とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第三話
カーミラ・マインシュタイン。ドイツの夜の一族にして、現在の夜の一族の頂点である長に君臨している暴君。
青髪に真紅の瞳、流麗に結ばれた唇、背に生えた漆黒の羽。暴力的な美の少女は、画面越しでも健在であった。
純血種月村すずかの次に血の濃い、異端種と呼ばれる異形の子。かつて異形ゆえに両親に疎まれ、人の世に出れず暗闇に閉じ込められ、世界のあらゆる存在を憎悪していた。
世界会議時に人間への制裁を行って俺と対立するが、紆余曲折の末に俺を唯一の下僕と認め、主従関係を結んで世界会議に出席して、次の長に任命された。
『事情はある程度聞いていると思うが、異世界へ行ってきた』
『日本のアニメ文化にかぶれているのかと思いきや、本当に異世界なるものが存在するとはな。それで?』
『人と人外の共存を掲げるお前の理念に従い、異世界で人外の連中とやりあってきた。時には話し合い、時には力を示して、共闘を持ちかけた。
何処へいようとお前を裏切らず、剣を振るい続けてきたぞ』
『むっ……予想外に良き答えを聞かせてくるとは、やるではないか。いいだろう、その返答を持って寛大に貴様の怠慢を許そうではないか。
聞けば、龍族や異界の神々とも戦ったそうだな。私の下僕として恥じぬ戦いをよくぞ行ってきたな』
『お前と出会う前なら考えられない人外魔境だったよ。案外、お前との出会いで縁が出来てしまったのかもな』
『ふふん、我と出会うことは貴様にとっては運命だったのだ。いい加減諦めて、我のものとなれ』
カーミラはカリスマ性を発揮して夜の一族を繁栄。手のひら返しで求愛する者達を鼻で笑い、夜の一族の暴君として君臨している。
暴君の割に本人は自分の事は自慢話にしないのでさくらに近況を聞いたところ、先代の長の人脈を受け継いで夜の一族の勢力圏を活発的に広げているらしい。
覇を示す形で今を生きる人外の一族達を取り込んでいって、人間社会の中で支配層を拡大していっているそうだ。
昔は忌避さえしていた人外の容姿も堂々と見せつけており、その異端の美をカリスマとしている。恐るべき女であった。
『月村忍さんより事情は聞かされていましたが、それでもやはり無事な顔が見られて安心しました。
表裏問わず貴方様を支援するべく権力を拡大させていますが、異世界ともなるとやはり手が届き辛いですからね。
日本を経由して貴方様が異世界の地を支配されているのであれば、いずれ人材と資金を援助させていただきたいです』
ディアーナ・ボルドィレフ。澄んだ翡翠色の瞳をした、シルバーブロンドの髪の美女。ロシアンマフィアを現在支配している女ボスだ。
母親譲りの美しき容姿が災いし、父に身体を狙われていたが、暴力社会の組織で生き残るべく、交易路を新規開拓して財を築き上げた女である。
一般的な貿易路のみならず、ロシアと主要各国を結ぶ交易路。このルートを起点に、各国の表権力との絶大な人脈を築き上げた。
御神美沙斗師匠が香港の警察組織に所属して武装テロ組織と戦えているのも、彼女の口添えあってこそだった。
『裏社会を半ば牛耳りつつあるロシアンマフィアの女ボスからの援助となると、流石に洒落にならない――と、いいたいところだが。
実を言うとこの先、未開の惑星への開拓の話が出ていてな、近い将来力を借りるかもしれない』
『まあ、でしたら今からでも構いませんのでぜひお会いして商談をまとめましょう。私で良ければ、貴方様のお力にならせてくださいな。
邪魔をするものがいれば容赦なく排除いたしますので、貴方の手は煩わせませんよ』
ゲスな父親は妹のクリスチーナを次のボスとし、自分を力尽くで召し上げるつもりだったのが、本人はすぐに察して虎視眈々と反旗を翻した。
実の父に狙われ続ける人生が不信と諦観を招き、未来に絶望して心を怜悧冷徹に凍らせつつあったが、世界会議で俺がマフィアのボスを倒して彼女を何とか救った。
俺としては積極的ではなくあくまでテロ事件に対する対応でしかなかったのだが、結果として彼女とは良縁を築く事ができた。
会議後はロシアンマフィアのボスとなり、暴力で世界を揺さぶるのではなく、経済による長期戦略で裏社会を支配しているらしい。だからというべきか、こういう恐ろしい発言を笑顔で出来る。
『ちょっとウサギ。ディアーナばかり喜ばせていないで、少しはクリスにかまいなさい。でないと殺しちゃうよ』
『会議後は俺との誓いを果たして、人殺しには手を染めていないようだな。裏社会の強者達相手に不殺を貫ける強さには、憧れるよ』
『ふふん、ウサギには負けちゃったけど実力ではクリスの方がまだまだ上だもんね。
別にわざわざ殺さなくたって、殺された方がマシというくらいに痛めつけてやれば、どいつもこいつも泣いて謝るから簡単だよ。
やっぱりウサギと遊んでいたほうが楽しいよね。早くロシアに来ればいいのに』
クリスチーナ・ボルドィレフ。爛々と紅く瞳を光らせる、シルバーブロンドの髪の少女。ロシアンマフィアの次女。
夜の一族の長き歴史の中でも最高峰の実力者。稀有な殺人の才能を持ち、弾丸を目で見て躱せる知覚者の持ち主である。
血に濡れた幼少期を過ごして発狂、良心と悪性が混ざり合った怪物となった。友人も作らず、敵だけを増やし、誰であろうと気まぐれに暴力で潰す。
