とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第三十一話
エルトリアは連邦政府より立ち退き勧告されている惑星。住民はほぼ撤退し、ほぼ取り残されていた形で住んでいたのがフローリアン一家だった。
彼らは半ば自給自足の生活を送っていたが、文明や技術に無縁だった訳ではない。ヴァリアントシステムにアクセラレイター、ナノマシン技術を支えるには物資や資材が必要不可欠だった。
女性の多い一家であれば、生活用品だって必要だ。河で水浴びなんてお綺麗なファンタジーだから通じる話であって、劣悪な環境のエルトリアで不衛生な生活なんて女性には耐えられない。
つまり彼女達に、必要な物資を売っていた商人がいた事になる。
「連絡が取りました、剣士さん。予定通り本日到着いたします」
「エルトリアへの行商で、宇宙船に乗ってくるのか……スケールが大きいのか、小さいのか」
行商とは特定の店舗を持たず、商品を客がいる所まで運んで販売をする小売業である。今どきの感覚で言えばセールスマンといえばいいのだろうか。
この行商には主に二種類あって、客の注文を受けて運搬して行く配達と、顧客のいそうな地域を商品を運搬しながら販売する方法がある。
今回においてはそのどちらかではなく、どちらもであった。つまりフローリアン一家の注文を受けて運搬してくれているが、エルトリアに顧客がいるからこそ商品を運搬してくれるという事だ。
どういう事かと言うと――
「とどのつまり、足元を見られているんだな」
「……はい。その商会は規模としてはまだ小さいのですが、若くして商会を立ち上げた方が相当のやり手でして。
幼い頃から自身で築き上げた人脈を駆使して、連邦政府より人工衛星製造の依頼を受けられたんです。
連邦を統括する主星の防衛と衛星への通信強化を目的とした、"衛星砲護衛機"――衛星砲に改造した人工衛星を守る独立個体の建造に、協力しています」
「主星を守る人工衛星とはまたすごい規模の話だな……」
惑星再生委員会の閉鎖に加えて、惑星エルトリアからの立ち退き勧告。近年におけるエルトリア周辺を取り巻く環境は、最悪の一言に尽きる。
その上フローリアン一家の大黒柱であり、エルトリア代表の父親が病に倒れ、母が体調を崩し始めた。妹であるキリエはイリスの接触で計略に翻弄され、アミティエは苦悩していた。
そんな折に行商してきたのが、『ポルトフィーノ商会』であった。
「日々の生活にも苦しんでいた私達に、売り込みをしてきたのです。
惑星エルトリアは過酷な環境である為、出来る限り少ない資源を最大限に活用するための機械運用システムが発達していました。
このシステムに目をつけた商会の方が、連邦政府からの依頼である衛星砲護衛機の製造協力を持ちかけてきたんです」
「それが、ヴァリアントシステムでの製造に繋がるのか」
「衛星砲にも改造出来る主星を守る独立個体で、軌道上からあらゆる衛星にまで届く威力を誇る機体ですね。
どれほど生活苦であろうとも軍事運用であれば私達も断ったのですが、内々に提示してきた製造内容は連邦政府の依頼を示す正式な受諾書でした。
あくまでも防衛が第一であり、主目的は連邦政府と主要惑星と繋ぐ通信強化だったんです。
協力するのであれば資材の提供は惜しまず、物資も破格の価格で提供すると言われていまして」
