とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第四十話
兵器アインヘリアル、最高評議会より選出された時空管理局地上本部の最高責任者が提唱している導入計画。極秘中の極秘である兵器開発を任された意味合いは非常に大きい。
秘密を打ち明けられて喜べるのは、友達や恋人関係のみである。信頼されたから、任されたのではない。期待を裏切ったら殺されるという、社長と責任者の共犯関係だ。
相手は次元世界最大の法的組織、失敗すれば社会的に抹殺される。裏切れば、法的に封殺される。成功して当然という過度な期待値、成り上がりという言い訳は通じない。
取引成立後、躊躇なく白旗を上げて助けを呼んだ。学歴も職歴もない社長には重すぎる取引、自分の持てるあらゆる人脈を思いっきり頼った。
『実験のお披露目をしたフェイトも無関係では済まされないでしょう。分かりました、私は貴方とフェイトの教導及び警護を続けます。
それより聞きましたよ、地に足がつかない空では戦えないなどと甘えた事を言っているようですね。いい機会です、今晩から徹底的に空の戦いを叩き込きます』
『貴方が悪の片棒を担いで逮捕されれば、私の可愛いナハトヴァールが悲しみます。仕方ありませんね、レジアス・ゲイズ中将と彼の背後関係について徹底的に調べてあげましょう。
リーゼロッテと提督も闇の書の件で動いているようなので、探ってみます――ああ、気にしないで下さい。縁を切られたら私、貴方に拾ってもらうので』
『お前の働きにより、我がカレドヴルフ・テクニクス社は一躍夢の最大手企業へと発展するでしょう。お前は今日から田舎の案山子ではなく、我が商会の客寄せパンダになってもらいますの。
CW社の動きを知ったライバル企業の数々があらゆる手を使ってお前を叩き潰しに来るでしょうが、有象無象の雑魚共はこのカリーナが蹴散らしてあげます。
田舎者、お前はこのプロジェクトを成功させることだけ考えなさい』
『まったく、あんたは本当に貧乏性の大馬鹿ね。レジアス・ゲイズ中将が便宜を図って、人も金も惜しまず投資してくれるくれるんでしょう、うちもそれに乗っかればいいじゃない。
あたしが現地入りしてスタッフ達を動かし、博士や忍さんのお尻ひっぱたいて、社外秘で進めていた開発を金や人をつぎ込んで完成させてやるわ。
"ユーリ達のAEC武装"、"外部協力者達のコンバットギア"、"自動人形のラプター化"は、今回の商談成立による支援があればすぐにでも取り掛かれるわ』
あろう事か、うちの首脳陣はレジアス・ゲイズ中将殿渾身の秘密兵器導入計画を乗っ取るつもりだった。彼からの依頼である事にかこつけて、うちの秘密兵器の数々を完成させるつもりだ。
スカリエッティ博士や忍達の尽力で既に第5世代デバイスAEC武装の数々は完成間近だったのだが、魔導兵器が主力のミッドチルダでは特許や承認がなかなか出ない事が悩みのタネだった。
レジアス・ゲイズ中将主導による計画だからといって何でもかんでも許可される訳ではないが、面倒な諸手続きや過程を幾つもかっ飛ばす事が出来る。実験投入であれば事後承諾でも可能だ。
これも聖王教会や時空管理局を脅かす事件の数々が理由だとすると複雑だが、いずれにしてもこれらの事件が各組織の重い腰を上げさせたのは間違いない。
『猟兵や傭兵達のコネとか利用しまくって色々探してみたけど、アジトは絞りきれなかった。オルティアが懸命に対象範囲を絞ってるけど、多分間に合わない』
「今日も襲撃を仕掛けてくると思うか?」
『戦力を吐き出してるけど、生産性が分からない以上削れているとは言い難い。敵の尻尾を追いかけている現状では、まだあっちのほうが有利。昨日だって君やあの子を、追い詰めてる。
足元見られてると思うよ。こっちは縄張りを守らないといけないけど、相手は君を殺せればいいだけだもん』
戦場で生まれ育ってきた猟兵の分析は、的確だった。オルティア捜査官と連携して今日一日捜査を行っていたが、犯人どころかアジトまで辿り着けなかった。
間もなく日が暮れて、再び夜が来る。毎日夜に襲ってくるなんぞという法則はないだろうが、昼に何もないからといって夜が平和だとは思えない。犯人が誰かも分からない。
