とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第九十六話




「アクセラレイター・オルタァァァァァァァァ!!!」


 薄紅色の髪と瞳が真紅に燃え上がり、流麗かつ重厚な肉体に強烈なインパクトが課せられる。ナノマシンによる体内エネルギーが爆発して、彼女は今流星となった。

頭を踏み付けられていた足を加速によって吹き飛ばし、予備動作さえ消失した運動力で立ち上がる。目にも写らない速度で半回転して、聖王の頬を撃ち抜いた。

強烈なヒットに聖王オリヴィエの美貌が歪むが、視線まで奪われていない。キリエを目で追うのではなく、気配で感じて、カウンター気味に反撃に出た。


武王による、反則じみた反応速度――よりも、キリエ・フローリアンが速い。


「サクラリッジ――ストーム!」

「――ガッ!?」


 限定的な超加速による、ゼロクラッシュ。聖王のカウンターに反撃するという超加速を持って、嵐の如くオリヴィエ・ゼーゲブレヒトの固有型を切り裂いた。

キリエに向けられた拳に刃を立てて止め、反対運動によるニノ刃でオリヴィエの肩を切り裂く。拳の反応が鈍ったところを、持ち手を変えて上段から切りつけた。

十字のごとく切り裂いていくが、致命傷には至らない。オリヴィエも痛みに苦しむこともなく、傷ついた腕をそのまま振り上げる。狙いは、血を流しているキリエの顎。


ノックアウト狙いだったアッパーカットを中回転して躱し、振り抜いた足でオリヴィエの横っ面を蹴り飛ばした。


「インパクト・キャノン!」

「イノセントブルー!」


 聖王が保有する巨大な魔力の塊を拳で打ち出して攻撃するという、超人技。衝突すれば死を免れない無慈悲な攻撃が、攻撃直後に硬直したキリエに迫る。

恐怖が少しでもあれば躊躇し、絶命は免れなかっただろう。映画を見ていた自分達もハラハラさせられる瞬間、キリエ・フローリアンという少女は決意に燃えていた。

フォーミュラを使用した強化スイッチ、脳内活動を切り替えた感情の切り替えで、超人技に反応。超強化による固定でブロック、キリエはなんとか無事だった。


しかしながら、加速は止められてしまった――まるで糸が切れたかのように、キリエは地面に膝をついて血を吐いた。


「ゴホ、ゲホ、グホっ……」

「――なるほど、アクセラレイターとは加速能力。そしてオルタとは貴女の体内で形成されている、いわゆるシステムですね」


 アクセラレイターは映画にもあった設定なのだが、アクセラレイター・オルタに聞き覚えがなかった。恐らく聖王の言う通り、体内で形成されているメカニズムなのだろう。

キリエ・フローリアンは超人に等しい美しき肉体を持つ女性で、体内に循環させたナノマシンを使ってエネルギーを運用する干渉技術を使いこなしている。

システムオルタとは人間が持つリミッターを一時的に解除して、強靭な肉体の限界を超えた加速を生み出す能力。聖王が言うシステムとは、人体そのものの構造を指しているのだ。


ほぼ一瞬の反撃を受けただけで、彼女はキリエ・フローリアンという人体の神秘を見抜いた。


「本来であれば人体がバラバラになるほどの負荷であっても、貴女の強靭な肉体であれば耐えられる。環境が生み出した怪物がなせる技ですね。
ですが――」

「ハァ、ハァ、ハァ……」

「リミッターを解除した以上、使用後は壮絶な負担に苦しめられる。それ以上使用し続ければ、貴女は本当に死にますよ」


「……あたしはそうした我が身可愛さで優しい家族を裏切り、残酷な友人に裏切られてしまった」


 聖王の悲嘆な問い掛けに、キリエは俯いたまま怨嗟の声を上げる。誰かを恨んだ声ではない、自分自身の至らなさをどこまでも悔やむ無念そのものであった。

彼女の人生は、映画を鑑賞している自分も理解している。家族を救うべく異世界へやってきて、他人を傷つけてでも大切な人を助けようとして、最後の最後で最も大事だった友人に裏切られた。

彼女の過ちは色々あるが、とどのつまり彼女自身の未熟さにあるといえる。その未熟さは本来決して悪いことではないのだが、子供であるというだけでは許されない事態を起こしてしまった。


キリエはその事実を理解しているからこそ、苦しんでいる。


「失うことが怖くて、結局失ってしまった。傷つくことが怖くて、結局傷ついてしまった。自分の弱さに泣きそうになって、あんたの強さに屈してしまった。
けれど、今はもう迷わない」

「――何故突然、貴女は奮起できたのです。そのキッカケが、私にはどうしても分からない」

「あたしは独りじゃない、その事が分かっただけ。あたしを心配してくれる姉がいて、あたしを応援してくれる男性がいる。
失うことは今でも怖くて、傷つくことに今も怯えている。だから、こうして戦える。

