とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第九十一話
                              
                                
	 
 
『次回に続く』 
 
「ええええええええええええええええええ!?」 
 
 
 映画なのに!? 映画なのに次回とかあるのか、前後編ですか、三部作なのですか、どういう事なんですか! 
 
映画ってのはエンディングまで完成されている一つの作品である筈なのに、余裕で打ち切られて仰け反ってしまう。世界観がまるで分からんわ! 
 
テレビをぶっ叩いてみるが、エンディングロールさえも流れない幕閉じだった。コラコラ、気になるところで終わるのはテレビ業界の悪いところだぞ。 
 
 
おかしいな……エンディングは思い出せないが、この物語はきちんと事件解決まで描かれている筈だぞ。 
 
 
「恋人と同棲している男が、魔法少女の映画にハマってテレビを叩くのはどうかと思うぞ」 
 
「――うっ」 
 
 
 納得がいかずノイズが流れているテレビ画面を殴っていると、背後から氷結魔法より冷たい声でリインフォースが訴えかける。 
 
個人の趣味にも理解を示すイイ女なのだが、愛する彼女を無視して魔法少女に熱狂する男というのは確かに情けないものがあった。 
 
渋々テレビの電源を消すと、リインフォースはまだ少し呆れた顔をしていたが、俺のしょげた顔を見て表情を緩ませる。 
 
 
優しく慰めるように、甘く豊かに実った胸元に俺を抱き寄せる。 
 
 
「そんな顔をするな。魔法少女ではないが、お前にだけ幸福の魔法をかけられる女はここにいるじゃないか」 
 
「……リインフォース」 
 
「……リョウスケ」 
 
 
「悪いが、フォローできないくらい寒いセリフだったぞ」 
 
「お前は私にとって初めての男なんだ、愛のささやきは期待しないでくれ。食事が出来たので、一緒に食べよう」 
 
 
 リインフォースの柔らかい胸の中から顔を上げると、本人は気恥ずかしかったのか頬を赤らめて弁解した。物凄い美人なのに、今まで恋人の一人も居ないというのは驚きだった。 
 
俺のように無骨な男であれば女が寄り付かなくて当然だが、リインフォースはモデル顔負けの美女だ。引く手数多であろうに、男性に縁がないというのは不思議で仕方がない。 
 
彼女が作ってくれた料理を目の当たりにして、尚一層そう思う。本人は謙遜しているが、食卓に並ぶ和食料理はとても家庭的でやさしい献立だった。 
 
 
西洋の顔立ちだが、リインフォースは箸を上手に使ってみせる。上品で美しい仕草だった。 
 
 
「男性に料理を振るうのはこれが初めてだ。何か問題があれば言ってほしい」 
 
「敢えて言うなら、美味い以外の言葉が言えないのが問題かな」 
 
「ふふ、その言葉だけで十分だ。幸せで頬が緩んでしまう」 
 
 
 お腹が空いたという感覚がなかったのだが、食事をした瞬間に空腹を感じるという変な感覚に襲われている。記憶がないことの弊害だろうか。 
 
リインフォースは男性に手料理を振る舞うのは本当に初めてなのか、俺に褒められて童女のようにはにかんでいる。振る舞う相手がいないのに、料理が作れてしまうのか。 
 
自分はどうだったのか、考えてみる。誰かに食べさせた記憶というのは生憎と無いのだが、食事に不便した覚えもない。少なくとも栄養状態は足りていたのか。 
 
 
記憶に繋がる可能性もあるので、食事の会話として聞いてみた。 
 
 
「異性に料理を作ったことがないとは思えないほどの出来栄えだな」 
 
「疑っているのか、私はお前が初恋だというのに」 
 
「お前の愛情は疑っていないよ、リインフォース。記憶がない俺にとっても、お前が初恋だ」 
 
「なるほど、お前と私は初めての恋で結ばれた特別な関係なのだな」 
 
「そう考えると、運命的な縁を感じてしまうな」 
 
 
「ああ、そうだ。私とお前はきっと、結ばれる運命だったんだ――お前と出会って、私はようやく救われたのだからな」 
 
 
 大好きだという熱い眼差しを向けられて、俺はガラにもなく照れてしまった。こんなにも幸せでいいのか、ついつい考えてしまう。 
 
記憶喪失というのは本来困り果てるものなのだろうが、俺は別段不便を感じなかった。リインフォースという愛する人がいるのだから、記憶なんてなくてもいい気がする。 
 
日常的な記憶があるので、特別不自由はない。自分の過去は思い出せないが、思い出せないのであれば大した思い出はなかったのかもしれない。 
 
 
リインフォースも含めて、誰の記憶もないというのは少し寂しい気もする。ひょっとすると、俺は友達とかいなかったのだろうか。 
 
 
「そんな事はない、お前は誰からも愛される人間だった」 
 
「自分で言うのも何だが、そんな人間とはとても思えないんんだが」 
 
「人間関係というのは、縁だからな。お前が持つ縁は特別で、合縁奇縁で結ばれていた。本来であれば繋がりようがない縁を、お前は手繰り寄せていたんだ。 
結果として多くの人間が救われ、多くの運命が変わった。お前という存在がなければ、間違いなく別の未来が待ち受けていただろう」 
 
