とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第四話




 シュテル達とのことは以前にも少し説明はしたのだが、どうやら納得はしていなかったらしい。

カレン達はともかくとして、婚約者であるヴァイオラが気にかけるのは無理もない――いつの間にか、彼女を婚約者として周囲が受け入れつつある現状はともかくとして。

シュテル達の存在については段階がある。人外の存在、異世界の存在、魔法の存在、闇の書の存在。どの事実を知っているかで、彼女達の説明は変わってくるのだ。


まずシュテル達は厳密に言えば、人ではない。地球生まれでもない。闇の書から生まれて、魔法が使える。どの程度を知っているかどうかで、説明すべきポイントが異なる。


『そもそもの話、俺に子供がいる事自体は変だと思わないのか。
どうせあの子達の事は写真か映像で見たんだろうけど、十代の俺があんな可愛らしい子供達が出来る訳がないだろう』

『わっ、さり気なく子供自慢している。どういう心変わりがあったの?
世界会議に出席していた頃の君は、牙を尖らせているニホンオオカミだったのに』

『何故絶命説のある動物で例えたんだ、お前』


 カミーユ・オードラン、フランスの夜の一族。柔和な微笑が似合う中性的な美貌から、"貴公子"とまで呼ばれている社交界の人気者。

温和かつ温厚な性格で争いを好まないが、フェンシングの名選手でもあるらしい。そういえば結局、剣を交えたことはなかったな。

次の長を決める夜の一族の世界会議で、女帝の戦略によりイギリスのヴァイオラとの政略結婚を持ちかけられていて、派閥争いにまで発展した。


女帝を勝たせるわけにはいかなかった俺としては、この婚約を何としても破断にしなければならなかったのだが――何故、友誼を交わす関係にまでなってしまったのか。


『どうせ調べ尽くしただろうから知っていると思うが、俺は孤児でな』

『うん、両親に捨てられたんだよね……あ、ごめん。勝手に詮索した挙げ句、訳知り顔で同意しちゃって。
僕のような立場の人間が、君の苦境を知った顔をしても不愉快なだけだよね』

『いや、同情されても困るだけだから気にするな。運が良いのか悪いのか、今もこうして健やかに生きていられている。
本来であれば一生口も聞けなかったお前らのような連中とも関係を持てたんだから、悲観するべき人生じゃない』


 本来であればフランスの貴公子とこうして会話できる関係になんぞならないのだが、理由は明確にある。

カミーユとヴァイオラの婚約パーティで、武装テロ組織による誘拐事件が発生。危機的な状況下にたまたま居合わせた俺が、二人を何とか救出したのだ。

実はその婚約パーティを何とか台無しにしようとしていたのも俺やカーミラなのだが、結局助けてしまったせいで二人と関係を持つことになってしまった。


『そう言ってもらえると、嬉しいよ。君が自分から行動に出たからこその今であり、ボク達だ。君と友達になれて本当に良かった』

『よく舌を噛まずに言えるもんだ、そんなセリフ』

『これくらいの事で噛んじゃうの、君!?』


 この武装テロ事件が尾を引いてしまい、世界会議中は他家の暗躍で中傷誹謗の的となったのだが、こいつを助けた手前放置はできずカミーユを庇ってしまった。

一応言っておくと、単なる人情ではない。婚約パーティの件ではカミーユが批判されるということは、こいつを助けた俺にも非難が飛んでくるのである。

俺は元々世界会議に乗り込んだ身で全勢力から敵対していたので、こいつを庇ったくらいではなんともない。結局その縁で親しくなり、友情の契りを交わした。


世界会議が終わって婚約が破断してしまった今でも、こうして友人として気さくに接してくれている。人が良すぎるのはどうかと思うが。


『友達同士盛り上がっているところ申し訳ないのだけれど、説明をお願いしたいわ』

『良いパスですわね。わたくしも王子様ご本人から詳細をお聞きしたいので、是非とも婚約者である貴女からつついてくださいな』

『貴族のお嬢様達ともあろうものが、はしたないですよ』


『剣士である貴方の妻となりますので』

『剣士である貴方の愛人ですので、少々の無礼はお許しを』


 イギリスとアメリカがタッグを組み、日本を攻め立てるという嫌な構図。世界大戦待ったなしの案件ではないだろうか。

ヴァイオラ・ルーズヴェルト、イギリスの夜の一族。美しき黒い髪に、黒曜石の瞳。イギリスの"妖精"と称えられる、容姿端麗な女性だ。

女系の多い夜の一族の中でもとびきりの美少女で、社交界の紳士諸君より日々求愛と求婚の山が送られてくるらしい。


過去形でないのは婚約発表した今でも、求婚や求愛が押し寄せてくるらしい。本人はにべもないそうだが。


『カミーユとの話で脱線してしまったが、孤児として生まれ育った俺としては同じ孤児であるあの子達の窮状を不憫に思ったのだ』

『貴方の経済状況はアリサを通じて知っているけど、養えるからと知って同じ境遇の子供を引き取る精神的余裕が貴方にあるとは思えないわ。
非難しているのではないのよ。貴方が優しい人なのは、妻である私が一番知っているもの。

