とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百九話




 ――第3管理世界ヴァイゼンにある、カレドヴルフ・テクニクス社が制圧された。


得意げな顔で勝利宣言された際、俺が真っ先に思い浮かんだのはカリーナお嬢様とレジアス・ゲイズ中将の憤怒に満ちた表情だった。

俺の単純な発案を対AMF戦用武装端末にまで企画し、AEC武装まで仕上げて時空管理局へ売り込めた業績を、カリーナお嬢様は大喜びしていた。

俺の幼稚な提案を高速魔力変換運用技術にまで発展させ、個人装備サイズでの実用的なCWXシリーズへ開発した実績を、レジアス・ゲイズ中将は歓喜していた。


ベルカ自治領の経済を牛耳る大商会と、ミッドチルダを支配する地上本部。巨大な組織の頂点に君臨する二人がこの事実を知れば怒髪天を衝くだろう。


「先の襲撃――イリスは本気だったようだが、僕はあくまで戦力把握が目的だった。
君自身と君の部隊の戦力、そして何よりCW社が保有する技術の叡智。素晴らしい技術の数々を是非知りたくてね、見物させてもらったよ。

君が保有する戦力は、確かに脅威だ。ならば打つ手は一つ、戦力を分散させればいい。単純な話だ」

「……イリスと聖王のゆりかごは、あんたにとって囮だったということか」

「素人臭い発言は控えたまえ。戦争における戦術の一つとして、陽動というのだよ。
イリスを主犯だと思いこんでいた君は全戦力を率いて、ノコノコこの世界へやって来たということさ。

君達がイリス相手に頑張っている間に、僕は別部隊を編成して送っておいた。第3管理世界の戦力図は把握しているからね、容易かったよ」


 つまりこいつはイリスが聖典や闇の書から力を得た瞬間から目覚めており、イリスの目を盗んでやりたい放題やっていたということか。

第3管理世界への奇襲やCW社への襲撃について随分恨まれたものだと俺自身達観していたが、こいつの言い草だと当時から思考誘導されていた可能性が高いな。

イリス本人に罪はないとまでは言わないが、案外ミッドチルダへの武装テロの数々はこいつが主導していたのかもしれない。


大いに有り得る話だ、犯罪者ってのは自慢話が好きだからな。


「別部隊なんぞと大層にほざいているが、主戦力はあくまでこの戦場だろう。イリスの目を盗むといっても限度がある」

「たかが知れているとでも言うのかい。やれやれ、戦場の指揮官たるものが楽観的思考で動くとはね……呆れて物が言えない。
ユーリ、こんな男を何故父と尊敬しているんだい。優しいだけが取り柄の人間なんて、個性がないに等しい。

感情に絆されるのは結構だが、もう少し現実を見つめ直した方がいい。僕の優秀さを知れば、君も分かってくれるだろうよ」


 ――もしかしてイリスの俺への憎悪も、こいつの感情から引っ張られていたんじゃないのか。ネチネチ絡まれて、鬱陶しい。

よほど愛する娘であったユーリを奪われて悔しいのか、何かに付けて俺の評価を下げようと躍起になってくる。駄目な父親の印象を与えたいようだ。

話を横で聞いていたユーリはCW社が制圧されたという訃報を聞いても動揺せず、オルティアの治療に専念している。


現実逃避しているとでも思ったのだろう、マクスウェルはここぞとばかりに畳み掛けてきた。


「僕の研究はね、どんな環境にも適応し、無尽蔵に個体を増やして敵地を制圧する増殖兵器を創り出すことだった」

「マリアージュと似たようなものか」

「似て非なるものとでも言っておこうか。ゆえに同じ叡智を持った冥王イクスヴェリアは、聖王のゆりかごに君臨するのを許している。
かつて戦乱長き古代ベルカで王を名乗っていた偉大なる人物と、同レベルの技術を作り出したのがこの僕なのさ」

「イリスが作り出した群体――量産型や固有型が突然力を発揮し始めたのは、あんたの技術が投入されたんだな」

「その通りだ。君もCW社にはある程度の戦力は置いてきたんだろうが、ハッキリ言って無駄なあがきさ。
イリスが別働隊を送る可能性くらいは君程度の頭脳でも予測できただろうが、僕の本命はむしろ君如きではなくCW社そのものにあった。

戦力的目標を掛け違えた結果が、今のこのザマということだよ。CW社に送ったのはマリアージュ程度とは比べ物にならない、僕の精鋭部隊だからね」


 そこまで言い切るからにはイリスが作り出す無人兵器なのではなく、量産型や固有型に匹敵する人型兵器の大群を送ったのだろう。

第3管理世界ヴァイゼン襲撃時の経験を教訓としているのであれば、当時以上の戦力が投入されたと見て間違いない。

あの襲撃は特務機動課の全部隊が出撃して乗り越えたが、その戦力は全てこの地に今集中している。手を抜く局面ではないと判断したからだ。


その判断をしたのは、この男の言う通り――学歴も何もない、この俺だ。


「エルトリア惑星再生委員会――テラフォーミングユニットを作り出して星の開拓をする話は大嘘だったのか。
当時組織にいたメンバーも、イリスもユーリも全員騙して、お前はこの技術を作り出したんだな。

仲間や家族を騙しておいて、今更父親面するつもりか」

「心外だね、僕は崇高なる使命と目的を持って研究に挑んできた。大切な家族達を心から愛していたよ、それは間違いない。
ただ当時見る目のない、君のような愚かな人間たちによって淘汰されてしまい、政府は資金提供の打ち切りを決定したのさ。

