とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第九十四話
                              
                                
	 
 
 映画の設定によると、聖王のゆりかごは古代ベルカ時代の聖王が所持していた超大型質量兵器で、全長数キロメートルほどある空中戦艦だ。 
 
かつて聖王の元で古代世界を席巻して破壊した危険度の高いロストロギアで、聖王教会が厳重管理していた戦船をイリスが奪い取って改造したのである。迷惑な話だ。 
 
ゆりかごの起動には本来鍵となる聖王が必要である筈なのだが、イリスが船を改造した挙げ句に古代の王であるイクスヴェリアをエルトリアの技術を用いて埋め込んで、暴れさせている。 
 
 
艦内は高濃度のAMFで満たされており、ディアーチェは何とか対応できているが、レヴィがグロッキー状態だった。 
 
 
『うわーん、身体が重くて持ち上がらないよー!』 
 
『何をしておるのだ、貴様。シュテルが折角申し出た新武装を断ってまで乗り込んできたのだろう、対策はどうした』 
 
『そうだった、ボクはパパにいいところ見せるんだ!』 
 
 
 呆れた様子で見下ろしてくるディアーチェより指摘されて、レヴィはハッとした顔で起き上がる。完全に忘れていたようだ、愛すべきアホの子であった。 
 
そもそも部隊を指揮する部隊長なる男に心当たりがない為、彼女達が言う父親が誰なのか今でも思い出せないのだが、レヴィは余程信頼しているようだ。目が輝いている。 
 
主役級の実力を持つ彼女達がそれほど信頼を寄せているのであれば相当の実力者であるはずなのだが、この期に及んで登場しないとは随分勿体つけるもんだ。主役でもないくせに。 
 
雷刃の襲撃者の異名を持つレヴィ・ザ・スラッシャーは燦然と立ち上がり、両手を大きく掲げて叫んだ。 
 
 
『強くて凄くてカッコイイ! そう、ボク最強――"スプライトフォーム"、セットアップ!!』 
 
 
 アンチマギリングフィールド。魔力を無効化するというフィールドへのレヴィの対抗策は、「魔法を一切使わない」というシンプルな結論だった。 
 
単純明快極まりないが、効果は絶大。さりとて自分が魔導師である事を完全に忘れた、自己否定な結果。本来であれば無力になって終わるという本末転倒となる筈だった。 
 
 
唯一の例外は、レヴィ・ザ・スラッシャーという魔法少女には無限の可能性が秘められていた事。魔法が使えなくなっても、この少女に弱点は存在しない。 
 
 
それが彼女らしいこの結論、スプライトフォーム。魔法を使用していないのでバリアジャケットの特性である防御力は大幅ダウンするが、攻撃性能は格段に上がっている。 
 
そもそも魔力は高効率で優秀なエネルギー源であり、ゆりかごの機関運用には不可欠な為に完全遮断は行っていない。レヴィのスプライトフォームも、この特性によく似ていた。 
 
魔力を魔法として放出するのではなく、体内で構成させて人体改造に専念。攻撃性能や機動力といった身体能力の向上に徹底した、魔導改造の極端化であった。 
 
 
設定によるとスプライトとは「空の妖精」という意味であり、人々を幸せにさせる明るさを持つレヴィには似合うフォーム名であった。 
 
 
『へへん、見たかディアーチェ。これがパパがボクにくれた、新しいヒーローコスチュームだよ!』 
 
『むむ、父め。レヴィにこのような力を与えておきながら、我には何の策も授けぬとは!』 
 
 
「……何の根拠もないけど、多分誤解だと思う」 
 
「愛されるというのも考えものだな」 
 
 
 父親に謂れのない誤解を受けたことに、何故かフォローしてしまう俺。対面でお茶を飲みながら見ている俺の嫁さんは、しみじみとした顔で一言コメントする。 
 
魔法が使えないのなら使わなければいいというのは子供の発想でしかないのだが、それを大人顔負けのやり方で克服するのが凄い。若者には夢があるな。 
 
 
ここまで映画を見ていて、ふと気になったことを聞いてみる。 
 
 
「そもそもあのゆりかご、高濃度のAMFで満たされていて、昔の船員とかは困らないのか。あくまで映画の設定だけど、魔導全盛期だったんだろう。 
魔導師だってたらふくいた筈だろうし、敵の阻害は大いに結構だけど、船員だって困るだろう」 
 
「かつての乗組員は対AMF訓練を積んでいて、侵入者の魔力使用は阻害される状況を作り出した上で、自分達は魔力を運用して艦内の防衛力を高めていたんだ。 
ディアーチェやレヴィの発想が、むしろ規格外と見るべきだ。まさかああいうやり方で破るとは想定外でしかない」 
 
