とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百十六話



 冥王イクスヴェリアは洗脳されてこそいるが、主をイリスと定めている――その点が、大いに災いしてしまう。

我が子ディアーチェは現代の王を名乗っており、敵対どころか共感さえしてみせた。しかしながら既に"聖王"の座を降りた俺からすれば、共感などありはしない。

相手からしてもそれは同じで、イリスは俺こそ諸悪の根源だと思っていた。だからこそある意味ユーリよりも、俺も憎悪を向けていたといってもいい。


冥王イクスヴェリアにとって、宮本良介という存在は最優先で排除すべき対象であった。


「標的を俺に変えたな。ディアーチェ、お前は休んでいろ」

「……父の手を煩わせてすまぬ」

「お前はもう少し、親に甘えることを覚えたほうがいい」


 傷付いた姿で申し訳無さそうに言うディアーチェに、俺は諭した。手のかからない子というのは立派ではあるが、こういう時は素直に頼ってもいい。

自分が子煩悩な親になるなんて今でもイメージできないのだが、血も繋がっていない少女に我が子のように愛せるとは思わなかった。

背伸びなんぞしなくても俺よりも立派な子なのだが、この子の瞳から尊敬の色が消えることがない。だからこそ、親としてむしろ俺が背伸びしてしまう。


冥王イクスヴェリア、強敵ではあるが我が子の前で負けられない。


「マリアージュ、対象を変更!」

「レヴィ、迎え撃て!」


 マリアージュ群団の銃火器が全て俺に向けられたその瞬間、自身での対処を諦めた。剣はペンよりも強いが、銃火器相手では限界というものがある。

ユーリやフローリアン姉妹によって強くはなれたが、自惚れられるほど自意識は高まってはいない。剣士としての臆病さは理性よりも、本能の危機を優先した。

神速などの対応よりも、我が子への信頼が厚い。自分の技量に頼るのではなく、他人の実力に委ねる手段を俺は選んだ。


マリアージュ群団が一斉射撃するよりも早く、レヴィが射線上に割り込んでくる。


「いくぞー、"電刃衝"!」

「私を守りなさい、マリアージュ!」


 電刃衝はフェイトのプラズマランサーと同じく、連射が可能な雷光の弾を放つ技。無数の銃火器より発射される弾幕と、激突し合った。

レヴィが迎撃してくれた後、即座に地を蹴って駆け出したのだが、ほぼ一瞬の攻防の隙を見破られていたらしい。マリアージュに防衛を命じた。

俺の行動を見咎めた隙の無さには感心さえするが、行動を切り替えるには隙が大きくなってしまう。そのまま駆け出して、マリアージュ達に斬り込んだ。


マリアージュ達との攻防はこれが初めてではない。補給基地制圧の時も戦ったのだが、あの時からレベルがまるで違う。


そもそも冥王イクスヴェリアはマリアージュの生成は行えるが、マリアージュ群団をコントロールできたとする伝承はない。あくまで過去の伝記による事実でしかないが。

手足のように駆使できる操作性に加えて、ゆりかごの補助を最大限に受けて覚醒している。マリアージュの能力も比べ物にならないほど、高まっていた。

一人一人的確に斬り飛ばしていくが、反撃にあって足を止められてしまう。稼がれた時間を利用して、イクスヴェリアには防衛体制が敷かれていた。


思い切った手段に出る必要がある――俺は生命の剣セフィロトを掲げた。


「転移融合」

(アクセルフィン!)


