とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百十一話




 ――つまり俺達は最初から、カレドヴルフ・テクニクス社への襲撃を予測していたのである。


イリスによって一度CW社を襲撃されたというのに、自分の弱点となる関係縁者を率先して避難させていたのはこの為でもあった。

自分の大切な家族や仲間、そして命綱である技術や人材の数々を一箇所に集結させる。安全第一をお題目とすれば、言い訳も通る。

黒幕にとっては垂涎であるお宝の山を自ら築き上げて、見せびらかせたのだ。飛び付いてくるのを、釣り針を垂らして待ちながら。


「……誰だ、君は」


 通信から聞こえてきたのは――陰鬱な戦場を吹き飛ばす、正義に満ちた少女の声。

CW社が戦闘用「自立作動型汎用端末」として開発した、人型の機械端末。技術の粋を集めて、秘匿の研究を極めた生命財産。

無機物でありながら、有機体を併せ持つ存在。生命研究に没頭した学者が、機械仕掛けの生命をついに誕生させた。


今、生命の息吹を上げる。


『悪に名乗る名は持ち合わせておりませんが、敢えて名乗るとすれば――貴方のような悪人を倒すべく作り出された、改造人間。
CW-ADX、アーマーダイン。"ラプター"型自動人形、ファリンです!』

「CW-ADX……エルトリア技術に対抗するべく研究された、君達の技術か!」


 ファリンからの正義の雄叫びに目を剥いて、フィル・マクスウェル所長は顔を上げて俺を睨みつけた。アカンベーでもしてやったら、どうなるだろうか。

やはりイリスを通じて、俺達の戦力分析を行っていたか。全貌を見破られているとまでは思えないが、魔導殺し対策として開発していたCW-ADXは把握していたようだ。

この場に集っているのはイリスにとっての全戦力だと考えると、CW社を襲撃したのはマクスウェル所長の精鋭部隊といったところか。


油断はしていなかっただろうが、慢心していたのは間違いない。通信機を壊さんばかりに強く握りしめて、拳を震わせている。


「ラプター型自動人形――まさかとは思うが私の技術を真似て、フォーミュラによって作った戦闘人形か!」

「それを言うなら、マリアージュを真似たと指摘するべきじゃないか」


 ジェイル・スカリエッティやクアットロ曰く、マリアージュとは冥王イクスヴェリアより作られた判断力に乏しい人型増殖兵器であるらしい。

最低限の判断能力は持っているが、基本的に命令に従うだけの人形。頭脳明晰なフィル・マクスフィルはすぐに連想してこちらの技術を推察してみせた。

頷ける点も、無くはない。クアットロは馬鹿にしていたが、実際に戦った俺としては苦戦させられた敵を過小評価はしたくなかった。


俺の反論を受けて、フィル・マクスフィルは心底軽蔑した眼差しを向ける。


「イリスを通じてみせた私の技術に敬服して、模造しようとしたその気持は認めよう。君程度が保有する技術や知識など、高が知れているからね。
だが、よりにもよって似ても似つかない粗悪品を生み出すのは我慢ならないな。先達への敬意が、まるで足りていない」

「悪いが、あんたが何を言っているのかまるで分からん。田舎者にでも分かる言語で話してくれ」


「とぼけてもらっては困る。先の戦いからさほど月日は経っていないのだ、僕を超える技術を生み出せる筈がない。
ラプター型だか何だか知らないが、僕が送り出した部隊が敗れる筈がないだろう。策を弄しても無駄なことだ」


 一瞬何を言っているのか分からなかったが、殊更強調されてようやく理解できた。ようするに、機転をきかせて状況を誤魔化せていると言いたいのだ。

本人は敗北が認められないと言っているが、拘っているのは勝敗ではなくあくまで技術による格差だ。正直、面白い対抗心だと思う。

振り返ってみると今まで俺も随分色々な敵と戦ってきたが、研究者の敵は初めてな気がする。ジェイルも犯罪者ではあるが、結局敵対しなかったからな。


通り魔だの、魔導師だの、マフィアだの、龍族だの、多種多様な敵と戦ってきたが、この期に及んで経験のない敵と戦わせるとはある意味面白い。


「いいかい? イリスが製造した量産型はフォーミュラによって作られた人形だが、僕の精鋭部隊は違う。
戦闘用に特化された人形兵器で、ヴァリアントシステムを内蔵している優れものなんだ」

「……」

「単なる数でゴリ押しする、近代の軍隊とはモノが違う。単体でも十二分に秘めた戦闘力を有しており、一騎当千の強者で構成された群体なのさ」


「なるほど、ようやくあんたの目的が分かったよ」

「むっ……!」


 結局のところ、事件の主犯である黒幕の目的が見えてこなかった。研究成果における着地点がなかなか見いだせなかったのだ。

元傭兵団の団長であったオルティアは、幾つか推察を立てていた。その中に目星となりそうな主眼もあったのだが、確証がなかったのだ。


「エルトリア惑星再生委員会、フィル・マクスウェル所長――あんたの目的は、軍隊。
マリアージュのような無尽蔵に個体を増やして敵地を制圧出来る増殖兵器による、軍隊の構築。そのためにイリスを利用して、『群体』を作り上げた。

