とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百十五話
「我が名は、イクスヴェリア。冥府の炎王を冠する、ベルカの王である」
「ちっ、ゆりかごに取り込まれたか。父の后に無礼な真似を――」
「我が名の下に甦れ、マリアージュ。闇統べる王、ロード・ディアーチェを殺せ」
フィル・マクスウェル所長によって支配下に置かれていた駒達が、彼のウイリスコードによって強制的に覚醒させられてしまう。
古代ベルカを恐怖と畏怖で震撼させた偉大なる王が偶然にも、聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと同時に覚醒めてしまい、戦局を劇的に悪化させられてしまった。
ディアーチェが実力を行使してようやく制圧したというのに、冥王イクスヴェリアはまさかの復活。決して殺さずに取り押さえた美徳が、逆効果となってしまう。
傷ついたディアーチェは舌打ちしつつも、奮い立つ。
「先ほどとは比べ物にならんな……レヴィ、マリアージュは貴様に任せる。我はあの馬鹿を止める」
「それはいいけど、うーん」
「何だ、言いたいことがあるなら早くいえ。相手は恐るべき相手だ、余力がないのだぞ」
「魔力リンク、完全に切れちゃってるよ。戦えるの?」
「な、なにいいいいいいいいいいいいいいい!?」
フィル・マクスウェルが覚醒させたのは、彼が操る駒だけではなかった。
聖王のゆりかごの防衛機構。鍵の聖王が昏倒したり、戦意を喪失したりした場合、聖王そのものがゆりかごの防御機構の制御下に置かれてしまう。
本人の意識とは無関係にゆりかごのプログラムに従って、相手を撃破するまで戦闘が継続される。その際は、ゆりかご内の魔力リンクを完全にキャンセルする。
主導権はイリスが握っていたのだが、ウイルスコードによって洗脳されてしまい、権利は全てマクスウェルに譲渡させられている。
「我はイクスヴェリアを押さえる。レヴィ、貴様は奴の配下であるマリアージュを倒すのだ」
「えー、あの子が次々と生み出しているから、もう数え切れない数になってるよ!?」
「何も全員を倒せと言っておるのではない。所詮は傀儡、イクスヴェリアさえ制圧できれば崩壊する軍勢よ。
貴様はこの状況下でも動ける貴重な戦力だ、一人一人確実に倒してくれればそれでいい」
「なるほど、一対一を何回も繰り返せばいいだけだね! ディアーチェ、あったまいいー!」
「お、おう……」
――あくまで相手も一対一で挑んでくるという無茶苦茶な前提なのだが、レヴィは大いに納得してしきりに頷いている。
ディアーチェも無茶振りした自覚があったのか、何故か好意的に受け止められて困惑している。嫌がるかと思えば乗り気で作戦に乗ってくれたのだから。
戸惑いこそあったが、我が家ではレヴィは愛すべき単純バカという認識なので、すぐに納得してディアーチェも意識を切り替える。
冥王イクスヴェリアとマリアージュ群団――かつて古代ベルカ時代を戦慄で震わせた戦力を相手に、我が子達は挑む。
「我こそロード・ディアーチェ、この世に生きる王である。我が威光を受けてみるがいい!」
――大仰な宣言なのだが、実を言うとマジックワードである。いわゆる魔術的言語であり、この呪文そのものが呪詛となって効果を発揮する。
マリアージュと共に襲いかかってきたイクスヴェリアの攻撃を受け止めて即座に無効化、そのまま反撃として即座に思考を活性化させて高速で飛ぶ。
ゆりかごの覚醒によって魔術は封じられているが、ディアーチェの魔法は進化し続けている。分析や分解される短時間であれば、新型の飛空魔法として効果を発揮する。
急速旋回して魔術を展開して発動。イクスヴェリアを連打するが、マリアージュを盾にして防がれる。
「自爆しなさい、マリアージュ」
「覚醒しても戦術は同じだな、イクスヴェリア。我には通じぬわ!」
ディアーチェの王の威光が発動、ガードさえも不能にするバインドリングをマリアージュに飛ばす。動きが封じられたその瞬間、レヴィの飛び蹴りが決まった。
申し合わせていた訳でもないのに、見事な連携だった。だからといって、お互い感心し合う関係ではない。お礼さえも不要であるから、家族なのだ。
ディアーチェはそのままイクスヴェリアへと向かって突撃するが、覚醒したイクスヴェリアの魔力は強大。押さえ込もうとして、逆に押さえられてしまう。
本来であれば世界さえ支配する圧倒的な魔力を誇るディアーチェだが、簡単に無効化されて出力が減少する。
「降伏するのであれば、条件次第で命を拾わせますよ!」
「王を勧誘するとは見上げた根性よな!」
直線状に何本もの魔力の剣を降らせる攻撃を繰り出すが、ゆりかごによって出力を封じられた剣戟は生成されたマリアージュの武器によって撃退されてしまう。
ならばと体術を駆使して物理攻撃を行うが、物量物力で返されてしまう。マリアージュ群団はレヴィが必死で戦って倒しているが、肝心のイクスヴェリアが次々と生み出すのだ。
マリアージュが生成する銃火器が被弾してロード・ディアーチェが血を吐くが、即座にデバイスを展開して銃弾を吸い込んで遮った。
この攻防はほぼ一瞬であり、刹那の判断が誤ればディアーチェは蜂の巣になっていたことを意味する。
