とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第二十四話





 聖王の聖遺物として認定されていた蒼天の書が奪われ、奪還に乗り出した聖王教会騎士団が壊滅。聖王教会の威信が崩れ、"聖王"の俺の周辺が一気に固められた。

剣を失った俺に湖の騎士シャマルからクラールヴィントが貸し出され、烈火の剣精アギトが装備化。夜の王女である月村すずかが護衛に付き、聖騎士アナスタシアが警備を任された。

鉄槌の騎士ヴィータがのろうさとして参戦、守護獣ザフィーラがお供に入り、シュテルが参謀として加わる。単独行動を固く禁じられ、厳戒態勢が敷かれた。


そして肝心のユーリとナハトについて――


「ナハトヴァールの様子はどうだ」

「……寝起きから私にべったりです、お父さん」

「ぎゅー」

「朝昼晩、始終抱きつかれているのか!? 蒼天の書が奪われた前後からこの調子だとすると、やはり愛情だけでひっつかれているとは思えんな。
以前も異教の神ガルダに狙われていた時、ナハトが睨みをきかせていてくれたそうだからな……本能でお前が狙われていることを察しているのかもしれないな」

「仮に私を狙っている犯人が蒼天の書を奪った犯人と同一人物であるとすると、蒼天の書が闇の書であることを知っているということになりますね」

「しかも、お前達があの本にいた事も分かっている人物だ。心当たりはあるか?」

「ありません――と断言したいのですが、私達はお父さんの法術により確定した存在。夜天の魔導書の中で眠っていたシステムです。
仮初の存在である以上、過去の記憶もまた不確定。必ずしも無いとは、言い切れません」

「長い歴史のある魔導書らしいからな……問題点も多くあったと聞いているし、システムだったお前達の記憶に欠落が生じても無理はないか」


 夜天の魔導書と闇の書、二つの呼称の違いについてヴィータ達は覚えていないと言っていた。クロノ達の調査で、闇の書には大きな欠陥がある事も判明している。

法術で改善されたとは言え、魔導書が修理されたのではない。俺自身制御できないこの能力によって、ユーリ達がどういう影響下にあるのか分かっていないのだ。

もしも犯人側が闇の書について詳しい事実を知っていた場合、捕らえれば法術に関連する事実も判明するかもしれない。因果関係が分かれば、能力の解明にも繋がる。


いずれにしても、ユーリ達から犯人に対する情報は得られそうになかった。


「ナハトヴァールを連れて、私も一緒に行きます。もしも私が本当に狙われているのであれば、忍さんの家にいるのはご迷惑になるかもしれませんので」

「忍は気にしないだろうが、相手は聖王教会騎士団を壊滅できる戦力を保有している。同一犯であれば、海鳴で大規模戦闘が起こる危険性があるな。
分かった、俺と一緒に来い。敵の狙いが判明するまで、家族で一緒に行動しよう」

「お父さんは強いので必要ないでしょうけれど、頑張って私もお父さんを守ります!」


 期待をかけられているのに申し訳ないが、剣まで失った俺はほぼ戦力外である。堅牢鉄壁なユーリがいてくれて安心なのは、むしろ俺であった。情けない。

ともあれこうした精鋭を連れて、入国管理局で聖地への手続きが完了。白旗の一員である忍や那美は学業優先だが、事件による幽霊や魔物の影響も考えて様子を見に来ると言っていた。

高町なのはにはクロノ達から連絡が届いている。戦闘は性格面から大の苦手なあいつだが、守りについては鉄壁である。はやての様子を見てくれるらしい、ありがたい事だ。


そして手続きを終えて、クロノ達のチームより優秀な捜査官が派遣された。


「久しぶりの子供モードだな、"ルーテシア・アルピーノ"」

「隊長達も後方支援に付いてくれている。情報共有しながら、今回の事件について捜査を進めていこう」


 メガーヌ捜査官は時空管理局側の人間だが、白旗の一員として聖王教会側より捜査の許可が下りた。聖地における戦乱で大きな貢献をした成果が大きい。

海鳴から聖地へ転移、この時点でディアーチェが早速現地へ乗り出して、人々の前に立った。事件そのものは表沙汰になっていないが、噂というのは広まるものだ。

根も葉もない噂だと人々の口を閉ざそうとせず、何があろうと問題ないのだと人々を奮い立たせる。圧倒的なカリスマ性に、人々の不安や恐怖があっという間に晴れていった。


頼もしき我が子に任せて、俺達は聖王教会の総本山へと向かった。


「お待ちしておりました、陛下。此度の事、申し開きもございません。
お留守を任されておきながら、陛下の所有物を奪われる不始末。全ての責任は、私にあります」

「予言者だからといって、聖女様に責任を押し付けるつもりはありません。どうぞ、お顔をあげて下さい」


 聖女カリム・グラシア、麗しき預言者に突然頭を下げられて、俺は慌てて取りなした。いくら何でも、彼女に責任問題を投げかけるつもりはない。本来であれば、俺は雇われの身である。

