とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百二十八話
                              
                                
	 
 聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトがゆりかごに乗り込んでしまえば、全てが終わる。命懸けで停止させたディアーチェ達が徒労となってしまうだろう。 
 
一見互角にやりあっているように見えるが、ダメージは俺の方が残念ながら上である。持久戦に持ち込めば勝機が見えてくるだろうが、狂気に落ちた相手を長引かせると出方が読めなくなる。 
 
大技に繋げて一刀両断したいが、小技で連携してこられると対処せざるを得なくなる。つくづく相性の悪い敵と巡り合わされたものだと、愚痴りたくなった。 
 
 
単体にして最強の敵、古代ベルカの武王――問答無用な難敵であった。 
 
 
「御神流、虎切!」 
 
 
 御神流の正当技、代表とされる技。同じ技を何度も通じないだろうが、基本であるがゆえにあらゆる状況に応じて使用できる。 
 
一刀での遠間からの抜刀による一撃、二刀を敢えて使用しない技にオリヴィエは警戒して間合いを取る。その瞬間地を蹴って、空を駆けた。 
 
一刀目は容易く躱されてしまったが、飛空による切り返しはオリヴィエも予想外だったのか、目を見開いた。当然だろう、この一刀は状況に合わせたオリジナルなのだから。 
 
 
この技は木刀でも、ドラム缶を一刀両断に出来る。手刀であっても、命は断てるぞ! 
 
 
「セイクリッド・ディフェンダー」 
 
「何だと!?」 
 
 
 振り下ろした攻撃に対してピンポイントで防御の魔力を集中させ、同時に攻撃を持って俺の一刀が弾かれた。 
 
振り下ろした手刀が跳ね上げられて、怒涛のごとく吹き飛ばされる。高町なのはとのリンクで立て直そうとするが、オリヴィエが地を蹴って宙を舞い、強烈に迫りくる。 
 
予想を上回る攻撃でさえも、完全に見切れる技量。ノーダメージで切り抜けることは可能だが、 失敗した際のリスクだってある筈なのに、平然と利用できる狂気。 
 
 
防御からの攻撃、セイクリッド・ディフェンダーにより発動した魔力が俺の懐に突き刺さる。 
 
 
「一閃必中!」 
 
 
 ゆえに。 
 
 
 
「エクシードスマッシュ!!」 
 
 
 
 逆に――相手の奥義に、繋げられてしまった。 
 
 
相手の攻撃を拳撃でカウンターをする技、虎切による一刀はアクセルによる加速に押し潰されて指が砕け散った。 
 
次に左右同時に撃ち続けるスマッシュによって全身を撃ち抜かれて、体中を穴だらけにされてふっ飛ばされる。拳の嵐が全身を貫いて、地面へと激突した。 
 
痛いという感覚はもう、何もありはしない――眼の前が真っ白になって、全てが終わった。 
 
 
「……父、上……?」 
 
 
 ――この地獄で唯一、残されている意志。血の繋がっていない他人であり、血の繋がりのない家族の声。 
 
神というのが本当にいるのかどうかは分からないが、何という残酷で、粋な計らいなのだろうか。自分ではどうしようもない状況で、希望に繋がったのは他人だった。 
 
シュテルの声が聞こえたその瞬間、意識はハッキリして身体に力が戻った。感覚が戻ったので強烈な痛みに襲われたが、強い刺激が感覚を取り戻せた。 
 
 
手を上げて、俺は立ち上がった。 
 
 
「心、配なんぞするな……俺はまだやれるぞ、シュテル」 
 
「おお、さすが父上です。顎が砕かれてちょっと何言ってるかわからないですが、カッコいいですよ!」 
 
 
 遠目で見えるシュテルは安堵で泣きながらも、憎まれ口を叩いて拍手喝采を上げていた。もうちょっと、言い方があるんじゃないですかね…… 
 
聖王オリヴィエはゆりかごへと向かっておらず、セイクリッド・ディフェンダーで防御を固めたまま構えている。俺が立ち上がるのを疑ってもいない様子だった。 
 
敵に信じられるというのも妙な話だと思うが、顧みてみるとそんな経験をした覚えはなかった。少なくとも今の俺は、聖王には敵と認められるほどには強くなれているのだろうか。 
 
 
その信頼をどうか、もう少し世界に向けてほしい。こんな俺だって、シュテル達と出会えたこの世界を今はそんなに悪く思っていないのだから。 
 
 
「決着をつける。頼んだぞなのは、アリシア」 
 
"はい!" 
 
