とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている!  第二話
                              
                                
	 
 
「おせち十箱に、お雑煮十鍋分……?」 
 
「大丈夫です、兄さん。正月の三ヶ日後全力でトレーニングして、カロリーオフしましたので!」 
 
「世の中には食費という概念があってだな」 
 
 
 クロノ達が管理外とされる地球へ左遷されることになり、合同捜査していたゼスト隊長達も揃って地球に居を構えている。 
 
時空管理局の頂点に君臨する最高評議会が一連の事件の黒幕と判明した途端、エリートコースを歩んでいたクロノ達は軒並み揃って管理外世界へ飛ばされた。 
 
抹殺も覚悟して頂けに、むしろ温情だったとクロノ達は全員特に気にしていない。遠ざけられたということは、少なくとも管理局に席を置くことはまだ許されているのだから。 
 
 
捜査権も奪われてしまった彼らに突破口を見出したのは、何を隠そうこの俺だった。 
 
 
「兄さんの言いつけどおり、高町さんの家で年始年末はお世話になっていました。あ、一応言っておくと、嫌々行っていた訳じゃありませんから!」 
 
「おせち十箱もたいらげておいて、嫌々でしたでは通らんだろう」 
 
「兄さんを慕う妹として言わせてもらうなら、桃子さんの手料理が美味しすぎるのが原因だと思います。 
兄さんの私を見る目よりも、ついおせちの素晴らしい献立に目を奪われてしまいますから」 
 
「すっかり日本を満喫しているな、お前ら」 
 
 
 聖地で起きた戦乱と、聖王教会の利権に介入せんとする数多くの戦力。その中には最高評議会も含まれており、ゆりかごを奪っていたジェイル・スカリエッティの関与もあった。 
 
捜査権がない以上直接介入ができないため、聖地で白旗を掲げた俺を後押しする形で、クロノ達は事件の捜査を続けたのである。 
 
結果としてジェイル・スカリエッティは自首して聖王のゆりかごは返却、聖女様を通じて聖王教会の信任を得て聖地での捜査が許可され、聖地で出会ったラルゴ老達の支援を得て現場復帰が叶った。 
 
 
現在も拠点はあくまで管理外世界に身を置いているが、イリス及びフィル・マクスウェルが起こした事件の捜査協力を積極的に行っている。 
 
 
「お年玉も頂きました。兄さんの分も預かっていますので、妹の私から受け取ってくださいね」 
 
「お前を経由する理由がよく分からんが……お年玉か。まさか貰える日が来るとは思わなかったな」 
 
 
 このギンガ・ナカジマを始めとするナカジマ姉妹は、一連の事件を通じて発見された戦闘機人の子供達である。 
 
徹底された操作により発見された違法研究所が摘発されて、違法に製造された子供達が大勢見つかったのだ。 
 
子供達の遺伝子を調べてみると時空管理局の実力者達の遺伝子が実験的に使用されており、クイントやメガーヌの遺伝子を利用された子供達も発見された。 
 
 
遺伝子と聞くと生々しい表現となるが、実際は髪や爪などの成分からでも余裕で取得できるらしい――俺からも無断で分捕ったジェイルの野郎から聞き出せた、殴ったけど。 
 
 
「では、報告いたしますね。高町桃子さんですが、ご近所付き合いを再開されました。 
実は私達がお願いしまして、今後お世話になるご近所の人達に正月の挨拶回りをしたんです」 
 
「なるほど、社会復帰としては実に健全なやり方だな」 
 
 
 無断使用されたのだというのに、クイントやメガーヌは何一つ嫌な顔をせず自ら進んで子供達を引き取った。 
 
とはいえ決して、英断ではない。何しろ違法に製造された戦闘機人の子供達だ、少なくとも今の御時世で表沙汰にできる存在ではない。 
 
彼女達は悩んで、同じくどちらが養子縁組するか悩んでいた俺に相談を持ちかけた。そこで左遷のタイミングを図って、この地球で子供達を育てることになったのだ。 
 
 
将来的には活動拠点を広げて、聖地への活動も視野に入れている。ディアーチェが支配するあの地であれば、謂れなき差別も受けず、ベルカ自治領で人権を持って生きていける。 
  
「喫茶翠屋の再開については、目処が立ちそうか」 
 
「それについても実は計画を進めているんです。実はですね、私を筆頭に姉妹達の何人かお菓子作りを学んでいるんです」 
 
「よく教えてくれる気になったな」 
 
 
「お母さんとお父さんが仕事で忙しいので、姉妹と家族の面倒を見るべく長女である私がお願いしたんです。 
次女のディエチも家事には積極的でして、桃子さんの評判は上々です。 
 