あれほど大規模な戦力を保有しているというのに、影も形もないのは不思議で仕方がない。隠蔽工作くらいしているだろうが、それにしても手掛かりの一つも追えないのはどうしてなのか。
いずれにしてもうちの頭脳陣の分析では、今晩も命懸けとなりそうだった。
「パパ、来たよ。いよいよボクの出番だね!」
「レヴィを連れて来るのはいいのですが忍さんの家は大丈夫ですか、お父さん」
「空戦になりそうだからな、選手交代だ。ヴィヴィオを連れたセインに、守らせている」
アリサが現地入りするのに合わせて、今まで忍の家を守ってくれていたレヴィ・ザ・スラッシャーが満を持して参上した。本人もやる気満々で、闘志に燃えた笑顔をみせている。
無機物に潜行するディープダイバーは戦闘向きの能力ではないが、一応あいつも戦闘機人でそれなりの実力は持っている。クロノ達とも顔見知りなので、海鳴の地でも彼らと連携が取れる。
何より重要なのは、俺の遺伝子を持つヴィヴィオの存在だ。俺が狙われているのであれば、俺の実子も容赦なく狙ってくるだろう。人質にされる危険性を考えれば、あいつは聖地に居ない方がいい。
ガキの分際で大人顔負けの頭脳を持つヴィヴィオは俺の心配をしつつも、事態を考慮して素直に疎開してくれた。聖王教会も快く承認してくれたので、余裕で入国管理局も通過できた。
「そういう意味では、お前達にも避難してほしかったんだけどな」
「空戦ならば私にお任せ下さい、お父様。姉妹達の中でもお父様の子である私が、空戦においては引けを取らぬと自負しております」
カチューシャをつけた黒のロングヘアーの少女、ディード。礼儀正しく真面目な性格である我が子には珍しく、誇らしげに微笑んでいる。頬を紅潮させて、俺を見上げていた。
話を聞くと彼女の能力であるツインブレイズは近接空戦技能であり、瞬間加速により敵の死角から急襲をかけ叩き落す一撃必殺スタイルであるらしい。
剣士でありながら、空を戦場とする戦闘機人。俺の苦手分野をカバーする我が子、嫉妬の一つでもするかと思ったのだが、自分の心にあるのは意外にも喜びだった。
本来であれば避難を呼びかけるべきなのだろうが、この子を頼りたい自分がいる。不思議な感覚に従って頷くと、ディードは薔薇が咲いたように笑って飛びついてきた。
「本当なら僕も空へ上がりたいんだけどね、空爆の危険もあるから地上でカバーするよ。僕の能力は聞いてくれた、父さん?」
「"レイストーム"という先天固有技能だと聞いている。広域攻撃が可能らしいが、空爆を考慮した配置と考えれば結界能力が本領か」
「エネルギーの運用は魔法に酷似しているけど、広域で展開できるよ。父さんの統治する地は守るから、心配しないで」
ディードの姉妹であるオットーは寡黙な性格だが、家族であれば比較的言葉を伝えてくる。特に父親である俺の前では、素直な気持ちを打ち明けてくれるので微笑ましい。
本当は隣に立って戦いたいのだろうが、共に戦うというのは何も常に一緒に居ればいいというものではない。戦闘機人であるからこそ、家族で戦う意味を理解している。
ディードは空へ上がり、オットーは陸へ降りる。生死をかけた戦争となる予感を察していても揺るぎない我が子達は、確かに剣士の子供であった。
血を継がなくても、本当の家族のような絆を結ぶ子供達も同様である。
「レヴィも合流したのだ、我らも家族一丸となって空へ駆け上がろうぞ」
「わたしも任せてください、お父さん。どんな敵が来ても、全部撃ち落としてみせます」
「おお、ユーリが珍しく戦う気になってる。ボクも負けないぞ!」
「頑張ってくださいね」
「うおっ、滅茶苦茶他人事だ。お前は留守番する気か、シュテル」
「ユーリ達が全力で戦うとあらゆる方面に影響が出ますので、政治的及び経済的方面で私はカバーしておきます。父上は特に今、注目されていますので」
「……特撮ヒーローは映画の中でしか賛美されないのか……世知辛い」
特撮映画では大怪獣相手にヒーローがどれほど大暴れしても民衆は応援するだろうが、現実世界で容赦なく力を振るえば怖がられるだけである。そっちが敵なのか、分かったものではない。
武装テロ組織を殲滅するためにミサイルを投下して滅ぼしたとしても、世の中は拍手喝采ではなく過度な暴力を批判する。だからこそ、政治的配慮や説明が必要となるのだ。
