とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第六話
そして最も厄介なのが、自分のせいで起きた問題である。
「今年中に閉店する!?」
「深夜にフィアッセさんと口喧嘩になってしまったんです、もうどうしたらいいのか」
今年中と聞くと時間があるように思えるが、今は十二月なので余裕で一ヶ月を切っている。問題を先送りにした悪しき結果、俺の駄目な部分が具現化した最悪の事例である。
海鳴へ流れ着いてしばらくお世話になっていた高町家、一家の大黒柱である高町桃子が経営していた喫茶店の翠屋。街の人気店だった憩いの場は、閉鎖されようとしている。
経営不振ならまだやりようがあるのだが、家族不振になってしまうとどうしようもなかった。いや、腐心と言うべきか、家族の為に専業主婦になろうとしているのだから。
問題は、その家族が喫茶店の継続を望んでいる事だ。
「家族全員が反対しているのに強行しても、家族平和に全く結び付かない気がするんだが」
「なのはもすごくそう思うのですが、おかーさんがなのはの為だと言うものでして」
「うーむ……子供が親にそう言われてしまうと、何も言えなくなるな」
本来ならこんな家族不和問題なんぞシカトしたいのだが、家族の不和を起こした原因が俺にある以上無視できない。だから先送りにしてきたのだが、期限が思いっきり設定されてしまった。
俺の訃報(誤解)により高町なのはが精神失調で不登校、城島晶が家出し、フィアッセの声が失われ、美由希が凶行に走り、恭也が右往左往し、桃子が苦しめられてしまった。
一応全て立て直したのだが、元々の原因である俺が全て解決したのが逆にまずかったのかもしれない。桃子は家族を支える自信を無くし、兼業を止める決意をしてしまった。
自信を無くして家族を捨てるのではなく、家族に腐心する決意をしたのだから、ある意味後ろ向きよりタチが悪い。
「それで?」
「はい……?」
「何故改まって俺に相談を持ち掛けてきたのか、聞いている。お前の事だから、真っ先に俺に相談しに来たんだろう」
「勿論です、まずはおにーちゃんです!」
「だから何でと聞いているんだよ!?」
責任を放棄するつもりはない。ただ責任問題と、解決方法とでは意味が異なる。責任を追求するのであれば大いに受け止めるが、解決する手段を俺個人に求められても困る。
俺の周辺にはあらゆるエキスパートが揃っていることは、なのはもよく知っている。アリサやすずかといった、彼女の大親友も揃っている。まずそいつらに相談するべきだと思うのだが。
なのは本人は全く疑いもせず、完膚なきまでに俺なら解決できると高を括っているようだ。家庭問題ほど、俺の苦手とする分野はなかなかないと思う。
世界会議から帰ってきてから延々と悩んでいるのだが、今年も終わるというのにまだ答えは出ない。
「将来的にお前が継ぐ予定だった喫茶店だもんな、確かに閉店されるのは困るよな」
「そういう意味で困っているのではないと、断固として言っておきますよ!?」
「この際、うちが買い取るというのはどうだ。来年以降本人がその気になったら、改めて経営権を譲るということで」
「……成金のおにーちゃん、ちょっとカッコ悪いです」
「ぐはっ!?」
俺の妹分になってからちょっと言うようになりやがったな、こいつ。生意気にジト目で反論されて、俺は袈裟斬りされたかのような絶叫を上げる。一刀両断だった。
なのはは単純に金で解決するのが嫌だと言っているのではない。結局のところ、問題を先送りする気なのだと見破って指摘したのだ。くそっ、ガキンチョのくせに生意気に頭が働きやがる。
どうしろと、言うんだ。無理やりキッチンに立たせても飯がまずくなるだけだし、家族と仕事の両立の難しさは社会問題にまで発展しているんだぞ。
日本政府でも難儀している問題を、一介の剣士である俺に解決させるのが無茶だ。
「少し早いけど、お前が二代目店長として翠屋を復興させるんだ。娘のおかげで店が賑わってくるのを見たら、あいつだって感激して心も明るくなるだろう」
「いい話のように聞こえますが、そのままなのはに安心して任せる結末になりませんか?」
「そこを説得するのがお前の仕事だろう!」
「結局、説得が必要なんじゃないですか!」