惑星エルトリアの再生なんぞと綺麗事を並べておいて、その実態は過酷な環境でも生き抜ける兵士達を作り出すのがあんたの目的だったんだ」

「……っ」


 何故分かったと言わんばかりに、フィル・マクスウェル所長は唇をかみしめている。話を聞いていた仲間達は感嘆の声を上げ、尊敬の眼差しで俺を見ている。

名探偵ばりに鼻高々に名推理を披露してやりたい気分だが、残念ながら目的が分かったのは麗しき我が副隊長が事前に推理していた内の一つだったというだけである。

資金提供の打ち切りを決定した政府に対して引き伸ばし工作を行っていたのは、いわゆる軍事産業へ売り込む為の時間稼ぎではないかと彼女は推測していた。


つまり、俺は頭の中で彼女が用意していたカンペを読み上げただけである。肝心の本人は今大怪我で気絶しているので、言ったもの勝ちだった。


「随分な外道じゃないか。自分の部下を殺したのも、群体に戦闘経験を積ませる為だったんだろう。おっと、人殺しの経験もか」

「ゲスな勘ぐりはやめたまえ、不愉快だ。彼らは私の仲間であり、家族だった。
政府に資金を打ち切られた以上、表立って施設の閉鎖は避けられなかった。下らない閑職に回されるのが可哀想じゃないか」

「自分は軍事産業に魂を売って、立身出世コースじゃないか。我が身可愛さに家族の大事な研究を売っておいて、何がどう可哀想なんだ」

「あくまでも研究は、私の成果さ。イリス達は私の偉大な研究を手伝って、お零れを預かっていたに過ぎないよ。
彼らもきっと光栄だったろうさ、最後まで私の研究への貢献ができたのだから。

彼らの貢献に報いるべく、私はこうして見事に研究を完成された。見たまえ、私はこうして死すら乗り越えたのだよ」


 ――恍惚に震えながら宣言する父親の本心を聞かされて、イリスは血が滲むほど拳を握りしめている。絶望するイリスを見て、キリエは涙を滲ませながら怒りに震えていた。

ちょっと突っついたらぜひ言って欲しかった本心をベラベラ喋ってくれて、俺としては拍手喝采だった。きっと何を聞かせても洗脳すればいいと、所長は高を括っているのだろう。

父親への幻想もこうして崩れ去った以上、ユーリや俺への憎悪なんぞもはや消し飛んでいるだろう。ユーリが父親を殺した理由も、大いに納得したに違いない。だから言ったのに。


さて、俺もそろそろ本心を語るとするか。


「そうだな、事の善悪はともかくとして感心できる点はある」

「ほう……」

「少なくともあんたは一度死んで、こうして記憶を引き継いで蘇っている。魂の在り処はどこにあるのか興味はあるが、そこはおいておこう。
記憶の転写については、あの大魔導師プレシア・テスタロッタでも難儀していた技術だ。あんたが研究を完成させた時いたらどんな顔をするか、少し気になるな。

何よりも自分で実体験しているのは、大したものだ。イチかバチかだというのに、いい度胸じゃないか」

「君からおべんちゃらを聞かされてもなんとも思わないが、一応ありがとうと言っておこうか。
君もどうやら戦闘機人なる、機械じかけの戦闘人形を何体か買っているようだが――」


 ――あ、バカ!?


「僕の群体に比べれば、君の戦闘機人なんぞ物の数ではないよ」



『――何ですって?』



 声が聞こえたのは彼の通信機ではない、俺が携帯していた通信機である。

ファリンから反応があったのと同時に通信を繋いでおいたので、今のこの会話はリアルタイムで中継されていた。

俺は頭痛がする思いで、懐から通信機を取り上げた。


『陛下直属のわたくし達をディスるなんていい度胸ですわね、世間知らずの三流研究者さん』

「その声、君が作った戦闘機人か」

『別に貴方如きに名乗りたくもないですけれど、敢えて教えて差し上げますわ。わたくしはクアットロ、陛下より勅命を受けてこのCW社の防衛を任されております。
どうやら現実逃避が大変お好きな引きこもりのようなので、貴方に見せて差し上げましょう。

陛下、映像データを送りますので受信をお願いしますわ』

「おい、悪趣味だぞ」


『うふふ、わたくしは陛下によって改心した女の子なのでこんなことしたくないのですけれど――こわい、こわーい騎士団長が、陛下を侮辱されてお怒りなので』


 ――どうやら話を聞いていたセッテが、ブチ切れているらしい。本来クアットロの悪趣味には加担なんてしないのに、やれと急かしている。

威張り散らしているマクスウェル所長が気の毒すぎて仕方ないが、渋々映像データを受信する。

はたして、映し出されたその光景は――


「……バカな……何だ、このバカけた光景は!?」


 屍の、山――


ピンクの短髪に銀のバイザーという外見で統一された、人形兵器の群体。彼が言う一騎当千の強者達。

戦士達の屍が山となって、積み上げられていた。


屍の数々を取り囲んでいるのが、俺が事前に編成していた戦闘機人達。そして――


『ライダーが戦闘員なんかに負けたりはしませんよ、えっへん』


 『ソードブレイカー』を両腕に装着しているファリンの大群が、並んでいた。













<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.