とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第六十話




 戦闘機人セインによる偵察のおかげで、補給基地における戦力は概ね把握できた。強襲の成功率は飛躍的に高まったが、マリアージュという懸念まで生まれてしまった。

聖地で起きた頂上戦争、聖王の座を巡る覇権争いで暗躍していた軍団兵器。戦後の混乱に乗じて、マリアージュの主力軍団の逃走を許してしまったのだ。

敵の目的は俺であり、聖王の血統に連なると誤認して執拗に狙っていたのは覚えている。言い換えると最終目的が俺である以上俺さえ警戒していれば、追撃をしておけば奴らは他で問題を起こしようがない。


そんな睨み合いも所在が掴めた以上、終わらせることが出来る。早速関係者一同を集めて、作戦会議を行った。


「申し訳ありません。傭兵団を解散した時点で、事後処理が甘かった私の責任です。補給基地を警護しているのであれば、私の手で確実に捕らえてみせます」

「そのような手緩いやり方では困りますわね、美人捜査官様。確実に、破壊していただかないと」

「……クアットロ」

「茶化してはおりませんわよ、陛下。敬愛する我が陛下が再三に渡って狙われ続けたのです、責任は取って頂かなければなりませんわ」

「クアットロさんの言う通りです、失礼しました。マリアージュが相手であれば、私でも戦える。私の手で破壊してみせましょう」


「ノア、くすぐって」

「オッケー、コチョコチョ」

「きゃっ!? ちょ、何をするんですかいきなり!」

「軽くやっただけなのに、感度がいいね」

「俺がやったらセクハラで訴えられるでしょう」

「ノアさんにやらせればいいというものではありません!? 元婚約者でも目くじらくらい立てますよ!」

「まだ根に持ってるんですか……ともあれ、落ち着いたようですね」


 マリアージュは人の形をしているが、兵器である。敵対しているのであれば、俺だって容赦はしない。破壊されようと同情もしないが、それはあくまで俺自身の心持ちだ。

オルティア捜査官は過去傭兵団を取り仕切っていた女傑だが、本人は聡明で優しい女性だ。兵器であろうと元仲間を破壊するのが、心理的な抵抗があるだろう。

時空管理局に所属している以上、任務において感情は切り捨てる必要性も出てくる。その点は理解できるが、だからといってクアットロのように徹底する事はない。


極論だが、善人に悪徳を強要するのだってハラスメント行為には違いないのだから。


「マリアージュには知性があります。イリスや聖王のゆりかごに繋がる情報を持っているかも知れない。それにこの任務は、特務機動課の初仕事でもあります。
黒幕が要とする補給基地の破壊に加えて、聖地で乱を起こした人形兵器を捕縛したとあれば、武功に華を飾れます。管理局だけではなく、聖王教会にだって顔を立てられる。

我々の目標はあくまで、イリスです。彼女と戦う為には新兵器開発と新戦力の人員が必要であり、両組織の支援援助は不可欠なのです」

「その理屈は組織の一員として理解出来ますが、私にも責任はあります」

「クアットロの言うことは気にしないでください。正論で殴る事だけが取り柄の女ですので」

「わたくしの指摘そのものは正しいと言って下さっているんですわよね、陛下!?」


 必ず殺すのだと決めつける必要は、それこそ必ずしもないのだ。臨機応変に動けばいい、今クアットロにも言ったが破壊すること自体には反対していない。

責任感の強さは立派だが、イリスやマリアージュのような悪辣な敵が相手だと、足元を救われる危険性がある。状況に応じて動けるようにしておくべきだ。

俺より余程頭のいいオルティアは理解してくれたのか、小さく息を吐いて矛を収めてくれた。理屈には納得したが、俺に指摘されたのは少し納得できないといったところか。


婚約解消の件がよほど響いているようだが、もしかして結婚には乗り気だったのだろうか。政略結婚なんて女性は嫌がるものだと思っていたが、考え直してみると男の身勝手な思い込みかもしれない。


