とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第二十話
アミティエ・フローリアンと、キリエ・フローリアン。今回の仕事の依頼人である彼女達を、一室へ招いた。ここは彼女達の家で我が物顔するのはどうかと思うが、その辺は棚上げしておく。
一室へ入る二人の表情は対象的だった。妹であるキリエは魔法使いを見る目、奇跡を起こしてくれるのだという期待。姉であるアミティエは剣士を見る目、現実を突きつけられるとのだという不安だった。
どちらか正しいのか、論破するつもりはない。現実は嫌というほど痛感させられたし、理想は嫌というほど追求してきた。どちらが良くて悪いのか、世界中の誰にも分からないだろう。
本当はアリサやジェイルあたりを同席させたかったが、ここは責任者である俺が言うべき事。自分の弱音を隠して、彼らには退席願った。
「結論から言うと、このままでは誰も助からない」
「えっ……!?」
キリエは驚いた顔を、アミティエは悲しい顔を見せてくる。予想通りの反応ではあるが、この後のことを考えると気が重い。
慎重に事を進めるべきかどうか悩んだが、彼女達だって今まで多くの不安や失望を感じてきたはずだ。未来の見えない不安よりも、目の前で見えている現実を突きつけた方がいい。
たとえその先に待っているのが死であろうとも、希望をもたせたまま苦しむのは残酷だ。だからこそキリエは耐えきれずにイリスの甘言に飛びついてしまったのだ。
アミティエもキリエの暴走を止めつつも、何も出来ない無力感にずっと苦しんできた。いい加減、誰かが言わなければならなかったのだ。
「キリエもそうだが、アミティエだって全く分かっていない。いいか、これは両親だけの話じゃないんだ。他人事みたいな顔をしているお前達だって、十分危ない」
「で、でも、診断の結果は問題ありませんでしたよ!?」
「お前達はまだ若いからな、鍛えられた身体は美しさを保っている。だがヴァリアントシステムやナノマシンを活用し続けても、いずれ限界が来る。
二人には申し訳ないが、ハッキリ言わせてもらう。この惑星エルトリアは、人の住める環境ではない。
この惑星にしがみついている限り、お前らにだって未来なんてないんだ」
「っ……だから移住しろとでも言うんですか、お姉ちゃん達みたいに!?」
テーブルに拳を叩きつけて立ち上がるキリエの反応に、俺はむしろ驚いてしまった。えっ、何で怒っているんだこいつ。
他惑星への移住案は、真っ先にアリサが提唱した。本来ならば費用や負担が恐ろしくかかる提案だが、聖王という立場と聖地という立地が条件を満たしてくれる。
惑星丸ごと開拓するよりも、開拓されている異世界へ移住したほうが早い。実に合理的で誰もが納得する提案だが、彼女達の趣旨を満たさないので保留となっていた。
お姉ちゃん達という発言にアミティエを見ると、彼女は申し訳無さそうな顔をして告げる。
「……コロニーへの移住の話は、確かに出ていました。お父さんが身体を悪くして、お母さんも体調を崩していたので」
「アタシは反対だから、そう何度も言ったよね!?」
「盛り上がっているところ悪いが、俺の話をまず聞いてくれ」
このまま二人で言い争いさせて論旨を確認してもいいのだが、多分埒が明かないだろう。平行線に終わりそうなのは、目に見えている。
コロニーなるものがどんな場所か分からないが、少なくともこの惑星よりはマシな環境なのだろう。逃げ場があることは、決して悪いことではない。
両親の具合が悪いのであれば尚更だ。移住への検討はアリサだって勧めていたくらいだ、惑星エルトリアにしがみついたままでは未来は見えてこない。
だが、キリエを責め立てることは少なくとも俺には出来なかった。俺だって平和な世の中で、剣になんてしがみついている。不要だと分かっていても、手放せないものだってある。
「アミティエはキリエの気持ちを十分理解しつつも、コロニーへの移住を考えている」
「……はい。キリエには悪いとは思っていますが、お父さんやお母さんのことを考えれば」
「キリエはアミティエの気持ちを十分理解しつつも、惑星エルトリアへの定住を考えている」
「そ、そうです。アタシだってお姉ちゃんやお母さんの言うことは分かるんです。でも、どうしても」
「だったら、全部やろう」
「ぜ、全部……?」
「二人共正しいことを言っているんだろう。だったら、どっちもやればいいじゃないか」
「え、えーと……もう少し詳しくお聞きしてもよろしいですか」
――アリサたちの意見を十分吟味した上で、俺は結論を出した。良案が揃っているのであれば、全てを追求すればいいのだと。
惑星再生委員会に所属していたプロフェッショナルの両親、優秀な遺伝子と肉体をもつフローリアン姉妹。ミッドチルダ最高峰の英知と技術を持つ、俺の仲間達。
彼らが揃って良案を出しながらも実現できなかったのは、単純な理由だ。彼らが優秀だが、孤高だった。
孤立していたからこそ、足りなかった。
「まずアミティエの提案だが、ご両親については異世界ミッドチルダの医療機関に移設する。
コロニーへの移住には反対のキリエも、俺が住んでいる世界ならかまわないだろう。重体である父親は今の状態だと動かせないので、まずジェイル達に処置をしてもらった上でだ」
「それはすごくありがたいですけど……いいんですか。その、治療費とか」
「お前が働いて返してくれればいい。次にキリエの提案だが、両親を移設したあとで大々的に実行する。
ユーリの生命操作能力を最大限に活用して、この惑星エルトリアに生命を蘇らせる」
「えっ――えええええええええええええ、惑星丸ごとですか!?」
だったら俺が、彼ら全員を取りまとめればいい。
