とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第百話
我が子ヴィヴィオとユーノが必死になって調べてくれた聖王のゆりかごとは、そもそも古代ベルカの聖王が所持していた超大型質量兵器である。
古代ベルカ当時は戦船と呼ばれる空中戦艦は数キロメートルほどある巨大要塞であり、管理局から危険度の高いロストロギアと睨まれていた。
現在は聖女の予言成就と"聖王"の降臨により、聖王教会の権勢が異常なほど高まっており、聖王家の所有物である聖王のゆりかごも半ば黙認状態となっている。
当然悪用される危険性があって然るべきだが、残念ながらそういった意見は全く出なかった――起動には本来、「鍵の聖王」が必要だからである。
『うおおおおお、レヴィパーンチ、キックー!』
――そのような聖王不在の中で稼働しているゆりかごの中を、レヴィ・ザ・スラッシャーが駆け回っている。
ゆりかご艦内は高濃度のAMFで満たされており、純粋な魔導師はほぼ無力化されてしまう。むしろ実力者であればあるほどに制限が強くなり、弱体化されるのだ。
特に異世界ミッドチルダにおいて魔力は高効率で優秀なエネルギー源であり、魔導師の活動や運用には不可欠なのである。
雷刃の襲撃者という異名を持つ魔導師はあろう事か魔導をアッサリ捨てて、手足を振り回している。
『トリャー、アチョー、ホチャー、アタタタタター!』
普通であれば対AMF訓練でも積んで何とか魔力を運用しようとするものだが、侵入者の魔力使用を阻害される状況であれば意味がないとばかりに魔導を捨てている。
魔力を体内で血液のごとく循環させて身体能力を異常なほど高めて、自らの肉体のみで果敢に挑む。確かにこの理論であれば、AMFなんて何の意味もない。
AMF空間の中でイリスが作り出した機械兵器が群れをなして襲いかかってきているのだが、イリス本人もまさか魔導師が魔導を捨てるとは夢にも思わなかっただろう。
完全に子供の理論なのだが、本人が子供である場合クレームを入れられないので何とも始末に困る。
『凄いぞ強いぞカッコイイ〜、ボクはパーパの子供だぞー!』
「……なるほど、確かにお前の子供だな」
「何だよ、その謎の納得は!?」
映画であれば他人事でいられたのだが、記憶が戻って自分の子供だと分かった以上、ただひたすらに恥ずかしい。善戦しているので、照れ隠しも若干あるけれど。
スプライトフォーム、空の妖精を意味するレヴィの新しい戦闘スタイル。魔導展開が行えないので防御力が大幅にダウンしているが、その代わり攻撃性能や機動力がアップしている。
ゆりかご内部は非常に広く、イリスの機械兵器と戦闘ができるほどの広さを持つのが強みになっている。縦横無尽に駆け回って、蹴散らしていっていた。
魔法を一切合切使用せず、手足を振り回して突撃なんぞされたら、機械兵器といえどたまったものではない。
『ディアーチェの言ってた駆動炉ってどっちだっけ……えーと、確か真っすぐ行けばいいんだよね!』
「……方角はあってる?」
「奇跡的にあっている。あのディアーチェという娘が、真っすぐ行けば辿り着けるように予め導いた上で別れたのだろう」
我が子であるレヴィがあまりにもアホンダラな発言をしているので、思わず心配になって敵であるリインフォースに聞いてみる。彼女もやや呆れた顔をしつつも、調べてくれた。
長女であるディアーチェは妹の無鉄砲さを理解していたのか、道筋をきちんと把握した上でレヴィを案内していてくれたようだ。多分ディアーチェはその分遠回りさせられたに違いない。
レヴィも今回ばかりは自分の役目を重く考えているのか、迷わないように考えつつ走っているようだ。単純だが、使命感を忘れるような子ではない。
敵同士リインフォースと睨み合いつつ、ハラハラしながら一緒にレヴィの行動を見守っている。
『わっ、ずるーい。空飛んでるー!』
思わずテレビ画面を見やると――レヴィは、何とか無事に艦尾後部の「駆動炉」へ到着していた。