『任せて!』 
 
 
 アリシアの風神となのはの飛空は、積極的には攻撃で使用しなかった。剣を失おうと、剣士であるという自覚があったからだ。 
 
今までは自分の弱さを補うべく忍達の力を借りて神速などを用いていたが、ユーリ達によって強化された肉体があればわざわざ補って貰う必要はない。 
 
マイナスを零にするのではなく、零からプラスへと加えてもらう。道具としての戦力ではなく、友達としての強さをもって、剣に磨きをかける。 
 
 
「御神流 奥義之歩法、神速」 
 
 
 この技を使用してこそ、御神の剣士。御神流の奥義の要である歩法を持って、通常とは桁違いの速度で動くことが出来る。 
 
アクセラレイターを使用してナノマシンを活性化させ、傷ついた肉体を補正。弱りきった感覚を神速で超人化させて、アリシアとなのはの力を最大限とする。 
 
セイクリッド・ディフェンダーを発動させたオリヴィエが、拳を振り上げる。この時でさえも周囲の動きが止まっているように見え、色彩がモノクロになっていた。 
 
 
スローモーションのように感じられる自分の動きを爆発化して、猛烈に迫りくる拳を一閃。拳を剣で切り、オリヴィエの攻撃を断絶する。 
 
 
人間とは五感で周囲の状況を判断するが、聖王オリヴィエが相手では足りない。だからこそ敢えて視覚のみに凄まじい集中力を発揮し、全ての能力を注ぎ込む。 
 
一閃した拳を切り替えて、オリヴィエは全魔力を集中させて打撃を当ててくる。本来見えるはずのないスピードだが、神速とアクセラレイターの併用であれば認識できるようになる。 
 
蹴られたインパクトを刃でよって相殺し、彼女の蹴り足を軸にして手刀を振り回す。 
 
 
「御神流、裏の技法」 
 
 
 知識として教えるが、わざとして使用するのはやめろと師匠は厳命した。 
 
生き残るための知識であって、勝つための技法ではないのだと釘を差されたのは今でも覚えている。当初は納得出来なかったが、全てを学んだ時に痛感した。 
 
自分では使用できない。剣として使えば、きっと破滅するだろう。未熟な自分に使える技ではなく、剣士として成り立っていない自分には過ぎた剣であるのだと。 
 
 
当時足りなかった全てのマイナスはユーリタチによって零となり、高町なのはとアリシア・テスタロッサにプラスとなっている。 
 
 
「小太刀二刀御神流裏 奥技之参――射抜」 
 
 
 御神美沙斗が得意とする、奥義。実践して見せてもらった時、自分自身が震え上がったのを忘れられない。 
 
俺にとっての強さの最たるものであり、目指していた天下そのものだった。きっとあの時、あの瞬間、俺は心の挫折を味わったのだ。 
 
天下無双の極意。御神流二刀奥義の中では、最長の射程で最速を誇る奥義。小太刀二刀御神流裏の奥技が、聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトに発動した。 
 
 
繰り出された足に射抜が突き刺さり、彼女の麗しき太腿に極太の穴が空いて血が吹き出した。 
 
 
「うっ――くう……ファントム、スマッシュ!」 
 
 
 軸となる足を失っても、彼女の狂気は晴れない。彼女の無念は決して、消えることなどありはしない。 
 
分かっている、俺だって挫折を味わっても剣を振るっている。俺たちは、醜い生き物だ。あさましき獣だ。だからこそ、世界なんて背負ってはいけないのだ。 
 
魔力による拡散弾が次々と打ち込まれるが、変幻自在の高速の突きの連撃によって撃ち落とされる。鍔迫り合いはお互いを傷つける結果にしかならないが、止めない。 
 
 
俺たちはもう十分に傷ついている。挫折して取り残されて、悲しみと怒りしか残っていない。 
 
 
「わたし……私は、貴方のために――皆のために、世界を!」 
 
「小太刀二刀御神流裏 奥技之参」 
 
 
 分かっている、貴方はどこまでも優しい人だ。 
 
優しいから、狂ってしまった。悲しいから、耐えてしまった。苦しいから――戦ってしまったのだ。 
 
貴方は、戦うべきではなかった。立ち上がるべきではなかった。貴方が戦わなければ、世界はきっと滅んでいただろうけど―― 
 
 
大切なものは、失わなかっただろうに。 
 
 
 
「射抜」 
 
 
 
 ――手刀が、彼女の胸を貫いた。 
 
 
神速とアクセラレイターによる超加速で突きを繰り出し、突いた勢いからもう一方の小太刀で相手を完全に貫いた。 
 
その際に一撃目を引き戻す事でさらに突きを放ち、最大威力で胸板を貫いた。この技は神速を使用すると更に早くなり、狙い撃ちまで可能とする。 
 
受け流しや回避より先に貫かれてしまうので、回避はほぼ不可能な必殺の奥義だった。 
 
 
「い……いや……まけ、るわけ……には……愛する、子供たちを守っ……」 
 
 
"もういいよ、貴女のおかげでなのは達は元気に生きてます" 
 
『貴女が思うほど、わたしたちは弱くなんて無いよ』 
 
 
 そして彼女を貫いた手より、光が放たれる。 
  
『フェイトの友達の力を借りて今こそ貴女を救ってみせるわ、お母様!』 
 
 
 ――精霊へと昇華されたアリシア・テスタロッサが、オリヴィエを浄化の光に包み込んだ。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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