「随分と容赦のない攻撃ではないか……人を殺める罪悪感も失ったというのか」
「王たるもの、死を命じ与えられなければ、冠を戴けません」
「随分と血生臭く、錆びついた価値観だな。そのようなくだらぬ時代などとうの昔に終わったことを、我が示してくれるわ」
デバイスが開いてディアーチェによる魔術の進化によって、なんと5つもの魔法陣が同時に展開される。
それぞれの魔法陣から漆黒のエネルギー弾を同時に発射されて相手に降り注いだ後、巨大な爆発を起こし相手を押し潰すこの技。
フルドライブバーストによる「ジャガーノート」、相手にとっては既知の魔術である。
「同じ技の繰り返しとは申しません、王として受けて立ちましょう」
「紫天に吼えよ、我が鼓動――出よ、"巨重"ジャガーノート!」
5つの魔法陣から漆黒の巨大なエネルギー弾が発射されて、それぞれ独自の屈折を行ってイクスヴェリアやマリアージュに向かって襲いかかる。
彼女が全身全霊で発射した魔術はまさに必殺であり、敵だけではなく聖王の玉座の隅々に至るまで徹底的に破壊して回った。
聖王のゆりかごに設計者がいるか分からないが、もしこの光景を目の当たりにすれば頭を抱えていただろう。魔術を無効化する空間が、魔術によって破壊されたのだから。
天井も壁も穴だらけになった空間で――冥王イクスヴェリアは、君臨していた。
「見事な力でした、ロード・ディアーチェ。貴方こそ、この世の王に相応しい」
「ゴ、ホッ……」
――冥王イクスヴェリアにより生成された刃が、ロード・ディアーチェのリンカーコアを貫いていた。
"巨重"とまで表現するに相応しいジャガーノートであったが、やはり敵からすれば既知の魔術。破壊によるダメージを被ったが、肝心の魔術は分解された。
頭から血を流しながらも、冥王イクスヴェリアは正確にディアーチェの隙を突いて彼女を攻撃。魔導師における急所を、貫いた。
法術によって誕生した彼女は心臓などを潰されるより、リンカーコアを狙われた方がよほど危機であった。
「あくまで服従しないのであれば、葬るのみです」
「な、きながら言われても、な……」
冥王イクスヴェリアは、壮絶に目から血を流しながら戦っている。だからこそディアーチェは王として何も言わず、戦いに専念したのである。
手を抜く失礼はあってはならない。洗脳されていようと、イクスヴェリアは人としての良心より王としての矜持を持って戦っていたのだから。
どんな結末を迎えようと、彼女は最後に死するだろう。フィル・マクスウェルによる栄光など、決して受け入れない。軍事利用されるその瞬間に、刃を持って断つに違いない。
「最後は力頼みというのは貴方らしくありませんが……まあ、いいでしょう。これで終わりです」
「いや、計算高い戦術あっての戦略だよ。おかげでここまで、大幅に短縮してたどり着けた」
「なっ――!?」
半壊した玉座の間へと、俺は降り立った――ジャガーノートによって貫通した、天井や壁のトンネルを走り続けて。
ディアーチェやレヴィの行動は事前にモリタリングしており、モリタリングしていることをディアーチェやレヴィは当然知っている。親子なのだから。
俺がゆりかごに乗り込んできたことを知った両者は、俺に後を託すという一点を持って作戦を切り替えたのである。
実際レヴィは今も無限増殖マリアージュ群団を相手に、平気な顔で戦い続けていた。
「えへへ、ヒーローの帰還だねパパ! カッコイイー!」
「おい、やめろ。俺の登場がその演出によるものだと誤解されるだろう」
魔術から体術頼みに切り替えたレヴィの戦法は、現時点をもっても本人を元気に活かし続けている。
あまり考えたくないことだが今回の戦争、実はレヴィの戦法が一番有用だったのではないかと思えてくる。本人、全然苦戦しないで戦いまくっているしな。
新型兵器や才能よりも、肉体頼みという信仰は原始的回帰に思えてウンザリしてくる。やはり人間、健康的肉体が第一なのだろうか。
俺は傷ついて倒れたディアーチェに、駆け寄った。
「よく頑張ったな、さすが俺の子供だ」
「む、ろんだ――父の栄光を、汚す真似はせ、ぬ……ゴホッ」
「違うぞ、ディアーチェ。これはもう、お前の物語だ。お前が主人公となり、自分の人生を堂々と歩いていけばいい」
リンカーコアを破壊されても、再起可能であることはシャマルが教えてくれている。ディアーチェならば、きっとまた立ち上がれる。
俺に諭されて安心したようにそのまま気を失ったディアーチェを脇に寝かせて、俺はイクスヴェリアに立ちふさがった。
元より洗脳された王に、乱入者に対する驚きはない。
「宮本良介、貴方はイリスより最優先線で抹殺するように命じられています」
「やはり洗脳されていても、主とするのはイリスなんだな。破綻した論理だが、矛盾せぬ戦い方を行っている。
その立ち振舞いは、あんたの強さが伺える。
やはり俺にとっての敵はあの男ではなく、あんたのようだ」
最初から最後まで徹底してフィル・マクスウェルを無視していたのは、もとより眼中にない為。
自分の技術と美学しか頭にない男に学べることなど、なにもない。
洗脳されてもなお王としてあろうとする人間こそ、剣士として挑む価値はある。
<続く>
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