戦争に卑怯もなにもないが、戦後は卑怯であったことを問われてしまうご時世。シュテルは世の情勢を的確に読んで、根回しをしてくれるそうだ。優秀な片腕である。
そんな世の中の政治や経済を知らない子は、どこまでも無垢であった。
「ユーリ、ナハトヴァールを背負って出撃する気か」
「うう、ナハトが離れてくれないんです……ほら、お姉ちゃんは戦いに行かないといけないから留守番してて」
「いーやー」
「こらナハト、ユーリを困らせるでない――ぐぬぬぬぬ、しがみつきよる!?」
「うーん、何が何でも一緒に行きたいみたいだね。どうするの、パパ?」
「先月から何故か俺にはくっつかず、ユーリから全然離れないんだよな……何処へ行くにも一緒だし、どうしてこんなに懐いているんだろう」
「父上の加齢臭説、好き」
「唱えているのはお前だろう!?」
ユーリの背中にしがみつくナハトを必死でディアーチェが引っ張るが、食らいついている。基本的にあまりワガママを言わない子なのだが、ユーリに関しては徹底していた。
ユーリが危険だから野生の本能で守っているという考察もあるのだが、少なくも先月から今日に至るまでそんな気配は微塵もなかった。
ナハトヴァールが居たからこそユーリが安全だったという考え方もあるのだろうが、いずれにしてもこれから空戦を行うのに子供を背負っていけない。
馬鹿な説を唱えているシュテルの頬を引っ張りつつ、一考する。
「分かった。ナハト、今日は俺と一緒に出撃しよう」
「待て、父よ。まさか父も空へと上がるつもりか、危険であるぞ」
「お前の言いたいことはよく分かる、ディアーチェ。文字通り狙い撃ちにされると言いたいのだろう、その通りだと思う。
だがどのみち、俺は狙われているんだ。もし空襲を仕掛けてくるのであれば、俺は地上に居ないほうがいい。防げるといっても、聖地への空爆となれば目も当てられん。
ベルカ自治領が空爆される事態となったら、犯人を捕まえたとしても戦争責任を間違いなく問われる。今は闇の書関係で政治的に不安定な状態、時空管理局の介入は出来る限り防いでおきたい」
事前に防げたとしても、空爆されたという事実は重い。戦死者を出さなくても民は間違いなく怯えるだろうし、あらゆるマスメディア関係が大騒ぎするだろう。
俺さえ空に上がれば、わざわざ聖地を空爆する意味はない。今回の犯人は手段を選ばない奴だが、目標と手段を間違えるような馬鹿ではない。冷静かつ冷酷に、俺を殺すつもりだ。
そして何より俺は、仲間達を信頼している。クアットロ達が空襲が来ると予想しているのであれば、俺はその判断を信じて出撃するまでだ。
自分の馬鹿な頭よりもよほど、信じられる。自分より優れた人間がいると分かっていれば、こういう判断も取れるのだ。
「空へ上がるのはいいとして、お前は飛空出来ないだろう。どうやって空を飛ぶつもりなんだ?」
「お父さん、わたしの背中に乗って下さい!」
「あ、ずるい。ボクがパパを連れて行くよ!」
「馬鹿者、父を連れて行くのは長女である我の仕事だ。未熟なお前達に、父を任せられない」
「よいしょ、よいしょ」
「ナハトも何だかやる気ですが、実際のところどうするつもりですか父上。誰を選んでも、家族関係の火種となりますよ」
「何で嬉しそうに言っているんだ、お前!? 最前線で戦うお前らの背中なんぞ乗れるか!」
俺と一緒に出撃する予定のアギトの不用意な指摘に、うちの家族が喧嘩になっている。敵の妨害工作よりもよほど強力な、家庭内不和の原因だった。
頭が痛くなる。今回の空戦は我が子達が主力となるのだが、この調子で本当に大丈夫なのだろうか。実力はあるのだが、理性的なシュテルが留守番なので不安だった。
コホンと咳払いして、俺は華々しく告げる。
「何を隠そうこんな事態に備えて、以前から準備させていたのだ!」
『おお!』
「見よ、これぞ飛行能力を持たない剣士のトランスポータ――空戦魔導師を凌駕する機動性を持つ航空型全翼機、"ガジェットドローンII型"だ!」
今宵、空の戦いが始まる。
<続く>
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