とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第九話




 家族が会いに来ると聞いて複雑な心境になるのは、思春期ゆえの感性かもしれない。

今の俺の家族はユーリ達だが、昔を問われると若干腹ただしいが孤児院の連中をあげるだろう。ごく最近、再会したしな。

俺も母親を気取るあの女が会いに来ると聞いた時は、戦慄したものだ。全く会いたくない訳ではないのだが、顔を合わせるのは少し抵抗があるという感覚。


神咲那美は実に良い子で家族思いである筈だが、その心境はいかなるものだろうか。


「ラーメン食いながらでいいから、話を聞いてくれ」

「うむ――というか仮にも共通の友人の重い話だというのに呑気だな、俺たち」

「そんなもんだろう。友達だからこそ遠慮しないもんさ」


 ラーメン屋なんぞ似合わない美人の分際で、中華の親父より小憎たらしい笑みを浮かべて、熱いラーメンを啜る女。絶対にデートだとは思いたくない。

友人同士で、共有の友人のことを語る。思春期で言うなら、青春とでも言えばいいのだろうか。謎であり、未知なる感覚であった。

考えてみれば昔は女と一緒に行動するなんて嫌だと思っていたはずのに、今では二人きりでも平気で受け入れられている。会話も普通にできているから怖い。


ともあれ、俺はリスティとラーメン屋でバカ話でもするかのように、那美の事を話していった。


「お前、あいつが九州から来たのは知っているよな」

「ああ、ただ具体的な出身までは聞いていないな」


「はは、意外とそういうもんさ。何をかくそう、那美鹿は鹿児島出身だよ。
風芽丘に入学する時に、この海鳴市に引っ越して来たんだ」


 ……俺は中卒なので学業に関しては詳しくないのだが、学生の身分で九州から単身で遠い海鳴までやってくるのは相当珍しいのではないだろうか。

俺が孤児院を出て日本中を旅したのに、目的地は特になかった。自分ひとりでも生きていけるという過信と、自分は強いという傲慢があっただけだ。

その結果那美と目的地が同じだったというのだから、巡り合わせというしかない。因果という線は誰に繋がっているか、本当に予想もつかない。


俺は自分の疑問をそのまま、素直に尋ねた。


「なんでまたわざわざ九州から出て、この街にまでやってきたんだ」

「理由は幾つかあるんだが、その一つが先程話した身内が関係している。そいつも学生の頃、那美と同じ軌跡を辿ってきたのさ。
九州から出て風芽丘に入学し、さざなみ寮へと引っ越してきた」

「なるほど、当てはあったんだな」


 身内というのがどんな奴なのか知らないが、那美が同じ軌跡を追ったのだから、きっと彼女にとって尊敬すべき人なのだろう。

この街がどういう場所なのか、俺も全貌までは把握していない。懐が広く、自然豊かで雄大な土地。山と海に囲まれた人達は優しく、気高い。

俺のような流れ者でも生きていけるのだから、海鳴という風土に憧れるのも無理はない。


人であれ、人外であれ、この地では受け入れてくれるのだから。


「九州から単身、越してきた身だからね。実家から勿論仕送りは受けているけど、働いてもいるんだ」

「それがひょっとして……巫女さんなのか」


「何エロいことを考えているんだ、お前は!」

「ラーメン屋で何いってんだ、お前は!?」


 麺をチュるりと滑らせながら箸を突きつける銀髪女に、餃子を口に放り込ませて黙らせる。絶対、中華を食いながら話す事ではない。

どこで働いているのか、正確には知らない。では何故巫女なのを知っているかというと、異世界での標準装備だったからだ。

聖地で蔓延する邪念を祓うべく、彼女は巫女服を着て浄化作業に務めてくれていた。信徒達にとっては、彼女も聖女の一人と言えるかもしれない。


愛らしき彼女の姿は、共に働く俺達にも心の癒やしを与えてくれた。


「風芽丘学園に通いながら、海鳴市西町にある八束神社でアルバイトをしているんだ。神社の管理代理と巫女をやっている」

「……その神社も、実家からの紹介なのか」

「うーん、代々の実績というべきかな。実家からの紹介なのは事実だけど、さっき言った身内も含めて退魔師連中が結果を出してる。
そうした積み重ねがあるからこそ、那美のような若い子でも神社の管理代理が任されているんだよ」

