます。
カレドヴルフ・テクニクス社長――つまりリョウスケ様より明確な説明を伺うまで、この意見を変えることはないとまで言われております。

貴方様が連邦政府に危険な技術を『外から』持ち込んだ人間と、危険視されておられるようです」


 ――これ以上のない事実に、俺が思わず机に突っ伏した。鋭すぎるツッコミだった。

だって事実だもんね。これ以上ないほど反論できませんよ、私は。そんなもの持ち込むなといわれたら、ハイとしか言えませんよ。


相変わらず女の敵になるのには定評な俺だった。














<続く>








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