とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第四十ニ話




 シュテルの真・ルシフェリオンブレイカーは、従来のルシフェリオンブレイカーに炎の力を乗せた超火力砲撃である。

轟熱滅砕に相応しい破壊力、輝ける明星全てを焼き消す豪炎。圧倒的な火力で相手を吹き飛ばし、一斉砲撃で飲み込んで破壊する星光の殲滅者による必殺技。

昨日は確かに人型兵器の大群を薙ぎ払い、敵戦力の大半を壊滅させている。確かな手応えがあったからこそ採用した必殺技が、昨日の今日でもう破られてしまった。

作戦配置についているシュテルはこの場にはいないが、作戦失敗の報告から何も言ってこない。いつもなら冗談の一言でもいうのに、自分の必殺が破れて気落ちしているようだ。


必殺に相応しいからこそ、参謀役のクアットロも採用したのだ――ありえない事態に、誰もが絶句している。家族であるユーリ達は、衝撃で声も出ない。皆、敵の恐ろしさに沈黙していた。



――たく……



「シュテル」

『……父上、誠に申し訳――』


「お前の愛の一撃は敗れ去ったな。所詮小娘の愛なんぞ、この父には届かぬということだ。身の程を知れい!」


 ――何を言っているのか自分でも分からなかったが、別に意味なんぞ無くてもいいのだ。家族なのだから、適当に言っても適当に伝わってくれる。

正直俺も真・ルシフェリオンブレイカーがいきなり破られて内心ビビっているけど、俺は白旗を率いるリーダーなのだ。トップが狼狽えたら、部下だって大いに混乱してしまう。

俺はこのメンバーの中でぶっちぎりに弱いが、自分が弱いという事実は胸を張って言い切れる。自分の弱さを誇る事が、弱者に与えられた特権なのだ。


最初から自分が弱いと分かっていれば、何も恐れることはない。立ち向かえば、いいだけなのだから。


『父上、貴方は……ふふ、この私の愛を侮ってもらっては困りますね。何を隠そう、この私は今日父の隠し撮り写真を持参してこの場に参上しているのです!』

「何だよ、そのバカバカしい覚悟は!?」

『父のあまりにも素晴らしき勇姿に見惚れて、つい照準が滑ってしまいました。この愛娘の可愛い失敗を、どうか許して下さい』

「許すか、ボケェ!? とにかくこっちは何とかするから、お前は予定より早くなったが地上班のサポートに回ってくれ」

『了解しました――あの、父上』

「何だよ」


『この失敗は必ず、挽回してみせます。私は、貴方の娘ですから』

「おう、期待しているぞ」


 最後の最後、嬉しげに声を弾ませて、シュテルは通信を切って地上へと出撃した。やれやれ、難儀な娘を持つと父親はなかなか疲れさせられる。逞しさには、口元が緩んでしまうが。

俺とシュテルの会話を聞いていた仲間達も、苦笑を交えつつも不安は解けたようだった。クアットロは呆れた顔をしているが、普段の余裕ある微笑みを取り戻している。

俺本人が不安に怯えなかったのは、彼らがこうして揃っているからだ。孤独であったならば、敵の恐るべき能力に震えていたかも知れない。


この敵と戦うことになってから、俺は単独による勝利はもう諦めている。戦うからには、とことん仲間を頼る。


「クアットロ、参謀役としてお前の意見を聞かせてくれ。今の事態を、どう見る」

「シュテルさんの仰る通り、敵は昨日の陛下達の戦いを取り入れています。未知なる技術を有する敵、少なくとも魔導に対する心得があるとみるべきでしょう。
奪われた魔導書による能力か、破壊された聖典による知識か、敵自身が保つ技術によるものか――この点については今、考えるべきではありません。

大切なのは、敵能力を把握すること――よって我々の出撃にあたり、トーレ姉様と王女様に先鋒を命じてくださいな」

「どうして、その二人なんだ……?」

「魔導技術が奪われたのは、ほぼ確実。他に戦闘機人の固有能力や、人外の超常能力に対する対応力を確認させて頂きたいのです。
お二人は先日敵戦力を壊滅させた立役者であり、当事者。敵は確実に分析したでしょうから」