「マリアージュについては、かつて指揮していたオルティア捜査官が詳しいでしょう。そもそも何故、貴女はあの兵器を保有していたのですか」

「聖女様が予言された当時、ベルカ自治領は神の降臨による期待で世界的な活気を見せておりました。相場の期待は高まり、地価が急上昇して、人の流れが活発化した。
沸騰しかねない熱気は神の名による統制を乱してしまい、遺跡の発掘や未開発現場の工事が数多く行われたのです。

マリアージュもまた闇市場で流れてきた兵器で、危険を感じた私は傭兵団の団長として兵器を仕入れて制御を行いました」

「……聖王の降臨を期待して、聖遺物の発見を目論む輩が増えた。教会としても聖遺物は喉から手が出るほど欲しかったので、躍起になって取り締まるわけにもいかなかったのか」

「"聖王"様である陛下が降臨されなければ、今も混乱は続いていたでしょうね」


 重々しく当時の様子を語るオルティアに対して、クアットロは他人事のように意見を述べる。利害は一致していたとはいえ、えらくまた無法なやり取りが行われていたようだな。

結局聖遺物が見つかったのかどうかは定かではないが、出所不明な怪しい品が市場に流れ出てしまったようだ。覇権争いが起きていた聖地で、マリアージュが他勢力に渡るのは非常に問題があった。

オルティアが指揮する傭兵団は情報収集能力にも優れていて、マリアージュの統制は完璧に行われていたようだ。実際、彼女はマリアージュを護衛にしていたしな。


だったら何故今になってこんな勝手な行動を撮っているのか疑問に思っていると、オルティアが美しい眉を顰める。


「随分と"聖王"様にお熱になってしまって、制御下から外れて暴走してしまったんですよ」

「すいません」

「別に貴方の責任にするつもりはありません。マリアージュの目的は"イクスヴェリア"、"聖王"である貴方の存在が彼女を目覚めさせると思いこんでしまったのでしょう」

「そういえば奴も戦場でそんな事を言っていました。その"イクスヴェリア"というのは何なのですか?」


「えっ、"聖王"なのに知らないの?」

「うっ、も、勿論知っているとも。ただ事実確認をしたいだけだ」

「じゃあ言ってみて」

「なんで俺に言わせるんだよ、お前が言ってみろ」

「わたしは知らない」

「自分が知らないくせに、人には強要するのか!?」

「知ってると言ったじゃん」

「うっ……」

「ほら」

「えーと……」

「はよ」

「早くご説明お願いしますわ、陛下。ほらほら」

「なんでお前までそっちに回るんだよ!?」


「ふざけないでいただきたいんですけどね、みなさん!?」


 ――オルティア捜査官に、めっちゃ怒られた。くそっ、一緒に行動して友好を深めていきたいのに、バカどものせいで俺まで印象が悪くなってしまう。

イクスがどうとか言っていたのは当時の記憶にあるのだが、他にも色々なことが起きてしまったせいで、調査するのが遅れてしまったのである。

闇の書だの、聖王のゆりかごだの、世界には神秘が多すぎる。そのうえ惑星アルトリアという未知なる世界から、新しい技術や敵までわんさか出てきてしまう始末だ。


キリエやアミティエのような美しい女性に巡り会えたのが、不幸中の幸いだったと言える。


「イクスヴェリアとは古代ベルカ時代にガレア王国を治め、『冥府の炎王』の異名を持つ女王の事です。
マリアージュのコアを無限に生成する能力を持ち、マリアージュをコントロールする術を有しています。彼女こそ、軍団兵器であるマリアージュの指揮官と言えるでしょう」

(聖王オリヴィエの霊は何も言ってなかったが、忘れているのか、関心がないのか、怨霊としては判断し難いな)