弱いことは決して、悪い事じゃない。弱いからこそ失うことに怖がって、必死になって戦えるんだ!!」

「それは覚悟とはいえません、窮鼠でしかないでしょう」

「自分がカッコつけるのはもうやめるわ。あたしは、あの人が世界一カッコよければそれでいい。
あたしはどこまでも格好悪く必死になってあんたをボコって、イリスを引きずり出せればいいのよ――アクセラレイター!!」


 無機物の形状を自在に変化させるヴァリアントシステムを駆使して自分の武装を巧みに変形させ、聖王のあらゆる武技に対応する。

魔力の塊を打ち出し途中で拡散させてくれば、ヴァリアントザッパーを発動して縦横無尽に捌く。戦闘空域が激しい火花を散らしながら、両者は激突を繰り広げる。

6発のエネルギー弾を連射するラピッドトリガーを聖王の眼前で発動させるが、あろうことかその場で一回転して反撃。向けられた拳を、キリエは頭蓋をぶつけて防ぐ。二人の間に血が飛んだ。


それこそが、聖王の罠――拳に電撃変換させた魔力を纏わせて攻撃されて、キリエ・フローリアンは感電した。


「ガアアアアアアアアアァァァァァああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「この期に及んで、エネルギー弾を連射!?」


 体内に強烈な電気が走ってショート――するその一瞬を、加速。バカバカしくて顎が外れそうになる隙をついて、キリエはファイネストカノンを発射した。

ありえない反撃に聖王は目を見開きつつも横転、使用して間に合わずに肩を直撃。けたたましい音を立てて、彼女の頑強な肩が外れてしまった。骨がむき出しになるほどの重傷。

感電したキリエも口から黒煙を上げているが、あろうことかシステムオルタを発動。感電したナノマシンが体内でスパークしているという事実を活性化されて、爆発させた。


あくまで結果論だが、雷光の如き加速が発動して、キリエ・フローリアンが突撃する。



「ミスティック、ブレイザーーーーー!!」



 自分の武器を巨大な大剣に変えて、頭上から一刀両断。まさに雷が落ちたインパクトを持って、キリエ・フローリアンは聖王の片腕を切り落とした。

本来であれば戦闘不能になる一瞬でも反応できたのは、見事というべきか。ただキリエの必死さには負けてしまい、直撃こそ避けても彼女は腕を失ってしまった。

そのままの勢いで派手に転げ回って、キリエは倒れる。地と汗と泥に汚れて、地面に俯かせて喘ぐ彼女の姿は、弱者そのもの。


それでいて――見惚れてしまうほどに尊く、美しかった。


「見事でした、貴女の弱さは間違いなく称賛に値する」

「う、ぐ……」

「私の敗北を認めましょう、キリエ・フローリアン。この場は、貴女の勝利です」

「……イ、リスを……」


「ですが、私には彼女を守る義務がある。申し訳ないが、驚異となる貴女にはここで死んでもらう」


 ――目を疑う光景。彼女は切られた腕を拾い上げて、そのまま自分の腕に『装着』させてしまった。

まるでプラモデルを作るかのように、簡単に自分の腕を接続。何事もなく腕を動かすと、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトは倒れ伏したキリエに歩み寄って拳を振り上げる。

その行為こそ、オリヴィエにとって最大の称賛。脅威であると認めたからこそ、無慈悲に命を奪う。約束を破ってでも、卑怯と罵られようと、敵と認めた人間を殺すのだ。


感電したキリエは動けない。それでも見上げるその瞳に、揺るぎはない。歯を食いしばって、銃を握りしめて――


「私にだって、自分の妹を守る義務くらいありますよ」

「なにっ!?」


 ラピッドトリガーと呼ばれる、連射技術。キリエ・フローリアンの上を行くエネルギー弾の連射に、歩み寄っていたオリヴィエは後退させられる。

倒れているキリエの前に着地したのは、赤い髪の少女。姉だと名乗ったその表情は途方もなく誇らしげであり、誰よりも喜びに輝いていた。

アミティエ・フローリアン。キリエが裏切ったのだと独白していた張本人はそのままキリエを見下ろして、微笑みを向ける。


血で汚れるのもかまわず、彼女の頭を撫でた。


「よく頑張りましたね、キリエ。本当に強くなっていて、驚きました。自分の弱さに胸を晴れるその姿を目の当たりにして、泣きそうになっちゃいました」

「お、ねえちゃん……ご、めん……」

「何を謝る必要があるのですか。最初から最後まで徹底して、貴女は勝っていた。だからお姉ちゃんは安心して、貴女の戦いを見ていましたよ。
剣士さんには本当に、何処までいっても感謝しかありません。わたしの大好きな妹を、こんなにも素敵な女の子にしてくれたんですから。

『カッコよかった』ですよ、キリエ」

「……う、うう……」


 明らかに背中を向けているというのに、聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトは近寄れない。

姉妹の円満な光景なんて戦場には場違いであり、戦いとしては見当違いの一言でしかない。そのまま攻撃しても、問題は何もなかった。


けれど――断じて、近づくことが出来ない。


「妹との約束を、破りましたね」

「っ……!」


「キリエの代わりに、私が貴女をボコボコにしてやります」


 アミティエ・フローリアンは、高らかに拳を鳴らした。















<続く>








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