とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百二十七話



 ――元々自分が一刀だったのに、拘り自体は特になかった。


有名な流派に入れるほどの生まれ育ちではなく、剣を持つようになったのも孤児院時代のチャンバラゴッコの延長でしか無い。

血筋も学歴も何もなかった自分が誇れるのは、チャンバラゴッコ無敗の記録でしかなかったと言うだけだ。そのまま卒業も出来ず、孤児院を出て一人剣を振り回して生きてきた。


子供の頃に卒業するべき事なのだが、大人になった今必要となったのは皮肉というべきだろうか。


「ソニックシューター!!」


 球状のエネルギー弾を無数に生み出して、次々と投げて攻撃してくる。致命打にならずとも、数多く喰らえば全身穴だらけになるだろう。

星々が頭上から降り注ぐ脅威を前にして、俺は無手から剣の構えを取る。夜空の星が落ちてきた錯覚に襲われながら、刀を使うことを強くイメージする。

刀であれば、切り払える。生命の剣セフィロトが手元にないからこそ出来る、この技。一刀で切り飛ばす本来のスタイルではなく、二刀の小太刀を連想する。


御神流、正統技――小太刀二刀流。


「"虎乱"」


 二刀の小太刀をイメージしているからといって、手から刃が飛び出してくるのではない。無手の構えにより、剣を振るイメージで身体という刃を振るうのだ。

御神流の技の1つである虎乱は、二刀より放たれる連撃である。奥義ではなく二刀流では基本的な技なのだが、美紗都師匠ほどの達人が振るえばドラム缶でも叩き斬れる。

縦横無尽に襲いかかってくる魔弾を、全身をフルに使って手足を自由自在に操り、捌いていく。本来脳のイメージに肉体がついていけないのだが、この身体は別である。


師匠より与えられた強さの知識レベルに、ユーリタチより与えられたこの身体であればついていけるのだ。


「ミドルレンジの射撃――どこまでついていけますか!」

「死にものぐるいで、食らいついてやるとも!」


 聖王オリヴィエの火力は圧倒的であり、一回の剣士が捌ける桁数では絶対にない。銃火器相手では対抗できないから、剣は廃れていったのだ。

御神流であれど、例外ではない。この流派は個人的に世界最強の建議だと思っているが、世界から見ればただの思いこみだろう。

事実恭也や美由希、あの美紗都師匠であっても剣以外の道具も使っている。俺だってアギトやユーリ達、高町なのは達の魔導に頼って何とか戦えている。


純粋な剣技では、銃火器には勝てない――だから剣以外のあらゆる全てを、使う。



自分の感覚さえも、武器にして。



「御神流、"心"」

「なんと見事な集中力……以前貴方が言っていた、明鏡止水の心ですか!」


 本来であればついていけない魔弾の嵐に対して、俺は四方八方を尽くして剣を振るっている。明らかに目で見て追っていないのだと悟って、オリヴィエは感嘆の声を上げる。

御神流の"心"は、目を頼らずに音と気配によって相手の居場所を知る技。ロシアンマフィアのクリスチーナに狙われて、師匠に請うて概念を教えてもらったのだ。

体現できるようになったのは最近だが、この実践を通じて練度を高められている。皮肉な話だが、この危機的状況により俺の感性は磨かれていっていた。


無論、決して無傷ではない。銃火器は銃弾だが、魔弾は魔法である。切り捌く度に破裂して、余波を浴びて肌が切り裂かれていっている。


裂傷が絶え間なく刻まれて血が流れているが、肉を切り裂くほどではない、致命傷を避けるべく、裂傷を恐れずに戦っているというだけだ。

延々と続く連続攻撃に苦しめられているが、我慢はできている。弱者の人生とはとどのつまり、我慢の連続なのだ。忍耐なんて当たり前のように積み重ねている。


だが、あの女はそうではない――忍耐が限界を超えて、世界に絶望したのだから。


「アクセル・スマッシュ!」

(……馬鹿な奴だ。このまま続けていれば、俺が持たなかったのに)


 致命傷は避けているとはいっても傷がついているのだ、消耗戦になれば耐えられなくなる。打って出ないといけないのは俺の方だったというのに、あっちから飛び出してしまった。