優秀な彼らが手を取り合えるように、俺が仲立ちすればいいのだ――海鳴の連中が、やっていたように。
ふふふ、俺という男は他人に丸投げをするのは大得意だ。これこそ、俺にしか出来ない無責任ぶりだ。
「ただ惑星全体となると中心部に干渉できる場所が望ましいらしい。そこでイリスからの提案で、あいつが元いた遺跡を提供してくれるそうだ。
キリエが場所を知っているから案内させればいいとかぬかしていたが、知っているか」
「は、はい……アタシとあの子が初めて会った遺跡ですね」
「ああ、なるほど……だからあいつ、嫌そうな顔をして案内を断ったんだな」
遺跡なる場所を知っているくせに、あいつは必死な顔で断りやがった。自分で提案しておいて何なんだ、あいつ。
無責任を責めようとしたが、俺も無責任に丸投げしているので全く反論できなかった。イリスの野郎、義理の分際で父親の俺に似てきやがったじゃねえか。
変なところで感心しつつ、話を広げていく。
「ユーリは珍しく自信満々で惑星エルトリアのテラフォーミングを提唱したんだが、実はこれには問題がある」
「すごくいい案、というか途方も無い力技に思えますが……他になにかありますか」
「単純に自然を蘇らせるだけでは駄目だと、今度はリーゼアリアが反対した。
この惑星エルトリア――確かに人の住める環境ではないだけれど、人以外の生命は芽吹いているんだ。
劣悪な環境に適応している生命。敢えてモンスターと言わせてもらうが、こいつらは今の環境で生きている」
「ユーリちゃんが生命操作能力で惑星の環境を変えてしまうと、モンスターの生態系まで変えてしまうということですね。
ですが、彼らは人を問答無用で襲う危険な生き物ですよ」
「全てがそうであるとは限らない。一個人の匙加減で全ての生命を活性化してしまうのは、むしろ危険だ。
下手をすると大人しい生物でも凶悪化するかも知れないし、動物だけではなく植物まで活性化してしまって暴走する可能性もある」
「なるほど……確かに私達も、この惑星の全てを知っている訳ではありませんしね」
ユーリが珍しく自己主張したこの提案を、子供に優しいリーゼアリアが優しく諭した。彼女の反論は今述べた通りである。
元時空管理局の本局に務めていた彼女は次元世界を多岐に渡って犯罪防止活動に取り込み、各世界の環境や生態系を調査した経験を持っている。
犯罪活動を行うのは、何も文明を持った世界だけではない。発展途上や生態系の乏しい世界であっても、犯罪者が蔓延る環境ではあるからだ。
病気に侵されているからと言って、薬を山程飲めばいいという訳ではないのだ。
「お話は分かりましたけど、では実際どうするんですか」
「リーゼアリアが惑星開拓計画を立案している。事前に素案を整理してくれていて、後は立地計画と分析を行っていけば勧められるそうだ。
そこで作業監督として名乗りを上げたのが、シャマルだ。あいつはクラールヴィントという道具を使いこなせる医療魔導師で、分析能力はピカイチだ。
シグナムが護衛に付く形で、惑星探索チームを編成している。生態系にも詳しく、動植物も調べられるから影響調査がスムーズに行える」
「すごいじゃないですか、是非私も手伝わせて下さい!」
リーゼアリアの提案に真っ先に手を挙げてくれたのが、シャマルだ。両親の移送も彼女の転移魔法による補佐も行ってくれるエキスパートだった。
生態系への影響はリーゼアリアの懸念により発覚したが、過去のベルカ時代でも戦乱などにより悪影響を及ぼしてしまった世界が多々あったらしい。
本人の素性は秘密なので詳細は明かせなかったが、分析スキルによって採用されて彼女が名乗りを上げることになった。
ここまで提案した上で、話を整理する。
「全部行うといったのはこういう事だ。どれかを優先しても、どこかに欠落が生じてしまう。
何故かといえば、皮肉ではあるが全員が優秀であるからだ。優秀であるがゆえに特化してしまい、バランスを崩してしまう。
惑星再生委員会――ご両親の努力も決して無駄ではなかった。彼らの努力が実らなかったのも、ひとえに欠落していたからだ」
「お父さんやお母さんのやって来たことは、間違っていなかったのですか……?」
「ああ、キリエには申し訳ないが俺は奇跡なんて起こせない。ご両親を回復させるのも、惑星を蘇らせるのも、俺では無理だ。
だからこそせめて、ご両親が足りなかったものを俺が補おう。全員の力を合わせた上で、全てを一から推し進めていくんだ」
「全てを一からやると、物資も資源も人材も膨大に負担が生じますよ。それは――」
「言っただろう。俺は足りないものを補いに来た。負担も責任も気にするな、それは俺がどうにかする仕事だ」
「魔法使いさん……ありがとう……ありがとう、ございます!」
――きわめて現実的な提案をしただけなのに、キリエに何故か泣かれてしまった。アミティエも感謝と感激で目元を滲ませている、何故だ。
要するにこの惑星開拓の責任者になるというだけだ。費用や物資を投入して、後は全部人任せにする簡単な仕事である。
あまり褒められた立場ではないのだが、何故か感謝されてしまっている。何の努力もしていないんですよ。
まあ、とはいえ慈善事業をしてやるほど俺も甘くはない。しっかり利益は取らせてもらおう。
「その代わりと言っては何だが、条件がある」
「条件――ひょっとすると剣士さんが以前から仰っていた?」
「資金や物資を然るべき組織から交渉して分捕ってくるから、見返りを求めたい。
この惑星エルトリアで、移民を受け入れてほしい」
地球で行き場を失っている者達――聖地で乱を起こした、人外の者達。
異種族の連中を異世界へ送る事業を、展開する算段であった。
<続く>
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