 高町なのはの高速移動魔法。あいにく俺は肉体が強くなっただけで魔導に関する強化までされていないが、高町なのはからの精神共有による補助がある。

なのはとレイジングハートが開発した飛空の上位魔法であり、瞬間的な反応速度まで向上している技術。俺は中空を駆け上がって、イクスヴェリアへ突撃する。

即座にゆりかごからの妨害により魔法は解除されるが、一度でも飛び上がった加速までは減退出来ない。マリアージュ群団を飛び越えていった。


止めるのは不可能だと悟ったのか、冥王イクスヴェリアは王として高らかに命じた。


「私ごと侵略者を破壊しなさい、マリアージュ」

「なんだと!?」


 銃器を使用してくるところまでは想定していたが、あろうことかイクスヴェリアは破壊を命じた。撃ちなさい、ではなく破壊しなさいといったのだ。

マリアージュ群団が兵装したのは、ハンドグレネード。六連装ランチャーと呼ばれる凶悪な兵器を用いて、俺に向けて発射した。

当然だが、容赦なくイクスヴェリアも爆発に巻き込まれる。マリアージュの別兵が庇うので死ぬことはないだろうが、大怪我は避けられない。


そして俺はというと、余裕で木っ端微塵になるだろう。


「高町流」

(フ、フラッシュムーブ!!)


 奇想天外な状況に動転しまくっていたが、俺から檄を飛ばすと気を取り直して高町なのはが魔法を発動した。1万分の1でも連携が狂っていれば、粉々になっていただろう。

俺となのはが死ぬほど連携訓練した、ブリッツアクション。緊急事態が発生した場合に対抗して編み出されたダッシュの一種、 フライアーフィンに魔力を追加して急加速する。

いわゆるアクセラレイターの飛空版であり、敵目標と距離を取ったり背後を取るために使用する事を想定した技術。


つまり、他人という存在を受け入れた今の俺でしか出来ない技であった。


「御神流――"徹"」

「そのまま発射」


 "徹"とは衝撃を表面ではなく裏側に通す技で、威力を徹す打撃法。急加速して肉薄したイクスヴェリアの胸に加えようとしたその時、マリアージュが発射する。

フラッシュムーブにより六連装ランチャーによる攻撃は回避できたが、そのまま発射されたことで凄まじい爆発が起こって、技の威力まで流されてしまう。

そのまま二人して諸共に吹き飛ばされるが、痛手はほぼ同じ。俺はマリアージュの攻撃を回避できたが、マリアージュの攻撃によって俺の攻撃まで殺されてしまった。


両者ともに地面に転がり、そして立ち上がる。


「御神流――"貫"」

「燃焼液をばら撒きなさい」


 相手の防御を突き抜ける技を持ってイクスヴェリアに斬りかかるが、イクスヴェリアによる命令を受けてマリアージュが四散する。

一瞬自爆かと思ったが、マリアージュはなんと液体となって派手に爆裂する。強力な燃焼液が剣に降り注ぎ、セフィロトが汚染されてしまった。

相手の防御を見切って突き通す為の技でも、攻撃を行う刃そのものを殺されたら意味がない。


防御不能な技に対して、攻撃不能にすることで対応したのだ――技が初めて完全に破られて、目を剥いた。


「御神流――"虎切"」

「変移抜刀」


 一刀での遠間からの抜刀による一撃、かつて強敵を切り裂いた必殺がマリアージュの変形した刃によって防がれる。

一瞬の後に生命の剣を発動させて付着した燃焼液を吹き飛ばしたが、切れ味が落ちていることには違いない。マリアージュに防がれてしまう。

単なる一刀で嘆くほど、虎切は弱くはない。態勢を変えて切り込み続けるが、その一刀一刀それぞれに別のマリアージュが対応してその度に消耗させられてしまう。


ついには技の発動が終了してしまい、剣を下ろしたその先にマリアージュが何人も斬り殺されて――



冥王イクスヴェリアは依然として立っている。



「素晴らしい強さです――が、今のところ兵士としての実力しか見受けられませんね。
我が宿敵ディアーチェが憧れし王としての貴方を、見せてください」

(なるほど……冥王イクスヴェリア、貫禄の強さだ)


 付け焼き刃だと断じられて、反論する術を失ってしまう。

兵士として戦えば、俺の方が強い。基本的な体術で戦い続ければ、いずれ勝てるだろう。だが、彼女は兵士ではない。


冥王イクスヴェリアは、王として強い――兵士として戦ってきた今までの相手とは、格が違っていた。















<続く>








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