とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百十話
『隊長。惑星エルトリアと惑星再生委員会における詳細情報を調査してまいりました』
『最終決戦に向けて部隊編成も大変な最中、手間をかけるな』
『必要なことですので、お気になさらずに。報告いたします』
――イリスからの宣戦布告を受けて、最終決戦に向かう直前の一幕。
キリエやアミティエの母親であるエレノア・フローリアンよりイリスの事について聞き出していく内に浮上した、惑星再生委員会という組織。
事件の根幹がこの組織にあると判断した俺は副隊長のオルティアに命じて、詳細を調査させておいた。彼女も忙しい身の上ではあるのだが、調査能力は際立っているからだ。
以前からの課題ではあるが、情報機関をそろそろ独自に設立しておきたいところではある――忍者部隊とか、日本式に考えてみるか。
『以前エレノア・フローリアンさんより情報提供していただいた後、奇跡的に夫であるグランツ・フローリアンさんがお目覚めになりました。
病魔に侵された状態で心苦しくはあったのですが、エレノアさんのご協力を得て情報を得る事ができました』
『何とか持ち直してほしいものだが、神頼みでしかないだろうな……』
アミティエとキリエの父親である父親は話に聞いたところ、病魔に侵されて余命幾許もないと医者から宣告されているようだ。
キリエが強硬手段に出た理由であり、イリスに付け入られた隙でもある。父親に未来がないと判明したからこそ、心優しい彼女が犯罪行為に加担してしまったのだろう。
その点については本人からの自白と自首を受けて事情は分かっており、時空管理局と聖王教会への司法的交渉は既に済ませている。
正直かなり難儀させられたが、主犯は別にいると証明できたので、身柄を俺が引き取る形で決着はついた。
『元々グランツ・フローリアンさんのご両親も惑星再生委員会の職員であり、エレノアさんとは幼い頃からお付き合いされていたそうです。
映像データを事前に送って照合をお願いいたしましたが、イリスやユーリさんとも顔見知りでした』
『つまり、少なくともイリスの話はほぼ正確だったということだな』
『ユーリさんがイリスの父を殺害したという事実についてはともかく、経緯はほぼ正しいと思われます』
ユーリ・エーベルヴァインは闇の書のシステム内で眠っていた永遠結晶そのものなので、実体化は不可能だったと思われる。
存在が確立できたのは法術による願いの結晶化による効果なので、当時は恐らく不安定な状態での事故的な目覚めだったのだろう。だから、今世において記憶がない。
人間で例えると夢同然であり、本格的に目覚めてしまえば記憶からは泡のように消え去ってしまう。現実が圧倒的であり、夢は精神が見せる幻でしかないからだ。
それでも、強い印象が残る夢だと微かに覚えていることもある――それがユーリにとって、イリスへの想いだった。
『お二人が子供の頃は両親が務めていた惑星再生委員会の庇護下におり、イリスやユーリともその時出会っていたようです。
惑星再生委員会が作成した生体テラフォーミングユニットであるイリスはマスコット的存在で、皆から愛されていたとのことでした』
『エレノア女子が言っていたこととも整合性は合うな。つまり――』
『はい、委員会の所長であるフィル・マクスウェルに関する手がかりも得られました』
惑星再生委員会の所長を務めるフィル・マクスウェルはイリスにとって父親同然の存在であり、ユーリが殺したとされる人物だ。
優しい父親だったからこそ無慈悲に殺害したことが許せないとイリスは糾弾していたが、俺はユーリを無条件で信じているので疑わしいと思っている。
確かに当時のユーリは存在が不確かなので今とは違うかもしれないが、本質なんてそう簡単に変わるものではない。
生まれたばかりのユーリは気弱くても優しくて、思い遣りに満ちた子だった。イリスだってその点は認めており、豹変したと言っているが信じられない。
『所長としては立派で尊敬できる人物であり、イリスにとっても優しい父親だと言っていたが、そのところはどうなんだ』
『面識がある程度ではありましたが、少なくとも所員達とは家族同然に接しており、イリス達にも良き父親であったそうです』
『うーん、イリスの言う通りだというのか……それほど立派な人をユーリが殺すとは思えん。独自につっついてみたか?』
