とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第四十一話




 ――その夜。敵影を確認したのは妹さんの"声"ではなく、ローゼの"目"だった。


事件は連日多発しているが、緊張ばかりしていると疲れてくる。ただでさえ昨夜は人型兵器の大軍を相手に、命がけで戦ったばかりなのだ。どれほどの超人であろうと、必ず疲労する。

こういった状況で非常に役立つのが、疲れを知らない機械だ。ローゼが率いるガジェットドローンシリーズ、ジェイル・スカリエッティ博士が製造した機械兵器の出番となった。

人の目のある地上は協力を申し出てくれたノエル達自動人形が警邏を務め、人の目の届かない上空はローゼがガジェットドローンシリーズを飛ばして巡回を行ってくれていた。


その間俺達も遊んでいた訳ではないのだが、休息も必要なので行っていた。食事もきちんと取り、身体を休め、頭を落ち着かせていた時――連絡が入る。


『主、敵襲です』

「……今回の敵は吸血鬼なのか。毎日夜遅くに襲いかかってきやがって、寝かせろよ」

『日頃グータラしている主には、お似合いの敵ですね』

「廃棄処分にするぞ、てめえ!? やはり予想通り、空から襲ってきやがったか。UFOでも乗り込んで来たか」


『素晴らしい読みです、主。巨大な質量を伴った物体――"隕石"の大群が、聖地に向かって飛来しています』

「な、にいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 何故この敵は、俺の予想をことごとく覆してきやがるのか。人型兵器という際立った技術を見せられたので、大仰な兵器が来ると思ったら、シンプルかつ効果的な手段で攻めて来た。

魔導文化や科学技術を嫌というほど見せつけた後での、盲点。空からの襲撃まで予想していたのに、宇宙からの襲来という飛躍的な襲撃にまで及ばない思考の差。

どうなっているんだ、俺の心でも読んでいるのだろうか。弄ばれている感覚に、苦しめられる。明らかに俺の思考の流れを読んだ上で、意表を確実についてくる。


心理の裏を探られる気持ち悪さに舌打ちしながら、急いでローゼに指示を送った。


「ガジェットドローン全機で撃ち落せ」

『火力が不足しています。撃墜可能ですが質量が大きい為、破片が聖地に容赦なく降り注ぐでしょう』

「まあ、そうだよな……撮影したリアルタイム映像を、関係者全員に流せ。お前のネットワークシステムはオルティア捜査官やノアにも使用を許可しているが、まず俺から連絡する。
商談が成立したレジアス・ゲイズ中将殿にも、アリサが中継して極秘情報として提供する手筈だ。すぐに共有しろ、すぐに出撃する。

ちなみに隕石というのは、比喩表現か」

『ご明察です。あくまで表現でしかなく、実際は精密に加工された高鉄の塊ですね。爆発物を仕掛けられている可能性もあるので、上空で撃破しないと危険です』


 レジアス・ゲイズ中将は最高評議会と繋がっているので安易に信頼するのは危険だが、これほどの規模の襲撃となれば聖地だけで留めておけない。

後に必ず伝わってしまうのであれば、今の段階で情報は共有した方がいい。少なくとも彼には彼なりの正義感があり、信念がある。尻尾を振るだけの犬ではないのだ。

自分の理想が実現するまで、自分の力で成し遂げようとする気概は伺えた。理想の体現である兵器計画はこちらが主導権を握っている、今の時点でこちらに不利な行動には出ないだろう。


元傭兵のオルティアと元猟兵のノアについてはローゼから報告してもいいのだが、信頼関係を結ぶ上で俺から直接伝える事にした。


『貴方が作り上げた組織である白旗のネットワークシステムについて、以前より未知なる技術力の高さに注目しておりました。私に見せてもよかったのですか?』

「なにか問題でもありますか」

『……いえ、緊急事態だというのにつまらない事を言って申し訳ありません。管理局に共有するような真似はいたしませんので、ご安心下さい』

『ん、わたしも独断で使わないから安心してね。君を裏切る真似はしない』


「暇つぶしにネットワーク使って、俺のプライベートを探るのも裏切り行為だからな」


『……友達であるわたしを信じてくれていない、悲しい。エロい自撮りを送ってあげようとしたのに』

『なるほど、元お見合い相手の私に使わせようとする魂胆はそれですか。破廉恥ですね』

「何いってんだ、あんたら!?」


 溜息を吐いた、俺の意図する行為が見破られている。信頼関係を結びたいという意思を尊重して、この二人はこんな冗談を言ってくれているのだ。頭の良い女性というのは、やり辛い。

