とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第八話
これからも是非仲良くしてくださいと、何故か握手まで求められて、俺は海鳴大学病院を後にする。
俺から異世界に関する事情を話すつもりだったのに、予想外にフィリスに関する重要な話を聞いてしまった。HGS能力、魔法とは違う超能力じみた異能。
以前俺と戦ったリスティは確かテレポートやサイコキネシス等を活用する強敵で、シュテル達の支援がなければ危ない相手だった。フィリスにも異能はあるらしい。
HGS能力者を人間兵器として利用しようとする組織、劉機関。マフィアは今世界中で討伐されて追い詰められている分、余計に注意する必要がある。
「お、きたきた」
「なんでお前が病院へ来ているんだ、リスティ」
G病棟での検査を終えて病院窓口へ戻ってみると、リスティ・槇原が受付口で座って待ち構えていた。顔を見るのは久しぶりだ。
ニヒルな笑顔が小憎たらしい女だが、フィリス似の銀髪美人で、性別を問わず人目を嫌というほど惹きまくっている。美人は人生の得だ。
俺にとっては見慣れた顔なので、別段意識することはない。過去戦った相手ではあるが、既に和解しているので今更追求したりはしない。
リスティ本人は若干気にする素振りを見せているが、少なくとも表立って態度に出すことはしない。彼女も大人だ、和解した以上俺に気を使わせたりはしない。
「お前に話があってきた。昼飯、奢るから付き合ってくれ」
「どうせフィリスに俺が来たら連絡するように頼んでいたんだろうが、二度手間になるだろう。同席しておけよ」
「若い男女が二人きり、邪魔するほど野暮じゃないよ」
「病院で何言ってんだ、お前」
フフンと不敵に微笑んで揶揄する超能力者を、剣士として睨みつける。この不敵な態度に、俺は背景を察した。
多分フィリスは俺が診断に来たら、自分で全てを打ち明けるつもりだったのだろう。リスティはそれに便乗して、自分の素性を語ってもいいと許可した。
その上で俺が変わらない態度で接してきたから、自分達HSG能力者を受け入れてくれたのだと悟ったのだ。
だからこそ男と女の関係になったのかと、こうして嫌な笑みを浮かべて聞いてくる。残念だが、女の秘密を知ったくらいで色恋沙汰になるような剣士ではない。
「いいから付き合えって。これでもお前のために色々尽くしてやったんだぞ、女として」
「お前は断じて尽くすタイプじゃない」
「うら若き乙女にひどい奴だな……私じゃなくて、那美のことで話がある」
「! 那美――あいつがどうかしたのか」
「おっ、顔色が変わったか。一度フラれたとは聞いてたけどリベンジできそうじゃないか、あいつめ」
「おい、真面目に話せ」
「病院で話すことじゃないし、うまいラーメンと餃子でもつつかないと口が滑らないんだ。
なんせ誰かさんを異世界とやらで手伝ってたせいで、留年の危機になりかけたんだからな」
「ぐっ……その件か。分かった、割り勘で話そう」
「そこは奢ると言えよ、男なんだから」
「女のくせに奢られるのが嫌とかいう、つまんないプライド持ってるからなお前」
会計の窓口へ行くと支払いは済んでいるというフィリスの好意をからかわれつつ、俺達は病院を出てラーメン屋へ向かった。
神咲那美の件となれば、思い当たる件は山ほどある。何しろあいつと久遠は俺を手伝うべく、異世界のベルカ自治領へ出向してくれていたのだ。
イリスの事件では流石に手伝わせる訳にもいかなかったが、それでも学校と異世界を往復する形で色々とサポートしてくれていた。
魔女や異教徒達が蔓延るベルカ自治領で、退魔師の存在は非常に大きかったが――あいつはまだ、学生なのだ。
「浪速ラーメンと辛口チャーハン、餃子二人前で」
「北海道ラーメンと中華焼きそば一つ」
「あいよ」
学生といえば月村忍も一緒だったのだが、あいつは両親もおらず学校生活にも大した興味がない不良娘だ。
しかも異世界生活に味をしめたのか、大学には行かないと公言している。さくらは難色を示したが、異世界での実績を見て諦めたらしい。
CW社でノエルやファリン、そして新兵器開発にまで深く関係しているあいつは、ジェイルと並んで技術主任に収まっている。
あいつになんぞ払いたくないが、素晴らしい成果を上げているので高給を支払っている。もはやあいつは、卒業できればいいという態度である。
