とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第七話
ウーノ。情報処理及び開発補助能力、そして実務指揮に長けた戦闘機人。ジェイル・スカリエッティ博士の秘書であり、メンバーの中で最古参の女性である。
戦闘時においては通信や情報収集を担当し、拠点のCPUと直結する事で情報処理機能を管制する事が可能。その能力の凄まじさは、時空管理局の最高評議会より資産の全てを略奪した事からもわかる。
管制作業やガジェットシリーズの制御もマルチタスクで行える才媛であり、情報という分野において彼女の右に出る者はいない。
『報復の機会を与えてくださった陛下には感謝しておりますよ、ええ』
『舌打ちせんばかりの切れ味で礼を言わせるなんて、初めてだぞ!?』
『可愛さ余って憎さ百倍と言わんばかりに、あの老人達はあらゆる方面を尽くして私を追っています。此処での立場を失えば、私は身の破滅です。
協力は惜しみませんので、何が何でも勝利してください。最悪、貴方を差し出して私は逃げます』
『身代わりにされている!?』
『主犯は貴方なのに、実行犯であると言うだけで私は親の仇のように追われて日陰生活です。最近の趣味は、「聖王 弱点」と検索することですね』
『聖王家と血縁関係にない筈なのに、息苦しさを感じるぞ!?』
『自業自得です』
『あんたの変わり様に、博士がゲラゲラ笑っているんですけど』
『私を変えたのは貴方ですので、思う存分責任を取ってもらいます』
『せめてあんた以外に俺の弱点を探られないようにしないとな――準備は万端か?』
『本日の作戦決行にあたり、各方面に情報統制を行いました。如何なる作戦を実行に移そうと、今宵起きた事は何処にも漏れません。
後に発覚したところで、念入りに行なった情報操作により混乱を陥るのみ。思う存分、采配をお振るい下さい』
ちなみに戦闘機人の製造を行っていた最高評議会は、彼女を後々自分達の秘書にするつもりであったと言う。
――本人は虫酸が走るとの辛辣なコメントである。
ドゥーエ。潜入工作や諜報活動、暗殺技能に長けた戦闘機人。単独行動主義であらゆる組織に潜入し、敵味方を問わず欺いて全ての利を得るべく暗躍する。
戦闘機人としての特殊能力は、ライアーズ・マスク。ウーノのような実務ではなく、ドゥーエ本人が保有する先天固有技能である。
自身の体をも変化させる変身偽装能力を持っており、高度社会で成り立っている次元世界の主要組織機関に潜入するべく全ての身体検査を欺けるよう調整されているらしい。
つまり、やりたい放題である。
『捕らえましたわ、陛下』
『作戦開始から十分以内に成果を出すとは流石だな、ドゥーエ』
『一番槍には陛下直々の温情を頂けるとなれば、女として張り切らずにはいられませんわ』
『うちの組織にまで諜報活動を行うんじゃない!』
特に人の目のみならず、あらゆる種族の目を欺いて諜報や工作活動を行うことが可能である。
『それで、うちの周りを嗅ぎ回っていたのは誰なんだ』
『天狗一族の残党ですわ、偽装工作を行っていた形跡が多数ございました』
『しまった、城島晶の一件を見逃していた』
数ヶ月前、高町家を飛び出してまで俺の行方を追っていた城島晶が妖怪に捕まってしまった事がある。その時奴らと戦ったのがこの本拠地、月村邸だった。
当時は追い払い、後に戦争にまで発展しつつも天狗一族を支配することに成功。長との一騎打ちで勝利を収め、一族は支配下に収めた。
ドゥーエは残党と表現しているが、実際は実働部隊である。要するに長の命を受けて活動していた連中が、戦争にも加わらずにそのまま諜報活動を行っていたのだ。
『いかがいたしますか、陛下。陛下を狙う妖怪達は、捕縛した彼らで全滅。今後の見せしめに、彼らをズタズタに引き裂くのがよろしいかと』
『連中との決着はついている、わざわざお前の爪を汚すのはやめろ』
『まあ、お優しい。私の爪を丹念に舐め取りたいのですわね』
『帰ったら、雑巾で拭いてくれるわ』
城島晶の一件で洗い直しをするべきだったのに、色々あってすっかり忘れていた。ともあれ、これで実働部隊は壊滅。
諜報部隊というのはちょうどいい、今後に備えて是非とも必要としていたチームだ。
『ドゥーエ、お前の得意分野でそいつらを籠絡しろ』
『クスッ、悪い御方……私にお任せくださいな』
トーレ。戦闘技術及び格闘能力、超高速機動能力に長けた戦闘機人。実戦リーダー的な役割を務める武人であり、聖王騎士団でも隊長クラスに就任する実力者である。