その証拠に二人はすぐに意識を切り替えて、現実を襲う危機的状況に対応する。


『隕石という襲撃方法は、こちらにとっても利点です。謎の兵器で空爆されるよりも、上手く事を収めれば自然現象で処理出来ます』

『単なる第一次でしょう。撃墜した後で、第二波が攻め込んで来る』

『ですので、上手く事を収めるべきだといいました。最初のインパクトを可及的速やかに収めれば、聖地の皆さんに広がる動揺を沈められます。
その後第二波、第三波が来ようと、我々が既に動いていると知れば、皆さんも信頼して我々の指示に従って避難誘導は出来るはずです』


 大量の隕石が落ちてくる事自体天災そのものなのだが、未知なる人災よりも既知の天災の方がやりやすいとオルティアは分析する――この場に、"聖王"がいるのだから。

神を信仰する地において、世界の崩壊を告げる天災が襲うのは試練そのもの。人による被害ではなく、天による被害であれば、悪意を疑う事もない。

聖書に記されている奇跡の如き活躍で解決すれば、信徒達は試練を乗り越えたのだと安堵して拍手喝采する。テロリズムを疑う余地は微塵もないのだと、オルティアは明晰な戦略を立てる。


反対はないのだが、異論は大いにある。


「実に素晴らしい戦略と展望ですが、それをやられるとまた世間様がこぞって俺を騒ぎ立てるんですけど」

『今から貴方が出撃されるのです、事実ではありませんか』

『真実は常に一つ、キリッ』

「うるさいよ――くそっ、一刻も早くディアーチェとヴィヴィオに引き継いで辞めてやる」


 敵に回すと厄介だが味方にすると頼もしい、二人。特に荒事に離れている分、こういった緊急事態に対する対応能力は異常なまでに高い。地上については任せて問題ないだろう。

他に幾つか段取りを確認した上で通信を切り、出撃準備をする。リニスよりつけられている各種バンドによる制限を解除し、アギトとユニゾン。まだ多少キツイが、融合化には成功。


そして――"破片"を、手に取った。


『ダーリン、新しい愛の巣が快適すぎる。花嫁さんのわたしのために、ありがとう!』

『母の為に新しい家を用意する貴方の優しさに、感激いたしました。大人になってもその優しさを忘れてはいけませんよ』

『ようやく合流できたのか、この二人――アタシ一人でも十分だが、仕方ねえか』


 竹刀を失ってから宿り木を失って彷徨っていた精霊と悪霊だったが、一応新しい剣候補を拾ったので回収しておいた。二人も事件を知って、急いで合流してくれたのだ。

個人的にはあまり頼りたくはないのだが、今回空への出撃なので二人の加護が必要となる。何しろガジェットドローンU型という全翼機に乗って、空を飛ぶのである。

上空を亜音速で駆け回る飛行機の上に空を飛べない人間が乗るのだ、危険なんてものではない。慣性の法則によってあっという間に振り切られて、上空で粉々になるだろう。


だからこそ、アリシアの風とオリヴィエの肉体制御が必要不可欠となる。空の上で剣士が戦うには、幽霊コンビの加護がいる。


『あのフリーリアンとかいう小娘にこいつを預けてたんだろう、何か変わった様子はあるか?』

「事件解決の"おまじない"をしてくれたそうだ。やはり身体が美しい人は、心も綺麗なんだな」

『その肉体信仰、いい加減やめろ』


 月村すずかと俺の血に染まった人型兵器の破片、現場から持ち帰った残骸をキリエ・フローリアンさんが深い興味を示した。

故郷エルトリアにも存在しない鉱石なのだと感激して、一日預けてほしいと頼まれたのだ。分析次第で俺の力になれるかも知れないと、興奮気味に語ってくれた。

俺は自分の剣を、決して他人に預けたりしない。美しい人であっても、同様だ。それでも承諾したのは――偽りの奇跡を見せる後ろめたさがあったからだろう。

彼女の両親も、故郷も、救う手段が今のところはない。けれど力になると、約束した。だからこそ彼女が向けてくれた好意には、応えたかった。


そして今宵白旗のアジトを経由して俺の手元へ届けてくれた破片には元のままの形だったが――メッセージが、込められていた。


『大体なんなんだ、そのおまじないってのは』

「万が一の事が起きた場合、この破片に力を込めて「フォーミュラ」と言えばいいそうだ」

『フォーミュラ……?』

「だから、おまじないだと言っているんだ」

『ああ、なるほどね。単なる祈りであって、別に意味があるわけじゃないのか』


 フローリアンさんより預かったホテルアグスタの支配人の話だと、ヴァリアントがどうとか熱弁していたようだが、技術に詳しくない支配人にはチンプンカンプンな説明だったらしい。

