とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百三話
うちの協力者であるジェイル・スカリエッティとウーノ達がマリアージュの事を知っていたので、聖地の戦乱後に詳細を調査させていた。
そもそもマリアージュとは古代ベルカ時代に作られた、人間の屍を利用した自立増殖兵器。昆虫並みの知能しか持たないが、人間と同様の会話機能を持つ人型兵器である。
このマリアージュのコアを生成する能力を持っていた人物こそが、イクスヴェリア。聖王や雷帝と並んで、王の器を持つ強き国の覇者であった。
イリスが所有するエルトリアの技術で人体改造された彼女は、聖王の鍵に相応しき機能を持つ怪物となっていた。
『ちっ、冥府の炎王とはよく言ったものだな』
聖王のゆりかご、玉座の間。闇統べる王と冥府の炎王との死闘は、苛烈を極めていた。
イリスが製造する機動外殻と、イクスヴェリアの自立増殖兵器には、共通点がある。製造材料さえあれば、無尽蔵に人型兵器が生み出させる利点だ。
イクスヴェリアの生成はあくまでマリアージュのコアでしかないのだが、イリスのエルトリア技術が搭載されれば話はまるで変わってくる。
玉座の間に用意された物資で製造されたマリアージュ達は、エルトリア技術が搭載された改造型であった。
『私を殺す気で攻撃しなければ、到底勝利はかないませんよ』
両腕をあらゆる兵器に変形させる事が出来る改造型が大量に製造されて、ディアーチェに集団で襲い掛かってくる。
無秩序に襲いかかってくればまだ対応できるが、イクスヴェリアは古代ベルカを代表する覇王の一人。用兵術や軍事科学を心がけて、聖典により補強されている。
戦術の運用による改造型集団は軍隊そのものであり、驚異とされる質量兵器を使用して、積極的にディアーチェを攻撃し続けていた。
天才的な戦術を駆使して攻防を繰り広げているディアーチェも、劣勢を強いられている。
『以前父が薙ぎ払った雑魚共とは一線を画しておるが……いちいち自爆させおって』
『古代ベルカにおいては有用であり、基本戦術でした。人の命でさえも等しく価値があり、無価値でもあった時代です』
ディアーチェが何とか改造型を破壊しても、不可能と判断した改造型が自身の身体を燃焼液に変化させて即座に自爆してくるのである。
「冥府の炎王」の由来となっている戦術。玉座の間が夥しく加熱されて炎上しており、ディアーチェも迂闊には飛び込めなくなっている。
ならばと遠距離魔法を撃ちまくっても、イクスヴェリアは改造型を容赦なく盾にする。盾にされた改造型は行動不能となり、ディアーチェに突っ込んで自爆する。
悪夢のようなスパイラルはディアーチェを疲弊させ、消耗による負傷を負わせていた。
『古代ベルカの戦術であって、貴様自身が望んだ戦術ではあるまい。このような下劣な戦い方は、貴様自身の精神を追い詰めるぞ』
『生と死の崖っぷちに立たされている私に精神性を問うても無駄です、ロード・ディアーチェ』
『むむっ、我もまだまだ未熟か……我が父であれば上手く交渉して説得するか、相手を陥れていたであろうに』
「俺を何だと思っているんだ、あいつ」
「多かれ少なかれ、お前の子供達は理想と幻想を抱いているようだな」
冥府の炎王の異名を持つ女王は死を覚悟しており、ディアーチェに殺されることを望んで戦っている。捨て身の戦法はディアーチェへの敬意でもあった。
死力を尽くしてイリスに義理を果たし、その上で完敗するからこそ役割を全うできる。ディアーチェの実力を信じているからこそ、彼女は全力で戦えている。
ディアーチェもそれを悟って、歯噛みしている。分かり合う余地は無限にあるのだが、その根幹で対立してしまっている。お互いの立場が阻害していた。
だからといって、ディアーチェも自分の役目を放棄できない――王である限りは。
『エルシニアダガー!』
『誘導性のある魔力弾、マリアージュのコアを生成する私を無力化するつもりですか。いい判断ですね』
『くっ、お見通しか』
エルシニアダガーは魔力を込めて発射すると連射可能であり、AMF空間下でも発動する魔法はディアーチェの計算力によって進化されている。
発射された魔力弾は次々とイクスヴェリアへ誘導されていくが、その手段を把握していた冥府の炎王はあろうことか改造型を自ら自爆させる。
大爆発を起こした改造型が燃え上がって、撃ち込まれた魔力弾を相殺。炎の壁となって、エルシニアダガーを完全に無力化した。
攻撃した一瞬の隙を狙って重火器が撃ち込まれ、ディアーチェのシールドが破壊されて無防備になってしまう。
『この程度で我を追い込んだつもりか――アロンダイト!』
『休まず攻撃を続けなさい』
直進的な軌道で放たれる砲撃魔法は、相手の攻撃で相殺出来る。重火器を撃ち込まれた後で即座に相殺するディアーチェの機転は大したものである。
だが、相手は古代ベルカの王。自分の攻撃が相殺し返されたと見るや、怯む様子は全くなく攻撃を再開させる。イクスヴェリアの判断に、ディアーチェは目を剥いた。
アロンダイトは命中すると球状の衝撃波が発生して相手に追い打ちをかける技なのだが、発生効果が限られているので相手が怯まないと攻撃が途絶えてしまう。
次の詠唱を行おうとする前に攻撃を連続されて、ディアーチェの利き腕に銃弾の穴が撃ち込まれた。骨まで食い込んで、血が飛び出す。
『ぐぅぅ……ドゥームブリンガー!』
『わたしを包囲する前に、あなたが包囲されますよ。レーザーガン、掃射』