彼女が保有する先天固有技能は、ライドインパルス。頑強に製造された素体構築と、全身より生み出される加速機能によって成される飛行は超高速機動を誇っている。
彼女の最大速度ともなれば人間の視認速度を遥かに凌駕し、レーダーの追尾をも振り切ると言われている。パワータイプに見えたスピードタイプ、ではない。
力を持って、加速を成す。彼女の真髄は鳥ではなく、鷹であった。
『全機体、全て破壊いたしました』
『見事だ、トーレ。やはりと言うべきか、懸念は現実となったな』
『あの忌々しき魔女により、多数のガジェットドローンが奪われました。大半は回収いたしましたが、一部は奪われていたようです』
『――ガジェットドローンの運用方法を知るのはジェイルに繋がる存在、最高評議会か』
ガジェットドローンと一口に言っても、タイプは幾つか存在する。月村邸、つまり俺の本拠地を探っていたのは監視用にしか適さない初期タイプである。
ジェイル・スカリエッティは基本的に寛容な人間だが、自分の製作品は例外なく愛するタイプである。独占欲ではなく、製作者としての責任と誇りを持っているのだ。
誇りがあるからこそ、人造の生命であろうと価値を見いだせる。その点においてやつの矜持は揺るぎなく、だからこそガジェットドローンの略奪も許さない。
『魔女の再来による危険はありませんか』
『生死不明ではあるが、恐らくもう危険はない。完全にへし折ってやったからな』
あいつに危険があるのであれば、生死不明のままにしておく筈がない。必ずや表舞台に出て、俺の前に姿を見せる。同類を避けては通れないからな。
メガーヌが引き続き捜索を続けているが、今のところはまだ行方は分かっていない。もしも避けているというのであれば、あいつもメガーヌを意識しているという事か。
いずれにしても脅威なのは個人ではなく、組織だ。
『トーレのおかげで片がついた。新しく差し向ける余裕も無いだろうし、博士も対策してくれたので今後の備えも万全だ』
『ウーノの情報工作により、敵側はこちらの破壊工作にも気づかず、偽の監視情報に振り回されるということですね』
『敵が新たな一手を仕掛けてくるまでに、今後はこちらが攻勢に出る番だ。博士が張り切ってくれている』
『陛下が支配に身を乗り出したのです、皆やる気でありましょう』
『単にやられたから、やり返そうとしているだけなんだけどな』
指揮官タイプのローゼの協力も得てほぼ全て回収に成功したが、雑多な尖兵役だけは敵側に回収されてしまっていた――その雪辱を今、博士達が晴らしたのである。
俺としても博士と同じくやり返したいところではあるが、個人では動けないだけに歯痒い点がある。相手は時空管理局の最高評議会、正々堂々と挑んで勝てる相手ではない。
状況証拠はある程度出揃っているのだが、急所にまで届く武器ではない。真っ当な証拠を並べたところで、覆されてしまうだろう。それほどまでの権力を持っている。
だからこそこうした地道なところでコツコツ、相手の手段を潰していくのである。こうしていけば必ず、親玉が直々に動き出す。
クアットロ。ウーノに次ぐ情報処理能力と、後方指揮能力に特化した戦闘機人。単体飛行と高ステルス性を持った後方指揮官として、有能な実力を持っている女性。
茶髪でメガネをかけていたのだが、作戦行動時は外すようになった。心境の変化と同時に自律行動可能範囲も広くなり、現場に出て指揮を執る事も出てきた。
彼女の持つ先天固有技能は、シルバーカーテン。幻影を操って対象の知覚を騙す事を旨とする機能であり、騙す対象は人だけではなく、レーダーや電子システムにも及ぶ。
攻撃や防御能力に欠けているクアットロはこの能力を駆使して、戦わずして勝つ事を基本戦術としている。
『あらあら、随分と待た女泣かせですわね、陛下』
『何なんだ、藪から棒に』
『貴方を慕う愛しい人形ちゃんが、悪さをしておりましたわよ』
『人形……?』
『マリアージュとかいう、欠陥兵器ですわ』
『マリアージュが、この世界に何でいる!?』
行方不明となったのは、魔女だけではない。聖地での戦争に破れた人型兵器マリアージュもまた、いつの間にか姿を消してしまっていた。
奴らは個体ではなく群体であり、同時に軍隊でもある。聖地でかなりの戦力を消耗したのだが、駆逐するほどには至らなかった。
危険な殺戮兵器を管理局や聖王教会が追跡していたのだが、現状まだ発見されていない。いや、いなかったと言うべきか。
今こうして、発見されたのだから。
『ざーんねんですが、ただの兵隊ですわね。相も変わらず昆虫のような知能レベルしかありませんわ』
『どうやってこの世界に来たんだ、直接繋がっているのは俺の個人ルートのみだぞ』