 
 出会いによって過去が変わり、繋がりによって今が進み、進展によって未来へと進んだのだと、リインフォースは我が事のように誇らしげに語っていた。 
 
それほどの縁に満たされていたのに、俺は誰も覚えていないのか。案外、人間関係が膨らみすぎて破裂でもしたのかもしれないな。 
 
リインフォースとの関係はどうだったのか自分は覚えていないが、幸せそうな本人を見れば分かるともいうものだ。自分としても嬉しい限りだ。 
 
 
食後のお茶を飲みながら、自分の人間関係について思いを馳せていた。 
 
 
「リインフォースはどうなんだ」 
 
「私がどうした」 
 
「俺と一緒にいてくれるのは嬉しいんだが、お前にとって大切な人は他にもいなかったのか」 
 
「私がここにいるのは問題なのか」 
 
「俺は大歓迎だけど、お前はここにずっといてもいいのか」 
 
 
 何気なく聞いたというのに、何故かリインフォースの時が止まってしまった。唖然とした顔で、俺を見やっている。一体、どうしたというのか。 
 
俺としては当たり前のことを聞いたつもりだ。恋人こそいなくても、家族や友人くらい誰でも普通にいるだろう。 
 
俺も人との縁には恵まれていたようだが、記憶を失った今此処にいてくれたのはリインフォースのみだった。他に誰もいないというのは、結局そういうことなのだろう。 
 
 
俺を訪ねて来てくれる人はいない――しかし、こいつは違うのではないのか。 
 
 
「……まさかお前が私に、ここにいてもいいのか問われるとは思わなかった」 
 
「いや、当然だろう。お前にだって大切に思える人との縁があるはずだ」 
 
「どうして記憶のないお前に、そんな事が言いきれるんだ。今のお前は、何も分からない筈だ」 
 
 
「だって、俺とお前は恋人なんだろう」 
 
「……それは」 
 
「だったら俺を通じて、お前との間にだって縁はある筈だ。お前は気立てのいい、素敵な女性だ。お前を思ってくれる人はきっといる。 
そんな人達を置いて、お前は俺と一緒にここにいてもいいのか」 
 
 
 俺は、彼女さえいればそれでいい。けれど、決して彼女を拘束するつもりはないのだ。 
 
彼女には幸せになってほしいし、俺が幸せにしたいとも思っている。けれど俺の存在が彼女を縛り付けているのであれば、ここにいるべきではない。 
 
たとえ俺と一緒にいる事が幸せであろうと、幸福に溺れてはいけないと思う。 
 
 
「他でもない、俺がお前の新しい『運命』になってしまっていないか。決して逃れることのない、『運命』に」 
 
「そんな事はない! そんな事があっていい筈はない!! どうしてそんな事を言うんだ、どうして―― 
 
お前はこの期に及んで、自分より私のことを優先してしまうんだ!!」 
 
「リインフォース……」 
 
「私は、私はお前さえ幸せであれば他には――」 
 
 
 
 
 
『"2nd A'S PROJECT"が開放されました――リリカルマジカル、始まります』 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『イリスさんの現在地点を割り出しました。計算したデータを転送します、ユーリさん』 
 
『! しまった、今までの会話は時間稼ぎ――でもこんな短時間で計算を!?』 
 
『エンシェント・マトリクス!』 
 
『きゃあああああああああああああ!』 
 
 
 ユーリの放った巨大な槍がゆりかごに貫通し、その上腕部にいたイリスに突き刺さった。 
 
ユーリ・エーベルヴァインがついに、テロ事件を起こした黒幕イリスへの攻撃に成功――いよいよ反撃開始だ! 
 
 
『ナハト、お父さんを本当に助けなくていいの?』 
 
『おとーさん、たすけてる』 
 
『そっか……闇の書の夢に囚われた自分が救われるよりもまず、マスタープログラムを何とか助けようとしているんだ。 
やっぱりすごいな、わたし達の大好きなお父さんは』 
 
 
 ノイズが走っていたテレビが突然ついて、ナハトヴァールを背負ったユーリが突撃する姿が写った。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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