「資材の提供は製造目的であれば当然として、物資はあくまで行商としているのは何故だ。顧客締結を結べば、立場の強いスポンサーとなるはずだ。
どうして立場の弱い顧客のままで収まってしまったんだ。脅されでもしたのか」
「……、その……しょ、商会の力で、あの……コ、コロニーの移住を強力に推薦すると、言われて……母さんも、私も、断れなくて……」
「……そうか」
涙を滲ませたアミティエ・フローリアンの苦悩を見せつけられて、俺はため息を吐きながら納得させられた。
実はイリス事件でキリエからエルトリアの現状を聞かされた時、一つ疑問に思っている事があった。コロニー移住の話は、一体何処から出たのかと。
立ち退きを迫った連邦政府の温情やフローリアン夫妻のツテであれば、キリエの反対なんて関係なく移住していた筈だ。わが子に反対されたから取りやめられる話ではない筈なのだ。
しかし――商会より提示された依頼であれば、話は別だ。死に瀕する父親を思えば商会より差し伸べられた手を振り払えなかったのだろうが、本人達は不本意だったのだろう。
「それでこちらから連絡すればすぐに応じてくれるんだな、乗客ではあるからな……
契約書を見せてもらわないと何とも言えないが、ポルトフィーノ商会のやり方は悪徳ではないんだな」
「少なくとも横柄に出られたことは一度もありませんし、顧客契約を結んだ後は定期便を出してくれるようになりました。
一定の期間に則って技術提供は契約通りに行っていましたから、商会側から圧力がかかったこともありませんでしたね。
来て下さる商会の方も親切丁寧で、何というか……顧客として丁重に扱ってくれてはいます」
「まあお前らにボイコットでもされた日には、連邦政府からの依頼は達成困難になるからな。アコギな真似はできないか」
辣腕とも言えるやり方は凡人から見れば尖っていて、悪徳商人のイメージをつい持ってしまうが、今時お役人様に縋る越後屋なんて存在しない。
故郷の立ち退きに困る相手にコロニーへの移住を推薦なんて死ぬほどエグいが、顧客への温情と見ればこれ以上の優しさはない。アメとムチの使い方を恐ろしいほど理解している。
若くして商会長となった者が自分の商会を作り、人脈を駆使して連邦政府より依頼を取ったというのだ。目が覚めるようなサクセスストーリーに思わず目を奪われてしまいそうだった。
どういう人間なのか興味はあるが、同時にこれから交渉しなければならない相手だと思うと気が引き締まる。
「話は分かった。色々交渉しないといけないから、立ち会ってもらえるか」
「はい、勿論です。まもなく到着されるそうなので、出迎えに行きましょう」
「そうだな。ノアやエテルナも商人と交渉したいそうだから一緒に――と、当人から通信だ」
交渉前の段取りを話し終えた俺達が立ち上がったその時、通信機が鳴った。日本で使っていた携帯電話よりコンパクトなCW製通信機が、エテルナからの着信を伝えてくる。
アミティエに一言断りを入れて、俺は通信に応じる。交渉前にこちらから連絡を入れる手筈だったはずだが、気の早い奴らだ。
俺はアミティエから距離を取って、通信機をONにする。
「ちょうどよかった。間もなく商船が来るからお前らも――」
『大変よ。その商船が、モンスターに襲われているわ!?