元風俗宿の女将に別惑星のおまじないの話を理解しろというのも、酷な話。きっと危険な事件捜査をしている俺を、フローリアンさんが気遣ってくれたのだろう。優しい女性だった。

それに祈りを込めるという行為にも、俺は否定していない。人の願いの尊さを、法術使いである俺はよく知っている。


「アギト、このまま本当に関わってもいいんだな」

『どんな危険があってもアタシは最後までお前に付き合う。アタシは誰にでも融合を許すような腰軽女じゃねえんだぞ、何度も言わせんな』

「分かった、命は預けるぞ」


 目の前で起きようとしている事件に背を向ければ、アギトは自由になれる。恐らく最後の機会になろうというのに、アギトは笑って拒否した。自由な空ではなく、戦場となる宇宙を選んだ。

俺もそれ以上何も言わず、人型兵器の破片である鋼鉄の棒きれ――キリエ・フローリアンさんが名付けてくれた『フォーミュラ』を手に出撃する。

俺達が話している間に、ローゼから共有された襲撃情報が仲間達全員に伝わっていた。聖地は緊急事態へ突入し、俺達は聖王教会敷地内に入って合流する。


空へと向かうのはシュテルを除いた俺の子供達に戦闘機人であるディードやトーレ、そして参謀役のクアットロにセッテであった。


「ちょ、ちょちょ、ちょっとお待ち下さい。セッテちゃんは聖王騎士団の団長として、地上で指揮を取るべきだと提案いたしますわ!」

「セッテも空を飛べるんだ、参謀役のお前を守る役目がいるだろう」


「陛下が少しでも不利になったら、脊髄を割る」

「敵より味方が怖いんですけど!?」


 ブーメランブレードを素振りする妹に、メガネを外しているお姉さんが震え上がっている。我が子のディードもセッテに深く賛同して頷いているのが怖い。俺の賛同者は、狂信が多すぎる。

敵は俺の思考を読み切っているので、作戦立案や指揮はクアットロに丸投げした。地上についてもシュテルが作戦を立てて、ドゥーエが戦闘機人達を動かして指揮を執る。


ちなみに――


「妹さんが護衛してくれるのはありがたいんだが、一緒に俺のガジェットドローンに乗り込むのか」

「お心遣い、感謝いたします。私は並走いたしますので問題ありません」

「……並、"走"?」

「はい、月歩すればいいだけですので」


「……何言っているか、分かる?」

「空を蹴り続ければ飛べるとかいう化物の常識を、私に聞かないでくださいな」


 俺の血を摂取した夜の一族の王女は、目に見えて進化していた。細胞そのものから進化した彼女の肉体は、規格外の身体能力を確保している。今なら隕石も拳で割れそうだ。

俺と妹さんは遊撃で出撃し、ユーリ達がクアットロの指揮で戦う。隕石は飛来する数こそ多いが、昨晩の人型兵器のように自走できる訳ではない。

高鉄の塊であろうと、ユーリ達の魔法であれば完全に破壊するのは可能だ。ローゼから送られてきた隕石情報を分析し、ユーリ達は全員自信を持って破壊できると太鼓判を押してくれた。


この過剰戦力には、指揮を執るクアットロも余裕綽々だった。


「まずは陛下。敵の出鼻を挫くべく、地上よりシュテルさんの殲滅魔法で戦端を開くといたしましょう」

「分かった。ルシフェリオンブレイカーで戦端を開いて、俺達が出撃するぞ」

『了解!』


 聖地の人々の目もある、"聖王"の子であるシュテルの存在は認知されていた。彼女が地上から天の災厄を切り開くのは、聖地防衛のアピールにも繋がる。

政治的配慮を欠かさないクアットロに舌を巻きつつ、俺は承諾する。あの子のルシフェリオンブレイカーであれば、華々しい出撃となるだろう。

全員戦闘準備に入る中、通信機を通じて俺の命令を聞いたシュテルが、地上待機していた拠点から全力で魔法を天に向かって放った。


真・ルシフェリオンブレイカー、昨晩も数多くの人型兵器を破壊した殲滅魔法である。



そう――



『父上』

「よし、ぶっ潰したな。俺達も出撃するぞ!」

『不発に終わりました』

「……は?」


『全力で放った私の魔法が、弾かれました――傷一つ、つけられません』


 ――"昨晩使用した"魔法が、封じられた。

聖地を破壊する隕石は、無傷で降り注いでくる。



「――いきなり陛下が不利になった、無能は死ぬべき」

「ひええええええええええ、挽回、挽回する余地を下さい、お願いプリーズ!?」













<続く>








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