とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百一話
聖王のゆりかご艦尾後部に保管されている駆動炉は、言うまでもなく重要な施設である。
駆動炉本体は非常に大きな赤い結晶体が動力源となっており、巨大な空間に保管されている。この駆動炉を守る為に用意された施設区域と言い切れる。
レヴィを苦しめている航空戦力さえも艦内で運用することが可能で、上下左右問わずに戦力を惜しみなく投入できるスペースが用意されていた。
そうした空間のど真ん中で、レヴィは腫れた拳に息を吹きかけている。
『フー、フー、あー痛かった。ボクの超強力な必殺技をぶつけてもヒビしか入らないなんて、ずるーい!』
「……まあその為の施設だからな、あそこは」
「理不尽過ぎる」
駆動炉をゲシゲシ蹴りながら文句言っているレヴィをテレビ画面で見ながら、リインフォースと俺はしみじみと感想を呟いた。
本来であれば我が子の悲劇を悲しむべき場面なのだろうが、本人が底抜けにポジティブなので同情する気持ちが湧いてこなかった。
ゆりかごを作った製作者に怒られそうな発言を連発していて、本来であれば敵同士である筈のリインフォースと思わず観戦してしまっていた。
そうこうしている内に、事態は動き出す。
『むっ、何かうるさいのが鳴ってる。何だよ、今ボクが真剣に悩んでいるのにさ!』
「……そりゃあ、非常警報の一つも鳴るだろうよ」
「大事な施設を壊そうとしているからな」
一応ヒビくらい入れられたので、損傷を与えたと言わんばかりにゆりかご艦内に警報が鳴り響いた。
規模を伺う限り恐らく全域ではなく、レヴィが現在暴れまわっている艦尾後部に危険を知らせているのだろう。本人、壊す気満々だしね。
どうやら結晶体に攻撃が加えられると、自動防衛システムが稼動するようだ。今まで対応に戸惑っていた航空戦力が一斉に動き出した。
上空から爆撃が思う存分投下されて、レヴィは慌てて回避行動に入った。
『ちょ、ちょちょ、ボク攻撃できないんだけど!? 何するのさ、おまえらー!』
「殺す気満々だな」
「居直り強盗に近いからな」
駆動炉を守る防衛システムはイリス本人の固有戦力だけではなく、ゆりかご艦内に元々あった警備戦力も投入されているようだ。
爆撃の規模は圧倒的で、流石のレヴィも文句をいうだけではなく、必死に回避を行っている。この点については、レヴィの戦闘スタイルが有効に働いていた。
スプライトフォームは防御力を犠牲にしているが、機動力には長けている。直撃するとまずいのだが、本人は向上した機動力で素早く攻撃を躱していた。
幸いにも広い空間なので、逃げ場には困らない。単機で突撃したのも功を奏している。レヴィ一人であれば、どうにか対応できていた。
『そうだ、いいこと思いついた。むふふ、これならどうだー!』
――逃げまくっていたレヴィがふと思いついたように顔を上げると、ニンマリしてUターンする。
逃げていた敵が急に戻ってきたので航空戦力も狙いを定めるのが難しく、一瞬ではあるものの時間の猶予を許してしまう。
レヴィはその隙に一目散に駆けていって、先程攻撃を仕掛けていた駆動炉へと舞い戻って、素早く巨大な結晶体の影に隠れてしまう。
……あいつ、まさか――
『ふっふっふ、さあボクを攻撃してみろ。お前達の大事な駆動炉も壊しちゃうぞ、ウッシッシ』
「人質を取るとは、さすがお前の娘だな」
「うおおおお、何だこの恥ずかしさ!?」
小学校の授業参観で自分の子供がバカなことをしでかしたのを見る親の気持ちそのものであった。実際、目の当たりにしているしな。
方法としては別に悪くはないのだが、ヒーローを目指している少女がやるべきことでは絶対にない。
しかもあの土壇場ならば、俺でも同じことをやりそうな悪寒がして仕方ない。畜生、血は繋がってないのに、俺に似過ぎだろうあいつ。
リインフォースが呆れた顔で俺を凝視してきて、俺は顔を赤くして目を逸らすしかなかった。
『ふふふ、さあどうす――ちょっ、ええええええええええ!?』
「なるほど、駆動炉本体は硬いからな」
「加えて航空戦力は機械だ、天秤にかけたら敵の排除を優先するのだろうよ。結果的に守れる」
イタズラっぽい笑顔で挑発していたレヴィに向けて、航空戦力は容赦なく爆撃を行った。当然本人以外に、駆動炉にも命中はしている。
ただレヴィの超必殺技でもヒビくらいしか入らなかった硬さを誇る結晶体だ、航空戦力も遠慮なく爆撃を行っている。駆動炉ごとレヴィを吹き飛ばすつもりだった。
まさか敵ごと爆撃されるとは思っていなかったのか、レヴィは目を剥いて隠れる。その場から撤退しない機転は大したものだった。
結晶体から離れたら、今度こそ集中砲火されるからだ。少なくとも盾にしている分、まだ被害は少ない。
『コラ、どうして味方ごと攻撃するんだ! それでも人間か、お前達ー!!』
「だ、だって、機械だからな……うん」
「ちくしょう、誰もツッコまないから言いたい放題いいやがる!」
本人が大真面目にバカなことを言い続けるので、観客二人が仕方なくツッコミを入れるしかない。何なんだよ、あいつは!
