とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第五十九話
時空管理局の地上本部と聖王教会の白旗、両組織の精鋭により編成された特務機動課の初陣。最高責任者にレジアス・ゲイズ中将、現場責任者に俺が就任された。
勝利すれば最高責任者の栄誉となり、敗北すれば現場責任者の責任となる構図である。俺に負担が伸し掛かる分、レジアス・ゲイズはあらゆる支援を惜しまず負担してくれている。
新兵器開発で一番の問題点である特許申請は地上本部最高責任者の太鼓判で推し進められるので、CW社はカレイドウルフ大商会の全面支援も受けてフル稼働で新型兵器の数々を開発していた。
この大いなる流れに世論の後押しを受ければ、あらゆる成功が約束されるのだろう――その為にも今特務機動課の初任務は、必ず勝利させる必要がある。
「次に負けたら白旗は解散、"聖王"の座を引きずり降ろされて、あんたは責任問題でミッドチルダから退場させられるわね」
「健全とは言い難い活動も色々してきたからな、成功していたから許されていたことも掌返されるだろうよ――メンバーはこれでいく」
「時空管理局より出向してきた精鋭チームは全て、拠点の制圧に回すのね。あんた達は黒幕、もしくは主力の殲滅を行う。
手堅い作戦だとは思うけど、一応言っておくわね。作戦の花を飾るのは制圧側だから、レジアス中将は大っぴらに自分達の手柄を喧伝するわよ」
「それでいいんだよ、マスメディアが英雄とするのはあくまで中将殿でなければならない。俺はイリスやリインフォースを確保できればそれでいい。
今回は合同捜査だからな、中将だってそれなりには持ち上げてくれるだろうよ。それに」
「キリエ・フローリアンやアミティエ・フローリアンへの司法取引、惑星アルトリアへの開発援助、イリスやリインフォースへの配慮をお願いするんでしょう。
今の手柄を相手に譲って、未来への投資とするのね。オッケー、交渉や手回し諸々はあたし達がやっておくから、あんたは作戦に集中しなさい」
「面倒な手続きになるけれどよろしく頼むぞ、アリサ。さて、面子を集めるか」
俺と妹さんは当然出動、シュテルは兵器開発、レヴィは新必殺技でリニスたちと訓練中、ディアーチェはベルカ自治領の政務に専念中の為、ナハトを背負ったユーリが出撃。
時空管理局と聖王教会が出張るのでのろうさとザフィーラは欠席、管理局の顔役としてオルティア捜査官、民間協力としてノア、聖王教会の旗役としてアナスタシヤが出撃。
アギトはCW社で改造中の為、今回はミヤがデバイスとして常備。管理局精鋭はティーダ・ランスターが取りまとめ、壊滅した教会騎士団に代わってローゼがシステム支援に入った。
そして魔導師対策を行っているイリス達への切り札として、セッテ隊長指揮による戦闘機人達が内々に投入する事にした――俺の一存で。
「陛下、この度は本当にありがとうございました」
「お前達は優秀な戦士だ、頼りにしている」
「ご期待には必ず応える」
――戦闘機人達の抜擢はある意味、のろうさ達よりも余程危険な決断だ。彼女達の存在は聖王教会が黙認しているが、決して公認ではない。
彼女達本人には何の非もないが、製造過程が極めてデリケートだ。非合法な研究所で製造された彼女達は、存在そのものが危険視される。
そんな戦士達を世間が大注目する特務機動課に投入するのだ、万が一にでも失敗すれば彼女達の存在に関する是非も世論で取り上げるだろう。
どれほど内々にしたところで作戦に投入すれば明るみに出るし、失敗したら糾弾の対象になる。そして戦闘機人を投入した現場責任者に追求の手が恐るべき勢いで来る。
アリサが心配していた点はそこにあり、忠告もしてくれた。でもどうせ失敗すれば俺は破滅だ、開き直って彼女達の抜擢を決めた。
俺の決断が死ぬほど嬉しかったのか、実に珍しくセッテが頬を紅潮させてハッキリとした口調で宣言していた。
「陛下の決断に余程感激されたようですわね。ドゥーエ姉が管理局と教会に対して、わたくし達の能力及び固有武装を制限なく使用できる手を回してくださいましたわ。
ほんと、お偉い立場であらせられるというのにおバカな決断をする方ですわね」
「……クアットロ、今日ばかりは軽口であろうと陛下への侮辱は許さんぞ。あの方は我々のために――」