『はい、つっついてみました』
『素直に言い回したな!?」
オルティア本人は生真面目なエリート才女なので、冗談なのかどうか非常に分かりづらい。世にも美しい極上の青い宝石とまで言われる美人なので、余計に表情から判断できない。
フローリアン夫妻によると惑星再生委員会地上研究所の所長であり、出自そのものは平凡ではあるが、並外れた技術力を有する研究者であったらしい。
生体テラフォーミングユニットであったイリスも所長の作であり、実質的な父親として惜しみない愛情を注いでいて、他の職員やユーリとの仲も良好だったと報告にはある。
だがあくまで俺は本人を疑っており、オルティアも疑いを持つ隊長の命令を忠実に実行した。
『エルトリアは時空管理局の管理外に位置する惑星ではありますが、数多の次元世界をパトロールする本局に情報がないか確認を取りました。
本部の捜査官である私ではありますが、現在は隊長の副官。隊長が保有する人脈を活用させていただき、調査を実施。
白旗に協力されている三役の方々やクロノ執務官達のご協力を得て、公的機関の洗い出しを行いました』
『ミゼット老達も協力してくれたのか』
『レオーネ・フィルス氏、ラルゴ・キール氏、ミゼット・クローベル氏――伝説の方々より支援を受けていると知り、思わず卒倒しかけました。
何故かの方々の支援を受けておきながら、聖地での戦乱でその事実を喧伝しないのか。
三昼夜ほど悩んでシュテルさんに相談し、隊長だからという理由で納得しました』
『えっ、そんなに偉いのかあの人達!? というか散々悩んで、その結論なのかよ!』
本局と地上本部の仲の悪さはもはや語るまでもない事実なのだが、この三人の協力を得たところ余裕で情報を吸い上げられたらしい。
クロノ達の協力あってこその話だと思うが、実にスムーズに情報共有が出来て、捜査も捗ったと何故か苦悩した顔で言われてしまった。元気だして。
ちなみにお三方は聖地統一後も変わらず協力してくださっており、ナハトヴァールやユーリ達を本当の孫のように可愛がってくれている。
『直接の関係はなかったのですが、惑星再生委員会を当時運営していた公的機関との接触は取れました。
詳細を確認したところ当時委員会の研究所は複数拠点があったそうですが、なかなか成果を出せず、地上研究所が最後の一ヶ所となるまで衰退してしまったそうです。
マクスウェル所長も委員会を維持するのが精一杯で、予算の具申などで公的機関との交渉で苦悩していたようですね』
『肝心要の惑星エルトリアが再生できていないからな、現状を見ればお察しだろうよ』
どれほど有能な人材が運営していたとしても、結果が出せなければ何の意味もない。成果があってこその組織であり、公的機関であるはずなのだ。
白旗を一から立ち上げた俺としては、組織の運営に悩むのはよく分かる。猟兵団や傭兵団に睨まれつつ、何とか切り盛りして各組織と交渉してきたのだ。
俺が何とかなったのはひとえにユーリたちの協力があってこそであり、カリーナお嬢様や聖女様が当時から目をかけてくださったからこそやってこれたと言える。
本人の気苦労には一定の理解を示しつつも、話はきな臭い方向へと流れる。
『交渉が難航するにつれて、公的機関である政府側より疑念が生じました』
『と、いうと?』
『地上研究所、この機関のみが残り続ける理由が不明だった点です。確かにマクスウェル所長は優秀な技術者ではありますが、有能な経営者とは言い難い人間だったそうです。
そんな人間が所長として務める研究所が、頑として残り続けている。政府と交渉しているにしても、成果が出せていないのに残っているのは不自然です』
『ふむ……傭兵団を運営してきたお前の見解を聞かせてくれ』
『政府側に伝えていない、資金運用がされていた筈です』
俺も白旗を経営していた身ではあるが、カレイドウルフ大商会という超巨大なスポンサーがいたので、予算に関する苦労はなかった。
知ったかぶりするのもみっともないので、素直に白旗を上げてオルティアに見解を求める。本人も軽蔑した様子は見せず、自分の見解を述べてくれた。
政府側に伝えていない資金――素人みたいな表現で恐縮だが、裏金みたいなものか。
『政府側も同じ認識だったようで、マクスウェル所長を疑わしき人物として査問が予定されていたようです。
また査問に合わせて、地上研究所の閉鎖も検討されていたみたいですね』
