とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百二十三話
                              
                                
	 
 開戦の口火を切ってしまった以上は、仕方がない。意識を切り替えて、何としてもあの女を止めるべく全力を尽くさなければならない。 
 
禁忌兵器であるフェアレーターはユーノ達の調査によれば、ベルカの大地の全てが荒廃して、人々は苦境に追いやられてしまったらしい。まさに世界を滅ぼす兵器だった。 
 
周辺国家が泥沼の戦争状態に突入する中、敗北へ追い込まれた国が周囲を汚染した兵器。この兵器により戦争は激化して、聖王のゆりかごが必要に迫られてしまった。 
 
 
聖王オリヴィエにとって最初のトラウマであったこの兵器の再現度は異常で、決戦の舞台であった第23管理世界「ルヴェラ」は死の大地と化した。 
 
 
「ナハトヴァールは無事か!?」 
 
『いえーい』 
 
「……元気いっぱいのようですね」 
 
「あいつを見ていると、全てがバカバカしくなる」 
 
 
 大地に突き立てられた生命の剣セフィロトを前に、イリスを連れたナハトヴァールがキャッキャと笑っている。ちなみにイリスは引きずられていた、気の毒に。 
 
セフィロトが放つ生命の光は戦場に転がる人々を明るく照らし出しており、浄化と回復が行われている。敵側も治癒されてしまっているが、この状況では敵も味方もなかろう。 
 
苦肉の策ではあったが、何とか持ち堪えられている。今のところは、死者もかろうじて出ていない。ただセフィロトを大地から抜いてしまえば、容赦なく汚染されるだろう。 
 
 
聖王オリヴィエを倒すには剣が必要なのだが、その剣を引き抜いてしまえば仲間達が死ぬという絶体絶命の状態になっている。どうしてこうなった。 
 
 
「父上、イクスヴェリアに命じて聖王のゆりかごを着陸させましょう。この船の中であれば、汚染は防げます」 
 
「どうしてこの船の中なら大丈夫なんだ。あいつがこの船に漂っていた時、船内も汚染されていたぞ」 
 
「聖王のゆりかごは今稼働状態です、あの時とは違います。この船の生命維持システムは瀕死であったイクスヴェリアさえも蘇らせられる程で、群を抜いています。 
停止させるのは困難でしたが、逆に起動させるのは非常に簡単です。システムを再び運用させて、皆さんを船員として登録すればゆりかごは守ってくれます。 
 
私は何としても皆さんを守りますので、父上は戦いに専念して下さい」 
 
「シュテル……」 
 
 
 剣士の娘であるシュテル・ザ・デストラクターは世界平和よりも、以下にして一対一の理想的環境へ持ち込めるか思考を働かせていた。 
 
犠牲者が大量に転がっている戦場では、思う存分戦えない。仲間を気遣って勝てるほど、聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトは甘くはない。 
 
一人旅をしていた頃であれば他人がどうなろうと知ったことではなかったのだが、目の前で倒れている人達は自分がどうなろうと構わないという覚悟を持っている連中だ。死なせたくはなかった。 
 