『頭の中をちょーと覗いてみたんですが――陛下のことで、いっぱいでーす』
『うげっ』
自律行動していた本体ではないのなら、誰かが指示してこの世界まで派遣した可能性がある。問題なのは、可能性が色々あるということだ。
俺がここに居ることを知っているのは時空管理局と聖王教会、つまりどちらかの関係者であればこちらへ派遣出来る。そしてマリアージュもガジェットドローンと同じく、兵器。
人型をもしているだけの兵器である以上、誰かに回収された事も考えられるのだ。知能が昆虫並みとまで言われているのであれば、洗脳も可能だ。
マリアージュ本体も俺を何故か付け狙っているし、どちらとも言えなくもない。
『逆探知はできそうなのか』
『えー、面倒くさいですね―』
『"えー、面倒くさいですね―"』
『な、何故私の音声を録音しているのですか、陛下!?』
『誰とは言わないが、お前が面倒臭がったらすぐに知らせてほしいと言われたんだ』
『謹んでやらせていただきます、ですからどうかうちの子に言うのはご勘弁くださいな!?』
分かる、気持はよく分かる。こいつが言ううちの子さんは、今日の作戦にえらく力を入れている。聖王騎士団の任務とあって、大張り切りでこの世界へ派遣されたのだ。
もし任務を失敗した場合、容赦なく断罪するとまで言い切っている。失敗するなら死ねとまで言う恐ろしさに、姉妹全員が震え上がった。
クアットロは特に目をつけられており、怠惰な姿勢を少しでも見せれば粛清するべく睨まれている。もう、あの子がリーダーになればいいと思う。
しかしいずれにしても、厄介なことになった。
『俺を狙っているのは知っていたが、この家まで突き止められたとなると厄介だな』
『知られたのであれば、削除してしまえばよろしいですわ』
『何を言っているんだ、何時から狙われていたのかも分からんのだぞ』
『陛下こそ何を仰られているのですか、こいつらは軍隊であり群体なのですわよ。私のIS、シルバーカーテンを使用すれば本体にまで幻惑をかけて差し上げられますわ』
『お前の能力、そこまでの影響力があるのかよ!?』
『ふふ、コイツラの特性と私の能力の相性が良いのですわ。マリアージュについては私に一任願えませんか?』
悪辣なストーカーには、悪質な悪女がいいかもしれない。自分で今言っておいてなんだが、こいつらは本当に俺のストーカーだからな。
俺に明確な危害を加えるのではなく、執拗に追ってアプローチを仕掛けようとしている。人型兵器でもノエルのような可愛げがなく、本当に昆虫のような鬱陶しさがある。
そう考えれば、同族嫌悪とでもいおうか。クアットロには珍しく、嫌悪の感情がにじみ出ている。よほど嫌いらしいな。
『随分、やる気だな』
『正直少々目障りになっていますので』
『別任務に出れば、セッテから離れられるもんな』
『何であの子のことになると鋭いのですか、陛下!?』
俺もストーカーの相手なんぞしている暇はないし、しばらくはクアットロに任せるとしよう。
それにしてもこの作戦、意外なのが釣れてきているな……
チンク。右目を眼帯で覆い隠した、銀髪の小柄な戦闘機人。少女のような容姿だが、稼動暦はクアットロよりも若干長く、最初期制作機に次ぐ兵器であるらしい。
彼女が持つ先天固有技能は、ランブルデトネイター。一定時間手で触れた金属にエネルギーを付与して、爆発物に変化させる過激な能力である。
巨大な金属塊の場合は爆破に必要な力が拡散してしまう為、サイズ制限があるとの事。固有武装である投げナイフであるスティンガーに付与して、本人は使用している。
このスローイングナイフこそチンクの固有武装であり、彼女の操作によって空中に発生させ、ある程度で遠隔で操る事も可能である。
『足止めに成功いたしました、陛下』
『よくやってくれた、チンク。お前にこの現場を任せたのは正解だったな』
『ありがたき、幸せ』
「さて、一体どういうつもりなのか聞かせてもらおうか。何故グレアム提督の護衛が、俺の家を監視している」
「ぐっ……!?」
チンクの固有武装、「防御外套」シェルコート。
バリアはもちろんのこと、『アンチマギリングフィールドも張れる』という高性能が今ここに生きる。
「仮面は変装ではなく、隠れ蓑だったのか――残念だがこの場では変身魔法は使用できないぞ、"リーゼアリア"の関係者」
「まさか、AMFまで張れるなんて……!」
――月村すずかが知らせてくれた、超本命。
聖地でグレアム提督の護衛を務めていた「仮面の男」が、「猫耳の美女」となって拘束された。
<続く>
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