『あああああああああ!』
ドゥームブリンガーによって八本の刃が相手を包囲し突き刺さそうとする前に、レーザーガンが周囲から撃ち込まれてディアーチェの全身が血に濡れた。
咄嗟に急上昇したのは良い機転だったが、イクスヴェリアの前では無駄な抵抗に等しい。苛烈な銃線に立たされて、ディアーチェの身体が光の線に貫かれた。
そのまま玉座の前に墜落して、倒れる。不屈の闘志で起き上がろうとした彼女に、無数の銃口が突きつけられる。
チェックメイト――王同士の戦いであれば、完全なる王手といったところだろうか。
『死を覚悟した王の前で、死に躊躇する貴方が勝てるとお思いか』
『ぐっ……』
『わたしを殺せないのであれば、あなたを殺すまでです』
『き、さまに……そんな真似が出来ると……』
『誰に恨まれようと、わたしの死を持って清算する。わたしは命を賭して、この聖王の玉座に君臨しています――この滅び行くゆりかごを、安寧の枕とすることで』
イリスを守り、ゆりかごを運用する――その果てにあるのが破滅だと分かっているからこそ、彼女は責任を投げ出さない。
押し付けられた役目を果たすのはイリスへの感謝であり、同情。ゆりかごを破壊して、自分の命を経つことが最後の使命と準じて、あらゆる無慈悲を断ずる。
未来を見ていないのではない。未来が確定しているからこそ、ただ真っ直ぐに向かっているのだ。自分の破滅だと知っていても、その世界が正しいと信じて。
ディアーチェは、そんなイリスを救うべく戦っている。だからこそ殺せず、躊躇している。
「ディアーチェ」
俺は今リインフォースに囚われていて、ディアーチェの様子はテレビ画面でしか見ることが出来ない。
テレビに向かって話しかけても、画面の向こう側には何の影響も及ぼさない。届いているのは電波であり、本人そのものではないからだ。
リインフォースもその事は分かっているのか、口出ししようとはしない。無駄な抵抗だと、内心思っているだろう。
だけど、それは間違っている。
「もう少し、自分を信じろ」
どんな事にだって、無駄なことなんてありはしない。それは無駄に抵抗し続けてきた俺が、よく分かっている。
ジュエルシード事件から今日に至るまで、ずっと戦い続けて負けてきた。自分より強い敵ばかりで、ずっと追い詰められていた。
敵からすれば、俺のやったことなんてそれこそ無駄の連続だろう。必死で剣を振るっても相手には届かず、ずっと自分が傷ついてきた。
だけどその無駄な抵抗の果てに――俺は、お前達と出会えたのだ。
「俺はお前を信じているぞ、ディアーチェ」
お前は、イクスヴェリアを助けたいのだろう。だったら、何を躊躇う必要があるというんだ。
相手を殺してしまうかもしれないなんて、いちいち考えるな。お前が救うのだと決めたのなら、たとえ無駄な抵抗だとしても絶対に助けられる。
お前が全力でやれば、世界だって丸ごと救えるさ。
『――ふ、ふふふふ、ふははははははは』
『? 一体どうしたと……えっ』
『流石は我が父だ、娘である我のことをよく分かっておる。
そうだとも、我はロード・ディアーチェ。愛する父より祝福を受けて誕生した、正当なる後継者である!』
『っ、錯乱でもしたのですか!?』
『いいや、これは錯乱ではない――混乱である。やれ、"レヴィ"!』
後で何度振り返っても偶然としか思えないのだが……ディアーチェが号令をかけたその時こそが――
レヴィが、駆動炉以外を破壊した瞬間であった。
『なっ……ゆりかごが鳴動している。動力源が切断された!?』
『もはや容赦はせんぞ、"デモンズフォール"!』
これこそ蒼天の書――法術の力によって誕生した宮本一家を繋ぐ、絆による新しき魔導。役目を終えたレヴィがディアーチェの力になると言ったのはこういう意味だった。
俺は現在囚われてこそいるが、彼女達との繋がりが断たれた訳ではない。リインフォースはその点を誤解していたのだ。
法術による宮本家の繋がりによってレヴィの雷の力が一時的にディアーチェへと付与されて、俺を媒介した事による雷と闇の合体魔法である。
――玉座の間に、凄まじい雷と隕石の嵐が一気に降り注いだ。
命を奪うことに躊躇していたからこそ出来なかった、大魔法。俺の一喝によって目覚めたディアーチェの力が今、最大の火力を持って発揮された。
魔導殺しなんぞ無意味と言わんばかりの猛烈な火力に、重火器なんぞ何の意味もない。改造型軍隊は気の毒になるほど、アッサリまとめて吹き飛ばされた。
その中心――玉座に座るイクスヴェリアの頭上から、隕石が落ちてくる。
『これで、ようやく終われる……ありがとうございました、ロード・ディアーチェ』
『我を侮るなと言ったはずだ。猛烈に痛いが、生き残れるだろうよ――猛烈に痛いがな、くくくくく』
『えっ――うきゃああああああああああああああああああああああああ!』
意外と女の子らしいと言うか、愉快な悲鳴を上げてイクスヴェリアが隕石に激突して沈没した――おい、本当に生きているのか!?
玉座の間は大崩壊、もはや威厳の欠片もなく穴だらけになっている。奇しくもその光景は、駆動炉の惨状と似たようなもので。
崩落した玉座の真ん中で、こんがり焼けたイクスヴェリアが目を回して倒れていた。
『勝ったぞ、父上。我が勇姿、見届けてくれたか!』
「……いやぁ、微妙かな……」
「思いっきり力任せだったな、結局」
<続く>
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