 
 天然な面を持つ俺の彼女さんは、この映画については実に博識だった。もともと頭の良い女性で、何故俺のような頭の悪い男と付き合っているのかよく分からない。 
 
ディアーチェは天才であるゆえに、レヴィはアホであるゆえに、双方共に独自のやり方で克服しているのが面白い。キャラ性を引き立てている。 
 
魔導を徹底追及するディアーチェと、魔導を完全否定したレヴィ。やり方は正反対だが、目的は一緒だという点も家族らしいと言えた。 
 
 
両者共に無事AMFを克服した事を確かめあって、今後の作戦内容を確認する。 
 
 
『シュテルは現在武装の修理と回復を兼ねて一旦撤退しているが、後にこのゆりかごを守る機動外殻を破壊するべく再出撃する。 
ユーリは黒幕のイリスと対峙しているが、ユーリの実力であれば問題はなかろう。彼奴とは因縁はあるようだが――』 
 
『ナハトも一緒だからへーき、どんな事言われたってあの子がいれば大丈夫だよ』 
 
 
 ユーリは設定上気の弱い人見知りなのだが、ディアーチェやレヴィはナハトヴァールがいれば大丈夫だと太鼓判を押していた。精神攻撃を受けても怯まないと、胸を張っている。 
 
激戦区であっても確かにナハトヴァールは平気な顔でニコニコしていたので、頷ける。最も先程は予想外の事態を受けて涙目になり、気のせいだとは思うが俺を頼ってはいたが。 
 
一番気になるのはナハトヴァールの話題になると、リインフォースが機嫌よく頷いている事である。余程気に入っているのか、実ににこやかに応援していた。 
 
 
可愛い子だとは思うのだが、若い女性には今童女キャラが人気なのだろうか。 
 
 
『家族一丸となって頑張っているのだ、我らも励むぞ』 
 
『オッケー、じゃあここで分かれようか。えーと……ボク、こっちだっけ?』 
 
『だからあれほど事前にマップデータを確認しておけと言ったのだ、タワケ。そちらの方角は我が目指す先、「玉座の間」だ。 
レヴィは反対側の方角にある艦尾後部、ゆりかごの「駆動炉」を破壊しろ』 
 
 
 聖王のゆりかご内部施設、艦首付近には「玉座の間」があり、艦尾後部には「駆動炉」が存在する。聖王のゆりかごにとって頭脳と心臓に位置する重要施設だ。 
 
駆動炉に当然ゆりかごの動力源が保管されており、玉座の間にはゆりかごを制御する鍵の存在がある。二人はこの二つを制圧するべく単独で乗り込んだ。 
 
部隊がある以上人員を割いても良かったのだが、ゆりかご内はAMFがあって魔導師は無力化される。少数精鋭で動けばイリスを警戒させるので、単独で挑む作戦となった。 
 
 
単機でありながら部隊級戦力である二人であれば可能という、彼女達でなければ成立しない恐るべき作戦だった。 
 
 
『くれぐれも注意するのだぞ、レヴィ。ヴィヴィオの調査によると、駆動炉にある「魔導結晶体」は攻撃が加えられると自動防衛システムが稼動らしい。 
駆動炉内にいる敵を無差別に攻撃する機能が働くと聞いている』 
 
『機械じかけのおもちゃは全部ボクがぶっ飛ばすから、だいじょーぶ! ディアーチェこそ頑張ってね、玉座の間にはイーちゃんがいるんだから』 
 
『"冥王"イクスヴェリアを、妙な名で呼ぶのは止めんか――ふん、相手にとって不足はないわ!』 
 
 
 ――リサーチ済みである。聖王のゆりかご、本来極秘であるこの情報は聖王教会と時空管理局に巨大なパイプがある特務機動課だからこそ取得できる。 
 
ヴィヴィオという少女は今回の作戦には参加していないが、この映画における解説役として登場するキャラクターだ。こういうキャラもまた、映画には必要とされる。 
 
小さいながらも頭脳明晰な少女が徹底分析した情報により、聖王のゆりかごに関する攻略作戦は完璧に構築されていた。レヴィやディアーチェにも共有されている。 
 
 
二人は互いに、拳を鳴らしあった。 
 
 
『どちらが早いか、競争といくか』 
 
『オッケー、勝った方が今晩パパと一緒の布団だよ』 
 
『ユーリがまた小煩く言ってくるぞ。あの子は父に関しては厳しいからな、ふふ……いいだろう』 
 
『じゃあ行くよ、3、2,1――』 
 
『ゴー!』 
 
 
 ロード・ディアーチェは天才的な頭脳で計算し続けてAMF内で魔導を運用、玉座の間に向けて一直線に飛んでいった。 
 
レヴィ・ザ・スラッシャーは魔導を破棄して身体能力を爆発的に向上、空を飛ぶのはさっさと諦めて一直線に駆動炉へ突っ走っていった。 
 
 
いよいよ聖王のゆりかご攻略が本格的に行われようとしていた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「まだ続けるのであれば、今度こそ殺しますよ」 
 
「ゴホ、ゲホ……ぐっ……」 
 
 
 ――かつてゆりかごの鍵であり、聖王として君臨していたオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。 
 
生きる伝説であり、死して尚君臨する武王の完全体。イリスによって製作された、最高傑作である固有型。 
 
 
最強に相応しい女性の手により――キリエ・フローリアンは、血溜まりに沈んでいた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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