「退魔師がどうこうというのは関係あるのか」

「勿論だ。やましい事なんてなにもないけれど、表沙汰に出来る家業でもないからね」


 リスティの表現には若干の反発と、それでいて深い納得があった。表と裏、二つの顔を使いこなしている連中を数多く知っているからだ。

俺も剣士として生きているが、この現代で堂々と名乗れる生き方では決してない。道場破りなんぞしていたあの頃は、粋がっていただけだ。

かつて通り魔としての強行に出た師範の爺さんも、表だけに生きていくのは耐えられなかった。だから、人斬りとしての本性を表してしまったのだ。


高町なのはは魔導師と学生を両立させつつ、将来は喫茶店の店主という生き方を選んだ。人それぞれ、生き方は決して一つではない。


「以前から気になっていたんだが」

「うん?」

「幽霊だの妖怪だの、どうして表沙汰にならないんだ。都市伝説レベルで留まり続けている」

「それは勿論、お前の知る退魔師などの努力あってこそだろう」

「だからといって、全く夜に出ないのは変じゃないか」

「ああ、聞きたいのはそういう事か――この現代を担う側、いわゆる政府関係者などは把握しているよ。一部だけどね。
警察関係者だって協力している、僕もその一人だ。表沙汰になっては騒ぎになるからな」


 やはり政府や警察関係者も協力していたのか。でなければ、那美達が平穏な性活を何不自由なく送れているとは思えないからな。

なんでそんな事を聞いたかというと、聖地では俺達白旗や聖王教会が協力していたからである。那美の存在を保証するために。

この原題と違って、人外の存在を完全に隠し通すのは残念ながら不可能だった。何しろ俺自身があいつらと聖地で派手に戦ったのだ、隠すなんて無理である。


カリーナお嬢様やレジアス中将達が俺を神輿として持ち上げるのは、そうした怪奇を英雄という伝承で覆い隠す為でもあった。


「那美の実家もひょっとして、政府筋のお偉いさんだったりするのか」

「それは穿ち過ぎだ。あいつの実家は剣道道場で、『神咲一刀流』という看板を背負ってる。道場生だっている、立派な剣術道場だ。
現在は確か父親が当主で、あいつの兄貴が継ぐらしいな」

「なるほど、だからあんなに立派な短刀を持っていたのか」


 ジュエルシード事件などで那美から雪月という短刀を借りて、戦ったことがあった。見惚れるくらいの業物で、切れ味も抜群な一品である。

剣術道場出身と言う割に那美は剣士の生業ではなかったが、おそらく高町なのはと同じく資質そのものがないのだろう。

道場出身者だからといって、絶対に関わらなければならないという法律はない。那美もなのはも平和を愛する少女だ、後継者が他にいるなら強制なんぞされない。


那美の実家については関心があったので、引き続き聞いてみる。あいつの問題にも深く関わっているだろうから。


「神咲家は400年も続く由緒正しい退魔師の家系で、警察とも深く繋がっている。剣術もそうだ。
正式名は『破魔真道剣術・神咲一灯流』と言って、那美のように祓うだけでは無く、時には魔を斬り殺すことも主眼に置いている流派だ」

「道場で掲げている『神咲一刀流』は、あくまで表として知られている訳か」

「ここからちょっと複雑な話になるんだが……本人から許可はもらってるから話しておこう。
那美は戸籍上神咲家の次女ではあるんだけど、もともとは神咲家とは無関係な神社の子なんだ」

「あいつ、もしかして養子なのか」


「――あいつは幼い頃自分の目の前で、妖しなる存在によって両親が殺された。
あと一歩の所まで追い詰めながら封印が間に合わなかった神咲家が責任を感じて、あいつを養子として引き取ったんだ」