艦尾後部の巨大な空間に鎮座している駆動炉は大いなる赤い結晶体であり、対比するレヴィが小粒に見えるほどに巨大であった。
正に駆動炉の為に存在する空間であり、全長数キロメートルはある巨大戦艦の中で、広大なスペースが用意されている。この結晶体こそが、ゆりかごの動力源なのだろう。
レヴィが騒いでいるのは、駆動炉そのものではない。
「……まあ確かに、空を飛べない相手に航空兵器は有効だな」
「魔導殺し対策を行ってくると睨んで、魔導制限をかけられた相手への対応だな。イリスの思惑とは別の形で、本人が困っているようだが」
上空を浮かぶゆりかごに乗り込んでくる以上、その魔導師は飛空魔法が使える。そんな相手にAMFで制限をかけた上で魔導を殺し、航空兵器を用意しておく。
ゆりかごの要である駆動炉の上空に、数十機の航空兵器が飛んでいる。凶悪な航空兵器を搭載したイリスの傑作品は、駆動炉を完璧に防衛していた。
ディアーチェやシュテルと違って魔導対策をしていないレヴィにとって、この局面は詰みであった。何しろ空が飛べないのだ、どうやっても戦えない。
レヴィは困った顔でウロウロしていたが――やがていい考えが思いついたとばかりに、表情を輝かせる。
『そうだ、駆動炉を壊しちゃえばいいんだ!』
「え……?」
「え……?」
お前は何を言っているんだといわんばかりに、俺とリインフォースは揃ってハテナマークを浮かべる。我が子なのに、何言っているのか全然わからない。
しかし本人は大いに名案であるとやる気を漲らせて、駆動炉の前で構えを取る。当たり前だが、そんな暴挙なんぞ敵が許すはずがなく、航空兵器が上空から攻撃態勢に入る。
爆撃が始まろうとしたその瞬間、レヴィが地を蹴った。
『いくぞ、パワー極限――雷刃封殺爆滅"拳"!』
「コラァァァァァァーーー!」
技名を聞いてレヴィがやろうとしている事が分かって、俺は思わず怒鳴り声を上げる。何やってんだ、あいつ!?
雷刃封殺爆滅"剣"とはそもそも複数の巨大な雷光球を魔力で編み上げ、いくつもの剣に変えて敵に突き刺して炸裂させる大技である。本人が見せてくれた。
では、AMF空間内でその技を披露するにはどうすればいいのか。雷は生み出せるが、魔力は編み上げられない。剣への変換なんぞ出来ないので、敵に突き刺せない。
しかしながら、魔力そのものはある――体内に練り上げている、レヴィ本人だ。
「……うわ」
リインフォースが悲惨な声を上げる中――『自分を剣に見立てた』レヴィ本人がミサイルのごとく、駆動炉に拳から突き刺さった。
日本人である俺でもドン引きする、神風特攻である。一体どんな育てられ方をしたのだと、呆れることも許されない。だってあいつ、俺の子供だし。
航空兵器もまさか敵が雷の速さで突撃するとは、想定外だっただろう。爆撃するより早く攻撃されたら、機械でも右往左往してしまう。
い、一応攻撃力としては凄まじかった。体内で練り上げたレヴィの魔力は莫大なものであり、身体強化されているレヴィの肉体は兵器そのものだ。
大技だったのには、間違いない。それは、認めよう。
――だが。
『うわーん、こいつかたーい!』
駆動炉の前で、腫れた拳を振り回してレヴィが泣いていた。あれ程の攻撃であっても、破壊はできなかったようだ……一応、ヒビが入ってはいる。
あまりにもバカバカしかっただけに、破壊力こそ高くとも航空兵器は攻撃だと捉えなかったようだ。むしろあいつは何なんだと言わんばかりに、攻撃をやめてオロオロしている。
結果としては、失敗である。本来であれば絶望的な場面なのだが――
「……すまん、こんな事を言うのはなんだか」
「ああ」
「壊れなくてよかったよ」
「まあ、さすがにな」
もしもあれで破壊なんぞされていたら、ゆりかごの製作者は草葉の陰で泣いていたに違いない。
一応レヴィの健闘は称えつつも、あんまりといえばあんまりな攻撃に、お互い顔を見合わせて溜息を吐くしかなかった。
思いがけず、リインフォースと仲良くなれてしまった一幕であった。
<続く>
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