とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百十八話
冥王イクスヴェリアは俺が斬り、マリアージュ群団はレヴィ・ザ・スラッシャーが全員叩きのめして、状況は終了した。
ゆりかごの防衛機構が盛大に働いている最中でも、レヴィの張り切り振りは留まる事を知らなかった。殴り蹴飛ばし、投げ飛ばして、元気いっぱいに戦いまくった。
AMF空間による抑制が強く効いていたのだが、スプラッシュモードによる身体機能の向上が彼女を動かし、俺の参戦がよほど嬉しかったのか、テンションを上げて倒しまくったのである。
最後の一人をノックアウトさせた途端、引っくり返ってグロッキーとなったのも我が子らしいと言える。
「パパ、全員やっつけたよ……おなかすいたー……」
「よく頑張ったと褒めてやりたいが、ここまでやられると逆に呆れてしまうな」
鍵の聖王が昏倒したり、あるいは戦意を喪失したりした場合において、聖王のゆりかごは聖王を防御機構の制御下に置いてしまう。
鍵となった人物の意識や意思とは無関係にプログラムに従い、相手を撃破するまで戦闘を強制的に継続させるのである。俺はこの矯正機能を利用したのだ。
首を斬られて絶命寸前のイクスヴェリアを玉座に座らせると、強制的にゆりかごの防衛機構が発動。戦闘を継続させようと、彼女を生かすべく最大限の処置を行う。
元より加減できる相手ではなかったが、半端に生かすと戦闘を継続されるので、瀕死にまで追いやって何とか戦闘不能にさせたのだ。
「我が父を疑うつもりなどないが、死んではおらぬのだな」
「レヴィにも言ったが、ゆりかごが生かしてくれる。ただお前の攻撃でも復活したからな、これぐらいやらないと戦闘不能にはできなかった。
本来なら即死するほどの怪我だ、ゆりかごといえど生かすのが精一杯だろうよ」
「……すまぬ、父よ。我の覚悟が足りぬせいで、父の手を血で染めてしまった」
「こいつがかつて生きた、血で血を洗う時代はもう終わった。
お前は新しい時代を築く王だ、白い旗を掲げるその手を血で染めるな」
「我にそこまで期待をかけてくれるのか、父よ。必ず父が満足に生きられる世界を作ってみせようぞ」
自分の次を託す日が、こんなに早く来るとは思わなかった。そもそも次なんてなく、自己完結して終わる人生を生きるつもりだったのに。
血で染まり倒れる冥王を見下ろして、嘆息する。自分もいずれはこうなるのだと、覚悟は決めていたつもりだった。他人を斬り続けて、いずれは自分が斬られて終わるのだと。
子供の遊びから始まったチャンバラごっこが、異世界で殺し合うことにまでなるなんて、人生とは分からないものである。
結局俺は天下も取れず、王の座は自分の娘に託してしまったが、今もこうして生きて剣を振るっている。
「こういう事態を想定して"切り札"も用意したのだが、結局使う事はなかった。まあ、父さえ戻れば万事抜かりはないのだが」
「えへへ、パパが無事で本当に良かったよ。きっと帰ってきてくれると、信じてたんだ」
「ああ、俺の方は問題ない――全部、終わったよ」
ディアーチェ本人もシュテルの新武装を断った手前、自分なりの対策を天賦の才能だけに頼らず用意していたらしい。こういう所が、冥王の称する王の在り方なのだろう。
俺も連戦で消耗は大きいが、リインフォースの夢による休息を行っていたのでまだ戦闘は可能。ただディアーチェとレヴィは残念だが、後方に回らざるを得ない。
レヴィは身体能力だけで乗り切った分、消耗が激しい。ディアーチェに至ってはリンカーコアを破壊されて、魔導の力が行使できない。
本人達は今もやる気こそあるが、自分のコンディションくらいは分かっているのだろう。俺が撤退を促すと、渋々承知してくれた。
「レヴィ、ディアーチェを連れて補給基地まで下がれ。後は俺たちに任せて休んでいろ」
「えー、もうちょっと戦いたかったけど……お腹すいたし、仕方ないか……ディアーチェ、立てる?」
「無論だ。貴様の場合、立てなかったら引きずっていきそうだからな……しかし、ゆりかごは止めねばならぬ。父よ、どうするつもりだ」
「イリスの話だと、イクスヴェリアも強制停止する権限はあるらしい。もう少し待てば、意識くらいは取り戻すだろう。
本人も敗北は認めるだろうし、ゆりかごの強制力も瀕死の人間を動かすほどじゃない。本人が起きるのを待って、ゆりかごを停止してもらう」
無限書庫で調査したユーノやヴィヴィオの話だと、聖王が存在確認不能状態となった場合は聖王よりも「ゆりかご自身」を守るように動作を変更するらしい。
現在ゆりかご内の魔力リンクを完全にキャンセルされているが、その後自動機械と防衛機構によって内外の異物を排除するようだ。
乗員よりも船を優先するなんて乗り物として失格だと思うのだが、このゆりかごは乗員を見捨ててでも安全空域まで飛行を行う設計がされている。
そうなる前にイクスヴェリアに止めてもらい、この事件を終わらせる。
「外の状況を確認したいが、俺はイクスヴェリアを置いてここから離れられない。お前達は避難して、シュテルを呼んでくれ」
「あー、ずるい!」
「ずるい?」
「またシュテルを贔屓しようとしてる! 僕だって頑張ったんだから、イイコイイコしてほしい!」
「むっ、父よ。我もそれなりの成果を上げたのであって……」
「何いってんだ、コイツラ!? 外の様子が知りたいと言っているだろうが!