出来れば事前に聖王教会の現状を把握しておきたかったのだが、教会通の娼婦は腰痛なんぞという理由で欠席している。あいつは常に、どこかを痛める病気にでもかかっているのだろうか。

司祭様は宗教権力達への対応に追われ、秘書役のシスタードゥーエは信者達の応対に乗り出している。珍しく勤勉に働いていて驚きだが、聖女と共に来たセッテの顔を見て納得した。


無感情無表情無口な"聖王"教会騎士団の小さき団長殿は、激怒に身を震わせていた。


「ごめんなさい、陛下の顔に泥を塗ってしまった」

「き、気にするなとは言えないが、そんなに怒らなくても――」

「犯人は必ず仕留める。陛下の留守も守れない人たちは全員、粛清する」

「それで全員、必死な顔をしているのか!?」


 初めてであろう多弁な殺意を思う存分見せつける怖さに、聖女達まで恐怖に顔を引き攣らせている。今頃ドゥーエは泣きながら名誉挽回をはかっているのだろう、気の毒に。

全員粛清したその後は自分の腹も斬りかねない団長を必死で宥めて、騎士団の全員集合を命じておく。教会側の騎士団が壊滅した以上、自分の騎士団を動かす必要があった。

全員引きずって来ると言って駆け出していったセッテの発言が冗談であることを切に祈りつつ、聖女様の案内により事件現場へと向かった。


聖女のお勤め役に復帰したシスターシャッハが、現時点で判明している事件の概要を説明してくれた。


「聖遺物は今回陛下が発見された蒼天の書を含めて、聖王教会の秘奥室へ厳重に保管されておりました。人員体制及びシステム体制も含めて、徹底的に管理された最新鋭の保管施設です。
事件が発覚したのは、その警備を担当している者達の提示連絡が途絶えた事によるものです」

「奪われた瞬間、ではなく? そういった厳重保管物は通常、品物に対してもセキュリティがかけられていると聞いたんだが」

「心苦しいことに、その最新性のセキュリティシステムに頼ったゆえの不覚でした。犯人側は信じられないことに、聖王教会の全システムを完璧に掌握していたのです」


「なるほど、犯人はローゼだな」

「何ですか、その突然の推理!?」


 そうであってほしいという願いを込めてつい口を滑らしてしまい、律儀に反応したシスターに仰け反られてしまった。申し訳ない、話の腰を折ってしまった。

詳細を聞くと聖王教会のセキュリティシステムは、時空管理局とロストロギア管理と同レベルの最新鋭であるらしい。世界に公開されていない新システムで、外部からの操作は不可能という折り紙付き。

尋常ではない分析力、高度という言葉すら生温い情報能力。それほどの能力を持っているのは、ガジャットドローン最新作のローゼくらいしか思いつかない。


もしくは――


「時空管理局員となったオルティアさんは、先に現場の捜査を行っていたそうですね。彼女の見解は、もしかして」

「イーグレットさんは徹底管理している教会協力者、ジェイル・スカリエッティの関与を疑っております。
積極的に教会側へ働きかけて、査問官見習いであるロッサ立ち会いによる条件による事情聴取を行っている最中です」

「なるほど、それほど手際よくセキュリティを突破されたら、あいつを怪しむのは自然だろうな。自首したとはいえ、制限付きで行動は許されているから」


 セッテがあれほど怒っている原因の一つでもあるかもしれない。親子の情はともかくとして、自分を作り出した博士に対して一定の理解と信頼は持っている。

博士が重要参考人として捕まってしまい、事件を防げなかった自分に責任を感じているのだろう。ゆえに、怒りを原動力として動いている。


シスターシャッハは、その理性的な瞳をこちらに向けてくる。


「まだ説明中の段階で恐縮ですが、陛下はジェイル・スカリエッティの関与についてはいかがお考えでしょうか」

「ありえないな」

「根拠をお聞かせくださってもかまいませんか」

「蒼天の書の分析まであいつに任せていたんだ、いくらでもやりようがあるのにわざわざ奪う理由がない。
オルティアさんのように事情を知らなければあいつを疑って当然だが、逆に言うと事情を知っていればあいつが犯人ではないことはすぐに分かる」

