とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第三十話
他の惑星や異世界より文化や技術を持ち込むのは非常に容易いのだが、実を言うとこの行為は時空管理局の定まる法律に思いっきり違反している。
考えてみれば当然の話で、魔導による転移技術が確立されている世界――厳密に言えば転移も法による制限はあるが――であれば、発展途上の世界に技術や文明を持ち込めばそれだけで金や名誉は思うがままだ。
昨今のゲームや映画でも異世界転移によるこうしたチート行為が流行りだと忍が熱弁していたが、こうした行為は管理局では違法として扱っている。世界バランスが簡単に崩れてしまうからだ。
惑星エルトリアへ白旗の人材やCW社の技術を持ち込めているのは、当然だが時空管理局や聖王教会と交渉したからこそ出来る行為だ。俺が死ぬほど努力して、ようやく繋がったコネでどうにかなっている。
「移住者よりこういった声が各地で上がっている」
「想定通りね。ではそろそろ次の段階へ移行しましょう」
「おっ、今回のような主張が上がるのは読めていたと?」
「当たり前でしょう。放浪生活に慣れているあんたと違って、皆文明社会から来たんだから原始人生活を嫌がるのは当然よ」
「お前だって廃墟で彷徨っていたくせに!?」
一応言っておくが、俺だって野宿生活が大好きな訳じゃないんだぞ。金がないから仕方なくそうしていただけで、人間らしい生活にだって憧れの一つくらいあった。ゴミを漁る生活は惨めだったからな。
アリサ曰く時空管理局や聖王教会と深い繋がりがあるとはいえ、違法行為を推進するつもりはないらしい。まあ、やりたい放題やっていい訳じゃないからな。
レジアス中将やカリーナお嬢様が承諾したのは自分達の新製品を試せる機会だったからだし、聖女様が満面の笑顔で認めてくれたのも――
そういやなんであの人、認めてくれたんだろうか。交渉するつもりだったのに何故か何の疑問もなくニコニコしながら、"何でも好きに持っていってください信じていますから"としか言わなかったし。
「あたし達が持ち込んできた分はあくまで惑星エルトリアの開拓事業で使う。惑星そのものの発展には投入しないわ」
「地球の科学やミッドチルダの魔導を持ち込んだら、便利ではあるが変革が起きてしまうしな」
「今は村単位で開拓をしているから争いこそ起きていないけれど、文明や技術を持ち込めばいずれ戦争に発展するわ。妖怪達だって多種族だし、考え方や価値観も違うんだから。
人間達のような欲望むき出しの奪い合いにこそならないにしても、種族に分かれた領土争いにはなるわね」
戦争を起こすのは人間のみというアリサの独特の考え方は恐らく、彼女本人が人間ではなく幽霊だという自覚があるからだろう。
自分はあくまで死人であり、俺のメイドとして現世に留まっているのだという知性ある自覚は聡明ではあるが、悲しい考え方だった。
生を謳歌するのではなく、死を前に出来る限り努力をするという未練に紐付いた執念でしかない為だ。生きるために努力するというベクトルとは異なっている。
少女ではあるのだが、老女らしい達観した生き方には思うところがある。
「アリサ、この件は俺が何とかしよう」
「えっ、急にどうしたのよ。アタシの想定通りだと今言ったでしょう」
「完全に割り切った考え方をするのは正しいことではあるけれど、もう少し人間臭く足掻いてみてもいいと思う」
「……達観した考え方に固執せず、住民たちの意見に基づいて試行錯誤すると?