AMF空間内では動けないお前らと違って、あいつは新武装や通信機器を持ってるからこういう状況では役立つ。
大怪我してフラフラの子供は失せろ、シッシッ」
「うう、こういう時パパは冷たい……」
「可愛い我が子にも容赦がないからな、父は」
文句の多い子供達だが、親の言うことは素直に聞く良い子達できちんと撤退してくれた。意固地にならないああいう面は、戦士としても優秀である証拠だ。
冥王イクスヴェリアは倒したが、黒幕はまだ活動している。ヴィータ達も一進一退の攻防を行っており、特務機動課の部隊も人型兵器の軍勢相手に戦争を繰り広げている。
副隊長は倒れたが、シュテルがフォローしてくれている筈だ。ユーリはマクスウェル所長を押さえているので、今自由に動けるのはあいつしかいない。
状況を見極めていると、鍵の聖王の前に颯爽とシュテル・ザ・デストラクターが飛び込んできた。
「父上がお呼びだと伺いまして、あらゆる全てを差し置いて駆けつけました」
「投げ捨ててくるなよ!?」
相変わらずのマイペースぶりだが、オルティアより託されたのできちんと責任を果たして来たのだろう。怒られるのも予測して、こういう言い方をしたに違いない。
シュテルより話を聞くと、黒幕の登場によって戦局は一時傾いてしまったものの、CW社が開発した新武装が功を奏して反撃に出れているらしい。
マクスウェル所長が現在主導権を握っているとはいえ、イリスが投降したことも大きい。主導権が急に変われば、戦線だって混乱もする。
シュテルも積極的に戦場を駆け回って、あらゆる局面の援護射撃を行ってくれたようだ。
「オルティアさんが意識を回復いたしました。すぐにでも戦場への帰還を求められましたが、父の命令だと言って後方からの指示を徹底させています」
「ま、まあ俺もそう命ずるつもりだったけど、あっさり代弁しやがったな」
串刺しにまでされておいて、もう意識を取り戻したとは恐れ入る。相当な深手だったはずなのに、もう副隊長としての使命を果たすつもりらしい。
猛者で成り立っている傭兵団を統率していた女傑だけあって、その精神力は桁違いであった。今も通信機器片手に、補給基地から支持しているらしい。
戦線が機能しているのであれば、底力のある特務機動課であれば押し切れるだろう。シュテルの援護によって、ヴィータ達も持ち直している。
となれば後は――
「真犯人であるフィル・マクスウェルは、ユーリとイリスを確保するべく今も戦っています」
「なるほど、その二人を押さえれば逆転も狙えるだろうな」
ユーリ・エーベルヴァインとイリスを洗脳することによって、自分の新しい戦力とする。そうすれば俺達を壊滅させられるのだと睨んで、本人が出張っている。
マクスウェルが登場したのも、ユーリによってイリスが陥落した為だ。イリスが持ち直して、ユーリを味方に出来れば確かに心強い戦力となるだろう。
正直ド素人でも思いつく発想で、根本的な問題点がある。
「法術が効いている限り洗脳なんぞ出来ないはずだが、どうするつもりなのか考えでもあるのか」
「イリスの異常な殺意やリインフォースの徹底した追い込みを見ても、第一としていたのは父上の殺害でしょう。
ゆりかごを暴走させたのも恐らく、父上を誘い出すための罠です。
冥王イクスヴェリアに始末させるか、暴走したゆりかごを棺桶とするつもりなのか」
「――と、いうことは」
「はい、父上がここにいる事自体が彼にとっての必殺となります」
げっ、あいつ涼しい顔をして俺を罠にかけていやがったのか。ぬけぬけとした顔で、よく次から次へと悪辣な罠を仕掛けやがるな。
いや、でもゆりかごへ行こうとしたら妨害したのは何故なんだ。罠をかけたいのであれば妨害なんて逆効果――あ、いや、そうでもないか。
妨害しようとすればするほど、自分の行動は有効なのだと思いこんでしまう。その心理をついた、逆仕掛けだったということか。
研究者らしい罠仕掛けに、俺は舌を巻いた。
「この戦況を見る限り、冥王イクスヴェリアは父上が見事討伐されたご様子。でしたら次なる罠として、ゆりかごの暴走でしょう」
「ゆりかごは船員よりも船そのものを優先する。その機能を利用して、俺を殺すつもりか」
「冥王イクスヴェリアを殺せば、ゆりかごは暴走する。冥王イクスヴェリアを生かせば、ゆりかごは運行し続ける。どちらであっても彼の価値となります。
ですが父上は、イクスヴェリアをこうして瀕死に追い詰めた。この状態であれば、止められるでしょう。
まさか彼も父上が殺す覚悟で挑み、ゆりかごの機能を用いて生かすとは想定できなかった。私も感心いたしました」
殺すつもりで敵を切り、結果として生かす。この着地点は、研究者が追求できなかった一点であったのだとシュテルは語る。
斬れば死ぬという理屈は一般人とっての常識であっても、剣士には当てはまらない。切った張ったのさじ加減は、剣士でなければ把握できない妙であろう。
何度も生死の経験を味わって、ようやく分かる領域だ。残念なのはこの一点は強者による高みではなく、弱者にだからこそ分かる生き汚さに過ぎない。
地べたに這いつくばらなければ分からないような事なんて、味わっていいものではないのだから。
「私もここへきた以上父の生存は確定であり、彼の目論見は潰えました。となれば、後は単純な話です」
「ユーリとイリスが、マクスウェルを倒せばいいのだな」
「はい、モリタニングできますので少々お待ち下さい」
「頼んだ」
ユーリは安全牌だけど、問題なのはイリスなんだよな……
不安になりつつも、俺はマクスウェルとの最終戦を目撃する。
戦況は、案の定だった。
<続く>
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