「ぐぬぬ……」
おのれ、自分の家族のことになるとなかなか頭が働くじゃねえか。それほど真剣に受け止めているということだろう、頭の回転がいつもより早い。
仕事が嫌いになったのではなく、家族を大切にしたいという気持ちが勝っている。家族を不幸にしてしまった分、家族を幸せにしたいと思っている。
正常な思考であり、前向きな考え方である。この問題の厄介な点は、まさにこの点になる。本人の考え方そのものには、問題がないのだ。
正常だからこそ、説得に悩まされている。狂っていれば何とでも正してやれるのだが、正しい人間をどうやって正せばいいのか。
「社会人のくせに仕事をしないなんて不健全だと、言い切ってやれ」
「……おにーちゃんがそれを言いますか」
「お前の口から言うんだよ!」
「じ、実の娘が親に働けと言うのですか……?」
「うーむ、軽く修羅場になるな」
「ほら、やっぱりそうでしょう!?」
映画やテレビドラマにありがちな、ファミリーストーリーである。絶対間違いなく拗れる危険なワードであり、ダイナマイトに火をつける愚行であった。
そもそも既にフィアッセが指摘していて、喧嘩になっているのだ。其上可愛い娘から働いてくれとなんぞと言われたら、桃子も泣いてしまうかも知れない。
やばい、どうすればいいのか全く分からない。数ヶ月もの間悩み続けて、全く答えが出なかった難題だ。これほど悩んだことは、いまだかつてなかった。
この問題こそ正に今月最大の問題であり、今年最後の難題だった。
「喧嘩したフィアッセはなんて言っているんだ」
「『私のリョウスケなら絶対解決してくれる』と、なのはにニコニコ手を振って送り出してくれました」
「あの女、無駄に依存度を高めていやがる」
失恋した女に優しくするのはやばいと分かっていたのだが、流石に放置できなかったので出来る限り親身になった結果がこれである。
あれほどいい女なのだから引く手数多の筈なのだが、男運が最強に悪い。絶対間違いなく、スケコマシに騙されるタイプの美人さんだ。すっかり寄りかかりやがって。
どうしたものか。働く気がないのだから静かに余生を送らせてもいいのだが、疲れさせてしまったのは俺の責任なので、隠居されるのも目覚めが悪い。そのまま老け込んでしまいそうだ。
うぬぬ、こっちも子持ちで色々大変なのに、何で他の親の面倒まで見なければいけな――あっ。
それだ!
「よし、そこまで言うのであれば親の義務とやらを全うさせようじゃないか」
「おにーちゃんが逆方向にキレ始めた!?」
「近日、大掃除作戦で俺の家族や仲間がこの海鳴に集結する。その集合場所兼溜まり場として、あの店を使おう」
「閉店間近なんですけど!?」
「そして俺の留守中は、うちの家族や姉妹を揃ってお前ん所に預ける。費用は全部負担するから、高町家で面倒見てやってくれ」
「おかーさんの逃げ場がなくなる!?」
「一人で辛気臭く考え込むなら、変に悩んでしまうんだ。うちの可愛い子達と遊んで、仕事場に連れ出せば、あいつは自分からエプロンを着るようになるさ」
正直なところ、少しだけ嬉しかった。独り身だった以前の俺なら解決できなかったこの問題も――大家族となった今ならば、解決できる。
俺も家族の一員だと言ったな、桃子。だったらその家族とやらを大切にしてもらおうじゃないか。言っておくが、俺の家族は半端な数じゃないぞ。
こうなったらヴィヴィオやディード達、ユーリ達やギンガ達など一同勢揃いさせてやる。正直アイツラをどうするべきか困っていたのだが、桃子なら解決できる。
出生がワケアリの子達ばかりだ、一般家庭ではとても相手にできない。だがこの世で唯一人、桃子だけは別だ。あいつならきっと、ヴィヴィオ達を愛情ある子達に出来る。
何しろ、人でなしだった俺をここまで人間にしてくれた。他人を斬るような外道を、たった数ヶ月で家族を持てる男にまで育ててくれたのだ。
「ということだから、今日からお前もおねーちゃんだ。うちの子達を頼んだぞ」
「いつの間にかなのはの試練になってますよ!?」
高町家なら、安心して任せられる。
俺は悪党どもを、斬りに行くとしよう。
<続く>
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