ゆりかごの外では結構深刻な問題に発展しているのだが、ゆりかご内部の我が子は戦争状態なのに平和にボケていやがる。
不真面目であればいい加減怒りたくもなるのだが、本人は大真面目なので始末に困る。どうしようあいつ、本人は大ピンチなのに安心して見てられるぞ。
爆撃は遠慮なく行われており、レヴィは悲鳴を上げながら隠れている。駆動炉も直撃しているのだが、傷もついていない。
『うーんうーん、どうしよう……上の飛行機は飛んでるから攻撃できないし、真ん中にあるこいつは硬いからなかなか傷つかないし……
あ、そうだ。いいこと思いついたぞ!』
「また何か言い出したぞ」
「嫌な予感しかしない」
状況的に見てレヴィに勝ち目がある戦局には全く見えないのだが、本人はポンと手を打って思いっきり顔を上げた。
この時点で、二人して悪寒に身を震わせる。シュテルのような秀才ならともかく、レヴィは天才肌の人間である。常人に及ぶ発想ではない。
一応フォローしておくと、別にレヴィ本人は頭が悪い訳ではない。そもそも魔導師は魔法を構成するのに優れた頭脳が必要とされるのだ、頭が良くなければ強くなれない。
ただ発想が奇抜だと、才能云々の話ではなくなってしまう。
『駆動炉以外を壊しちゃえばいいんだ!』
「え……?」
「え……?」
お前は何を言っているんだといわんばかりに、俺とリインフォースはまた揃ってハテナマークを浮かべる。一体何しに来たんだ、あいつ。
駆動炉を破壊しに来たというのに、駆動炉以外を壊すとはどういう意味なのか。見境なく暴れるという自暴自棄を宣言でもしているのか。
困難な現状を考えればヤケクソになってしまうのも無理はないが、見境なく暴れたところで解決する話ではない。
流石に心配になってきたが、親の心子知らずとはよく言ったもので、本人は全く気にせず両手を掲げる。
『砕け散れ、雷神滅殺――きょっこーーーーーーーーーーーーーーーーーざん!!!』
レヴィのフルドライブバースト、雷刃滅殺極光斬と呼ばれる奥義の要。
この技は衝撃波で敵を攻撃した後に、雷の力を収束した大剣で斬り伏せる大技である。だが今の本人は魔導を一切使わない、スプライトフォームである。
ならばどうするのか――極限にまで極めた身体能力で、再現する。
人間はそもそも、体内で生み出された微弱な電気信号で肉体を動かしている。レヴィは知識こそ持たないが、天才的なセンスでその事実を応用化した。
体内で練り上げられた爆発的な魔力が膨大な雷を生み出して、全身を雷光化。いわゆる自らを電磁要塞と化して、爆発劇な衝撃波を生み出したのである。
たかが雷の一つでも落ちれば、広大な範囲で衝撃波が生まれる。ならばレヴィのフルドライブバースト化した雷が破裂すれば、どうなるか。
レヴィ・ザ・スラッシャーという雷神が直撃したその瞬間――駆動炉以外の施設が、粉々になって吹き飛んだ。
電磁要塞そのものが衝突して駆動炉そのものが吹っ飛び、壁や天井に激突。本体に無数のヒビが生まれるが、幸いにも破壊には至らなかった。
だがそれはあくまで、不幸中の幸いでしかない。駆動炉という頑丈な物質が電磁要塞に撥ねられて、文字通り縦横無尽に転がりまわったのだ。
航空戦力は粉々になって消滅、警備戦力が砕け散って破裂、ゆりかごの防衛システムに駆動炉が突き刺さって大爆発を起こした。
結果、駆動炉そのものはまだ無事だが――確かに、駆動炉以外の全てが破壊されてしまった。
『あいたたた、結局壊せなくて、ボクぼろぼろになっちゃったけど……スッキリしたからいいや。ディアーチェを手伝いに行こうっと』
「いいわけあるか!?」
「お、落ち着け、愛しい人よ。い、一応使用不能にはなってるぞ、一応……」
テレビ画面に向かって拳を振り上げようとする俺を、リインフォースが必死になって止める。殴る、俺は親としてあのアホンダラを殴る。
無茶苦茶な大技を使って駆動炉に体当たりをした挙げ句、施設内の破壊に巻き込まれてレヴィは全身ズタボロになっていた。そりゃそうだ。
頑丈な駆動炉はそれでも無事なのだが、駆動炉以外の施設や設備はそこまで頑丈ではない。破壊に巻き込まれて、容赦なく壊れてしまっていた。
当然施設や設備が壊れてしまえば、動力なんて機能するはずがない。エンジン本体が無事でも、エンジンルームが粉々になったら、車だって動かせなくなる。
そういった意味では任務完了なのだが、本人が失敗だと思っているから性質が悪い。暴れるだけ暴れて帰ろうとしていやがるしな。
褒めてやるべきか、叱ってやるべきか、冷静になると悩む。今回の任務、確かにある意味であいつにしかこなせなかったと言っていいだろう。
もしもヴィータとか真面目な連中が駆動炉破壊を行おうとしたら――多大な犠牲を覚悟しなければならなかった。
「もうあいつはいいから、ディアーチェを見せてくれ……」
「分かった、そう落ち込むな。お前には、私がいるじゃないか」
よしよしと背中を優しく撫でられて、俺は思わず泣きそうになった。
<続く>
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