 
シュテルが剣士の娘として覚悟を決めているのであれば、俺もこの際やりたい放題やってやろう。 
 
 
「よし、お前の案を採用する。いかなる権限を用いても構わないので、お前の裁量で思う存分やってくれ」 
 
「思う存分やっていいのですね!?」 
 
「何で食い気味にそこまで念押しするんだ、こら!?」 
 
「この状況です、不謹慎な真似はしませんとも。みなさんを恩着せがましく救出して、父上との関係を認めさせるまでのことです」 
 
「頭いいのにアホだ、こいつ。まあいい、お前が製作した新型通信機をよこせ」 
 
「CW社が開発したこの通信機であればこの状況でも繋がりますが、救援要請するのですか」 
 
「剣を捨てた以上、もはや俺に何のプライドもない。やりたい放題しまくってやるさ」 
 
 
 特務機動課の部隊長であり、責任者だからな。責任者とは、何かあった時に責任を取らなければならない立場の人間だ。 
 
此度の戦争では時空管理局や聖王教会とも連携が取れていて、俺に全権が与えられている。認められているだけではなく、何かあった時に全責任を負わせる為の権限だ。 
 
大人達の身勝手な政治論争にはウンザリさせられるが、今となっては俺も加担する側である。汚い大人になってしまったものだと自虐しつつ、俺は通信を繋げた。 
 
 
聖王のゆりかご内のシステムもシュテルが活用してくれて、主だった面々と連絡を取ることが出来た。 
 
 
『――つまり今、世界の危機にある。お前はそういうのですね、田舎者』 
 
「はい、ぶっちぎりですね」 
 
『何をやっているんだ、貴様ああああああああああああ!』 
 
 
 白旗からはスポンサーであるカレイドウルフ大商会のカリーナお嬢様、時空管理局からは地上本部最大権力者のレジアス中将が参席している。 
 
どっちにも繋げたくなかったのに、両組織に連絡を取ったら真っ先にこの人達に繋がった。説明が面倒な相手に、早速だが頭が痛くなった。 
 
政治的行為には不慣れだが、俺も夜の一族の世界会議を経験した身だ。カレンやディアーナ達、夜の一族の姫君たちを相手にするよりはマシだと思おう。 
 
 
ここまでの事態になると、もはや責任の擦り付け合いで済む話ではなくなる。 
 
 
『儂が最大限支援してやった新兵器のお披露目どころの話ではなくなっておるだろうが! どうするつもりだ、世界が一つ滅んでおるではないか!?』 
 
『恐らく次はここベルカ自治領、そしてミッドチルダ全土に押し寄せてきますの』 
 
「実に的確な読みですね、ご慧眼であらせられる」 
 
『貴様の犯した失態のデカさに比べたら、紙屑のように無価値なお世辞はやめんか!!』 
 
 
 次は自分達のいる世界が狙われると、次元世界を管理する権力者達は的確な戦術判断を行う。自己保身など頭の片隅にもない、冷徹な判断だった。 
 
彼らの判断は、正しい。聖王オリヴィエはベルカやミッドチルダの現状を知っているのだ、容赦なく牙を向くだろう。 
 
そもそもあいつが目覚めた際に見た光景が、聖地による権力闘争だったのだ。世界平和のために犠牲になった聖王が、今世においても戦争が続いていれば怒りたくもなる。 
 
 
ナハトヴァールの言葉で自己矛盾を起こしたあいつは今、全てをなかった事にするだろう。世界を、滅ぼすことで。 
 
 
『お前の話では聖王のゆりかごと、聖王オリヴィエの身体が揃ったことにより、怨霊が目覚めてしまったという事ですのね』 
 
『幽霊なんぞ信じたくもないが、まさか現代に至ってもまだ未練がましく漂っていたとは……ふん、忌々しい』 
 
「符号が揃ってしまったからこそ、回帰してしまった可能性があります。何れにしても原因は全てを揃えてしまった真犯人になります」 
 
『フィル・マクスウェルだったか――無論、確保はしているのだろうな』 
 
「ええ、万事抜かりなく」 
 
『結構。戦犯がいてくださったのはせめてもの救いでしたの、怨霊が原因などと世間に説明がつきません』 
 
 
 フィル・マクスウェルは災害の中心地に思いっきりいたせいで、汚染しまくって転がっている。助ける義務なんぞないので、縛らせておいた。 
 
生命操作能力があるユーリは生命の剣セフィロトと同じ属性を持っているので、汚染の影響は受けない。あの子の防衛能力は、天下一品である。 
 
ただ怨霊の汚染はさすがに結界などでは防げないため、本人を防衛できても仲間達は助けられなかった。ユーリはナハトヴァールと一緒に今、必死で仲間達を救護している。 
 
 
夜の一族の王女である月村すずかも汚染の影響はない為、ヴィータ達精鋭陣の救援に必死になっている。 
 
 
『貴様は責任者だ。責任の取り方は考えているのだろうな』 
 
「分かっています。この事件を解決した後、私本人が責任を取りましょう」 
 
『こちらが聞いているのは、具体的な話ですの。お前は"聖王"である以上聖王教会にとって不可侵の領域、時空管理局にとっては世論を高める英雄的存在。 
こちらから追求はするのはこんなんですが、さりとてふんぞり返られても困ります』 
 