ノアが先行して向かったけど、数が多いからやばいかも。アタシも出るから、すぐに応援よこして!』
「! 分かった、すぐに向かう」
ユーリとイリスの連携によりエルトリアは活性化、アリサとリーゼアリアによって発展を遂げているが、モンスター自体が消えた訳ではない。
自然環境をなるべく歪にならないように活性化を図ってはいるが、生体環境が激変するのは避けられない。
ゆえにモンスター達が居場所を変えられて暴走するケースがあり、白旗や妖怪達が対処するケースが幾つか発生している。
しかしよりにもよって、商船を襲うとは――
「ユーリ達は動かせないし、シグナムやフェイト達は環境調査。戦闘機人達が妖怪達との折衝に出向いている。
ということは、今自由に動かせるのは――」
「お呼びですか、我が主。貴方の忠実な下僕、ローゼが参上しましたよ」
「くそっ……よりにもよってこんなアホしか残っていないとは」
ガッデムである。
「というか貴様、このタイミングで来たということは通信を傍受していたな」
「最新の自動人形ローゼの機能に恐れ入りましたか」
「親指立てて自慢するな。盗聴は立派な犯罪だぞ、コラ」
「ガジェットドローン飛行型を準備いたしました。いつでも出れますぜ、旦那」
「ええい、こんな時に限って有能ぶりを発揮しやがって……連れていくしかなくなるだろう」
ジェイル・スカリエッティ博士ご自慢の指揮官型自動人形、ローゼ。一応こんなアホでも、世界会議では切り札となった戦力である。
ガジェットドローンという機体を操る機能を持っており、あらゆる後継機を手足のごとく駆使できる演算能力を持っている。多機能かつ高性能な機体であった。
自動人形はノエルのように意思を持つ機体と持たない機体があるが、こいつはどういう訳か初対面時にうどんを食わせてやったら懐いたという桃太郎もビックリなお手軽キャラだった。
うどんで心が目覚めるという自分に少しは疑問を持たないのだろうか、このアホは。
「同行するのはいいんだがお前、戦えるんだろうな」
「実はここだけの話、ローゼは主より強かったりするんですよ」
「なんで得意げなんだ、こいつ。オウ、勝負してみっか」
「いいですよ、腕相撲でどうです?」
「フフン、蹴散らしてくれるわ。レディー」
「「ゴー!」」
テーブルの上で手を組んだその瞬間――思いっきりひっくり返されて、地面に叩きつけられた。
この野郎、今のは単なる腕相撲じゃない。アームレスリングを使用して、腕力と技術で俺を投げ飛ばしやがったな。
ユーリやキリエ達の協力で強くなった筈なのだが、腕力勝負以外の土俵に持ち込まれるとやばい。技術は生命操作能力でも飛躍はしない。
ぐぬぬ、さすがは自動人形――腕力だけで挑むのは無謀だったか。
「ローゼの勝ちです、服を脱いでください」
「えっ、脱衣勝負だったのかこれ!?」
「残念でしたね、主。ローゼに勝てていれば、エッチなオッパイを見れましたよ」
「一回の勝負で何枚脱ぐ気なんだ、お前」
おっさんみたいな発想をするアホを相手に負けて、超久しぶりに悔しいという気持ちが蘇ったぞコラ。
最近政治だの商売だのにかまけていて、こういった単純な勝負から縁が遠かったからな……まあ平和な日々に斬り合いなんぞ発生するはずもないのだが。
新しく生まれ変わった肉体が鈍ることはないのだが、真剣勝負から離れていると心は熱さを忘れてしまう。
そういった意味では不謹慎かも知れないが、モンスターと戦うのは勘を取り戻す意味ではいいかも知れない。
「護衛の妹さんも連れて行くとして――お前はガジェットドローンを操作して戦うのか」
「いえ、ガジェットドローンは商船と乗組員を守るべく動員するつもりです。ローゼが自ら戦いましょう」
「……お前が戦っているところ、見たことがないんだけど」
「いつもは主の閨でお相手していますからね」
「妄想を膨らませるのはやめろ」
自分で言っててなんだが、こいつがどれくらい強いのか正確に把握していないな……
何しろ自動人形の最新型、ジェイル・スカリエッティ博士自慢の一品という看板がとにかくでかすぎる。
誇大広告というつもりはないのだが、看板がデカすぎると逆に運用に困ってしまうのだ。
使い勝手を検討してしまうからな――おっと、通信が。
『ちょっと何してんの!? 誰ひとり来なくて、大ピンチなんですけど!』
「げっ、しまった。アホと絡んでて、時間を忘れてしまった」
「時間を忘れるほど楽しい一時だったのですね、ふふふ」
「うるせえ、そもそもお前が――」
「剣士さん、現場の"声"が弱まってきていますので急行するべきかと」
「……うう、ついに妹さんにまで注意されてしまった」
連邦政府と直接繋がりのある商会、その商船を守るための死闘。
利益と暴力が複雑に絡み合った、新しい戦いが始まろうとしていた。
<続く>
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