「破壊と殺戮を好む残忍な人物と記録されています。マリアージュも目的のためなら手段を選ばず活動するので、主に似たのかもしれませんね」

「古代ベルカの兵器ですか、今になって活動を再開するとは厄介ですね」

「優秀なわたくし達とは違って、昆虫並みの知能しか持たない兵器ですけどね。陛下の覇道を邪魔するゴミでしかありませんわ」

「……マリアージュにはやけに風当たりが強いがもしかして、対抗意識とか持っているのか」

「陛下が意識していることが、ほんの少しだけ目障りとしか思っていませんわ。わたくし達こそが、陛下の愛用する兵器であるべきですもの」


 ――意外だった。自意識の高いクアットロには道具であるが如き用途は嫌がるかと思っていたが、本人はむしろ望むところであったらしい。

使命感の高いセッテ達は今更疑問の余地もなかったが、ドゥーエやクアットロ達にまで兵器としての自覚があるとは思わなかった。

マリアージュを破壊するように何度も進言しているのは、彼女達に関心を寄せるのが気に入らなかったらしい。


そういえば作戦参加には乗り気ではないような素振りこそ見せているが、その顔に愛用のメガネはない。ちゃらけているが、もしかして真面目に参加しているのだろうか。


「マリアージュは古代ベルカの時代にガレア王国で作られた、人間の屍を利用する自立増殖兵器です。
性能としては両腕をあらゆる兵器に変形させることが出来て、作戦行動が不可能と判断した場合は自身を燃焼液に変化させて即座に自爆しますので注意してください」

「今の話をお聞きしましたか、陛下。取り押さえようとしたら自爆するんです、無駄な犠牲を払う前に処分するべきですわ」

「分かった、分かった。参謀であるお前の意見を取り入れて、破壊を第一としよう」

「ふっふーん、ようやく受け入れてくださいましたわね。陛下はわたくし達だけを大切に使えばそれでいいんです」


 兵器扱いされることそのものは全く抵抗はないらしい、意見を取り入れられてクアットロは鼻歌を歌っていた。こいつの機嫌が良くなるのは、ちょっとムカつく。

とはいえ確かに自爆されるのであれば、捕縛するのは難しい。オルティアには申し訳なく思ったが、本人も持ち前の責任感でうなずいてくれた。

イリスヴェリアとマリアージュに関する情報を共有し、いよいよ作戦を開始する。セインの偵察で内部情報は丸見えだったので、強襲作戦の段取りはスムーズに進められた。

イリスが製造した人形兵器は俺達が、マリアージュが操作する軍団兵器はオルティア達が速やかに破壊する。そして特務機動課の現場メンバーが、補給基地を掌握する。


固唾をのむ中、現場責任者の俺が号を発した。


「作戦開始」

『ラジャー!』


 支援メンバーのローゼがフルスペックを発揮してセキュリティシステムを無効化、現場メンバーのティーダ・ランスター達が速やかに活動して補給基地を包囲。

セインの能力で補給基地は丸裸の状態となり、俺達精鋭部隊が正面から乗り込んでいく。強襲は時間が命であり、戦力があれば正面突破が可能だ。

レジアス中将肝いりの精鋭部隊は大したもので、速やかに現場を把握して補給基地を制圧していった。俺は仲間達を連れて基地内部へと乗り込んで――


二階の窓を蹴破って飛び出してきた、マリアージュと目が合った。


「聖王、発見。身柄を――」

「竹割」


 剣術において縦・横・斜めの形こそ、基本。兵器に変形した右腕を切り、制圧に乗り出した左腕を切り、自爆しようとした肉体を斬り裂いた。

マリアージュのような人形兵器は、技術そのものよりも武器のリーチが重要。その点を熟知していれば、奇襲であろうと速やかに行動が行える。

今までは知識だけで行動に移せなかったが今はこの肉体があり、剣がある。理想を現実に変えて、困難を打開する力が宿っている。切り裂かれたマリアージュは泥のように溶けて、沈んだ。


セフィロトを持ち直して、並走していたオルティア捜査官に目を向けた。


「今のマリアージュはただの兵士のようですね、軍団長を探し出して――どうかされましたか?」

「い、いえ、その……実に、お見事でした」

「まだまだです。貴方のお力、頼りにさせていただきます」


 先程怒られたのでやや腰を低くして協力を求めたが、オルティアは呆然としたままだ。何か思うところでもあるのか、瞳を潤ませて俺を見つめている。

躊躇なく切り飛ばしてしまったが、かつては仲間だったマリアージュを殺されれば、複雑に思うのも無理はないかも知れない。逆の立場なら、俺だって抵抗くらいはある。


そんなオルティアと俺の様子を見て、ノアさんがコメントする。


「ギャップ萌え」

「何言ってるんだ、お前」

「急に強くなるの、女としてちょっとずるいと思う」






























<続く>








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