――荒廃によって静かに滅び行く惑星エルトリア。
死にゆく土地に残った家族。フローリアン一家。
惑星再生を夢見て研究を続ける研究者夫婦と、2人の娘であるアミティエとキリエの4人家族。
しかし父親であるグランツ・フローリアンが病に倒れ、惑星再生の夢が潰える。
そんな中キリエは遥か遠い異世界に、父の救済と惑星再生の希望を求める。
キリエを止めようとする姉のアミティエだったが、キリエは姉の制止を振り切って親友のイリスとともに異世界への旅に出る。
異世界での出会いは、二つの世界と二つの惑星の命運を賭けた戦いへと繋がってゆく――
「――何書いているんだ、シュテル」
「惑星エルトリア開拓史です。いずれ、父上を飾る伝記となるでしょう」
「そんな未来訪れないから」
「エンディングは、私と父上の結婚式ですよ」
「エルトリア開拓の果てにどうやって辿り着くんだ、それ!?」
とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第十七話
イリス事件の責任としての島流し、次元世界ミッドチルダからの追放――とはいえ、別に漂流させられる訳ではない。
惑星エルトリアは次元世界ミッドチルダより観測が不可能な次元に存在し、船一隻で流されるほど近場にあるわけではない。漂流なんてしたら完全に野垂れ死ぬ。
キリエとアミティエが異世界ミッドチルダへと旅立ったやり方を利用して、惑星エルトリアへと向かうだけだ。
そういう意味では惑星エルトリアへ出向するのではなく、アミティエ達と一緒に帰還すると言った方がいいかもしれない。
「剣士さん、そして協力者の方々。改めてようこそお越しくださいました」
「ここがアタシ達の故郷、エルトリアです」
時空管理局の管理内外にある新天地、エルトリア――地球とは別次元にある、惑星。
異世界という意味ではミッドチルダよりも、エルトリアの方が異なる次戦の世界であるという感覚が強い。目の前に広がる光景では、あらゆる生命が衰退していた。
キリエやアミティエの事前説明では砂漠のイメージがあったが、どちらかといえば荒野だった。貧弱な雑草が地面にしがみついており、むき出しの赤土がてらてらと光っている。
残酷なほど荒れ果てた風景には、ほとんど人気もないほど荒廃している。細々とした土地が枯れた川のように続いており、激戦地の跡もかくやと思わせるほど、大地が荒れ果ててしまっていた。
石ころだらけのやせた土地に、俺達は降り立った。
「環境汚染によって荒廃が進んでおりますわね、寒々しくて嫌になりますわ」
「資源枯渇による悪影響だろう、陛下が戦闘機人である我々を指名して下さったのも頷ける。一般人では生存を維持するのも困難だ」
「まずは環境の整備が必要だ、私の能力も役立てそうだな」
戦闘機人であるクアットロの皮肉めいた第一印象に、トーレやチンクが冷静な観点から意見を述べた。新しい世界へやってきたというのに、彼女達に高揚の兆しは特に見受けられない。
戦闘機人達の出向については、レジアス中将はむしろ歓迎していた節がある。当時は運用も考えていた戦力も、CW社の兵器開発にベクトルが変わったせいで戦闘機人の存在がむしろ邪魔になったのだ。
とはいえ、聖王教会に預けっぱなしにするのもよろしくはない。だからこそ俺と一緒にエルトリアへ島流ししてくれるのであれば、世間の目を誤魔化せて一安心といったところなのだろう。
厄介者の追放場所みたいになっているが、頼りになる面々なので良しとしよう。
「――で、この風景を見て何か思い出すことはない?」
「全く思い出せないです、何の感慨も浮かびません」
「こいつ……本当に、完膚なきまでに忘れているのね!」
「まあまあ、落ち着いて。これから新しい思い出を作ればいいじゃないですか、マスター」
「どうせまた忘れるんじゃないの、ユーリの天然ぶりからしたら」
「天然は関係ないじゃないですか、イリス!」
もしかしたら、とは思っていたけど、どうやらユーリは全く思い出せないらしい。過去の記憶は完全に消えていると改めて知り、イリスは青筋を立てている。
過去の思い出を思い出してしまうとフィル・マクスウェルとの関係も思い出してしまう事になるのだが、イリスは我関せず怒っている。
あの事件の最後にフィル・マクスウェルを自分で捕まえた事で、どうやら彼女の中でかつての父親と決別してしまったようだ。悲しい色を何一つ見せず、ユーリと言い争いをしている。
ワイワイ騒ぐ中でふとイリスは俺の視線に気づき、仏頂面を浮かべて視線をそらした。やれやれ、まだ慣れないか。
「クラールヴィントを使って惑星観測を試みたけれど、種族が不明な生命体が多数存在しているわね」
「お前のデータベースにも存在しない生物か。過酷な環境に適合しているとなると、厄介だな。我々に牙を向ける連中も多くいるだろう」
