とらいあんぐるハート3 To a you side 第十二楽章 神よ、あなたの大地は燃えている! 第一話
――新年。古き年が過ぎ去って、新しき年を迎えた。
正月に関する思い入れは実のところ、クリスマスやバレンタインなど他の記念日に比べて多少なりともある。といっても、孤児院時代の話になってしまうが。
刑務所でもお正月にはおせちなどが特別に出るように、極貧だった孤児院でも正月ではおもちやおせち、お菓子が与えられたのだ。毎年ガリやデブと食べていたことは覚えている。
旅に出てからは悲惨の一言に尽きる。去年なんて豪雪だったので、雪とお餅だと思い込んで食うべきか震えながら考えていた気がする。控えめに言って、寒すぎて頭がイカれていた。
「そこで俺は考えた。雪だるまを作れば、鏡餅になるのではないかと」
「控えめに言って寒さで頭がおかしくなってるわよ、あんた」
「ちくしょう、俺と同じ感想を持ちやがって」
そんな俺も今年は屋根の下で、仲間や家族と温かい料理を堪能している。昨年の修羅場の数々を幸福の代償として支払ってるので、夢ではないかとは思っていない。
戦い続けた結果、ようやく異世界の問題は解決したので、新年は海鳴へと戻ってきている。こっちの世界は新年から追いついてこそいるが、問題自体はない訳じゃない。
イリスが起こした事件がでかすぎてそれどころではなかったが、俺自身も問題点を多々抱えたままでいるのだ。それらを全て解決していかなければ、惑星ミッドチルダへ島流しできない。
ということで、名物コンビの復活となった。
「久しぶりに俺とお前で動くぞ」
「ふふん、このあたしに任せなさい。今日一日で全部解決してくれるわ!」
「長期的にお願いします」
「お金かかるからNG」
超久しぶりにメイド服を来たアリサ、そして剣道着を着用する俺。和もクソもあったものではないが、海鳴ではこの服装が正装なので誰も何も言わない。
生命の剣セフィロトを竹刀袋に入れ、アリサはいつも通り仕事用手帳を手に、海鳴町へと凱旋する。一応言っておくが、今日初めて帰ってきたわけじゃないからな。
オリヴィエやシュテル達といったやかましい外野を異世界の彼方へ置き去りにして、邪魔が入らないようにしてから再び戻ってきたのである。
これで準備は万端である。
「では行くぞ――それと新年あけましておめでとうございます」
「遅すぎて草、もう三が日過ぎているから」
新年早々ではあるが、問題を解決するべく二人して戦場へ出撃した。
「――何やって?」
「アリサ、カセットテープを巻き戻して」
「はいはい(キュルキュル)」
「自分の口で説明しろとか、このデジタル時代にカセットテープで聞かせるなとか、ツッコミが追いつかんようになってくるからやめて」
八神家。この海鳴において、この家の名は重要な意味を持つ。
名家でも何でもなかったこの家が特別な意味を持つようになったのは、町内における老人達――この町の根幹に根付く者達との人脈を築けた点にある。
まず町内会に参加し、一人一人着実に交流を深めて信頼を得る。その上で昨今の若者離れを逆に利用して、まだ若すぎると言われる年齢で若者達が忌避する町内の仕事を完璧に成し遂げる。
その結果、八神家は海鳴では便宜を図るべき家とまでなっていた。
「わたしの持っていた魔導書は危険な代物で、良介の能力によって無害なものへとなった。ところがそのイリスッちゅー子が弄ったせいで、また危険な本に戻ってしまった。
リインフォースも洗脳されてしまったから良介は戦うしかなく、斬り合いの果てに魔導空間に落とされて何とか決着をつけたと。
あ、途中経過は知ってたんやけど、ちゃんと謝ってなかったね。シャマルが迷惑かけてごめんな」
「気持ちとしては分からなくはないから、俺も責める気はない。当事者同士、解決はしてる」
「ん、オッケーや。それでもあの子は落ち込んでたけど、ちゃんとそれなりに励ましといたから大丈夫。
今日はこういう席設けてもろたけど、今度は玄関から気軽に帰ってきてね」
「そう言ってくれると助かる、いきなり帰るわけにもいかなかったからな。お互い気まずくなるのも何だし」
シャマルにリインフォース、そして夜天の魔導書。
いくつかの問題点を抱えている八神家の元へ、俺達は新年から帰ってきていた。八神はやてに事前に連絡を取り、本日は三人のみの場となっている。
当然だが、守護騎士達はこの場のことを知っている。彼らに気まずいので秘密にするというのは、断じて家族にすることではない。
分かってはいる、けれど割り切れないことだってある。世界とは無縁であろうとも、これは俺達にとって問題なのだ。
「話を戻すけど、最終的にその良介の剣にリインフォースが宿ったということやね。夜天の魔導書からそっちへ移ったという認識で大丈夫?」
「本来こういった手順を踏むには主であるお前の承認が必要になる。ただ今回は緊急処置となるから、本人だけが移送されている」
「うーん、認識が合っているというじゃなさそうやね」
「ようするにリインフォースが夜天の魔導書のデバイスとして使用できる権限や権能までは移っていないということよ。
蒼天の書として白紙化されたから魔導の力はもう元々無くなってるんだけど、良介の剣に移ったからといって魔導書の力が使用できるようにはならないわ。
だからまだ今も眠っていて、力を一から蓄えているのよ」
「ははは、なるほどね。まあ今は冬やし、春まで眠っているのがええかもしれんね」
自分のデバイスを冬眠扱いするにはひどい話だと思うが、生存が確定した安堵感の裏返しかもしれない。
リインフォースはあの戦いからずっと、眠りについている。何度か話しかけたりもしたのだが、剣から反応が帰ってくることはなかった。
アリシア達の話ではきちんと剣内で安全に憑いているとのことなので、本当に精根尽き果ててしまったのだろう。
それもいいかもしれない。古代ベルカ時代よりずっと、彼女は苦しみ続けたのだから。
「こういう言い方するのはあれやけど、所有権はどうなるのかな」
「持ち主は俺だけど、所有権はあくまでお前だ」
「アリサちゃん、詳細をお願いするわ」
「つまりあんたが望むのなら、良介はいつでもリインフォースをあんたの元へ返せるという事よ。
近代的所有権の性質とでもいうのかしら。現実的な支配とは関係なく、観念的に八神はやてとその家族の為にリインフォースは存在するわ。
一家の大黒柱であるあんたが、リインフォースの帰る場所であることには変わりはないわよ」
「なるほどな……ちょっと照れるけど、そう言ってもらえたら心強いわ」
リインフォースの扱いは、本当に難しい。どうしたって、味方によって変わってしまうからだ。
はやては納得してくれたが、他の人間ではなかなかここまですんなりと納得はできないだろう。
便宜上リインフォースは魔導書から剣に移ってしまい、日々彼女は俺に付き従うのである。どう見ても、と誰でも思うだろう。
しかしながら、はやてはおおらかに笑っている。
「話は全部分かったわ、事前にわたしに話を通してくれたのはほんま助かる。
ごめんやけど、しばらく時間をもらえるかな。シグナムとシャマルを説得して、ヴィータ達を明るく迎え入れる準備するから」
「よろしく頼む。シャマルには、形こそ変わったが約束は果たしたと言っておいてくれ」
「はいはい――なんやそっち方面も怪しいんやよね……シャマルも何や色気づいているし」
「お、不貞ですかご主人様」
「何でちょっと嬉しそうなんだ、コイツラ」
新しい年はこうして、しょーもない問題から始まった。
そう、始まったのである――
<続く>
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