今の感触ですと、春頃にはお店を再開するのではないかと思っています」 
  
 そして同じく養子縁組させられた俺が彼女達の兄となり、海鳴の地で面倒を見る羽目になっている。 
 
遺伝子の繋がりなんぞ欠片もないはずなのだが、ギンガを始めとして俺を何故か兄と強く慕ってくれており、本当の家族として過ごせている。 
 
血の繋がりもないんだから完全に赤の他人なのだが、異性であっても兄ができたのは非常に嬉しいらしい。謎だ、怪奇だ、エクトプラズムだ。 
 
 
そんな彼女達に今使命を与えているのが、この高町家への干渉だ。 
 
 
「なのはさんは今アリサさんがお話を直接聞かれているので詳しい説明は避けますが、翠屋の再開に非常に積極的です。 
フィアッセさんと一緒に先日お店を開けまして、清掃を行っていました。 
ちなみにそのフィアッセさんの背中を押したのも、なのはさんです。お母さんやフィアッセさんがしないなら自分一人でもやると言われて、フィアッセさんもようやくその気になりました。 
 
清掃中であっても常連さんが覗くほどでして、お客様もきっと戻ってくるはずですよ」 
 
「そのための挨拶回りか、根回しがなかなか上手だな」 
 
「兄さんやアリサさんより学びました。将来的には、私も兄さんのお手伝いをするつもりですので」 
 
 
 高町なのはには事前に挨拶は済ませている。状況報告をアリサが聞いているのは何故かといえば、単にあいつが俺と話すと脱線するからだ。 
 
そもそもあいつとはイリスが起こした事件を通じて、共に同じ戦場で精神を共有して戦っているのである。久しぶりも何もあったものではない。 
 
戦争が終わった後でお互いを称え合うのは悪くはないのだが、話が長くなるのでアリサに頼んでいる。あいつ本人から聞いてもあまり変わらないからな。 
 
 
高町なのはや桃子については、改善傾向にあるようだが―― 
 
 
「フィアッセはどうだ」 
 
「兄さんに会えないのがやはり寂しそうではありますね。ただなのはさんを通じて兄さんの活躍はご存知なので、自分でも何か出来ないか色々模索されているようです」 
 
「具体的に聞いても大丈夫か」 
 
「はい、まずはやはり喫茶翠屋の再開。そしてもう一つは、歌姫としての再起を図る道。 
まだ家族内での話でしかないんですけど、フィアッセさんのご家族の方々がコンサートを計画されておられるようですね。 
 
今準備を進めている最中との事で、外国にある歌の学校で今年卒業される方々がツアーに出られるようです」 
 
「今年卒業ということは、季節的には春頃かな」 
 
 
 フィアッセのご両親にはあったことはあるが、確かお袋さんが病気だったと聞いている。 
 
父親代わりの人は英国では立場のある立派な大人で、当時世界会議に参戦していた俺を色々気にかけてくれた人でもあった。 
 
世界コンサートとなると相当な負担になると思うのだが、逆を言えば今年強行しないといけないほど病気が進行しているのかもしれない。 
 
 
春先か……一度くらい挨拶しておきたいが、春までに地球へ戻ってこれるかどうかだな。 
 
 
「フィアッセさんは兄さんに一緒に行ってほしいようですよ」 
 
「一緒って何処へ?」 
 
「世界ツアーのコンサートです」 
 
「世界中を!?」 
 
 
 ――世界コンサートとなると主要各国になるので、余裕で欧州の姫君達それぞれの本拠地へ出向くことになってしまう。 
 
シカトすればいいだけの話なのだが、俺の動向を完璧に把握している連中だ。ほぼ間違いなく絡んでくるだろう。 
 
あいつらが絡んできて、大人しく済んだ試しがない。ただでさえマフィアの件で裏社会から目をつけられているのに、余計なトラブルに巻き込まれたくない。 
 
 
これはもう、惑星エルトリアから戻ってこないほうがいいかもしれないな…… 
 
 
 
この時はそう思っていたのだが、結局――後に世界が震撼する、凶悪な事件に巻き込まれる羽目になる。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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