ただ優しい人であるからこそ、無責任な道場で孤児を育てたりする人ではないことを指摘しているの。子を育てる責任をまず考えると思うから』


 知ったふうな口をきくとは、思わない。この女性こそ、世界で一番俺のことを知ろうとしている人であるのだから。

本と歌を趣味とする彼女は、歌唱力は世界トップレベル。歌で世界を洗脳する事も可能な夜の一族の魔女だが、本人は童女のような一面があって白馬の王子様を夢見ていたそうだ。

そんな本人も現実を知り、他人と向き合うようになれた。俺の事を知っていると思いこむのではなく、知ろうと必死で努力をする。その姿勢がきちんと見える。


婚約者である彼女にここまで自分のことを知られていれば、嘘や誤魔化しは聞かないだろう。


『……結構、長い話になるぞ。童話に出てきそうな奇天烈な設定も沢山出てくる』

『かまいませんわ、他でもない王子様の事ですもの。貴方を今から一般人だと思うような女は、ここには一人もいませんのよ』

『お前ら夜の一族と関わってから俺の人生はおかしな方向に走り出したんだぞ、きっと』


 ――ヴァイオラに信頼と優しさを、カレン達に愛情と友情を向けられて、俺はシュテル達との出会いから物語った。

思えばヴァイオラも夜の一族の古老でもある女帝に家を支配されており、彼女は家の道具として世界会議に捧げられようとしていた典型的な悲劇を経験している。

世界会議中の権力闘争により女帝は俺とアリサが倒し、諦めていた歌姫への夢も積極的に応援して、ヴァイオラはようやく少女から大人へと歩み出す。


シンデレラストーリーというのは血なまぐさい物語だが、俺が歩んできたこの一年もなかなか奇想天外だったと思う。そういう意味では、俺とヴァイオラはお似合いかもしれない。


『連れてきて下さい』

『は……?』

『王子様のお話はよく分かりました。貴方の子を名乗るその子供達を今、この場につれてきて下さいな。一緒に住んでいるのでしょう。
わたくしが直々に、貴方の子に相応しいか、見極めてあげますわ』

『何でお前に見極められなければならないんだ。ヴァイオラが頼むならともかく』


 ヴァイオラ本人は自分を懸命に諭してくれた俺との婚約を受け入れて、いつの間にか婚姻による契りを交わされていた。

今は花嫁修業をしながらも、英国のソングスクールに通って、将来の夢である歌姫を目指しているらしい。

幸いにもフィアッセや彼女の両親とは親しくさせてもらっており、フィアッセ一家が経営するソングスクールへの編入もスムーズに行えた。


口利きはしたが、あくまで本人の実力による入校できる。クリステラ校長からも絶賛だったらしい。


『私も貴方の子供達に会いたいわ。見極めるのではなく、私にとっても大切な家族となる子達だもの』

『いずれは紹介しないといけないとは思っていたけれど、何もこんな場で――』

『ボヤボヤするな、とっとと連れてこい。一応言っておくが、私はお前の話を聞いた程度では認めていないからな』

『だから何で、お前らの承認がいるんだ』

『貴方様の子供であれば、私も非常に気になります。貴方様に健やかで幸せな人生を送ってもらいたいので、プラスとなる子達かどうか知りたいわ』

『ウサギの子供か……可愛くなかったら殺しちゃおうかな』


 ……誰一人反対もせず、さっさと連れてこいと言わんばかりに待ち構えている。どうしてこうなってしまったのか。

シカトして回線を切断してもいいのだが、十中八九後で大火傷を負う羽目になるのは目に見えている。渋々連れてくることにした。

嘘偽り無く紹介してしまった以上、いずれは必ず対面させなければならない日が来る。カレン達との関係は多分この先も長く続くだろうからな。


こんな時に限って全員家にきちんといたので、シュテル達に事情を説明して――



カレン達と画面越しに対面することとなった。





「――貴様が、我が下僕の子だというのか」

『お初にお目にかかる、長殿。我はディアーチェ、我が父の正当なる後継者だ』

『ほう、青二才の分際でなかなかほざくではないか。我が唯一認めた下僕の後継者を、許しもなく名乗るとは』

『ならば今日、認めていただくとしよう。何であろうと受けて立つぞ』



『貴女があの方の娘であるレヴィさん、ですか』

『わあ、おっぱい美人だ! さすがボクのパパ、よりどりみどりだね!』

『なにこいつ、ウサギの子供の割に生意気ー!』

『ふっふーん、ボクは可愛いから何でも許されるのだ。パパの次に強いもんね!』

『クリスには勝てないよ―だ!』



『シュテルさん、貴女のことは王子様から聞いておりますわ。多くの成果を上げている優秀な子供だそうですわね』

『ありがとうございます。父上の右腕として相応しい存在となるべく、努力しております』

『あら、随分と思い上がりますわね。王子様のパートナーに相応しいのはこのわたくしですわよ』

『私なら生死まで共に出来ますよ』

『……っ』

『……っ』



『初めまして、ユーリです。お父さんのこ、婚約者の方と聞いています』

『初めましてユーリさん、会えて嬉しいわ。私はあの人の妻となる――』

『み、認めません』

『え……』

『お、お父さんにはわたし達がいます。お母さんなんていりません!』



『こんにちは!』

『あはは、可愛いね君。ボクは君のお父さんの友達で、カミーユと言うんだ』

『ナハトー!』

『そうか、そうか。君はナハトちゃんというのか、仲良くしようね』

『おー!』



 ……何だ、この空間。帰りたい。















<続く>








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