 シュテルの魔導技術に対する備えがあるのであれば、戦闘機人や夜の一族に対する備えもしている可能性を視野に入れている。最悪を未然に把握する一手ということか。

クアットロの提案は合理的だが、同時に不安でもあった。妹さんやトーレの技術にも対応されているのであれば、うてる手立ては限られてしまう。

白旗の持ち味を次々と封じられていけば、いずれは手出しできなくなってしまう。敵に対応されるのを恐れて、戦力を小出しにせざるを得なくなるのは非常にまずい。


正直その不安は拭えないが、だからといって怯えて引っ込むのは敵の思う壺だ。俺は、他人を信じると決めたのだ。


「トーレ、お前に最先鋒を命じる。一番槍として、手柄を大いに掻っ攫え」

「承知致しました。陛下に、最上の勝利を献上いたしましょう」

「妹さんは、トーレの補佐に入ってくれ。ギア4といっていたあの技は、敵本体を確認してから使用を許可する。
護衛の代わりと言っては何だが、俺はこのナハトヴァールを背負って戦う」


「お任せ下さい、剣士さん――ナハトちゃん、剣士さんをお願いね」

「ぶい!」


 ――昨日入国管理局でどういうやり取りがあったのか、月村すずかとナハトヴァールが笑顔で拳をぶつけあっている。精神が際立った者同士、波長が合っているようだ。

大役を任されて、トーレも意気揚々と出撃。妹さんも文字通り空を駆け上がって、隕石に向かって突撃していった。後はもう、信じるしかない。


ローゼが用意してくれたガジェットドローンU型の上に飛び乗って、俺は今――号令をかけた。


「白旗特別部隊、総員出撃!」

『了解!』


 全軍、空へと舞い上がった。













 ガジェットドローンU型はエイのような平べったい形状をした航空型で、2メートル程度の大きさの全翼機である。

ローゼの自慢によると空戦魔導師を凌駕する機動性を持った戦闘型ガジェットドローンであり、航空戦力として現在ローゼの支配下に置かれていた。つまり、あいつの操縦で俺は乗船している恐ろしさ。

当初は俺乗船の一機のみで出撃する予定だったのだが、特攻バカだと白旗メンバー全員から反対と説教を食らった。よってクアットロの指揮により、編成単位で出撃している。


俺の出撃が決まってスカリエッティが嬉々として改良が加えており、速度が更に向上するありがた迷惑さだった。上に乗っかる人間の乗り心地というのを考えてもらいたい。


『朗報だ、クアットロ。我々のIS能力は、敵に対応されていない』

「ふふふ、当然ですわトーレ姉様。博士の偉大なる技術に安々と対応されてたまるものですか」

「……だったら俺の背中に隠れて、指揮するのはやめろ」


 聖地が完全に見えなくなるほどの上空、富士山も真っ青の高さにまで駆け上がった空の上で、俺達は迫りくる隕石群を相手に戦っていた。

トーレの持つ先天固有技能、ライドインパルス。頑強な素体構築と全身の加速機能によって成される超高速機動能力は、落下するだけの隕石なんぞ物ともせずに破壊していっている。

彼女の最大速度は人間の視認速度を凌駕するので追えていないが、高鉄の塊であろうとエネルギー翼であるインパルスブレードなら薙ぎ払えるらしい。素晴らしい戦いぶりだった。


トーレの活躍にようやく安堵したのか、クアットロも能力を発動する。


「能力を奪われないのであれば恐れるに足りませんが、対策は施しておきましょう――IS発動、シルバーカーテン」


 クアットロの持つ先天固有技能は幻影を操り、対象の知覚を騙す能力。ガジェットII型の編隊に幻影を混ぜることで、実際以上の大編隊を偽装してみせた。

なるほど、幻影を交えておけば敵を翻弄するだけではなく、味方の能力を分析されずに済む。戦闘機人の対応能力の高さにこそ、俺は舌を巻いた。敵の分析力に決して負けていない。