最も、想定済みではある。あの女は我慢がきかない。生前は我慢の連続だったのだ、死後に爆発して怨霊となった今では我慢なんて出来るはずがない。分かっていた。

本当に悲しい女だ。同情の一つでもしてやりたくなるが、先程アギトに一括された。殴られなければ分からないほど、追い詰められてしまっているのだと。


小太刀二刀流の虎乱で斬りかかるが、相手の攻撃をカウンターの拳撃で打つアクセル・スマッシュで両手が噴き上げられた――力任せすぎる。


がら空きになった胴体に拳を入れられて悶絶しそうになるが、拳に魔力を多めにまとっているので防御力はダウンしている。それを察して、俺は苦し紛れにケリを入れた。

オリヴィエに腹を殴られて俺は吹っ飛び、オリヴィエは俺に蹴られて地面を転がる。両方共にがら空きだったので、痛手は双方共に大きい。


特に俺は衝撃で肺が一瞬潰れて、呼吸が満足にできない。地獄の苦しみであった。


「ゴホ……アクセルスマッシュ・W!」

「ガハ、ゲホ……高町流、浮月腿!」


 よろめきながらもアクセルスマッシュによる高速の打撃を2発動時に叩きこもうとする、オリヴィエ。俺は悶絶しながらも地面に両手をついて、足から飛び上がった。

浮月腿、コンビニ娘が使っていた相手を吹き飛ばす飛び蹴り。古代ベルカの拳技と中国拳法の蹴技が激突して、お互いが傷つく結果となった。

まともに殴られて俺は頬骨が折れて、オリヴィエは髪の毛ごと片耳がちぎれる。顔から壮絶に血を流しながらも俺は無手の剣を構え、オリヴィエは拳を握った。


譲れるものなど、ありはしない。俺はこいつが許せないし、こいつは世界が許せない。


「う、ぐ――エクシードスマッシュ!」

「――グアアアア、み……御神流、貫!」


 カウンターのように繰り出される魔力をまとわせた 下から突き上げるようなパンチ。俺は顎と一緒に歯まで砕かれて、血を吐いた。

致命打を追ったその瞬間が、大いなる隙となる。意識だけは保っていた俺は相手の防御を突き抜ける技を持って、オリヴィエを今度こそ上段から切り裂いた。

相手の防御を見切り、突き通すための極意、刹那の見切りと刀の扱いを具体的にイメージして、パターンを身体で覚えることで発動する。


顔を砕かれて俺は倒れ、胴体を切られてオリヴィエは血に沈んだ。


「う、うう……ま、負けられない、私は、負けられないのです……世界を、壊し、再生して……
我が子に今度、こそ、平和な世界を……!」


 血を流しながらも、聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトは立ち上がる。痛みに震えていようと、その確かな拳をその手に握りしめて――上空へのゆりかごへと向かおうとする。

彼女はきっと、あのような勇姿を見せて旅立ったのだろう。仲間達に背を向けて、聖王のゆりかごに乗り込んで、世界を一度は救ったのだ。

そして今、同じことを繰り返そうとしている。また聖王のゆりかごに乗って、世界を次は破壊するつもりなのだ。新しく、再生するために。


彼らの仲間は誰一人、彼女を止められなかった。その先に待つのは悲劇だと分かっていても、彼女が強すぎて止められなかったのだ。



世界を救うなんぞ、柄ではないけれど――



「お前を今度こそ、行かせはしない」



 ――母親気取りの女一人くらいなら、一介の剣士でもどうにかなるだろうよ。


凛々しく宣言したつもりだが、あいにくと俺は顎がふっ飛ばされて言葉が本当はちゃんと出ていない。うわ言めいた声を上げて、立ち上がっただけだ。

だというのに彼女は、振り返った。傷だらけの身体で立ち上がる俺を見て、泣きそうな顔をして――


ゆりかごへ向かう足を、止められた事を――何故かとても嬉しそうにして、立ち止まったのだ。


「私には使命がある、決着をつけましょう」

「そんなもの、あんたにはもう無いよ。ケリを付けてやる」


 この身体ではもう、小競り合いは出来ない。

消耗戦に持ち込まれれば、勝ち目はない。短期戦で挑まれたら、火力が足りない。つまり、どうしようもない。

だったら、反則技しかない。


小太刀二刀、御神流――"裏"















<続く>








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