『ええ、ですので辺境の地へ自ら飛びましょう――惑星エルトリアへ行き、テラフォーミングに邁進いたします』 
 
 
 ――元々アミティエやキリエと約束していた事を、さも責任を果たすかのように自ら左遷を名乗り出た。 
 
神から人へという演説を行って一応"聖王"という立場自体は降りたのだが、象徴的な意味合いで神輿そのものはまだ依然として残っている。 
 
人々はいざとなればやはり俺を頼るだろうし、実際今世界を救うべく部隊を率いて戦っているのだ。人々は固唾を飲んで見守り、拍手喝采を上げている。 
 
最悪の状況ではあるが、事件をもし解決すれば人々はますます俺を盛り立てるだろう。そうなってしまえば、自由に行動ができなくなってしまう。 
 
 
キリエの親父さんはもう持たない。一刻も早くどうにかしなければならないのだ、責任を果たす形でエルトリアへ左遷されよう。 
 
 
『エルトリア――確か貴様が司法取引した者達の故郷か。人が住むにも適さない極悪な環境、管理外とされている大地か』 
 
『自ら左遷を申し出て、惑星の再生に勤しむ形で責任を果たす。まあ、妥当ですの。 
お前が居ない方が、こちらとしても偶像を祭り上げやすいので』 
 
 
 死んでこそ英雄という言葉があるが、この事件を解決して俺が世界から消える事で英雄願望を盛り上げて世論を高めるように起用する。 
 
全ての元凶はフィル・マクスウェルにあると矢面に立たせて世間の非難を浴びせ、世界を滅ぼすかけた責任として世界の救世を行うことで人々の同情を買う。 
 
一部の権力者が国を牛耳っているという子供ならではの都市伝説があるが、こういうやり取りを聞いていると実は真実だったのではないかと思いたくなる。 
 
 
俺はあくまでここぞとばかりにエルトリア行きに便乗しただけなのだが、この権力者共は早速極悪な政策を作り上げていた。 
 
 
『いいだろう、貴様がそこまで言うのであれば泥くらいはかぶってやる。救援部隊はすぐに送るし、事件の後始末もしてやろう。 
その代わり事件は必ず解決しろ、いいな』 
 
「勿論です。聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトは、私が倒します」 
 
『戦いの行方は全て、記録しておいて下さい。 
現代の英雄が、過去の英霊と戦うのです。世紀に残る未曾有の大事件を、現代の神話に飾り立ててみせますの』 
 
『それはいい。新兵器開発に深く関わる貴様が英雄譚を作ってくれれば、格好のPRとなる。 
地上本部で大々的に盛り立てて、本局の連中を羨ましがられせてやろうではないか』 
 
 
 コイツラは、悪魔だ。ドエライ連中と手を組んでしまったことに頭痛を感じつつ、その後諸々の手続きを行って通信を切った。 
 
記録に残すのであれば、法術が使えない。いざとなればの切り札にすることも検討していたのだが、これで台無しとなってしまった。 
 
もしも簡単に倒されたら英雄譚どころの話ではなく、大ブーイングを食らうだろう。俺だけではなく、仲間達まで笑いものになってしまう。 
 
まさか自分がファンタジー映画の主人公ばりに、ラスボスと戦わされる羽目になるとは思わなかった。 
 
 
何でこんな事になったのだろう――田舎で、道場破りをしていたことが懐かしい。 
 
 
「アリシア、汚染環境で戦うにはお前の協力がいる。いくぞ」 
 
『うん――バリアジャケット、セットアップ!』 
 
 
 アリシアの魂が具現化した、風神の籠手。フェイトがいないので、雷神の籠手は生憎と使えないが仕方がない。 
 
剣を失ったが、高町なのはとの魂の共有により飛空技術は再現できる。シュテルに後を任せて、俺は聖王のゆりかごから出撃。 
 
風神の籠手で風を操って、死の大地へと降り立って―― 
 
 
『我が息子よ。私の覇道に――』 
 
「俺の大事なナハトヴァールを襲ったんだ、まず一発殴らせろ」 
 
 
 そのまま、殴りかかった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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