 想像以上に重い話で、思わず絶句する。それでいて、神咲並みという少女の強さの根幹を思い知った。

妖怪に両親を殺されたのであれば、必ずといっていいほど憎むだろう。復讐を誓っても何ら不思議ではない。


しかし神咲那美は、平穏に生きている。幽霊や妖怪を見ても憎しみを向けず、癒やしを与えることに注力しているのだ。これは、信じられない話だ。


聖地へ一緒に行ってくれた時、あいつは数え切れないほど妖怪や幽霊と向き合っていた。悪意を持った連中だって腐るほど居たのだ。

けれど決して害意を持たず、どうやって平和に解決できるのか、真剣に考えていた。あいつの協力があったから、人外と戦争にならずに済んだと言い切れる。

退魔師としての資質はないのだと本人は自嘲していたが、とんでもない。あいつこそ、立派な癒やしの巫女だ。


「あいつはさ、自分と同じ思いをする人はもう出て欲しくないとの思いから退魔の道に進んだんだよ」

「……」

「もともと神咲家の人間でないことから霊力には恵まれておらず、残念ながら剣技の才能もなかった。
ただヒーリング能力に秀でた特性があったからな、霊と対話し説得して天に返す鎮魂術を仕込まれたんだ」

「別に、何でもかんでも斬り殺すだけが退魔ではないだろう」

「おや、剣士のお前がそう言うのか。以前なら軟弱と罵っていただろうに」

「くそっ、笑うんじゃねえよ。俺だって自分の心境には今も戸惑っているんだ」

「ククク、ああ悪い。別にからかう気はなかったんだ、お互い自分の心境の変化には驚くよな」


 たしかにこの話、ラーメンでも食いながらでなければ、とてもシラフでは語れなかった。食事というのは偉大である。

大方食べ終わったところで、いよいよ本題に迫った。


「幽霊には幾つか種類があるんだが、中には言う事を聞かずに攻撃する霊もあってな、那美のようなやり方だと本人が傷つくケースだってある。
だからこそなんだろうが、退魔の道を歩むあいつを身内だって心配する」

「そりゃそうだろうな、何でもかんでも平和には解決しない」

「だからこそあいつは神社の仕事をしていて、その神社が実家につながっているんだ。ここまで言えば、分かるだろう?」

「……異世界へ行ったまま何ヶ月に帰ってこないから、神社が不審に思って家に伝えたのか」

「那美のような真面目な奴が急にバイトを休んだら、誰だって気にするさ。事情を知る僕らもフォローはしたんだけどさ、退魔の仕事まで休んじゃうと言い訳がきかない。
それで今退魔師として全国を飛び回る生活を送ってくる、あいつの姉貴が様子を見に来ることになった」

「なるほど、事情は分かった」


 昨年までに異世界の事件を解決できたのは、不幸中の幸いだったかもしれない。あっちが騒いだままだったなら、那美も気が気でなかっただろう。

少なくとも事件はすべて解決しているので、那美がこれ以上異世界に関わることはない。あいつは今後の協力も惜しまないと言ってくれているが、全てにおいて甘えるわけにはいかない。

ここは一つ骨休みとして、あいつには学業とバイトに専念していてもらおう。一生懸命頑張ってくれたのだ、せめてこの現代におけるあいつの日常を守らなければならない。


俺は早速、相談を持ちかけたリスティの懸念を解消することにした。


「説明すると長くなるので結論からいうが、異世界における全ての問題は解決した。那美が関わらないといけないことはもうない」

「ふむ、それは那美のことを思いやって虚勢を張っている訳じゃないな」

「本当だ。俺は別件でまた異世界へ行くが、ボランティア活動みたいなものだから別に那美が関わらないといけないことではない。
あいつはあいつで俺達のことを気にするだろうけど、リソースを割かなければならない話じゃない。それはあいつだって分かっている。

もう大丈夫から、そっちに専念してくれ」

「それを聞いて安心したよ。正直そこまで手は回せないし、だからといってお前が困っているから放置もできないからね」


 これで問題は解決だとお互いに笑って、最後に水を飲んでラーメンデートは終了した。

やれやれ、これで一安心である。



「そんじゃ、春には帰ってこいよ」

「へ、なんで?」

「那美が実家への手紙でお前のことを書いてたらしくて、姉貴が会いたがってる。紹介するってさ」

「おい、そっちのほうが俺には問題だぞ!?」


 女の子が実家への手紙に、男の名前を書くんじゃない!

最後に爆弾を投げられて、俺はのけぞった。















<続く>








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