『資金運用が怪しい組織なんぞ、危なっかしくて残しておけないだろうな。そもそもの話、成果も出せていなかったようだし』
『そんな中、此度の事件――惑星再生委員会の地上研究所で事故が発生しました』
時系列を頭の中で整理してみる。地上研究所の閉鎖が半ば決定されて査問が決定された直後、地上研究所で爆破事故が起きた。
オルティアを見やると、何でもないことのように頷いた。そりゃそうだ、別に捜査のプロではなくても、簡単に頭の中で結びついてしまう。
つまり、イリスの悲劇が起きたあの事故は――
『違法な資金運用をやっていたフィル・マクスウェルが、証拠隠滅の為に起こした事故である可能性が高い』
『エレノアさん達を含めた僅かな生き残りを除いて、所員達が施設ごと爆破されて死亡したようです。
当然爆破事故なので痕跡と呼べるものは何も残っておらず、原因不明のままで政府によって抹殺されたようですね』
『公的に認めていた組織が怪しい運営を行っていた挙げ句、爆破事故まで起こしたんだ。公的には遺さず、爆破に乗じて隠滅させたんだろうな』
『爆破するほど徹底されていたのであれば、僅かであれど生き残りがいたのは不可解です』
『――原因を知ったユーリが所長を殺して、イリス達を助けた。
ただ仮にも親しくしていた人達が大勢死んでしまい、元々存在が不確かだったユーリは精神的ショックで闇の書の中に再び消えてしまった』
『調査結果は以上です。全て、一本の線に繋がります』
『ありがとう、素晴らしい働きだった』
『恐縮です』
自分の懐を探られないために仲間達まで諸共爆破する神経が信じられないが、俺も博愛主義者ではない。高町なのは達のような善人ばかりで、この世は成り立っていない。
海外では武装テロ組織相手に何度もやりあったし、ロシアンマフィア達は要人達を人質に取ってまで利益を独占しようとした。我が子のディアーナやクリスチーナを利用してまで。
あの時は自動人形のローゼがこっちに寝返ってくれたからどうにかなったが、もしローゼがいなければ俺は日本の地を踏めなかっただろう。
忍達だって女の尊厳を踏みにじられて、殺されていた。世の中にはそうした薄汚い悪党が存在する。
『こうなると、マクスウェル所長が死亡したというのも疑わしいですね。
遺体そのものは発見されたそうですが、死を偽装する手段は幾つもあります』
『確かにそうだな。イリスの思い込み一つでここまで大きな事件に発展するとは思えん、そもそもあいつ本人はユーリしか頭にない。
ミッドチルダの各地で起こした武装テロやゆりかごの強奪など、明らかにやりすぎた面が多い』
『もしも彼女本人のシステムが暴走しているのであれば――裏で糸を引いているのはマクスウェル所長か、その系譜を継いだ何者かでしょう』
オルティアと俺との間で、意見が一致する。今回の事件を起こした黒幕はイリスではなくマクスウェル所長か、本人の意志を継いだ後継者であるという見解。
イリス本人がユーリを恨んでいるのは確かだろうが、事実を歪められている可能性は大いにある。そもそも事実関係もこうして洗い出すと、怪しいの一言だからな。
背後で糸を引いている何者かがいるのであれば、今後の状況も見えてくる。
『イリスが隊長に宣戦布告をしたのも黒幕がいると想定すれば、陽動の一種であるかもしれません。
最前線の指揮を預かる副隊長として、戦力の集中は避けるべきだと具申いたします』
『しかしイリスも次の決戦で、ゆりかごも含めた戦力を投入してくるだろう。精鋭を分断するのは難しいぞ』
『仰っていることは理解できます。陽動に乗ったフリをする上でも、機動機動課の精鋭は全て出撃させる必要があるでしょう。
イリスやその黒幕も、今までの戦いで戦力分析はできているはずです』
『だったらどうするつもりだ?』
『CW-ADX、アーマーダイン――"ラプター"を投入しましょう』
『ファリンを復活させることが出来たのか!?』
『博士を引っ叩いてでも完成させるので、ご安心を』
『最後の策はスパルタ!?』
こうしてCW社が戦闘用「自立作動型汎用端末」として開発した、人型の機械端末――
女性型アンドロイドとして蘇ったファリンが、堂々と復活したのである。
ちなみに本気で引っ叩かれたそうだ、可哀想に。
<続く>
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