おかげで大事な研究は凍結寸前、エルトリア惑星再生委員会は解散の憂き目にあった」


 ユーリに目を向けると、本人は治療を続けながら小さく首を振った。記憶がないのか、それとも最初から知らなかったのか。

イリスがその事を一言も言っていなかったので、恐らく周知されていなかった可能性が高い。アミティエの両親はある程度知っていたはずだけど。

マクスウェル所長は当時の不遇をむしろ楽しげに語っている。


「彼らは僕の研究を支えてくれた、優秀なスタッフ達だ。彼らほどの研究者達が、下らない閑職に回されるなんて可哀想じゃないか。
僕は彼らを心から仲間だと、大切な家族だと思っている。そんな彼らを人生の落語者にする訳にはいかない。

だから僕は、決断を下したんだ。君のような甘い男とは違ってね」

「……お前、自分の仲間に何をした」


「僕の研究成果である増殖兵器をお披露目して、彼らを自分の手で人生から退場させてあげたのさ。
おっと、勘違いはしないでくれよ。殺したのはあくまで、未来を失ってしまった大人たちだけだ。

言っただろう、僕は娘達を心から愛している。イリスやユーリ達は、僕と共に新天地――軍需企業へ連れていくつもりだったよ」


 なんて奴だ、信じられない。邪魔になった研究者達を一人残らず殺して、強大な力を持つ子供達を軍需企業に売り飛ばすつもりだったのだ。

つまりこいつは最初から兵器開発が目的の科学者、本人がどう言い繕うとも惑星の開拓なんぞという売り文句で仲間達を騙していたんだ。

こいつにとってエルトリアもミッドチルダも実験場でしかなく、ユーリやシュテル達に向ける愛情も自分の研究資材という歪んだ愛情でしかない。


一般人が聞けばさぞ不快な話なのだろうが――俺からすれば、一種の朗報でもあった。


「ユーリがお前を一度殺したのは、お前の本性を知ったからだな。大切な友達を守るために、イリスに嫌われる結果になろうともお前を殺す道を選んだ」

「あくまでも単純なすれ違いで――」

「さすがは俺の娘だ、剣士としての覚悟が備わっている。自分の手を汚すことになろうとも、友が血に汚れるのを許さない。
他人がどれほど人殺しだと罵ろうとも、俺は大きな声で褒め称えよう。よくやった、ユーリ。お前のおかげで、イリスは罪から守られた。

そして――そんなユーリが守り抜いたイリスもまた、何も悪くはない。俺が必ず、潔白を証明してみせる」


 オルティアを治療する手を震わせて、ユーリは泣きじゃくっている――そんなユーリを目の当たりにして、倒れたままのイリスも血と泥に塗れた涙を流した。

こいつの言う通り、俺は単純で馬鹿な男だ。だから、いちいち物事を複雑に考えたりなんぞしない。

悪いのは全部大人のこいつで、子供達であるユーリやイリスは何も悪くはない。そうだ、それでいいじゃないか。


声なき声で、ごめんなさいと呟いたイリスに笑いかけてやると――あいつは泣きじゃくりながら、舌を出した。はっはっは、その方がお前らしいよ。


「イリスに同情でもしているのかい、馬鹿な男だね。表面上の事実しか読み取れないとは」

「同情じゃない。イリスは、俺が引き取って育てる。自分の娘を世話してやるのは当然だろう」

「ええ、アタシがあんたの娘!? ちょっと、それじゃユーリがアタシの妹になるじゃない!」

「どうしてわたしが妹なんですか!? わたしのほうがお姉さんですよ!」


 外野がやかましかったが、まあ元気になったのでいいだろう。イリスを引き取ると決めたのは、先程言った通り別に同情しているのではない。

あいつが洗脳されて犯行を犯したのだと証明できたとしても、やはり色眼鏡で見られるのは間違いない。レジアスからもミッドチルダからの追放は厳命されている。

となるとエルトリアか、地球に連れて行くしかないのだが、どっちにしても行き来しないといけなくなる。あいつには身分を保証する必要があるのだ。


流石にクイントやメガーヌばかりに子供を引き取らせるわけにはいかないので、俺が面倒見るしかない。


「実に忌々しい男だ、僕からイリスまで奪い取るつもりか」

「自分で切り捨てておいて何言っているんだ、お前。得意げに犯行自慢したから、イリスはもうお前についていく気はないとよ」


「別に、君如きに自慢話をするほど暇じゃないさ。CW社に別部隊を送ったと言っただろう。
話をしている間に、適度な時間が経過している。そろそろ届くだろうよ、任務完了の連絡がね」


 自分の目的をわざわざ丁寧に説明したのは俺相手にマウントを取るだけではなく、時間稼ぎも目的だった。

腹の立つ男だが、研究者だけあって全て合理的に動いている。先程の俺への奇襲も含めて、戦術面においては確かに優れてはいた。


それを証明するように――通信音が、不気味に響き渡った。フィル・マクスウェルはニヤリと笑って、通信を繋いだ。


「遅かったじゃないか。任務通りCW社の人間は全て殺して、彼の身内は人質に取れたかね」

『はい、任務は達成しましたよ。バッチリです』



「……誰だ、君は」



 通信から聞こえてきたのは――陰鬱な戦場を吹き飛ばす、正義に満ちた少女の声。



『悪に名乗る名は持ち合わせておりませんが、敢えて名乗るとすれば――貴方のような悪人を倒すべく作り出された、改造人間。

CW-ADX、アーマーダイン。"ラプター"型自動人形、ファリンです!』



 CW社が戦闘用「自立作動型汎用端末」として開発した、人型の機械端末。

女性型アンドロイドとして蘇った、ファリンが名乗りを上げた。













<続く>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします











[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]





Powered by FormMailer.