「学校からさざなみ寮に電話があったんだよ、欠席が多いと」
「休校していたとは聞いていたが」
「休校ってのは別に、学生を楽させる制度じゃないからね。やむを得ない事情で登校できない学生への配慮だ。
で、あいつはそのやむを得ない理由ってのがとんでもない訳なんだ。真雪にだって、説明するのが本当に大変だった。
ちなみに真雪の事、覚えているよな」
「忘れるわけねえだろう。あの保護者気取りの漫画家、休校を許す見返りに俺の体験談を赤裸々に話させたんだぞ」
「はっはっは、お前はほんとお伽噺もビックリな人生を送っているからな。僕やフィリスの素性なんて可愛いものだったか」
仁村真雪は若手の人気少女漫画家で、さざなみ寮の家主さんとも仲のいい住民だ。神咲那美の休校について理解を示してくれている人でもある。
ヤクザな家業の女だが常識人ではあり、家族や仲間を大切にする人情家だ。だからこそ、俺のような怪しい男にはきちんとした対処を行う。
神咲那美の意思を尊重しつつも、彼女の人生を異世界へといざなった俺には厳しい態度を見せている。優しいからこそ、厳しいのだ。
日本と異世界の往復は、学生でしかない那美には辛い。
「寮に電話があったのは本当に幸運だった、僕や真雪から説明できたからな。だが、このままいくと実家にまで連絡されるようになってしまう」
「あいつの家って確か、九州にあるんだっけ」
「神咲――お前も知っている通り、退魔の家だ。長くも古き家を背負っているだけに、非常に厳しい」
「……」
俺が那美の素性を知ったのはジュエルシード事件の時だが、彼女の告白で多少ではあるが家のことも教えてもらっている。
考えてみれば九州からどうして海鳴にまで出てきたのだろうか。俺は自分のことを語らず、あいつも自分のことを話そうとはしない。
信頼されていないなどと、今更思ったりはしない。大切なのは今の関係であって、昔がどうとかお互い気にしたりはしないのだ。
だからこその関係だったのだが――
「万が一家にまで現状が伝わってしまうと、あいつの今を保てなくなる」
「退学させられてしまうとでも言うのか」
「転校はさせられるかもしれないな。少なくとも、この街からは離れなければならなくなる」
「……確かに休学にまでなっているのは由々しきことではあるし、それに甘えていた俺にも責任はある。
少なくとも異世界での一件は概ね片はついたから、あいつにこれ以上無理はさせないようにすることは心がけよう」
「そうしてほしい、と言いたいが――ちと遅かったかもしれないな」
「何だと……?」
俺が前のめりになった途端、テーブルの上にズドンとラーメンが置かれる。
お待たせしましたの一言も言わずに、店の店員が次々と料理を運んできたのである。このラーメン屋の愛想の悪さは、俺に匹敵する。
しかしながら客が求めているのは愛想ではなく、味である。そして味という面では一流であるからこそ、この店は客が絶対に絶えない。
話を中断させられて釈然としない心持ちでいると、リスティが箸を持って突きつけてくる。
「ちゃんと話してやるから、座れ。フィリスに僕のことを話していいと許可したように、那美から僕に話してもいいと言われているんだ」
「なんであいつが、お前を通すんだ」
「お前な……恋愛こじらせてる女が、男に弱みなんぞ見せられるか? 迷惑をかけたくないと思うのが人情だろう。
お前自身は変わったかもしれないが、お前にそうそう合わせられないんだよ。思春期ってのは複雑なんだから」
「だから、お前が買って出た訳か……お前だって変わったんじゃないか。いつからそんなにお節介になった」
「そこまで人情家でもないつもりだったんだが、お前の事になるとどうしてもな。他人とはもう、思えなくなった」
「リスティ……」
「――だから言っただろう。ラーメン食いながらでもないと、話せないってさ」
「なるほどな」
――大人になると、自分の照れた顔を相手に見せたくない見栄というのがある。
お互いに苦笑して箸を取り、ラーメンを啜った。最近家族での食事が多かったから、友人同士で食べるのが久しぶりな気がする。
こうして大人同士の重い話は――ラーメンをつつきながら、何気なく始められた。
「九州から、あいつの身内が来る」
<続く>
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