「トーレちゃんに言われずとも、分かっています。分かっているからこそ、申し上げているんですわ。何でもかんでも賛同するイエスマンなんて、あの方の参謀には相応しくありません。
……おバカさんな陛下のために、優秀なわたくしが結果を出してさしあげるんです。Win-Winでしょう、うふふ」
「やれやれ、難儀な照れ隠しだな。あの方のためにも、必ず成功させるぞ」
「セイン。本作戦は強襲が目的なので、オットーと交代で貴女が投入された。貴女の能力が作戦の成否を握っているの、お父様の為にも必ず成功させるように」
「うう、なんでこんなに偉そうなんだろう、この人」
「私はお父様の実の娘で――」
「はいはい、もう百回以上お父様自慢を聞かされたんで覚えちゃっています。ちょい緊張するけど、ちゃんとやるから安心してていいよ。
これが成功したらアタシ達のことも世間に認められて、ヴィヴィオちゃんの事も堂々と守れるようになるもんね」
「私やオットーも正式に、お父様の娘として世に誇れるようになります。自身の責任を持って私達の人権を守ろうとして下さるお父様の愛、胸が震えるほど感激しました。
お父様、見ていて下さいね。留守を預かるオットーの分まで、私は必ずお父様の愛に応えてご覧に入れます!」
「うーん、ほんと陛下と接して強い感情が芽生えるようになったよね、うちの面々……」
――もしも成功すれば非合法な製造過程でさえも、同情の余地は必ず生まれる。俺が説明せずとも優秀な彼女達は作戦投入の意図を理解して、戦意に燃えている。
実際はそれほど単純ではないだろうけど、理想を実現できる力を持った人間は大勢いるのだ。時空管理局と聖王教会、二つの強大な組織と手を結んでいる利点を最大限に活かした。
成功と失敗、両者の落差には正直目眩がしているが、ここまで来たらもう開き直るしかない。どうせもう命まで狙われているのだ、これ以上の破滅はないだろうしな。
自分の破滅までかかっているからこそ、今回の人選は開き直れてやりたい放題やれたと言える――本人達の強い要望もあったが、彼女達も投入した。
「剣士さん、本当にすいません。本来であれば表で活動するなんて以ての外でしょうに、私達にも償いの機会を与えてくださって」
「ありがとうございました、魔法使いさん。イリスの事は必ずあたしが何とかしてみせますから」
キリエやアミティエは女の子らしくガールズスタイルを意識した、形状変化武装。本来の実力は目の当たりにしていないが、相当な実力者であることは彼女達の美しい肉体が証明している。
戦闘機人達と同じく、犯罪を犯した自分達を実戦投入してくれた事に感謝感激しているが、彼女達の投入については俺自身の打算も大いにあった。
エルトリア独自のエネルギー干渉術「フォーミュラ」と、「ヴァリアントアームズ」と呼ばれる武装。今後の俺の強さを担うこの技術の使い方を、実戦を通じて二人から学びたかったのだ。
今日は生まれ変わった俺にとっては初陣となる急襲作戦、今後の俺の剣士としての生き方も問われる戦いとなるだろう。
「悪いが、二人には他のメンバーと違って作戦行動の自由までは与えられていない。その代わりと言っては何だが、俺と行動を共にしている限り自由判断で戦ってくれてかまわない」
「それだけでも十分過ぎます。イリスも貴方やユーリさんを狙っているでしょうから、一緒に行動するべきでしょうから」
「魔法使いさんの為にも、あたしも全力で戦います。ユーリさんやすずかさんにだって負けませんからね」
「むっ、お父さんのためなら私達も負けませんよ。ね、ナハト」
「おー!」
「お任せください、剣士さん」
イリスには今までしてやられてばかりだが、惨事にまで至っていないのは彼女達のおかげだ。ユーリ達がいれば何があっても大丈夫という信頼感は、今も全く揺るがない。
身体が治っても仲間頼りなのはちょっと情けないが、劣等感は既に無くなっている。心身の充実は今も実感しており、そのまま空でも飛べそうな万能感に支配されている。
オンボロ自転車からロケットエンジンに乗り換えたような感覚は凄まじく、正直今でも戸惑っているほどだ。戦うことで、積極的に馴染ませていきたい。
こうして肝になるメンバーを全員揃えられたところで、作戦決行時間を迎えた。
「では特務機動課、出撃する」
『了解!』
それぞれの思いを乗せて、俺達はようやくイリス達への反攻作戦を開始した。