魔導が奪われにくい環境となって、ユーリ達も積極的に動き出した。元より戦闘能力の高い者達、鋼鉄なんぞに負けたりはしない。


これで指揮通信系統を完全にダウンさせ、隕石を操っている敵の操作も撹乱できる。こうした乱戦に適した能力であった。


「うふふふふふ、どうかしらセッテちゃん。これで先程の失点は挽回できたでしょう――出来てるわよね?」

「……」


 ……これで妹の顔色を窺う性根でさえなければ、俺も褒めてやったというのに。冷や汗を流して妹に媚びている様子を見て、溜息を吐いた。

ガジェットドローンU型の武装は2門の熱線、翼の両脇と底部には空対空ミサイルを合計6発装備されている。クアットロの指揮とローゼの采配で、ガジェットドローンの性能は発揮されている。

空の戦場では、剣を振るう余地は特になかった。隕石相手に剣を振るう機会なんぞあっても困るのだが、天狗一族との戦いで実演してみせただけに試したくはなる。

とはいえ、緊張感は微塵も解いていない。そもそも敵は対応さえ出来ていないとはいえ、妹さんやトーレ達の能力自体は見ているのだ。隕石程度でどうにか出来るとは思っていないだろう。


となると、次の手はなにか――


『ちっ、やはりか』

「どうした、トーレ」

『数を減らした隕石が変型を始めました。恐らく先日と同じく、戦闘形態へ移行するものと思われます。芸のない奴め』

「油断しないで、トーレ姉様。隕石という形状である以上、変形すると見せかけて自爆する事も考えられます。無駄に近づかず、距離を置いてくださいな」

『了解した』


 ――まったくもってトーレと同じ見解だったので、クアットロの指摘に俺は無言で息を呑んだ。確かに自爆するケースも考えられるのか、もし俺が最前線にいたら突撃していたかも知れない。


星のように爆発する隕石、空より落ちてくる火の玉となれば紛れもない空爆だ。本当にやりたい放題やってくる敵である。この上空でなんとしても、仕留めなければならない。

二番煎じだと馬鹿にするその油断をつく、俺の心理を読んでいる敵なら考えられそうな戦術だった。クアットロが同乗してくれて助かったと、安堵する。


クアットロの指摘通り、変形したと思った瞬間――隕石が一斉に、爆発した。


「距離を置いていて、正解だったな……的確な判断だったぞ、クアットロ」

「そうでしょう、そうでしょう。ほらほら、セッテちゃんにもアピールしてやって下さいな」

「お前は少しは姉らしく――」


「おとーさん!」


 背負っているナハトが指差す方向を見ると――爆発した隕石の一つから、人が飛び出してきた。


クアットロに注意を向けていた一瞬、ではない。クアットロの的確な指揮に安堵した、隙を狙われた。仲間を頼った人間特有の、致命的な一瞬。

俺が仲間を頼っている事を知らなければ成り立たない、戦術。有能な味方に守られている大将に通じる、戦略。


俺を知っているからこその、作戦。


「――嘘、だ」


 宮本良介という人間をよく知っている、敵。


「あんたが、俺の敵!?」



 ――夜天の人、リインフォース。



隕石から飛び出してきた彼女が急接近、ガジェットドローン二型から派手に蹴り飛ばされる。首の骨が折れずに済んだのは、ナハトがカバーしてくれた為。

歯と血を撒き散らしながら、強烈な浮遊感と猛烈な落下感に、背筋が凍らせる。地の見えぬ遙か上空、このまま墜落すれば粉々になって死ぬ。

奇襲に対応できる妹さんを護衛から外した、判断。俺には出来ない判断を、仲間に委ねた。追い詰められると仲間に頼るのだという俺の弱さを、彼女なら知っている。


自分が弱いことを誇る剣士を、自分の強さを誇る女は笑っていた。



『システムオルタ、発動――リインフォース"オルタ"、出撃する』



 ――俺を見て、嘲笑っていた。

どんな理由があろうと、どんな原因があろうと、彼女は敵になっている。


俺は、彼女を斬れるのか……?


女を。

仲間を。

家族を。


――人を。















<続く>








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