とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百三十六話
氏名:イリス
公式罪状:テロリズム幇助
犯罪行為:テロリズム幇助・公共施設破壊・その他多数
犯罪者ID:GG-X-25494-A165642137498-01
判決:拘留・厳重監視・技術封印処置・ミッドチルダ追放
判決備考:監視及び追放年数は再教育の状況による
保護責任者:宮本良介
「な、何とかここまで漕ぎ着けたぞ……」
「お疲れ様でした。見事な交渉、感服いたしました」
療養所でカンヅメ生活を送りながら、オルティアの補佐を受けて各方面に交渉を行って、イリスに関する全ての処理を終えた。
レジアス中将やカリーナお嬢様としても管理局や聖王教会側にも失態が大きいこの事件を長引かせるつもりはなく、黒幕を徹底的に断罪する形で動いている。
実行犯であるイリスを矢面に立たせてしまうと、彼女と戦ったことで痛手を負った組織側の失態も明るみに出てしまうので、彼らとしても表沙汰には出来ないのだ。
各方面のそうした政治的事情がプラスに働いて、イリスをとっとと追放する結果となった。
「退院、おめでとうございます。お車を回しましたので、共に行きましょう」
「その間に寝ておくよ。今朝方までうるさくやり取りしていたからな」
事件はこうして、幕を閉じた。
ちなみにフィル・マクスウェルについては、事件後特に会っていない。俺にとって追求すべきだった相手はイリスであり、黒幕には正直なんの興味もなかった。
あの男は俺と同じく道を誤って、そのまま完結してしまった。俺のように他人に静止されて考え直すのではなく、他人を殺して我を通す道を選んだのだ。
自分勝手に生きていって、自己完結して終わった。そんな男に関心を向けても意味がない。
「第17無人世界の「ラブソウルム」、軌道拘置所に移送されるそうです」
戦後は捜査協力についても、現状は拒否しているらしい。自分の正しさを矢面に掲げて刑期短縮を狙っているそうだが、レジアス中将はそこまで甘くはない。
研究所の所長だった頃は政府側と駆け引きを行った経験はあるだろうが、あの男は結局研究所を維持することは出来なかった。
そしてレジアス中将は言わば、その政府側に位置する人物である。地上本部最高責任者にまでのし上がった強者相手に、一研究所の所長では勝ち目がない。
さぞや振り回されて、全てを奪い取られて捨てられるだろう。自己完結する人間は他者を顧みず、交渉手腕も長けていない。
「よく俺が考えていることが分かったな」
「副官ですので」
オルティアとのやり取りはそこで終わって俺は一時の休息を取り、彼女は速やかに現地まで案内してくれた。
俗世より閉ざされた場所に建てられている、隔離施設。フィル・マクスウェルが移送される軌道拘置所とは違って、人権が保証される施設である。
外界から閉ざされて入るものの、建物内であればある程度の自由はあり、監視こそ徹底されているが強硬な拘束は一切されていない。
自然豊かな環境に建てられた隔離施設は、犯罪者の心も静粛かつ健やかに包んでくれるだろう。
「隊長」
「どうした」
「面会を拒否されました」
「拒否する権限あるのか、あいつ!?」
犯罪者ではあるが更生の余地ありということで、面会希望に関する有無くらいは言えるようだ。ええい、せっかく面会に来たのに意固地な奴め。
しかしながら甘いぞ、イリス。今の俺はお前を捕まえた手柄によって、権限くらい与えられているのだ。
事件当時は不利に立たされたが、今や社会的立場は俺のほうが上なのだ。権限をゴリ押しできる大人の恐ろしさというものを見せてくれるわ、ガハハハハ。
汚い大人の手本のような真似をしてオルティアに手続きさせてみると、早速返答が来た。素晴らしい。
「教育プログラムにユーリさんが参加されているそうなので、承認がおりました。隊長、どうぞ」
「あいつはオッケーで、俺は駄目だったのかよ!?」
今回の事件では主要人物であったユーリ・エーベルヴァイン、あの子の記憶が戻ることは結局なかった。
本人も少しは気にして色々試行錯誤したそうだが、フィル・マクスウェルやイリスに関する思い出は何も思い出せなかったらしい。
優しい記憶も辛い思い出も何もかも消えて――過去に起きた悲劇は、フィル・マクスウェルの逮捕で幕が閉じられた。
救いがあるとすれば、イリス本人が生きていることだろうか。過去のユーリが死にものぐるいで守った彼女は、未来へと繋がったのだ。
事件後ユーリは積極的にイリスと面会を取り、失われた思い出を埋めるべく彼女と話した。
記憶が戻らないことにイリスは悲しげな顔はしたそうだが、現代で罪を犯した彼女にとっても鬼門となったのだという。
『無理に思い出さなくてもいいわよ、ユーリ』
『わたしは気にしませんけど、イリスは気になりますよね』
『ちょっとは気にしなさいよ、その辺は!? ふん、まあいいわよ。
再会して気づいたんだけど、結局あんたは昔も今も何も変わっていなかった。