十五歳の誕生日を血で飾る事でマフィアの後継者として認められる為、俺を最初の標的と自分の名に誓って殺すことを宣言。死闘を繰り広げた。
『ディアーナにも今話したけど、いずれ近い内に惑星そのものを開拓する予定だ。国家ではなく惑星まるごとがお前の遊び場になるぞ。
いずれ手を借りることもあるだろうから、その時は思う存分遊んでくれ』
当時俺を遊び半分にウサギとしてペット兼護衛で雇ったのだが、爆破テロ事件に巻き込まれて本当に命を救う羽目になってしまった。
その後世界会議を通じて交流を深めた後、決闘を行って何とか彼女を倒した。俺を殺せなくなったという情を利用した、卑怯な作戦ではあったのだが。
ちなみに実の父もロシアンマフィアのボスの座にも既に無関心となっており、姉のディアーナだけは和解している。
おかげというのは変だが、このロシアンマフィアの姉妹が強力なコンビとなって裏社会を荒らし回っている。
『星って空に浮かんでるあの星? 他の奴らが言えば頭がイカれた妄想だろうけど、異世界とかに行ったウサギが言うんだから本当だね。
へえ、クリスお星様で遊び回れるんだ……大暴れしていいんだよね。アハハ、楽しみ!』
キリエやアミティエの話だと惑星エルトリアには未開の猛獣が暴れ回っているらしく、本人達も生活圏を守るべく退治に苦慮しているらしい。
映像を見せてもらった限りどう見てもアニメやゲームに出てくるモンスターにしか見えず、本格的に異世界へ旅立つ気分になってくる。
大型の動物なんてテレビや動物園でしか見たことがないが、惑星エルトリアでは怪獣レベルの動物が発生するようだ。
異世界ミッドチルダよりも惑星エルトリアへ連れて行く方がハードルとしては低いので、クリスチーナの力を借りる日が来るかもしれない。
『異世界ミッドチルダに、惑星エルトリア――夜の一族の一員として人間社会の裏表を掌握していたつもりですが、王子様に比べれば井の中の蛙でしたわね。
世界の隅々まで把握していた気になっていましたが、王子様は世界線すら超えて名を馳せている。
素晴らしいですわ、やはり貴方は私が見初めただけの方ですわね』
『いつのまにか日本のことわざにまで詳しくなっていやがる。どれだけ把握されているんだか』
『わたくし、貴方に興味津々ですので。一挙一動が気になって仕方ありませんの。
貴方が悪いのですわよ。私の関心を無遠慮に惹いてしまうのですから』
名前:カレン・ウィリアムズ。アメリカでも有数の大富豪のご令嬢。気位が高く不遜だが、プライドと美貌に見合った確かな才能を持っている。
幼少時より大人顔負けの行動力と手腕を発揮して、僅か十代で父を超える地位と実力を手に入れている。彼女には、両親でさえ頭が上がらないらしい。
過去にジェイル・スカリエッティからの接触もあって、実は異世界ミッドチルダの技術を彼女は一度手に入れているのだ。
世界会議では技術革新による世界制覇を掲げ、自らが長にふさわしいと名乗りを上げた。
『しかしながら、ロシアの小娘などに頼るのはいただけませんわね。
マフィアなどと関係を持っても、貴方の将来は明るくなりませんわ。
今やアメリカを掌握しつつあるわたくしと関係を持ち、異世界を開拓してまいりましょう』
『アメリカを掌握なんて夢物語だとしか思えんが……お前らのここ数ヶ月の活躍ぶりを見ていると、俺も自信がなくなってきた』
月村すずかとファリンに心を与えた俺に彼女は着目し、自動人形の課題であり彼女の最大の難題だった心の育成を彼に頼むべく契約を申し出られた。
その時は申し出を拒否して敵対したのだが、先より今を選んだ良介やカーミラの戦略により長の権利を失って彼女は敗北した。
一族の将来を長い目で見れば彼女の勝利であったが、今時点とはいえ敗北した事で彼女は潔く世界会議の座をおりた。
自らを人生の勝者と宣言する彼女ならではのプライドだろう。彼女のこうした高き誇りは、見習いたいものである。
『惑星の開拓規模については詳細を後で確認するとして――王子様が惑星開拓に乗り出せば、放置された地であるとはいえ利権は生じると思いますわよ。
利益が発生すれば群がってくるのが、何処の世界にもある人の欲望というものですから』
『やはり、お前の見解はそうなるか……現状世界政府から見捨てられているが、開拓が成功してしまうと口出ししてきそうだな』
『ネゴシエーターは必須だと思いますわ。その際は是非、お声がけくださいな』
――かつてフィル・マクスウェルの研究所を閉鎖させた原因でもある、世界政府。
成果の出ない研究だと援助を打ち切った事で、フィル・マクスウェルは暴走した。その点については、政府の見解が正しかったと言える。
だが惑星エルトリアが万が一繁栄を遂げてしまうと、以前の決定を見直してくるかもしれない。
つまり、世界政府が惑星エルトリアに再び干渉してくるかもしれないのだ――良くも悪くも。
『うーん、政治や経済の難しい話は分からないけどさ――それよりも』
『ええ、綺堂さくらと月村忍さんの報告書によると――
貴方の子供や婚約者の話がこれ以上ないほど詳細に記載されているの。説明して頂けるかしら』
カミーユ・オードランと、ヴァイオラ・ルーズヴェルト。
フランスの友と、イギリスの婚約者。俺の味方側であるはずの二人が――
政治や経済の話で誤魔化そうとしていた俺の弱点を、容赦なくツッコンできた。
<続く>
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