それは指導者としてのやり方ではないわ。学級クラスの放課後指導だけでは失敗するケースが多いし、反発が出るわよ」
「それだよ、それ」
「えっ……?」
「何でもかんでも完璧に物事を進めるのは建国としては正しいが、開拓ではないと思う。
一度や二度失敗したって、いいじゃないか。いい経験になるし、彼らのためにだってなる」
「っ……でもそれはちょっと無責任になるし、あたしだって力になりたいわ」
「責任は俺が取るから、お前は成功する秘策じゃなくて失敗しないようにフォローしてやってくれ。想定どおりであれば、あらゆるパターンを考えているんだろう。
致命的にさえならなければ、彼らの意見を聞いて動いてみるのもいいと思う」
全部俺達が考えて人材を動かすのは決して間違えてはいないが、人材の育成に発展しないと思う。それに何よりもアリサの考え方が突出しすぎて、人間らしさが消えてしまうと思う。
妖怪達の楽園として薦めてはいるが、惑星エルトリアを妖怪ランドにするつもりはない。かといって人間らしい生活を求めて技術革命を起こしてしまえば、また妖怪達の居場所がなくなる。
惑星エルトリアにはあらゆる人種がいるのだから、それぞれに則した価値観で動けばいい。意見のぶつかり合いや価値観の違いによる摩擦は起こるだろうが、それだって必要な経験だ。
コントロールできる今のうちに、彼らに失敗させた方がいい。俺がそう述べると、アリサは何故か不満そうな顔をする。
「あんた……そこまで考えられる頭があるんだから、普段からきちんとしてほしいんだけど」
「俺は大真面目に生きているぞ」
「真面目に生きているのなら、現代日本で剣を持って旅なんてしないわよ」
「俺の生き方を根幹から否定しないでほしいんだけど!?」
出会った当初から浮浪者だの何だのと口悪く言われているが、アリサは当時と同じ笑顔で小馬鹿にしてくる。
何だかんだ言ってそろそろ一年近い付き合いになるが、きっとこのまま何年経過しても変わらないだろう。
どういう未来になるのか分からないが、その頃にはエルトリアも反映しているように今努力しなければならない。
元猟兵団のエテルナやノアにも手伝ってもらって、移住者達にアンケートを行って彼らの現時点における意見を並べてみた。
やはりというべきか俺やアリサへの信頼が勝って、今目の前にある不満も自然に解消されると高を括って胸の内に秘めていてくれていたようだ。どんな理想的な開拓を行おうと、不満くらい当然出る。
取り上げられたのは生活環境の違いにおける物資の不足であった。妖怪達は古くから生きる者達が多いので、自給自足生活でも生きていけるが、それはそれとして必要としている物はあるらしい。
取り上げてみたところ自給自足生活に最も不自由しそうな医療や食料等よりも、娯楽品の不足が目立っている。
「くっ……酒がないと困っている意見が意外と多い」
「ほら見なさいよ。自販機がないなんてどうかしているわ」
「鬼の首でも取ったかのように、全く自慢できないことで威張ってるね」
エテルナのドヤ顔にノアの冷めた視線が突き刺しているが、事実不平が出ているので反論できない。ぐぬぬ、酒なんぞなくたって生きていけるだろうに。
話を聞いてみて思い出したのだが、日本に限らず妖怪の伝承では酒に関する逸話が多い。娯楽の少ない古代では、お酒もまた娯楽品の一つだったのだろう。
妖怪以外にも、神にまつわる酒のエピソードも聞き及んでいる。日本では清酒だが、海外でも酒は万病の薬であり捧げものでもあったのだ。
生活には必要はないが、それはそれとしてお酒が欲しいという意見が出ている。妖怪ウワバミなんて泣いて頼んできやがったからな、切実だ。
「後は家畜とか、生活基盤で求められる物が多い」
「田畑だけ耕していけばいいってものでもないのか」
「当たり前でしょう。食料や物資はあるけど、放牧だってこれから先は必要になるわ」
人間社会を長く見守ってきた妖怪達の希望には、武器や道具に関する希望は少ない。こういった意見を覗けるだけでも、古老としての在り方には尊敬させられる。
時空管理局の法なんて関係なく、彼らは異世界に自分達の技術や文化を持ち込む危険性を理解しているのだ。革命とは決して、いつの時代でも常に歓迎されるものではない。
時代が常に多様性を求めてくるからこそ、妖怪達は安定の大切さを骨身に染みている。世界を変質させる恐ろしさを理解しているのだ。
異教の神に属しているエテルナ達の意見もまた、日本人の俺にはない感性が光っていた。
「多種族に繋がりを持つあんたのコネには正直驚いたけど、いずれ頭打ちが来るわよ」
「その傾向はもう出てる。村も発展しているから、そろそろ新しい方針を打ち出すべき」
「と、いうと?」
「現地人を勧誘して連れてきなさいよ」
「連邦政府の国々にいる人達の理解がないと、この惑星は孤立する」
――自分達の世界から連れてくるだけでは変容するだけだと、ノア達が珍しく真剣に語った。
確かに今の惑星エルトリアは、俺が推薦した人たちばかりで埋まっている。偏っているとは言わないが、俺の融和によってできた世界だと言える。
現在安定した生活が出来ているのは、その融和が成り立つコミュニティゆえだ。言い換えると、俺の価値観で閉ざされた世界でしかない。
このままでは、惑星エルトリアは宇宙の海に漂う孤島となってしまう。
「そうだな……以前相談されていた流通の件は、アミティエ達が以前から懇意にしていた商人と交渉する形でまとまっているんだけど」
「あら、先住民は一応流通のツテはあったのね」
「惑星再生委員会があった当時、フローリアン夫妻が頼っていた商会があるらしい。商人が近日物資を持ってきてくれることになっている」
妖怪達の意見を取り上げたリストが出来たので、娯楽品も含めた商談を行う手はずとなっている。
その時の商談を利用して――
「モンスターハントを面白おかしく取り上げてみるか」
「狩猟生活を推進するつもりなの!?」
<続く>
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