物凄い力を持っていた魔導師であっても、人を斬ることに躊躇わない剣士の娘であっても、こんなアタシにも優しいユーリである事に違いはないもの』
そしてイリスは隔離施設へ移送されて、ユーリは保護観察官となった俺の身内ということで教育プログラムの一員に加われた。
この件についてはレジアス中将の手回しもあるが、ベビーシッター兼子供育成補佐の資格を持つリーゼアリアの口添えも大きい。
加えて聖王教会側から絶大な信頼を得られている聖騎士も教育プログラムに加わったということで、イリスに対する教育体制は見事に整えられている。
隔離施設内に案内されると――教育部屋で、囚人服を来たイリスがユーリ達からの教育を受けていた。
「では次に、お父さんが聖地で行った偉業の数々を説明しますね」
「ユーリさん、この教育はぜひ私にさせてください。あの方の偉業を間近で見続けた私から熱弁させてください」
「……これって、洗脳教育じゃないの……?」
何やっとんじゃ、アイツラ。ガラス越しに彼女達の様子を見ていたら、イリスが顔を上げて俺に気付き、ゲッとした顔を見せる。
ユーリや聖騎士さんもすぐに気づいた様子で、満面の笑顔で手を振っている。組織とか政治とか関係なく、本心からイリスを更生させようとする気概があった。
今朝まで権力闘争に明け暮れていた俺とは、えらい違いだ。フィル・マクスウェルを批判したが、俺も結局大人側の人間でしかないのかもしれない。
イリスのように子供が巻き込まれないように、これからは注意するしかない。
「こんにちは、お父さん。イリスの――我が子の様子を見に来てくれたのですね」
「そこ、わざわざ言い直さなくてもいいでしょう!?」
イリスを自分の家族として受け入れてくれたことに、ユーリは大喜びであった。ディアーチェ達もユーリの喜びようを見て、苦笑しつつ賛同してくれた。
思えばユーリもイリスも、フィル・マクスウェルに家族として扱われていた。本心はどうあれ、あいつなりに家族としての認識はたしかにあったのだろう。
ねじ曲がっていてもそこには愛情があって、彼女達は騙されてしまった。愛に色があるというのは、大人が勝手に区別しているだけだ。
子供達に見極めろというのは酷な話であり、彼女達には家族が必要だった。
「あんた……わざわざ来てくれたのね」
「自分の娘の様子を見に来るのは当然だろう」
「気持ち悪いからやめて」
「あ、はい」
この野郎とは思ったけど、実のところ俺も多少気味悪いとは思う。そもそも自分に娘ができるなんて、夢にも思わなかった。
イリスを引き取った理由は、どちらかといえばユーリの存在が大きい。俺を親と慕うこの子がいるから、イリスも引き取ろうと考えたのは間違いない。
今後イリスも我が子と思える日が来るのかどうかは分からないが、少なくともコミュニティを作るのは自分にとっても決してマイナスではない。
こうして他人を少しずつでも知っていけば、自分もきっと変わっていけるだろう――その先に、剣士としての可能性もあると信じて。
「保護責任まで買って出るなんて……馬鹿じゃないの、あんた」
「大丈夫、エルトリア開拓でこき使って採算取るから」
「我が子をこき使う気なの!? 教育プログラムの日程が急ピッチなのが気になっていたけど……こいつは!」
事件解決後は管理局や聖王教会に対しても、イリスは恭順を示している。だが同時に、ユーリ達以外の面会は拒否するなどの抵抗もある。
まだまだこの世に上手く適合はできていないのだ。その気持ちはよく分かる。俺だって、高町家に居候する時は抵抗を示していたからだ。
急激な環境の変化には、戸惑いを見せるのは無理もない。せめてユーリ達が示す外の世界について、未来の可能性に希望を抱いてほしいと思う。
俺はそうして、ジュエルシード事件を解決できたのだから。
「あんたの事お父さんとか言わないから、アタシ」
「お前も頑固なやつだな」
「ユーリの記憶がないのだって、あんたのせいでもあるんだからね」
「はいはい」
「でも、一応恩が出来たから……協力は、してあげる。
聖典の中に、法術に関する記録はあったわ。父を語っていたあの野郎がデータを奪っちゃったけど――
惑星エルトリアにあるアタシのデータバックアップを使えば、復旧はできる。時間はかかるけど、待ってて」
「頼むぞ」
――俺が聖地に訪れた本来の目的、法術に関するデータ。
聖典に求めたのだが聖地が戦乱を起こしていて使えず、何とか戦争を収めた。
その後頃合いを見計らってデータを調べようとしたのだが、イリスとキリエが襲撃して破壊されてしまったのだ。
惑星エルトリアに、イリスの状態を完全に再稼働できる施設があるという。
「ただし、言っておくわ。所長は法術に関する記録を見たのに、あんたから求めようとはしなかった」
「――それは」
「アタシが、あんたを危険だと言ったのは決して言いがかりじゃない。
法術は危険な能力よ。全てを知った時――
あんたはきっと、自分を呪うわ」
その手掛かりは、エルトリアにある。
<完>
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