とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第五話
                              
                                
	 
 
 夜の一族の姫君達と俺の子供達との初対面は、誰がどう見たって最悪だった――既視感を感じるほどに。 
 
そもそもの話、親である俺でさえもこいつらとは初対面時は全員敵だったのだ。今でこそ仲良くしているが、命を狙われたことは未来永劫忘れないぞ。 
 
今は好意を持たれているようだが、だからといって子供にまで無償の愛を授けられる筈がない。しかもそれぞれに違った溝がありそうで、なかなか複雑な人間関係が描かれていた。 
 
 
険悪になりそうなので、仕方なく手を上げてやる。 
 
 
『画面越しに言い争いしても不毛だから、会う機会を改めて設けようぜ』 
 
『そうですわね、王子様の顔を立てて今回は引き下がってあげましょう。 
シュテルと言ったかしら、偉大なる親の顔を汚さないように精進しなさい』 
 
『勿論です。私がいれば愛人など不要だということを、証明してみせましょう』 
 
『……ああ言えばこう言うところは王子様に似ていなくもないですわね』 
 
『世界会議の時どういう目で俺を見ていたんだ、お前!?』 
 
 
 振り返ってみれば、世界会議の場でよく論戦を交わしていたのはカレンだった気がする。アメリカの勢力は親がカレンの言いなりだったからな。 
 
カレンは険悪な態度こそ見せているが、シュテルの事は多分それなりには気に入ったのだと実は思っている。 
 
何故ならカレンという女は人間関係には非常にドライで、無意味かつ無価値な存在であれば歯牙にもかけない筈だ。相手にもしないだろう。 
 
 
直々に目をかけているだけ、シュテルの事は評価しているように思える。実際親バカではなく、シュテルは有能な女の子だからな。 
 
 
『当然、貴様が我に会いに来い。王たる者が直々に足を運ぶなどありえぬからな』 
 
『いいだろう、我が父の尊名を掲げて拝謁願おうではないか。我も以前より、父が大いなる活躍を行った異国の地へ行きたいと思っていたのだ。 
聞けば長殿と父はその昔、王の座をかけて争ったと聞いている。我も今から血が逸る想いだ』 
 
『ふむ、随分と懐かしい話だ……貴様の父はやんちゃでな、分不相応にも我の拝謁を願うべく自ら我が城へ乗り込んできよったのだ。 
本来であれば無礼者として容赦なく首を取るところではあったが、なかなか見所がありそうだったので我自ら試すべく――』 
 
『ムシャクシャして八つ当たりしていただけの話を、勝手に美談にするんじゃない。俺は今でもお前が他の人間達を床に転がしていたことを忘れていないからな。 
あの時俺が救助したハゲの護衛は、その後無体に扱っていないだろうな』 
 
『き、貴様、子供達の前で主の失態を赤裸々にするのではない! 我とて寛大な王だ、真価と認めた者を無碍に扱ったりなどするものか。 
貴様の活躍を聞いて、目を輝かせておったぞ。また貴様に会いたがっておったわ』 
 
 
 カーミラとディアーチェは似た者同士ではあるが、近親憎悪といった感情はなさそうだ。対立しているように見えるのは、プライドの高さだろう。 
 
初対面で安々と認めないのは、それだけ互いに深い理解が必要な存在だと認めているとも言い換えられる。薄っぺらな人間であれば、初対面で大凡看破できるからだ。 
 
ディアーチェが生粋の王であるのは言うに及ばず、カーミラもまた次代の夜の一族の長として頭角を見せている。 
 
 
あの時役割を押し付けた俺の判断は、間違っていなかったと言える――言い訳に過ぎないけれど。 
 
 
『以前より再会のお約束をさせて頂いておりましたし、貴女様のご家族とお会いできるのであれば私も賛成です。 
レヴィちゃんは貴方様によく似て可愛い子ですし、是非とも仲良くさせていただきます』 
 