作戦そのものは単純。強襲してアジトを制圧、犯人達を確保する。レジアス中将が発見したアジトを俺が拠点と表現しているのは、ここが本拠地ではないからだ。
イリスにおける本拠地とは、聖王のゆりかごである。あのロストロギアこそ空飛ぶ巨大要塞であり、世界を破壊する武装の数々を搭載している巨大戦艦こそ本拠地に相応しい。
そもそもレジアス中将が早期にアジトを発見できた理由の一つに、廃棄都市がある。廃棄された都市と表現しているが、都市レベルの廃材を時空管理局が何の管理もせず放置したりしない。
資材には管理番号があり、物資の流れには決まったルートというのが存在する。イリスがどれほど巧妙に隠蔽しても、都市レベルの廃材を全て丸ほど隠し立てするのは難しいのだ。
地上本部の優秀な捜査官達が管理廃材を洗い出して、独自の情報網を駆使して足を使って捜索し、現場を突き止めた。つまり今から襲うアジトとはイリスの武力を支える、補給基地なのだ。
イリス本人が今でも管理しているかどうかは賭けだが、必ず聖王のゆりかごに繋がる手がかりは存在する。まずイリスの補給源を回収して、武力を弱らせることにある。
先程全員出撃と号を発したが、実際は時空管理局と聖王教会の精鋭チームが既に現場を包囲している。お膳立ては済んでおり、肝心要の強襲を俺達が行うのだ。
その辺のカバーは万全で、現場を指揮しているティーダ・ランスターの実力が伺えた。作戦成功したら、共に祝杯を上げるのが楽しみだ。
「お待ちしておりました、陛下。『民間協力者』であるキリエさん達の情報通り、"機動外殻"を確認できています」
「廃材や工業機械を利用した急造した兵器、"機動外殻"――リョウスケさんの情報が事実であれば、魔導に関する備えも万全でしょう」
「管理局や教会より派遣されたメンバーはアジトを完全包囲し、待機させている」
レジアス中将の手腕はここでも、いかんなく発揮されている。俺に現場を任せたのは、魔導対策が施されている敵に管理局の魔導師達では手出しできない事情をふまえているのだ。
イリス達に対抗できるのは魔導を主力としない戦士達か、新武装を手にした者達のみ。つまり現時点では俺達でしか敵を打開できないので、丸投げしているのである。
自分達では対抗できない事に歯噛みするような人間は、そもそも選抜されない。ティーダ達は不平不満無く任務を全うし、オルティア達は弁えて俺達の到着を万全体制で待っていた。
三人の美女達に首肯したところで、偵察に行かせたセインから連絡が入った。
『偵察確認、アジト周辺及び内部情報も把握完了。データ送るんで、確認よろしく』
「よくやった。イリスは?」
『そっちはハズレでーす。リインフォースとかいうおっぱい銀髪美女さんも不在だよん』
「ちっ、そこまで上手くはいかないか」
アジトを制圧すれば急行してくるかも知れないが、望み薄だろう。どうせイリスは聖王のゆりかごの改造中で、リインフォースは彼女の護衛をしているのに違いない。
忌々しいが、チャンスでもある。今回の実践で体を慣らし、感覚をモノにすれば、あいつが相手でも万全に戦える。初陣で大物を倒すのは手がかかるからな。
絶対に成功させなければならない作戦だ、補給基地の壊滅だけでも大いなる前進と言える。あいつらを相当に追い込めるからな。
『ただ、ヤバそうなのがいるよ』
「何だと……? イリスやリインフォース以外に、まだいるのか」
キリエを見やると、聞き耳を立てていた彼女は必死な顔をして首を振る。共犯者だった彼女が知らないところを見ると、異世界でスカウトした奴なのだろうか。
この状況でイリスに協力する馬鹿野郎がいることに驚きを隠せないが、考えてみるとあいつにはウイルスコードとかいう洗脳能力があった。誰か、洗脳したのだろうか。
ユーリと同類である守護騎士達は全員無事を確認しているし、自動人形であるノエル達はCW社で改造中だ。戦闘機人達は博士が対策しているし、他に誰かいただろうか――
――あ。
「もしかして」
『うん、教会のデータにあるね。"マリアージュ"とかいうやつが、基地を守ってるよ』
絶対確実に成功しなければならない作戦の要で、実にヤバそうな奴がゴールにいた。
洗脳されていなくても協力しそうなんだよな、あいつ……くそ、厄介な。
白旗の一員として同行していたルーテシアが、険しい顔になった。
<続く>
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