「なるほど、お話はわかります。ただ他ならぬ陛下の言であろうと、その根拠では事情聴取を止めるのは難しいでしょう」

「名推理でも何でも無いからな、この話……頭脳の冴えを見せられなくて、申し訳ない」

「謝られる必要はございません。ロッサや私をカリムの元へ再び戻してくださった貴方のお話を、私も信じるまでです」


 慈悲深く微笑んでくれたシスターの言葉が照れくさくて、俺は自分の頬をかいた。真顔でこんな事が言える人間だからこそ、シスターとして人々に敬われるのだろうな。

ちなみに聖女様は俺の隣で、感激したかのように何度も頷いている。俺の話のどこに感激する要素があったのか全く分からないが、随分と聞き入っている。


それにしてもやっぱり、オルティアには先手を打たれたか……あの女、本当に手強い。


「教会が徹底的にマークしているんだ、あいつ本人を主犯に仕立て上げるのは難しいんじゃないか」

「システム犯罪というものは目に見える事象のみならず、データによる記号の世界でもあります。システムに触れる瞬間があれば、関与は疑えます。
加えて、ジェイル・スカリエッティは戦闘機人の製作者。共犯者を作り出すのは容易いという見方もあります」

「格好のスケープゴートだな――あっ」

「お気付きになられましたか。今陛下が察せられた可能性を私だけではなく、カリムや他の関係者も苦慮しています。
現時点では捜査の段階ですが、今後イーグレットさんの手引きによって地上本部が動く可能性があります」


「教会側が管理しているジェイル・スカリエッティ並びに戦闘機人を、事件の重要参考人として引っ立てるつもりなのか」


「真犯人ではなくても、スカリエッティには余罪を追求する余地は十分あります。そして教会側のこの失態――政治的干渉を招く隙が、出てしまったのです。
時空管理局は、この隙を絶対に逃さないでしょう。必ず追求――いえ、要求してくるでしょう」


 そう、厄介なのはジェイル・スカリエッティが真犯人でなくてもよいという点である。戦闘機人という存在がグレーである限り、あいつは常に犯罪者へ仕立てられるのだ。

今までは聖王教会が全盛を誇っていたので、いくらでも跳ね除けられた。自治権を最大限に過大解釈して、影響力と発言力を拡大させてきたのだ。

煮え湯を飲まされ続けた時空管理局、そして他でもない最高評議会がこの隙を逃すはずがない。徹底的に追求して、何が何でも奪い返そうとするだろう。


この事件は、それほどまでに大事なのである。


「このような事をいうのは大変恐縮でございますが――"聖王"陛下。

貴方のお帰りを、我々は心待ちにしておりました」


 ――まだ、危機的状況とは言い難い。されど脅威である犯人はどこかに居て、本来味方であるはずの強大な組織まで対立する構造になってしまっている。

聖地における平和は危うくなっており、神話は崩れて人々の平穏が奪われている。犯人は想像を超えて手強く、その背景に至るまで脅かされている。


人々が今求めているのは、神である。ゆえに、


「責任は全て、俺が取る。あんた達は安心して今まで通りに、そして今まで以上に思う存分力を振るってくれ。
一致団結して、この危難を乗り越えよう」


 俺は今まで通り、人として皆に協力を求める。求められる神様になるのではなく、人々に理解と協力を求める人間として俺は戦おう。

期待外れの発言であるというのにシャッハは一瞬目を丸くしつつも、頬を紅潮させて俺の手を取ってくれた。聖女カリムも息せき切って、その美しき手を重ねる。


神頼みするのは、人として全力を尽くした後だ。


「見事な激励です、父上。まずは、いかがされますか」

「連中がジェイル奪還に集中しているこの隙を、俺達は狙っていこう――この状況なら、ウーノも俺達に協力してくれる。
彼女の協力を得て、戦闘機人達を全員すぐにこちらへ手引きする」

「なるほど、では参謀として私からも父上に提案いたします」

「提案……?」



「レジアス・ゲイズ中将と、取引いたしましょう」















<続く>








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