「ご家族の事ははやてから聞いていましたが、頼もしい方々で安心しました。過酷な仕事となりそうですが、改めてよろしくお願いいたします」
「こちらもお前の事は主より聞いている。よろしく頼むぞ、テスタロッサ」
「はい!」
ジュエルシード事件を通じて結ばれた縁により、シグナム達との接点が生まれたフェイト。とはいえ多くの面識はなく、こうして初顔合わせとなったわけだ。
元々シグナム達は闇の書より誕生した当初は俺とはあまり関係こそ良くなかったが、地球との日々を通じて温厚となり社会に適合していった。
フェイトもまた母親や姉と共に罪の償いをしていくことで、人間社会に馴染んでいった。彼らのそうした道程の先で、出会いの場が生まれたのである。
腕が鳴ると盛り上がっているあの馬は、剣士としても共感できる。
「ガジェットドローンの運用が見込めそうで大変結構ですね。ついにローゼの出番がやってきました」
「留守を預かる忍さんとの共同で開発した機動外殻の数々も役立ちそうです。これは父上の好感度、いただきですね」
「お姉ちゃんに変わって、剣士さんの役に立ちます」
主従トリオが何やら異端の盛り上がりを見せている。連れてきたというよりついてきたと言っていい張り切りようであった。
何やら色々持ち出してきたらしいが、一応手続きとか検問とかあったはずなのだが、どうやってクリアーしてきたのやら。
なまじ頭がいい優秀な連中なだけに、あらゆる反則技を思いつきそうなのが怖い。放置したいが、放置していくとどこまでも転がっていってしまう。
頼りたいが頼りにしたくないという、不思議な感覚を抱かせる狂った少女達だった。
「うおー!!」
「こら、ナハト。勝手に飛び出していくんじゃないの!」
「ちょっと、ナハトを怒らないであげて。子供が元気なのは良いことでしょう」
「元気が良すぎるのよ、あの子は。新しい世界にワクワクして大冒険の旅に出たらどうするのよ」
「駄目よ、ナハト。独り立ちはまだまだ早すぎるわ!」
確か聖地へ初めてきた時も、あいつ一人で街中を飛び回っていたとシュテル達から聞いている。ナハトヴァール、新世界へ到着して絶好調であった。
正直俺もワクワクはしているので血は争えないと言ったところか、血縁はないけれど。大はしゃぎする子供を前に、親代わりの連中はハラハラしていた。
途中話を聞いてきたのだが、本当に後事はリーゼロッテに全部押し付けてきたらしい。イリス事件に強引な介入をしてきたのが、よほど腹が立っていたのだろう。
泣きながら書類仕事をしていると聞かされて、同情した。蒼天の書が元闇の書なのは事実だったのに、気の毒に。
「お父様がご同行を快くお許しいただいたのよ。絶対にこの使命をやり遂げてみせましょう、オットー」
「ヴィヴィオ様からもよろしく言われているしね、僕達で父さんの力になろう」
「気概があって大変結構なことだ。同じ父を持つ子として、我々も励むぞ」
「オッケー、ボクに任せてよ。いっぱいがんばっちゃうぞー!」
ちなみに余談だが、戦闘機人達の中で唯一セッテだけお留守番している。あいつの能力は貴重だが、開拓という一面ではあまり生かせないからだ。
偵察任務には適しているが、セッテのディープダイバーは環境に依存している。透過能力は過酷な環境下に置かれると、逆に毒となってしまいかねない。
地面の下がどんな環境なのかもわからず飛び込むのは、危険にすぎる。セッテの能力は多様性に満ちているが、万能ではない。整備された世界でこそ、多面的に活かせるのだ。
あいつ本人も開拓なんていう泥仕事は嫌なのか、今日もヴィヴィオの護衛でのんびり生きている。
「では剣士さん、早速で申し訳ないのですが――」
「あたし達の家に皆さんを招待します。それであの……お父さんとお母さんのこと、どうかよろしくお願いいたします!」
「う、うむ……まあ気を大きくするといい。一応医者を連れてきているからな」
「やや専門外という意味では一応の医者というのはいい表現だね、ウーノ」
「博士、陛下に丸聞こえですよ」
「もっと希望を持たせろ、お前ら!?」
――ついに、この時が来てしまった。
不治の病に侵された父親と、体を悪くしている母親。奇跡に縋るしかないこの状況で、アミティエやキリエに縋られている。
今までなし崩し的に承諾していたが、ついに実際の瞬間がやってきてしまった。当然だが、現時点で回復の見込みはない。
今更出来ませんでしたとはいえず、さりとて治療する完璧な手段はない。誤魔化し続けていたが、ついにこの時が来てしまった。
期待とプレッシャーを一身に背負って、俺はフローリアンの家へと案内された。
ほんと、どうしよう……
<続く>
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