『おお、そんなにパパに似てる!? わーい、ありがとうおっぱいの人』 
 
『そ、その呼び方は恥ずかしいのでやめて頂けると……私は貴女のお父様の女に過ぎませんので』 
 
『こいつら、言いたい放題すぎる』 
 
 
 娘にとって父親似なんてありがたくないと思うのだが、ディアーナに褒められたレヴィは有頂天だった。ちゃっかりディアーナも変な事を言い出しているし。 
 
レヴィとディアーナの関係は良好だった。考えなしの子と、考えあって親交を深める女とでは、波長が良すぎる。噛み合わない理由は何一つなかった。 
 
ディアーナ・ボルドィレフは非常に頭が良く、裏表問わず人脈を広める友好性がある為、子供に合わせて話すなんて簡単だった。すぐに気に入られている。 
 
 
一方で、子供と子供とでは相性が悪かったりする。 
 
 
『えー、クリスこの子にわざわざ会いたくない』 
 
『うんうん、ボクの方が可愛いしね』 
 
『何言ってるの、クリスの方がカワイイに決まってるでしょう』 
 
『ボクだよ!』 
 
『クリス!』 
 
『だってボクはパパに似てるもん、へへん』 
 
 
『ウサギ、こいつ殺していいよね!?』 
 
『ダメダメ、俺の子供だから』 
 
 
 クリスチーナがロシアンマフィアきっての殺し屋でも、ミッドチルダ有数の実力であるレヴィ相手には勝ち目が薄いと思うがどうだろうか。 
 
単純な勝負ならレヴィが有利だろうが、殺すという観点から見るとクリスチーナに分がある気がする。殺戮においては際立っているしな。 
 
犬が吠えあっていると言うより、プライドの高い猫同士が睨み合っている印象の二人。仲が良い悪いではなく、お互いの個性がとにかく強すぎる。 
 
 
宥める必要がないという意味では、この二人がとにかくピースフルだった。 
 
 
『ナハトちゃん、君と会う時はお土産を持っていくね』 
 
『おー!』 
 
『女の子だから可愛いのがいいかもしれないけど、小洒落たのよりは美味しいお菓子がいいかな』 
 
『ありがとー!』 
 
『あはは、お礼が言えるんだ。リョウスケと違って、礼儀正しい子だね』 
 
『子供達の前で親の無礼を責めるのはやめろ』 
 
 
 カミーユとナハトヴァールの相性は抜群で、二人して機嫌良く笑い合っていた。?フランスの貴公子は子供にも優しいハンサムさんだった。 
 
ナハトヴァールは姉こそ多いが、兄がいない。頼り甲斐があって優しい人に巡り会えて、始終ニコニコ笑っている。 
 
一度フランスにでも家族旅行に出かけるのも悪くはないかもしれない。俺もナハトも旅が好きな親子だ、新しい地へ行くのは楽しみでもあった。 
 
 
一方で、対面するのを望まない二人もいる。 
 
 
『貴女の愛する父親の前で、突然婚約者を名乗る女が出てくれば混乱するのは無理もないわ。私に、時間をいただけないかしら』 
 
『……わたしの意見は変わりませんよ』 
 
『貴女の考えは尊重するわ、ユーリ。お父さんを大切に思うその気持ちは、私にとっても喜ばしいことだもの。 
私を愛してほしいだなんて言わないわ。ただわたしは、貴女とも家族になりたいの』 
 
『でもお父さんと結婚すれば、貴女はわたしの母親になってしまうじゃないですか』 
 
『世間がどう言おうとも、大切なのはわたし達の関係じゃないかしら』 
 
『あなたが……優しくて素敵な人だということは分かりました。 
でもわたしは貴女をお母さんだなんていえませんし、お父さんにも結婚してほしくないです。 
 
我儘を言っているのは分かりますし、お父さんには幸せになってほしいけど――でも、嫌なんです』 
 
 
 ユーリは優しい子だった。ヴァイオラは優しい女性だった。だから、人間関係がうまくいくとは限らない。 
 
優しいからこそ相手を尊重するが、優しいからこそ気持ちを受け入れられないことだってある。優しい人だから好きになれるほど、単純ではないからだ。 
 
俺は二人を知っているからこそ、仲違いの理由がわかる。ユーリもヴァイオラも、心が繊細なのだ。 
 
 
熱く握手を交わして笑い会えるほど、二人は図太くはない。 
 
 
『今日はお話してくれてありがとう、ユーリ。また絶対に会いましょう』 
 
『お話できたのは、良かったです……でも、わたしは会いたくないです』 
 
『だったらまた、お話だけでもしてくれるかしら。電話でも、お手紙でもいいわ』 
 
『手紙、ですか……メールとは言わないんですね』 
 
『ええ、貴女のお父さんは文通相手が多いのよ』 
 
 
『えっ、初めて聞きましたよお父さん! 女の人が多いんですか!?』 
 
『何故女に限定するんだ、お前!?』 
 
 
 待て、ユーリはともかくとしてヴァイオラも何故俺が文通していることを知っているんだ。教えた覚えはないぞ。 
 
フィアッセやフィリスの姉妹分でもあるセルフィ・アルバレット、現在は米国籍で災害対策の仕事をしている有名人だ。今でも手紙による交流は続いている。 
 
海外や異世界へ出向く事も多々あったが、やり取りは今も続いている。異世界であろうと海外であろうと、日本を経由して手紙が送られるシステムは確立しているのだ。 
 
 
メールなんぞというシステムがある中で手紙を送るやり取りが好まれて、セルフィを通じて彼女の友人達とも文通するようになった。 
 
 
『お父さん、わたしもお父さんと文通がしたいです』 
 
『毎日会っているだろう、お前!』 
 
『ではわたしと文通をしましょう、あなた』 
 
『あー、ずるい! やっぱり、貴女は嫌いです!』 
 
『では、ユーリと文通をしましょう』 
 
『えっ、わたしと!?』 
 
『文通がしたいのでしょう?』 
 
『え、でもお父さんとしたいのであって……うーん……』 
 
 
 俺は、知っている。ヴァイオラという女は貞淑だが押しが強く、俺の婚約者を名乗るような強引な女だということを。 
 
対してユーリはミッドチルダ最強とも言える強さを持っているが、押しが弱い。そして、割と人見知りである。 
 
今は抵抗する素振りを見せているが、この調子だと押し切られるだろう。ヴァイオラとユーリの関係は、手紙を通じて始まりそうだった。 
 
 
話もまとまったところで、俺は大きく伸びをする。 
 
 
『さてみんな仲良く語り合っていてくれ、俺は一旦席を外す』 
 
『王子様。まさかとは思いますが、わたくしよりも優先すべき用事があるとでも?』 
 
『怖いから睨むな!? 命に関わるんだよ』 
 
『命? 何処へ行かれるのですか』 
 
 
 
『病院』 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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